ダークネスウォリアー孫悟飯   作:晴歩

10 / 35
魔人

 魔人の卵が脈動し、洞窟全体が震えた。

バビディの魔法陣が光を放ち、ついに…

 

勢いよく煙が噴き出す。

 

「ブゥーーーーー!!!」

 

ピンク色の魔人が出現し、雄たけびをあげた。

 

魔人ブウ。

 

それを見た界王神は、絶望の声を漏らす。

 

「……復活してしまった……」

 

バビディは狂喜乱舞し、杖を振り回す。

 

「あははは!間抜けな界王神のおかげで、赤子のエナジーを集める必要もなかったな!」

 

それを聞いた悟飯はゾッとする。

 

バビディは叫ぶ。

「はーっはっはっは!!ブウ! あいつらを殺せ!!全部殺してしまえ!!」

 

だが、ブウは鼻を鳴らし、ぷいっとそっぽを向いた。

 

バビディの顔が怒りで歪む。

「言うことを聞け!!また封印するぞ!!」

 

その言葉に、ブウの表情が一瞬だけ曇る。

「わかった…」

 

ブウが悟飯たちに向き直り、拳を握る。その瞬間、悟飯が前に出た。

悟飯はブウをまっすぐ見つめ、静かに言った。

「魔人ブウ。殺戮なんてやめて、平和に暮らしてくれないか」

 

界王神が叫ぶ。

「悟飯さん!…魔人ブウに説得なんて通じるわけ…!」

 

バビディが悟飯の言葉を遮るように怒鳴る。

「黙れぇ!!ブウ! 早く殺せ!!殺さないと封印するぞ!!」

 

悟飯の気が静かに深まる。

 

次の瞬間、悟飯の魔闘気が広がった。刹那、バビディの身体が硬直する。

「な……なに……!?う、動け……ない……!!」

 

バビディは完全に金縛りにされていた。

悟飯の奇襲。攻撃の意思を見やぶられていれば、高度な魔術師のバビディには防御されていただろう。

 

悟飯は言った。

 

「そいつの動きは封じた。君はもう封印されない」

 

バビディは、叫ぶ。

 

「ブウ…!ダーブラ…!早く助けろ…!!!」

 

バビディの魔力が封じられ、支配の魔力が急速に弱まっていく。

 

ダーブラは胸を押さえ、苦しげにうめいている。

 

ブウは悟飯を見る。

 

悟飯は語りかける。

「平和に暮らしてくれないか」

 

魔人ブウの前で悟飯が静かに語りかけた瞬間、ぽかんと口を開けたのは、ブウではなく、界王神だった。

 

界王神は信じられないというように悟飯を見つめる。

 

「魔人ブウを説得なんて……!」

 

ダーブラの瞳に、正気の色が戻っていく。

「ぐっ……はあっ!…はあ!はあ!……私は……操られていたのか……!?」

 

悟飯はダーブラを見て、静かに言った。

 

「あなたの意思じゃなかったんだ。バビディの魔術が解けたのなら、もう戦う必要はない」

 

ダーブラはしばらく沈黙し、やがて深く頭を垂れた。

 

「くっ…この恥は!……魔界の王として……仇で返すことはできぬ!この借りは、必ず返す!」

 

界王神は目を丸くし、完全に言葉を失っていた。

 

悟飯は界王神に向き直り、静かに告げた。

 

「このバビディをどうするかは……界王神様に任せます」

 

界王神は、まだ混乱しながら答える。

 

「は、はい。バビディは……神具、封魔の枷で魔力を完全に封じ、宇宙パトロールの刑務所へ送ります」

 

ブウは悟飯の言葉を考える。

その姿は、恐怖の魔人というより、迷子の子どもに近かった。

 

ブウは、ぽつりと呟く。

 

「おれ、命令されるのはキライだ」

 

界王神が息を呑む。

 

ブウはバビディを見て続ける。

 

「でも……お前、あいつをだまらせてくれた。おれ、あいつキライ」

 

ブウは悟飯をじっと見つめる。そして言った。

「わかった。おれ、ころさないでやる」

 

界王神は思わず叫ぶ。

 

「悟飯さん、やはり危険すぎます……!」

 

悟飯は界王神を見て答える。

 

「そうかもしれない、けど、ぼくにはまだ判断できません」

 

ブウは、悟飯の威圧的ではない態度に親近感を覚える。

「おれ、命令イヤ。あそぶ。たべる。ねる。それでいい」

 

界王神は頭を抱える。

 

悟飯はブウに向き直り、言った。

「ブウ。わからないことがあったら……僕に聞いてくれ。僕が教える」

 

ブウは答える。

 

「わかった」

 

悟飯はうなずく。

「うん。一緒に考えよう」

 

そして、ダーブラが言った。

「私は行く。借りはいつか必ず返す。私は、驕っていた。魔界の王という地位に胡座をかき、己を磨くことを怠っていた……」

 

その声は悔しさと、戦士としての冷静な自己評価だった。

「……修行せねば……このままでは……魔界の王としての面目が立たん。先程の戦いも、続けていれば私が負けていただろう」

 

その言葉に、トランクスは驚きつつも、剣を交えた強敵に敬意を覚えた。

 

ダーブラが立ち去ろうとしたその瞬間、トランクスが慌てて叫ぶ。

「あっ! その前に!!キビトさんの石化、解いてくださいよ!!」

 

ダーブラは振り返り、ほんの少しだけ苦笑したように見えた。

「……了解した」

 

そして、魔界の王は姿を消した。

 

そんな中、界王神だけが顔色を変え、震える声を漏らした。

 

「ブウを放置するなど……」

 

界王神の声には、恐怖と責任が入り混じっていた。

そのブウの、破壊、殺戮、宇宙を滅ぼす力を知っている。

 

魔人ブウは、悟飯の言葉を理解しているようで理解していない。

ただ、命令されないことに安堵し、「殺さないでやる」と言っただけ。

 

その危うさは、悟飯も理解していた。そして言った。

 

「しばらく、僕はブウと、山で二人で暮らします。常識を教え、善悪を教え、命令されない生き方を少しずつ理解してもらう」

 

ブウは首をかしげる。

「おまえと暮らすの?あそんで、たべて、ねて、いいのか?」

 

悟飯は微笑む。

 

「うん。でも、他者を傷つけないこと。それだけは守ってほしい」

 

ブウはぽかんとしながらも、悟飯の声の優しさの気配だけは感じ取っている。

「よくわからないけど、わかった。おれ、おまえといく」

 

界王神は、まだ不安は拭えないが、悟飯の決断を信じるしかなかった。

 

そして悟飯は、言った。

 

「界王神様、見返りをお願いしてもよろしいでしょうか」

 

「え!?」

 

トランクスは、驚いて思わず声が出る。

あの謙虚で無欲な悟飯がそんなことを口にするとは。

 

界王神は、答える。

 

「もちろんです。まだ不安は拭いきれませんが、それでも、バビディを捕らえ、魔界の王を退けた功績はあまりにも大きい」

 

「では…」と、悟飯は続けた。

 

「今回の事で痛感しました。僕は、この宇宙の事を何も知らない。

魔術の事も、魔人の事も、魔界の事も、僕は、何一つ知らなかった。

だから、界王神様の知る宇宙の全てを、僕に学ばせてほしいんです。

この先、どんな脅威が訪れても対応できるように」

 

界王神は、驚きつつもうなずく。

 

「わかりました、悟飯さん、あなたには、その資格があるとお見受けします」

 

悟飯は頭を下げる。

 

「ありがとうございます」

 

そのあと、洗脳の解けたバビディの部下たちは、元の惑星に戻され、悪人は宇宙パトロールに引き渡された。

 

ひとまずの宇宙の破滅は免れた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。