界王神界の奥深く。
時空の層が折り重なるように漂う巨大な記録空間。メモリーアーカイブ。
そこは、宇宙の記憶を保存する場所であり、界王神ですら全貌を把握できていない。
悟飯はその中心部で、静かに浮遊する光の書板を読み込んでいた。
彼の表情は穏やかで、戦士というより研究者に近い。
脅威に備えるために始めた学びであったが、今では知識を吸収することそのものに喜びを見出していた。
そんな悟飯の背後で、アーカイブの管理妖精がふわふわと漂っている。
彼女は悟飯のことをすっかり気に入っている。
そこへ、界王神が緊張した面持ちで現れる。
普段は穏やかな彼が、ひどく焦った様子。
妖精が気づき、ぺこりと頭を下げる。
「いらっしゃいませ界王神様」
界王神は慌てた様子で尋ねる。
「悟飯さんは居ますか!?」
管理妖精が答える。
「ストラクチャーシーカーの悟飯さんですね。あちらにいらっしゃいますよ」
「え?な、何ですかそれは?」
「私がつけたあだ名です。悟飯さんは、とても熱心に世界の構造を学ばれているので」
界王神は軽く受け流す。
「そ、そうですか」
妖精は、にこにこしながら指をさす。
「あちらです。どうぞ」
界王神が歩み寄ると、悟飯は気づいて振り返る。
「界王神様。どうかされましたか?」
界王神は言葉を絞り出すように言った。
「ご、悟飯さん……!
たびたび下界のあなたに頼るのは、本当に情けないのですが……」
悟飯は、静かに言う。
「ただごとでは無さそうですね」
界王神は唇を噛み告げた。
「……別宇宙の界王神が、我々に宣戦布告をしてきたのです……!」
悟飯の表情が厳しくなる。
界王神は苦しげに続けた。
「その者は、元界王で界王神見習いでした。
しかし……その宇宙の界王神を殺害し、その座を無理やり奪い取ったのです!」
悟飯の瞳がわずかに細まる。
「界王神を……殺した……?」
界王神は頷き、さらに重い事実を吐き出す。
「彼の名はザマス。最初、私に計画への協力を呼びかけてきました。
人間ゼロ計画という計画を…!」
悟飯の胸に、かつての荒廃した世界がよぎる。そして、感情を沈めたまま、ただ聞く。
「もちろん、そんな計画には乗れません。するとザマスは、我々に宣戦を布告してきたのです!」
界王神は拳を震わせた。
「しかし……別宇宙にまで来て秩序を乱す者を、この宇宙の破壊神ビルス様が許すわけがありません。ビルス様はザマスを破壊しようとしました…」
悟飯は当然だと思った。
ビルスなら、どんな敵でも一瞬で消し飛ばす。
だが。
「……しかし、それが出来なかったのです…」
悟飯は驚く。
「まさか……ビルス様以上の力を……?」
界王神は答える。
「ザマスはスーパードラゴンボールの力で、破壊神にすら破壊されない不死身と、最強の力を手に入れていたのです。そして……ビルス様は封印されてしまいました……」
悟飯は言葉を失った。あの破壊神が、封印された…
悟飯は深く息を吸い、静かに言った。
「スーパードラゴンボール…それほどの力が…それほど強大なドラゴンボールがあるんですね……界王神様は、よくご無事で……」
界王神は苦渋の表情で言った。
「ザマスは、神々に、自分の計画が成されるところを見せつけたいのでしょう。私を殺さず、あえて逃がしたのです。」
悟飯は考える。
「しかし……ビルス様すら敵わない相手に、僕に何ができるか……」
界王神は申し訳なさそうに頭を下げる。
「本当に……申し訳ない……こんな無理難題を……」
悟飯は首を横に振った。
「いいえ。教えてくれてよかったです。何の準備もないまま、人間ゼロ計画に巻き込まれていたら、僕たちは、あっさり滅ぼされていたでしょうから」
その声は静かだが、絶望はなかった。むしろ、静けさの奥で何かが動き始めている。
悟飯は顔を上げ、界王神に問う。
「界王神様……この宇宙にも、スーパードラゴンボールと言うものは…」
界王神は苦い表情で答えた。
「……あったのですが……スーパードラゴンボールは、この宇宙と第六宇宙に跨いで存在していたのです…」
悟飯は、その一言ですべてを悟った。
「……破壊されたんですね、ザマスに…」
界王神は重く頷く。
「そのとおりです……ザマスが最初に行ったのは、スーパードラゴンボールの破壊でした。自分以外が願いを叶えられない世界を作るために……」
悟飯は静かに目を閉じた。
ザマスのその計画性が、逆に悟飯の思考を研ぎ澄ませていく。
「今、ザマスはどこに?」
「人口の多い惑星から順に攻撃を仕掛けています。地球が狙われるのも時間の問題でしょう…」
悟飯は迷いなく言った。
「では界王神様、ナメック星に行ってください。ポルンガでスーパードラゴンボールを復活させるんです」
界王神は目を見開く。
「な、なるほど……!しかし、ザマスに感づかれる危険が……」
悟飯は頷く。
「秘密裏に行う必要があります。そして、ポルンガには、ザマスの不死身と最強を解く願いは絶対にしないでください」
界王神は息を呑む。
「……なぜですか?」
「もし解除が不可能だった場合、願いの内容がザマスに伝わる可能性があります。そうなれば、こちらの動きがすべて読まれてしまう。それは、避けなければならない」
界王神は深く頷いた。
「……わかりました。スーパードラゴンボールの復活だけを、密かに行います」
悟飯はさらに続ける。
「ドラゴンボールが複数種存在するということは、宇宙のどこかには、さらに別のドラゴンボールがあるかもしれない。それを、すぐに調べます。ここは、それを調べるのにもっとも適している。すぐに、手分けして調べましょう」
界王神は驚き問う。
「さらに、他のドラゴンボールを?」
悟飯は答える。
「バックアップは、何重にもあったほうがいい」
界王神は悟飯の冷静な判断力に納得し、深く頷いた。
「……承知しました。悟飯さん、あなたのような人間がいてくれて、本当に……救われます」
悟飯は静かに微笑む。
その微笑みは、この状況でも、ただ静かだった。
彼の新たな戦いが、幕を開けようとしていた。
メモリーアーカイブの奥から、界王神が駆け込んでくる、界王神は叫ぶ。
「悟飯さん!精査の結果、魔界にもドラゴンボールが存在することが判明しました!」
アーカイブの光が強く脈打つ。
悟飯も、自身の調査結果を報告する。
「魔界にも……なるほど。こちらは、どうやら、シリアル星という惑星にもドラゴンボールが存在するようです」
界王神は目を見開いた。
「やはり、悟飯さんの読み通り複数種が…!」
悟飯は頷き、すぐに次の言葉を紡ぐ。
「迅速に行動する必要があります。ザマスの計画は、時間を与えれば与えるほど完成に近づく。分担して動くしかありません」
悟飯の声は静かだが、迷いは一切なかった。
その判断は、人造人間との地獄のような戦いで培った、最悪を想定する力に裏打ちされている。
「それと、重要な事が」
悟飯は続けた。
「各神龍に対応する言語の準備が必要です。そして、スーパードラゴンボール復活後、その神龍に、迅速にザマスの不死身と最強の解除を願える状況を作らなくてはならない」
界王神は驚き頷く。
悟飯は淡々と続ける。
「そのためには、各神龍への願いのかけ方を、今のうちに考えておく必要があります。言語、文法、願いの構造。神龍によって解釈の癖が違う可能性がある」
界王神は驚愕しながらも、悟飯の言葉に深く頷いた。
悟飯は静かに言葉を重ねる。
「そのために、神界の総力を挙げて準備してください。ただし、派手に動かず、隠密に。ザマスに悟られたら終わりです」
界王神は背筋を震わせた。悟飯の言葉は、静かだが重い。
「……承知しました。神界の知識層を総動員し、各神龍の言語体系、願いの構造、解釈の癖…すべてを密かに解析します。」
悟飯は小さく微笑む。
「お願いします」
そして悟飯は、淡々と指示を出す。
「僕はシリアル星へ向かいます。魔界へは、トランクスを」
悟飯は続ける。
「そして界王神様は、ナメック星へ。スーパードラゴンボールの復活の準備を進めてください」
界王神は頷く。
「承知しました。ナメック星へ向かい、ポルンガに願いの準備を……」
悟飯は静かに微笑む。
「ありがとうございます。ザマスに気づかれないよう、慎重にお願いします」
界王神は頷き、キビトを呼び寄せた。
キビトの瞬間移動の技で三者を目的地へ送る。
悟飯は深く息を吸い、静かに告げた。
「僕はシリアル星へ」
界王神も続ける。
「私はナメック星へ」
悟飯は最後に、遠く離れた地球にいる青年トランクスへ意識を向ける。
「トランクスは魔界へ」
ザマスの計画は、もう始まっている。
そして、悟飯たちも動き出した。
悟飯は深く息を吸い、静かに頷いた。
「行きましょう」
こうして、準備を整えた三者は、それぞれの地へと飛び立っていった。
宇宙の命運を分ける作戦が始まった。