悟飯と魔人ブウの山での共同生活が始まる。
ブウには、悪意はないが、善悪の区別もない。
遊びのつもりで、街や命を壊す可能性がある。
だからこそ、まずは山で二人きりの生活をし、最低限の常識と、他者を傷つけない、というルールを教える必要があった。
山へ向かう途中、ブウが突然悟飯の袖を引っ張った。
「なぁ、お菓子あるか?」
悟飯は少し驚き、そして微笑んだ。
「お菓子が好きなのか。わかった、用意するよ」
ブウの目がぱぁっと輝く。
「ほんとか!チョコレートあるか!?チョコレート!!」
悟飯は、答える。
「ああ、あるよ。まだ貴重品だけどね。破壊や殺しをしなければ、いずれもっと手に入るようになるよ」
ブウはその言葉を理解しているのかいないのか、ただチョコレートという単語に反応して跳ね回る。
「チョコレート! チョコレート!」
悟飯はその様子を見て、この子は本当に無垢なんだなと実感する。
善悪ではなく、ただ好きと嫌いだけで動く存在。
だからこそ、導く必要がある。
山小屋。
ブウは、悟飯が買ってきたチョコレートを抱え、嬉しそうに跳ねている。
「チョコ! チョコ!おれ、チョコたべる!!」
悟飯は苦笑しながら言う。
「大事に食べてね。何でも物というのは、大切にしないといけないよ」
「おれ、チョコレート大事にする!」
こうして、悟飯と魔人ブウの、奇妙で危険で、しかしどこか温かい共同生活が始まった。
山での共同生活が始まって数日。
悟飯は、ブウの危険性と可能性を見極めるため、そして、力加減を教えるために、試合を提案した。
もちろん、街から遠く離れた荒野で。
「たたかうのか? いいぞー!」
ブウは、完全に遊びの一種として受け取っていた。
悟飯は、気を引き締める。
悟飯はまず軽く踏み込み、拳を放つ。様子見の一撃。
それを受けたブウの身体はゴムのように凹み、そのまま元に戻った。
「……効いてない……」
ブウは楽しそうに笑う。
「くすぐったいぞー!」
悟飯は次に、速度を上げて連撃を放つ。拳、蹴り、肘、膝。
どれも確実に当たっている。
だがブウは、まるで何も感じていない。
悟飯は驚く。
「ダメージを一切受けていない……!?なんてやつだ……!」
ブウは悟飯の攻撃を受けながら笑っている。
「つぎ、おれのばん!」
ブウが軽く拳を繰り出す。
「ぐっ……!」
悟飯が受ける。重い打撃。
殺意はない。ブウにとっての遊びだ。
悟飯は観察する。
「……すごい……。力も、耐久も、規格外だ…」
ブウは嬉しそうに跳ねる。
「おまえ、つよい!もっとあそぼう!」
悟飯は、観察しながら、この存在の危険性と純粋さを理解した。
導けば変わる余地がある。
悟飯は拳を下ろし、ブウに向き合った。
「ブウ、君もすごく強いよ。でも、力を使うときは、気をつけないといけないんだ」
ブウは首をかしげる。
「どういうことだ?」
悟飯は微笑む。
「これから教えるよ。一緒に、少しずつ覚えていこう」
ブウは嬉しそうに跳ねた。
「わかった!おまえ、おもしろい!おれ、もっとおまえとあそぶ!」
悟飯は微笑み、この巨大な存在を導く責任を改めて感じた。
ブウにとっての遊びと学び、悟飯との組手は日課になっていた。
それは、悟飯にとっても、有意義な修行となった。
試合を重ねるほど、悟飯はブウの異常性を理解していく。
どれだけ打撃しても、凹むだけで元に戻る。
気功波を食らってもすぐに全快。
体力が尽きる気配がない。
悟飯にとっては、これ以上ない修行相手だ。
悟飯がそんなことを思っている横で、ブウはチョコレートを食べながら笑っている。
「またあしたもあそぼうなー!」
悟飯は、笑って頷いた。
悟飯とブウの山暮らしが三か月ほど続き、その生活にもすっかり慣れた頃。
悟飯とブウは荒野で軽く手合わせを終え、ブウはケーキを頬張っている。
そのとき、上空から飛行機の音が響き、一機の小型機が荒野に着陸した。
悟飯は「あっ」と顔を青くする。
「……この気、ビ、ビーデルさん……?」
ハッチが開き、ビーデルが降りてきた。
悟飯は完全にタジタジ。
「ご、ごめんビーデルさん!事情があって…パンが生まれたばかりだというのに長く家を空けて…」
ビーデルは、安堵で膝から崩れる。
「良かった…元気なのね…」
それを見た悟飯は、本当に申し訳ないと思う。
「ごめん、本当にごめん…」
ビーデルは涙を浮かべ微笑む。
「ううん、いいのよ。事情は、トランクス君から聞いて分かってる。でも、世界そのものがかなり危険かもしれないから、今は会いに行くのは控えるようにって」
ブウはケーキを食べながら、悟飯とビーデルを交互に見ていた。
悟飯がビーデルに押されているのを見て、ブウはぽつりと呟く。
「……あいつ、悟飯よりつよい?たたかっていい?」
悟飯は慌てて振り返る。
「だ、だめだめ!!ビーデルさんは遊び相手じゃないから!!」
ビーデルはブウを見て目を丸くする。
「これが噂の魔人?」
ブウはビーデルをじーっと見つめる。
「おまえ、つよいのか?おれとあそぶか?」
悟飯は全力で止めに入る。
「だめだって!前に教えたろ!その人は僕の妻だよ!」
ブウは、ビーデルを観察して言った。
「そっか、つまりこいつは雌だな」
それを聞いたビーデル。
「ちょっと、悟飯くん!一体どういう教え方したの!?」
悟飯タジタジで答える。
「い、いや、生物の根本から教えなきゃいけなかったから…」
こうしてブウは、地球で暮らす最低限の常識を身に着けていったのであった。