人造人間17号と18号は、街を完全には破壊しつくさず、
ある程度復興し、人々が「また生きられるかもしれない」と思い始めた頃を狙って破壊を繰り返した。
それは、単なる暴力ではなく、残酷な遊びだった。
「また壊してやるよ。しっかり直せよ?」
そんな嘲笑が、街に響き続けた。
悟飯とトランクスの葛藤。
飛び出したい衝動を押し殺す日々。
トランクスは拳を握りしめ、震える声で言った。
「悟飯さん……行きましょう!
今なら……今なら少しは戦えるかもしれない!」
悟飯は歯を食いしばりながら、首を振った。
「……ダメだ。
今の僕たちじゃ……また、何も守れずに終わる。」
その言葉は、悟飯自身にも突き刺さっていた。
悔しさ、無力感、怒り、それらすべてを押し殺し、ただ修行に向き合うしかなかった。
ただひたすら、魔族の気を練り、心を沈め、未来を選ぶ。
悟飯はそれを極めるため、毎日、静寂の中で気を沈め、圧縮し、練り続けた。
トランクスもまた、悟飯の背中を追いながら、自分の弱さと向き合い続けた。
街が壊され、人々が泣き叫んでいる。
それでも二人は耐えた。
その決断が、どれほど苦しかったか。
どれほど自分を責めたか。
それでも二人は、未来のために耐えた。
夕暮れの山奥。
悟飯は一人、深い静寂の中で座禅を組んでいた。
魔族の気は、ただ、底なしの井戸のように深く沈んでいく。
悟飯はゆっくりと呼吸を整え、気を圧縮していく。
その瞬間、胸の奥に、黒い衝動がふっと浮かんだ。
悟飯の目が見開かれる。
悟飯はすぐに気を解き、荒い息を吐いた。
「…危ない…」
額には汗が滲んでいる。
悟飯は拳を握りしめ、呟いた。
「決して…憎しみに囚われてはだめだ。そうなってしまったら…」
風が吹き、悟飯の黒い気が揺らめく。
「僕も…人造人間たちと変わらなくなる。」
「ピッコロさんも、クリリンさんも…みんな……殺されてしまった…」
怒り、悔しさ、無力感、それらが混ざり合い、黒い渦となって心を揺らす。
「憎しみを…完全に消すなんて…無理だ……」
悟飯は歯を食いしばる。
「じゃあ…僕は一体…どうすればいいんだ…」
拳が震える。涙が落ちる。
悟飯はゆっくりと目を閉じ、深く息を吸った。
胸の奥で燃えているのは、怒りだけじゃない。もっと深く、もっと静かで、もっと重い。
悲しみだった。
「…憎しみじゃない。悲しみを……力に変えるんだ。」
黒い気が静かに収まっていく。
「誰かを傷つけるための力じゃない。
守れなかった悔しさ…失ったものの重さ…
その全部を……もう二度と繰り返さないための力にする。」
悟飯は、拳を握りしめた。
その瞬間、悟飯の魔族の気は静かに形を変えた。
破壊の衝動ではなく、守るための強さへと。
少し離れた場所で修行していたトランクスが、心配そうに駆け寄ってきた。
「悟飯さん……大丈夫ですか?…今、すごく……怖い気がしました…」
悟飯は微笑もうとしたが、うまく笑えなかった。
「…大丈夫だよ。でも、トランクス。魔族の気は、強いけど、危険なんだ。」
悟飯は続けた。
「魔族の気は、心の奥にあるものをそのまま力に変える。もしそこに憎しみがあれば…」
「…僕は、人造人間たちと同じになってしまう。」
トランクスは震える声で言った。
「悟飯さんは、そんなふうにはなりません!」
悟飯は静かに答える。
「そう思いたいけど、保証はない。だからこそ、心を鍛えなきゃいけないんだ…力だけじゃだめだ…心を…」
11ヶ月の修行を終え、悟飯の気が静かに変質した。
ただ、深く、濃く、静かに佇んでいる。
トランクスは思わず息を呑んだ。
「……悟飯さん…?」
トランクスは震える声で言った。
「す、すごい…!悟飯さん!スーパーサイヤ人みたいな派手な変身じゃないけど…分かる!」
「気の質が、まるで違う…なんていうか、静かだ……でも、底が見えない…!」
トランクスは泣きそうになりながら言った。
「ついに、ついに限界を突破したんですね!!」
悟飯は静かに言った。
「とりあえず、今の僕にできることは、全部やった。」
トランクスは唇をかみしめる。
「ついに、ついに人造人間を倒せます!あいつら…許せない……!」
悟飯は目を閉じ、ゆっくりと息を吐いた。
「トランクス。君に、伝えておかなきゃいけないことがある。」
悟飯の表情は、いつもより重かった。
「憎しみに囚われてはいけない。魔族の気は、憎しみを増幅させる。
それを利用して強くなろうとすれば、君は、破壊の戦士になってしまう。」
トランクスは拳を握りしめた。
「でも、悟飯さん……あんな酷い奴らの事、恨むななんて無理です…!」
悟飯は続けた。
「あの人造人間たちも、哀れな奴らなんだ。」
トランクスは驚いて悟飯を見る。
「彼らは、無理やり改造されて、人間性を奪われて、ただの兵器にされてしまった。」
「そう思えば、憎しみに飲まれずに済む…」
しかし、トランクスは納得できない。
「悟飯さん…そんなふうに考えるなんて…僕には、まだ難しいです……!」
悟飯は優しく微笑んだ。
「大丈夫。君は優しい子だ。だからこそ、憎しみに囚われたら危ない。もし僕が人造人間に敗れたら、君はきっと、憎しみの戦士になってしまう。」
悟飯はトランクスの肩に手を置き、静かに言った。
「だから、約束してほしい。憎しみじゃなく、悲しみを力に変えるんだ。」
トランクスの目に涙が溢れた。
「はい……悟飯さん……オレ……絶対に……憎しみに負けません……!」
悟飯はうなずいた。
「それでいい。それが、僕たちの強さだ。」
少しして落ち着いたころ。
トランクスは急に目を輝かせた。
「悟飯さん!この変身に、名前つけましょうよ!」
悟飯は完全に面食らった。
「え、名前?…いや、そんな…変身ってほどでも、見た目も変わらないし…」
トランクスは真剣な顔で言った。
「気を読める人にとっては、すごい変身ですよ!悟飯さんは、限界を突破したんです!」
悟飯は苦笑するしかなかった。
トランクスは少し考え、そして勢いよく言った。
「ダークネスサイヤ人! どうです!? 悟飯さんの気にぴったりですよ!」
悟飯は一瞬固まり、そして頬をかいた。
「ええ……なんか、恥ずかしいな……」
トランクスは満面の笑みで言った。
「でも、すごくカッコいいです!悟飯さんの気は、影のように深い気なんですから!」
悟飯は照れながらも、どこか安心したように微笑んだ。
この過酷な時代でも、トランクスのこういう年相応の子供っぽさが、悟飯の心を救っていた。
戦士としての緊張がふっと緩む。
影の気を纏った悟飯の胸に、温かいものが灯る。
「ありがとう、トランクス。君がいると……少しだけ、昔の自分に戻れる気がするよ。」
トランクスは照れながら笑った。
「えへへ……じゃあ、決まりですね!悟飯さんはダークネスサイヤ人!」
悟飯は、苦笑しながらも、案外カッコいいかも?と内心思った。