ブルマが界王神界で宇宙船を修理している頃。
シリアル星の荒野に三つの影が現れた。
キビトの瞬間移動。
「キビトさん、ありがとうございます」
悟飯は礼を言う。キビトは短く頷き、
「うむ。頼んだぞ、孫悟飯。私は次の任務へ向かう」
その言葉を残し、キビトの姿は再び瞬間移動によって消えた。
荒野に残されたのは、悟飯と、言語対策として同行する、図書妖精のエア。
エアは肩の上で小さく羽ばたきながら周囲を見回す。
風が吹き抜ける。
悟飯は静かに周囲を見渡し、胸の奥で想いがよぎる。
…シリアル星。かつてサイヤ人が攻撃を仕掛けたという…
胸の奥に、重い影が落ちる。
悟飯は小さく首を振り、表情を整える。
「今は、やるべきことをやるだけだ」
悟飯はドラゴンレーダーを取り出し、スイッチを入れる。画面に反応が現れた。悟飯はほっと息をつく。
「……よかった。ちゃんと反応がある」
エアも胸を撫で下ろすように光を揺らす。
「あっちの方向ですね!」
悟飯はレーダーを確認し、地面を蹴って走り出した。エアは慌てて悟飯の肩にしがみつく。
「飛んで行かないんですか?」
悟飯は走りながら答える。
「軍隊なんかに、未確認飛翔体として捕捉されたりしたら厄介だからね。できる限り隠密に動く」
風を切りながら、悟飯は荒野を駆け抜ける。
気を抑え、気を感知し、人を避け、素早くドラゴンボールへと向かう。
動物の群れすら驚かせないように進む。
慎重に、確実に、ドラゴンボールへと近づいて行った。
ドラゴンレーダーの反応は、切り立った崖へと導いていた。
「よかった、人気のない場所だ」
悟飯は崖の裂け目に入り、薄暗い岩の通路を慎重に進む。
やがて、崖の窪みに、淡く光るドラゴンボールが静かに佇んでいた。
エアが声をあげる。
「ありました!」
「うん」
悟飯は周囲に気配がないことを確認し、そっとドラゴンボールを拾い上げた。
悟飯は静かに息を吐いた。
「……よかった。一つ目、確保」
エアも肩の上で嬉しそうに光を揺らす。
「あと一つ!」
悟飯はドラゴンボールを布で包み、ポーチに収めると、すぐに踵を返した。
「次へ向かおう。時間は限られている」
悟飯は再び気を抑え、人の気配を避けながら、二つ目の反応へ向けて走り出した。
隠密行動のため、高速移動はできず、一日目はキャンプを取ることとなった。静寂の闇は、胸の奥に思考を渦巻かせる。
僕の先祖は……あの人造人間たちと同じような行為を……
考えたくないことだった。
…因果……僕が背負うべきもの……
その様子にエアが心配そうに声をかける。
「悟飯さん……大丈夫ですか……?」
「あ、ああ…」
その重さに押しつぶされそうになりながら、悟飯の心に、ふと別の想いが浮かんだ。
ひとつだけ、確実に揺るがない光。
パン。
「そうだ。パンの未来。あの子が笑って生きられる世界を作るんだ」
悟飯は、胸の奥で静かに気を整えた。
「集中しないと。僕が迷ったら……あの子の未来が消えてしまう」
人類、サイヤ人、破壊神という現象。…そして、ザマスという神の強行…
答えはまだ何も見えない。…だが、悟飯は、進むしかなかった。
次の日もドラゴンボールへは到達できず、休息をとった。もどかしいがトラブルは起きていない。焦るわけにはいかなかった。
そして朝。
悟飯は、レーダーを確認しながら移動を続けた。高速飛行は出来ないとはいえ、悟飯の進行は尋常ではなく速い。エアは魔術による防護膜を形成しつつ、必死に悟飯の肩にしがみつく。そんな中、ひとつの懸念が浮かび上がる。
「…次の反応は、生活圏の中かもしれない…」
やがて、レーダーの反応は、小さな一軒の家を指し示した。
悟飯は足を止め、家を見つめながら小さく息を吐く。
「…やっぱり、家の中だ…」
エアが不安げに悟飯の肩に寄り添う。
「誰かの持ち物なんですね…」
悟飯は静かに頷いた。
「うん。でも、これは想定していたことだ。正当な交渉をするしかない」
悟飯は、準備して来たポーチを握りしめる。中には、物々交換のための宝石や希少金属、ホイポイカプセルなどが入っている。
「交渉が可能な相手ならいいけど…」
悟飯はさらに気を抑え、家の周囲に人の気配がないか慎重に探る。敵意も、殺気も、警戒も感じない。ただ、静かな生活の気配だけ。
悟飯はゆっくりと歩み寄り、ドアの前に立った。
そして静かにドアをノックした。
家の中に気配。
悟飯はドアの前で待つ。
家の中から近づいてくる足音は、ゆっくりで、慎重、だが、敵意は感じられない。
ドアが開いた瞬間、悟飯は思わず息を呑んだ。
そこに立っていたのは、ナメック人。
その姿は、悟飯の心に深い記憶を呼び起こす。
悟飯は一瞬言葉を失った。
しかし悟飯はすぐに気持ちを整え、深く頭を下げた。
「突然すみません。少し、お話をさせていただけませんか」
ナメック人は悟飯をじっと見つめ、その瞳にわずかな警戒と、観察の色を宿す。
やがて、静かに確信を突く。
「ドラゴンボールか…」
悟飯は答える。
「はい」
ナメック人は静かに言った。
「……入れ」
悟飯とエアは、緊張と共に、家の中へ足を踏み入れた。
ナメック人は静かに二人を見つめ問いかけた。
「ドラゴンボールを得て、何を願うつもりだ?」
悟飯は、ナメック人に対して、物々交換の交渉など無意味だと悟る。
ありのままを話した。
「全宇宙の、人類の絶滅を避けるために」
ナメック人の眉がわずかに動く。
悟飯は続けた。拳を握りしめるでもなく、声を荒げるでもなく、ただ静かに言葉を紡いだ。
ナメック人は黙って聞いていた。
悟飯の言葉の一つひとつを、気の流れを読むように確かめている。
悟飯は最後に、深く頭を下げた。
「……どうか、力を貸していただけないでしょうか」
静寂が落ちる。
ナメック人は、悟飯を見つめ、ゆっくりと口を開く。
「嘘はないと見受けた。もしこれが嘘なら、私が耄碌しただけなのでな。それはそれで仕方あるまい」
そう言って、穏やかに笑う。
そしてナメック人は、二つ目のドラゴンボールをそっと差し出した。
「持っていけ」
悟飯は深く頭を下げる。
「ありがとうございます……!」
そんな悟飯を見て、ナメック人は、目を細め呟いた。
「…おぬしは、どこか懐かしい気を持っておるな」
悟飯はその言葉に戸惑い、思わず聞き返す。
「え…?僕は、この地に来るのは初めてですが…」
ナメック人は悟飯を見つめ言った。
「ふむ、そうだろうな」
そして悟飯も自分の気持ちを伝えた。
「僕も、ナメック人の方にお会いして、とても懐かしい気持ちになりました」
ナメック人は、驚いたように目を見開いた。
「なんと。おぬしは、私以外のナメック人に会ったことがあるのか?」
悟飯は、遠い日々を思い出し微笑する。
「はい。僕の師匠が、ナメック人でした」
その言葉を聞き、ナメック人は驚いて静かに息を吐いた。
「……そうか。なんという因果よ」
ナメック人は、悟飯を見つめ、静かに問いを投げかけた。
「…お前さんは、もしや、サイヤ人かね?」
悟飯は一瞬だけ迷った。この星でサイヤ人と名乗ることが、どれほどの重みを持つかを知っている。
だが、ナメック人の瞳は、嘘を求めていない。
「…はい。父がサイヤ人です」
ナメック人は頷いた。
「お主はどこか、昔出会った奇妙なサイヤ人に似ている」
悟飯は思わず聞き返す。
「奇妙な……サイヤ人?」
ナメック人は遠い記憶を辿るように語る。
「ああ。子供の命を救い、その子をわしに託して行きおった」
悟飯は驚いた。
「…そんなサイヤ人が……昔にも居たんですね」
ナメック人は静かに微笑んだ。
「うむ。だがな……サイヤ人を恨む者は多い。この星には長居せん方がいい」
悟飯は頷く。
「はい。そのつもりです。作戦が実行されるまでは、身を隠します」
ナメック人は、静かに言葉をかける。
「お主の気は、穏やかだ。サイヤ人関係なく珍しい程にな」
それを聞いた悟飯は少しだけ、胸の奥にある想いをそっと言葉にした。
「僕の父さんも、強くて、優しい人でした」
悟飯は微笑み言った。
「話、聞けて良かったです」
ナメック人も微笑む。
「ああ。宇宙を頼んだぞ、サイヤ人の子よ」
悟飯は照れたように笑った。
「子って年齢でもないですけどね」
ナメック人は笑う。
「フフ……わしらからすれば、お主など、まだ生まれたてみたいなもんだ」
悟飯は微笑む。
「確かに」
そして、ナメック人は、二人の背中を見送った。
悟飯たちは、家を後にし、複合作戦の準備が整うまで身を隠す。