魔界。
魔王城の一角。
ナメックの老人、ネバの両手には魔力水晶。その水晶から、空間に三つの映像が投影される。
そこに映るのは、三つのドラゴンボールを賭けたそれぞれの勝負。三体の守護者タマガミ達と、三人の挑戦者たち。
ネバは、それを楽しげに見つめる。
ダーブラとタマガミ・スリーの激突。
トランクスとタマガミ・ツーの間合いの駆け引き。
タマガミ・ナンバーワンと遊ぶように飛び回る魔人ドゥ。
ドクター・アリンスが、地球で秘密裏に回収した魔人ブウの細胞から生み出された魔人、クゥとドゥのうちの一体。
トランクスは、刀を構え、タマガミ・ナンバーツーと対峙する。
対するタマガミ・ナンバーツーは、長大な槍を構え、無言で間合いを測っている。
槍の穂先が、強烈な威圧を生む。
『槍使いと戦うのは、初めてだ…』
トランクスは思い、刀を振り抜こうとした瞬間。
「…!」
槍の間合いが、予想以上に長い。
踏み込む前に、すでに穂先が目の前に迫っていた。
タマガミ・ナンバーツーの槍は、鋭く、正確にトランクスの急所を狙ってくる。
『…近づけない……!』
最初の数合は、完全にタマガミの間合いに支配されていた。
だが、トランクスの表情は、次第に冷静さを取り戻していく。
脳裏に浮かぶのは、伸縮自在、形状変化、分裂、再生、あらゆる常識外の動きを見せる魔人ブウとの組手。
『ブウに比べれば……槍の間合いくらい……!』
タマガミの槍が突き出される。
トランクスは、その動きを完全に読み切る。
「そこ!」
刀が閃き、槍の軌道を逸らす。タマガミの目が驚愕に揺れた。
トランクスの動きは、既に槍の間合いを攻略していた。
ネバは、その戦いを楽しげに眺めていた。
「ほう……これは驚いた」
三つの映像に共通していたのは、タマガミたちが押されているという事実だった。
タマガミ・ナンバースリーは、ダーブラの剣圧に後退し、タマガミ・ナンバーツーは、トランクスの剣技に追い詰められ、タマガミ・ナンバーワンは、魔人ドゥの異質な動きに対応しきれていない。
ネバは思わず感嘆の声を漏らした。
「これほどの力を持った者が、三人もおるとはのう…」
その声には、驚きと興奮が混じっていた。ネバは口元を緩め、まるで遊び心を思い出した子供のように呟いた。
「では……」
ネバは小さく呟き、水晶に向けて手をかざした。なにやら呪文らしき言葉をブツブツと唱え始める。水晶が強く脈動し、光がネバの手のひらから流れ込む。
次の瞬間、遠く離れた三つの戦場で、タマガミたちの身体が淡く輝いた。
ネバは満足げに頷く。
タマガミ・ナンバーツーの動きが変わる。
「!」
さっきまでの動きとは明らかに違う。槍の軌道が鋭く、重く、速い。
トランクスは、後退せざるを得ない、間合いを測りなおす。
「く…!これが本気ってわけか…!」
タマガミ・ナンバーツーは、槍を構え直し、静かに一歩踏み込んだ。
水晶から投影される三つの戦場。ネバは微笑を浮かべ、強化されたタマガミたちの反撃を期待していた。
だが。
「……む?」
強化したはずのタマガミたちが、それでもなお、再び押され始めている。
ネバの触角が震えた。
「……これは……想像以上だ……!」
タマガミの創造主としての驚愕が、その声に露わになる。ネバは水晶を見つめ、ゆっくりと息を吸い込んだ。
「ならば……」
彼は掌の水晶を両手で包み込み、再び呪文を唱え始めた。
水晶が激しく脈動する。光が爆ぜ、三体のタマガミに同時に流れ込んだ。
タマガミたちの身体が眩い光に包まれる。タマガミたちが、さらに強化される。
「ふむ……これでどうかな…」
ネバは、久く遠ざかっていた緊張感を楽しむように微笑んだ。
ダーブラはかつて、魔界の王として絶対的な力を誇っていた。
誰にも敗れず、誰にも屈せず、自らの強さを疑うことすらなかった。
だが、その驕りこそが、彼の最大の弱点だった。
そして、その驕りに付け込んだ者がいた。
魔導師バビディ。
ダーブラは、バビディの術に支配され、誇り高き魔界の王でありながら、ただの使役される駒へと堕ちた。その屈辱は、彼の心に深く刻まれた。
バビディの支配から解放された後、ダーブラは静かに自らを見つめ直した。
魔界の王は変わった。
王でありながら、まるで最下級の見習い兵士のように、毎日、黙々と鍛錬を積んだ。剣を振り、魔力を磨き、肉体を鍛え、精神を研ぎ澄ませた。誰よりも厳しく、誰よりも真面目に。
その積み重ねが、今のダーブラを作った。
タマガミ・ナンバースリーは強い。だが、彼は、敗北を知らない。
圧倒的な力で敵をねじ伏せる戦いしか経験していない。
対してダーブラは、驕りを捨て、屈辱を知り、己を鍛え直した戦士。
実力が拮抗すればするほど、その差が現れる。
タマガミ・ナンバースリーは、初めて押されるという感覚を味わっていた。
タマガミ・ナンバースリーが咆哮とともに巨大なハンマーを振り下ろす。大地が割れ、衝撃波が走る。ダーブラの魔力で強化されたその剣は、破壊されることなく強烈な一撃を受け止める。
タマガミ・ナンバースリーは理解できなかった。
『…なぜだ……これほどの強化を受けたのに……この男は、怯まぬ…?』
理由は単純だった。
驕りを捨てたダーブラは、常に相手を、自分より格上だと見積もっている。
相手が想像以上の力を発揮してくるのは当然の事。焦る理由にはならない。
ダーブラの揺るがない冷静な目。タマガミ・ナンバースリーは初めて、恐れという感情を抱いた。
タマガミ・ナンバーワンの剣が地を砕き、衝撃波が荒野を走る。
だが、その攻撃を、魔人ドゥはまるで遊ぶようにかわしていた。
「おお!強いなドゥ!」
遠くで見守るクゥが叫ぶ。
「すごい!ここまでとは!」
アリンスもうなる。
タマガミ・ナンバーワンは、ネバの術で強化されている。
だが、ドゥはそれを上回っているように見える。
ドゥを生み出した魔人ブウの細胞には、悟飯やトランクスとの戦闘訓練の記憶も刻まれている。さらに、魔人ブウの細胞には、秘めたる力が内包されていた。それは、アリンスも、当人たちも知らない。
タマガミ・ナンバーワンが突進する。
ドゥは軽く跳ねるように宙へ舞い、そのままワンの頭上に手をかざし魔力を放つ。タマガミ・ナンバーワンの体が地に沈む。
その砂煙の中から、タマガミ・ナンバーワンはゆっくりと立ち上がる。
その瞳には、静かに燃える使命が宿っている。
タマガミ・ナンバーワンは剣を構え直し、地面を蹴った。
大地が爆ぜ、タマガミ・ナンバーワンの姿が消える。タマガミ・ナンバーワンは、ドゥの背後に現れ、剣を振り下ろした。
ドゥは体を伸縮変形させ、それをかわす。
「!」
タマガミ・ナンバーワンの目が揺れた。そして、ドゥの拳がワンの腹に突き刺さった。
「がはっ!」
タマガミ・ナンバーワンの巨体が弾き飛ばされる。
「くっ!」
タマガミ・ナンバーワンは、なんとか態勢を持ち直し、剣を構える。
「…」
他のタマガミ同様、タマガミ・ナンバーワンにとっても、ここまで追いつめられるというのは、初めての経験だった。