魔人の卵が脈動し、洞窟全体が震えた。
バビディの魔法陣が光を放ち、ついに…
勢いよく煙が噴き出す。
「ブゥーーーーー!!!」
ピンク色の魔人が出現し、雄たけびをあげた。
魔人ブウ。
それを見た界王神は、絶望の声を漏らす。
「……復活してしまった……」
バビディは狂喜乱舞し、杖を振り回す。
「あははは!間抜けな界王神のおかげで、赤子のエナジーを集める必要もなかったな!」
それを聞いた悟飯はゾッとする。
バビディは叫ぶ。
「はーっはっはっは!!ブウ! あいつらを殺せ!!全部殺してしまえ!!」
だが、ブウは鼻を鳴らし、ぷいっとそっぽを向いた。
バビディの顔が怒りで歪む。
「言うことを聞け!!また封印するぞ!!」
その言葉に、ブウの表情が一瞬だけ曇る。
「わかった…」
ブウが悟飯たちに向き直り、拳を握る。その瞬間、悟飯が前に出た。
悟飯はブウをまっすぐ見つめ、静かに言った。
「魔人ブウ。殺戮なんてやめて、平和に暮らしてくれないか」
界王神が叫ぶ。
「悟飯さん!…魔人ブウに説得なんて通じるわけ…!」
バビディが悟飯の言葉を遮るように怒鳴る。
「黙れぇ!!ブウ! 早く殺せ!!殺さないと封印するぞ!!」
悟飯の気が静かに深まる。
次の瞬間、悟飯の魔闘気が広がった。刹那、バビディの身体が硬直する。
「な……なに……!?う、動け……ない……!!」
バビディは完全に金縛りにされていた。
悟飯の奇襲。攻撃の意思を見やぶられていれば、高度な魔術師のバビディには防御されていただろう。
悟飯は言った。
「そいつの動きは封じた。君はもう封印されない」
バビディは、叫ぶ。
「ブウ…!ダーブラ…!早く助けろ…!!!」
バビディの魔力が封じられ、支配の魔力が急速に弱まっていく。
ダーブラは胸を押さえ、苦しげにうめいている。
ブウは悟飯を見る。
悟飯は語りかける。
「平和に暮らしてくれないか」
魔人ブウの前で悟飯が静かに語りかけた瞬間、ぽかんと口を開けたのは、ブウではなく、界王神だった。
界王神は信じられないというように悟飯を見つめる。
「魔人ブウを説得なんて……!」
ダーブラの瞳に、正気の色が戻っていく。
「ぐっ……はあっ!…はあ!はあ!……私は……操られていたのか……!?」
悟飯はダーブラを見て、静かに言った。
「あなたの意思じゃなかったんだ。バビディの魔術が解けたのなら、もう戦う必要はない」
ダーブラはしばらく沈黙し、やがて深く頭を垂れた。
「くっ…この恥は!……魔界の王として……仇で返すことはできぬ!この借りは、必ず返す!」
界王神は目を丸くし、完全に言葉を失っていた。
悟飯は界王神に向き直り、静かに告げた。
「このバビディをどうするかは……界王神様に任せます」
界王神は、まだ混乱しながら答える。
「は、はい。バビディは……神具、封魔の枷で魔力を完全に封じ、宇宙パトロールの刑務所へ送ります」
ブウは悟飯の言葉を考える。
その姿は、恐怖の魔人というより、迷子の子どもに近かった。
ブウは、ぽつりと呟く。
「おれ、命令されるのはキライだ」
界王神が息を呑む。
ブウはバビディを見て続ける。
「でも……お前、あいつをだまらせてくれた。おれ、あいつキライ」
ブウは悟飯をじっと見つめる。そして言った。
「わかった。おれ、ころさないでやる」
界王神は思わず叫ぶ。
「悟飯さん、やはり危険すぎます……!」
悟飯は界王神を見て答える。
「そうかもしれない、けど、ぼくにはまだ判断できません」
ブウは、悟飯の威圧的ではない態度に親近感を覚える。
「おれ、命令イヤ。あそぶ。たべる。ねる。それでいい」
界王神は頭を抱える。
悟飯はブウに向き直り、言った。
「ブウ。わからないことがあったら……僕に聞いてくれ。僕が教える」
ブウは答える。
「わかった」
悟飯はうなずく。
「うん。一緒に考えよう」
そして、ダーブラが言った。
「私は行く。借りはいつか必ず返す。私は、驕っていた。魔界の王という地位に胡座をかき、己を磨くことを怠っていた……」
その声は悔しさと、戦士としての冷静な自己評価だった。
「……修行せねば……このままでは……魔界の王としての面目が立たん。先程の戦いも、続けていれば私が負けていただろう」
その言葉に、トランクスは驚きつつも、剣を交えた強敵に敬意を覚えた。
ダーブラが立ち去ろうとしたその瞬間、トランクスが慌てて叫ぶ。
「あっ! その前に!!キビトさんの石化、解いてくださいよ!!」
ダーブラは振り返り、ほんの少しだけ苦笑したように見えた。
「……了解した」
そして、魔界の王は姿を消した。
そんな中、界王神だけが顔色を変え、震える声を漏らした。
「ブウを放置するなど……」
界王神の声には、恐怖と責任が入り混じっていた。
そのブウの、破壊、殺戮、宇宙を滅ぼす力を知っている。
魔人ブウは、悟飯の言葉を理解しているようで理解していない。
ただ、命令されないことに安堵し、「殺さないでやる」と言っただけ。
その危うさは、悟飯も理解していた。そして言った。
「しばらく、僕はブウと、山で二人で暮らします。常識を教え、善悪を教え、命令されない生き方を少しずつ理解してもらう」
ブウは首をかしげる。
「おまえと暮らすの?あそんで、たべて、ねて、いいのか?」
悟飯は微笑む。
「うん。でも、他者を傷つけないこと。それだけは守ってほしい」
ブウはぽかんとしながらも、悟飯の声の優しさの気配だけは感じ取っている。
「よくわからないけど、わかった。おれ、おまえといく」
界王神は、まだ不安は拭えないが、悟飯の決断を信じるしかなかった。
そして悟飯は、言った。
「界王神様、見返りをお願いしてもよろしいでしょうか」
「え!?」
トランクスは、驚いて思わず声が出る。
あの謙虚で無欲な悟飯がそんなことを口にするとは。
界王神は、答える。
「もちろんです。まだ不安は拭いきれませんが、それでも、バビディを捕らえ、魔界の王を退けた功績はあまりにも大きい」
「では…」と、悟飯は続けた。
「今回の事で痛感しました。僕は、この宇宙の事を何も知らない。
魔術の事も、魔人の事も、魔界の事も、僕は、何一つ知らなかった。
だから、界王神様の知る宇宙の全てを、僕に学ばせてほしいんです。
この先、どんな脅威が訪れても対応できるように」
界王神は、驚きつつもうなずく。
「わかりました、悟飯さん、あなたには、その資格があるとお見受けします」
悟飯は頭を下げる。
「ありがとうございます」
そのあと、洗脳の解けたバビディの部下たちは、元の惑星に戻され、悪人は宇宙パトロールに引き渡された。
ひとまずの宇宙の破滅は免れた。