シリアル星の静かな森の奥。
悟飯と妖精エアは、岩陰に身を潜めながら気配を消していた。
悟飯のポーチには、シリアル星のドラゴンボール全二つが揃っている。
エアが空間から、淡い揺らぎを感知する。
「……来た……!」
魔界のアクアからの次元通信だ。
「悟飯さん!魔界のドラゴンボール、三つ全部そろいました!」
悟飯の表情が引き締まる。
悟飯は静かに立ち上がり、二つのドラゴンボールを取り出し地面にそっと並べた。
「……よし…」
深く息を吸い込む。
そして、シリアル星の龍を呼び出すための言葉を唱える。
「タッカラプト、トットロンボ、プピリットパロ……!」
大地が震え、空が暗転し、風が渦を巻く。
シリアル星の空に、巨大な龍が光とともに出現する。
龍、トロンボが完全に姿を現し、その黄金の瞳が悟飯を見下ろす。
「ドラゴンボールを二つ揃えし者よ。さあ願いを言うがいい」
悟飯は、まず尋ねた。
「スーパードラゴンボールを、今すぐ願いを叶えられる状態にすることは可能でしょうか?」
トロンボの声が、響き渡る。
「……それは無理だ」
悟飯は、冷静に聞く。トロンボは続けた。
「スーパードラゴンボールは現在、消滅している。その願いを叶えるには、ドラゴンボールを復活させること。 そして、願いを叶えられる状態にすること。この二つの工程が必要だ」
「……つまり、二回分のエネルギーが要る……」
これは、悟飯の想定内だった。
「…では、スーパードラゴンボールの復活をお願いできますか?」
トロンボの瞳がわずかに揺れる。
「スーパードラゴンボールは……私の力を大きく超える存在……」
悟飯の呼吸が止まる。
トロンボは続けた。
「だが、スーパードラゴンボールは既に自己修復を始めている。その修復を、促す手伝いならば可能だ」
悟飯は、大きく息を吐き、胸に手を当てた。
「……よかった……!」
エアも胸を撫で下ろす。
悟飯は尋ねた。
「修復には……どれくらいかかりますか?」
トロンボが答える。
「333分」
悟飯は、覚悟を決め告げた。
「では……そのようにお願いします、トロンボ!」
龍の瞳が強く輝き、空気が震えた。
「……よかろう。スーパードラゴンボールの自己修復を促進する……願いは、叶えられる……!」
その瞬間、まばゆい光が爆ぜた。
二つのドラゴンボールが空中へ舞い上がり、それぞれ別方向へはじけ飛んだ。トロンボは去り、大地を包んでいた暗雲がすっと晴れ、空は元の色を取り戻す。
「よし…」
悟飯は呟き、次の行動へと気持ちを切り替えた。
そしてエアは、すぐに次元通信の魔法陣を展開する。
「アクア…!こちらは完了しました!」
魔界のアクアはぱっと顔を輝かせた。
アクアは振り返り、トランクス、ダーブラ、ドゥへ向き直る。
「みなさん!悟飯さん側は完了しました!次は魔界のドラゴンボールを起動する番です!」
トランクスは拳を握りしめる。
「よし……!じゃあ、こっちも始めよう!」
アクアは三つの魔界ドラゴンボールの前に浮かび、深く息を吸い込んだ。
魔界のドラゴンボールは、願いをナメック語で語る必要がある。
アクアは、ナメック語の召喚呪文を唱える。
「タッカラプト、ポッポルンガ、プピリットパロ……!」
大地が震え、空が暗転し、魔界の空に光が爆ぜる。
巨大な影がゆっくりと姿を現し、筋骨隆々の真紅の龍、ポルンガが降臨した。
その重低音の声が告げる。
「ドラゴンボールを揃えし勇者よ、願いを言え、どんな願いでも叶えてやろう」
アクアは胸に手を当て、ナメック語で願いを告げた。
『スーパードラゴンボールを、すぐに私たちが使える状態にしてほしいです!』
ポルンガの瞳が光り、低く響く声が返ってきた。
「……スーパードラゴンボールは現在、修復中、その願いを叶えるには、修復が完了していなければならぬ…」
アクアの表情が強張る。
ポルンガは続けた。
「328分後……その時、願いは叶えられる…」
アクアは緊張しながら、ポルンガに告げた。
『では、その様にお願いします!』
「承知した」
そして、ポルンガの巨体が光に包まれ消えていく。
三つのドラゴンボールも、空の彼方へ去っていった。
スーパードラゴンボール起動のカウントダウンが始まった。
この時間、ザマスに気づかれたらすべてが終わる。
それに伴う、仕上げの作戦を担うのが界王神。
界王神は界王神界にて、キビトと共に、ナメック星へ向かう準備を整えていた。
「ザマスの視線を引きつけるには、私が動くのが最も効果的だ」
キビトは不安げに言う。
「しかし…やはり、界王神様が囮を担うなどというのは、私にはやはり…」
界王神は答える。
「私は、むしろ嬉しい。この様に、役に立てるのならば…!」
キビトは唇を噛みしめ、やがて深く頭を下げた。
「はい!お供いたします!」
界王神は優しく微笑む。そして、護衛として立つ影へ視線を向けた。
そこには、緊張感に欠ける魔人ブウがいた。
界王神は、始めは胸の奥がざわついた。界王神にとってブウは、かつて宇宙を震撼させた恐怖の象徴。しかし、今のブウは悟飯の仲間であり、この作戦に欠かせない護衛。界王神は受け入れていた。
「頼もしいですね、ブウ。あなたがいてくれるなら心強い」
ブウは笑って言った。
「おう、そうか」
キビトが二人の肩に手を置く。
「では、ナメック星へ向かいます」
瞬間移動を行い、三人の姿は界王神界から消えた。
界王神、キビト、ブウたちが緑の大地に降り立つ。
ナメック星。
三人は、最長老の家へ向かうと、ナメック人達は驚き、最長老ムーリも驚きの声を上げた。
「界王神様……!」
界王神は落ち着いた声で事情を説明する。
「急ぎ、ナメック星のドラゴンボールを集めたいのです。ザマスの目を引きつけるためにも…!」
最長老はすぐに頷き、村人たちへ指示を飛ばした。
界王神はナメック星の大地で、周囲の気配をわざと乱し、隙を作り出していた。悟飯たちの作戦は順調に進んでいる。だが、この最後の時間こそが最も危険だ。
「……これで、ザマスの感知に引っかかるはずだ…」
そして、空気が凍りつく。
ナメック星の空が黒く染まり、雷のような光が走った。
界王神は、来た、と確信した。
空間が裂け、そこから黒い影がゆっくりと姿を現す。
ザマスだった。
白い髪が風に揺れ、その瞳は冷たく、しかしどこか愉悦を含んでいる。
「……やはりだ。界王神。コソコソと策を練っているようだな」
界王神は大げさに肩を震わせ、驚いたふりをしてみせた。
「し、しまった……!」
ザマスは口元を歪め、楽しげに笑う。
「ほう……ここにもドラゴンボールがあるのか。だが…」
その瞳が鋭く光る。
「スーパードラゴンボールを超える力など、ありはすまい」
界王神は唇を噛み、一歩後ずさる。
ザマスはゆっくりと界王神へ歩み寄る。
「さて……何を企んでいる?界王神よ」
界王神は、演技ではなく声が震えた。その問いに答えようと口を開く。
「決まっている!宇宙を救うためにここに来た!」
ザマスの瞳が細くなる。
「宇宙を救う……?笑わせるな…」
その声には、確信と侮蔑が混じっていた。
「宇宙を救うのは私だ。貴様は害獣を放置しているにすぎん。人間という、宇宙の汚染源をな」
界王神は歯を食いしばり、ザマスの視線を真正面から受け止めた。
「人間は……愚かだが、成長する!可能性を持っている!それを信じるのが、神の役目だ!」
ザマスは鼻で笑った。
「可能性…だと…?…私は、その可能性とやらが、幾度となく裏切られるのを目撃してきた!」
ザマスの気が膨れ上がり、ナメック星の大地が震えた。
界王神はその圧に耐えながら、当初からのとおり、死しても時間を稼ぐ決意を固める。
ザマスはゆっくりと手を上げた。
「さて……界王神。貴様の役目はここまでだ」
緊張が走る。だが界王神は、一歩も引かなかった。
背後で、柔らかい足音が一歩前へ進む。魔人ブウが、界王神の前に立った。
その動きはいつもの無邪気さとは違い、どこか静かで、落ち着いていた。
ザマスの気が大地を震わせる。その圧は、普通の存在なら立っていることすらできない。だがブウは、微動だにしなかった。
ザマスが眉をひそめる。
「なんだ、貴様は?」
ブウは答えない。ただ、ザマスを見つめていた。
その瞳の奥で、何かがゆっくりと目を覚まし始める。
界王神はその気配に気づき、息を呑んだ。
『まさか……この気……』
ブウの体から、柔らかい光がじわりと漏れ始める。
それは魔人の気ではない。もっと古く、もっと穏やかで、しかし圧倒的な神の気。界王神は震える声で呟いた。
「……大界王神様……?」
かつての戦いでブウに吸収され、ブウの中に眠っていた、偉大な神の魂。
その神気が、ザマスという神の脅威を前にして、静かに目覚め始めていた。
ザマスはその気配に気づき、表情を変える。
「……これは……神気……?何者だこいつは…?」
ブウの体から溢れる光は強まり、その輪郭が顕現する。
界王神は確信した。
『ザマスの気に反応して、大界王神様の力が、目覚めている……』
ザマスの口元が歪む。
「貴様も、正義を持たぬ神か…!」
その手が、破壊の気をまとい、気弾を放つ。
ブウは両手を広げてザマスの攻撃を受け止める。
ザマスの目が見開かれた。
「受け止めるか…」
ブウは答えない。ただ、ザマスを見つめていた。
その瞳の奥には、いつもの無邪気さではなく、静かな決意が宿っている。
ザマスは鼻で笑った。
「だが無駄だ!」
次の瞬間、ザマスの気が爆発し、ブウへ向けて放たれた。
ブウはその衝撃を正面から受け止め、大地を滑りながらも踏みとどまる。
ザマスが一歩踏み出す。
「面白い。ならば試してやろう。どこまで私に抗えるのか…」
ブウもまた、ゆっくりと前へ歩み出る。
二人の気がぶつかり合い、ナメック星全体が震えた。