悟飯は、ザマスを見据え、落ち着いた声で口を開いた。
「あなたを止めに来た。話をしたい」
ザマスの眉がわずかに動く。
「話だと……?」
「はい。あなたが何を思い、何を望んでいるのか…」
ザマスは鼻で笑う。
「私は宇宙を救うために行動している。害獣を駆除し、秩序を取り戻すためにな」
悟飯は静かに言葉を返す。
「宇宙を救う……その気持ちは、きっと本物なんだと思います」
ザマスの目が細くなる。
悟飯は続けた。
「この世界は混沌だ。それは、人間だけじゃない、神も含めて。そう、純粋なあなたの事も含めて…」
ザマスの気が揺らぎ、ナメック星の空が震えた。
「何が言いたい…」
悟飯は答える。
「神も人も、ただ、成る様に成るだけ。僕は、あなたを否定しない。ただ、僕には守りたいものがある。ただ、それだけの事…」
ザマスの瞳が揺れた。
「…成る様に成るか…ならば、私が人間を滅ぼすのも必然…」
悟飯は構え、まっすぐにザマスを見つめ言った。
「答えは、ただ、結果だけが知っている」
ザマスの気が怒りを帯びる。
「……人間ごときが……神に意見するとは……!」
悟飯は答える。
「僕には、あなたこそが、とても人間臭く感じる」
ザマスの表情が凍りつく。
悟飯は続ける。
「僕たちよりも、遥かに長寿でありながら、幼くすら思える…」
ザマスの瞳が大きく見開かれた。
「…………なんだ……と……」
ザマスの気が爆発した。
「貴様ァァァァァ!!この私を侮辱するかァァァ!!神たる私を!!」
怒りが理性を焼き尽くし、ザマスの気が暴走する。
悟飯の気が静かに、しかし確実に高まる。
ザマスの神気が荒れ狂い、空が裂ける。大地が震え、空間そのものが悲鳴を上げる。
それでも悟飯は怯まなかった。
悟飯の胸の奥には、静かで深い、慣れがあった。
自分より遥かに強い相手と戦うこと。
勝てる保証のない戦いに挑むこと。
絶望の中で立ち続けること。
二人の気がぶつかり合う。
ザマスの拳が空間を砕きながら迫る。
悟飯はその一撃を、まるで風を受け流すように避けた。
ザマスの連撃が始まる。拳、蹴り、破壊の気弾。
悟飯はザマスの上空を取り、そのすべてを最小限の動きで避け続けた。
悟飯は、決して深追いしなかった。
一歩踏み込みすぎれば致命傷。離れすぎれば、時間稼ぎが成立しない。
悟飯は、その絶妙な距離を保ち続けた。
ザマスは悟飯の動きに苛立ち、怒りを爆発させる。
「人間め!!!」
ザマスの、破壊の気をまとった拳が悟飯へ襲いかかる。
悟飯はザマスの勢いを利用して横へ流す。
『怒りに任せた動きなら…読める…』
ザマスが体勢を崩す。
悟飯は追撃しない。追撃すればザマスの無敵の力に倒される。
今は、倒すのではなく、耐えることが目的だった。
ザマスが高速で迫る。悟飯は半身で避けた。
その半身が、生死を分ける。背後の山が消滅する。
ザマスは狂気の笑みを浮かべる。
「人間!私の一撃が怖いか!!触れれば終わりだぞ!!」
悟飯は、ただ冷静に集中力を保つ。
ザマスの表情が歪む。
ザマスの神気が爆発し、空間が悲鳴を上げる。拳を振るうたびに空が裂け、黒い亀裂が悟飯を追う。だが、悟飯の瞳は静かだった。ザマスが怒り狂うほど、その気の流れが荒れ、読みやすくなる。
ザマスは悟飯の回避に苛立ち、さらに怒りを燃やす。ザマスにとって完全に悪循環。
ザマスが怒りに任せて突進する。
悟飯はその勢いを利用し、力を流すように逸らす。
長い攻防が続く。悟飯は怒りの波を受け流し続ける。
ザマスの攻撃は荒れ狂い、もはや技ではなく災害そのもの。
破壊光線が雨のように降り注ぐ。
地上では、ナメック人たちが全員で気力を全開にして防御壁を張る。
だが、耐えきれるものではなかった。
悟飯は、今は一人集中するしかない。
悟飯の足が、ほんのわずかに前へ出た。
ザマスは気づかない。怒りで視野が狭まり、悟飯の変化を見落としていた。
悟飯の気が、反撃の気配を帯びて揺らめいた。
ザマスの拳が迫る。
悟飯はその拳を反らし、逆にザマスの腹へ静かに一撃を返した。
悟飯の動きは、絶望の中で磨かれた静かな剣。
鈍い衝撃音が響き、ザマスの体がわずかにのけぞる。
ザマスは鼻で笑った。
「無駄だ。私は不死身だ。貴様が勝てる道理などない!」
悟飯は何も言わず、次の瞬間にはザマスの背後に回り込んでいた。
拳がザマスの背中にめり込み、続けざまに膝蹴りが顎を跳ね上げる。
ザマスは驚愕しながら後退した。
悟飯は静かに言った。
「あなたは不死身に胡座をかいている。だから動きが雑だ。攻撃も、防御も」
悟飯はさらに踏み込む。
「あなたは、死なないと思っているから、一撃一撃の重さを気にしない。そして…」
悟飯の拳がザマスの腹に深くめり込む。
ザマスの口から息が漏れた。
「ぐっ……!」
悟飯は淡々と続ける。
「時間です」
ザマスの瞳が揺れた。
「……何……?」
悟飯はザマスを見据え言った。
「あなたの無敵は……もう、消えている」
ザマスの表情が凍り付く。
「なっ…!?…くだらん……!有り得んことだ……!」
悟飯はザマスを放り投げ、空中で追い付き、連撃を叩き込んだ。
拳が、肘が、膝が、正確に急所を撃ち抜いていく。
ザマスは防御すら追いつかず、地面へ叩きつけられた。
大地が砕け、砂煙が舞い上がる。
「…私がダメージを受けている…!?…まさか……本当に……」
ザマスの顔が怒りで震える。
「ふざけるな…!例え、私の強化が解除されたとしても…!何故…!私が下界の者に追いつめられるというのだ…!!!」
悟飯は静かに答えた。
「その、驕りのせいだと思います。あなたは、自分の視野だけで物事を見すぎた」
ザマスの怒りが爆発する。
「ふざけるなあああっ!!!」
無数の破壊光線が四方八方へまき散らされる。
大地が抉れ、森が燃え、遠くの山が粉砕される。
悟飯は悲しみを帯びた声で言った。
「それが、神のすることですか…!」
そして、悟飯の周囲が、重力が変わったかのように歪む。
闇のように深い、しかし、光のように澄んだ、悟飯だけの、唯一無二の、ダークネスサイヤ人の気。
ザマスは驚愕する。
「な、なんだ!その気は…!」
悟飯はゆっくりと降り立ち、手を前にかざした。
「降参して下さい」
ザマスは、怒りで引きつる。
「……降参……?…降参だと……私が……下界の者に……?」
ザマスの全身から、星を丸ごと消し飛ばすほどの破壊の気が噴き出していた。
界王神が叫ぶ。
「悟飯さん!!このままではナメック星が……!!」
ザマスは狂気の笑みを浮かべた。
「私が滅ぶなら……この星もろとも消し飛べェェェ!!」
破壊の光が膨れ上がる前の刹那。
悟飯の気が爆発した。
静かで、深く、揺るぎない。怒りでも、憎しみでもない。
悟飯は、ザマスへ向けて全力で気を放った。
ザマスは声にならない声を出す。
「ば…か…な……」
光が弾け、ザマスの姿は完全に消滅した。
残ったのは、静寂だけだった。
悟飯は、ただ、ゆっくりと息を吐いた。
ナメック星に静寂が戻った。
悟飯は、ブウの無事を確かめる。
その横で、界王神は、ナメック人からの治療を受ける。
ナメック人、ナメック星にも、甚大な被害が出ていた。
キビトはナメック人たちを介抱する。
そして界王神は、悟飯がザマスに言った言葉を思い出す。
「あなたは幼い。僕たちよりも遥かに長寿なのに」
その一言が、界王神の心に深く突き刺さっていた。
長寿。老いない身体。永遠に近い時間。
悟飯の言葉は、その価値観を根底から揺さぶった。
界王神は悟飯の背中を見つめる。
人間は、老いる。死ぬ。次の世代へ何かを託す。
それを当たり前のように受け入れ、その中で成長し、成熟し、強くなっていく。
界王神は身に詰まされた。
ザマスは永遠を持ちながら、永遠に幼いままだった。
永遠を持つ神が、有限の命を持つ人間から学ぶ。
その事実が、界王神の心に新たな光を灯していた。
界王神は悟飯の横顔を見つめ、静かに口を開いた。
「悟飯さん……あなたに、人間の尊さを教えてもらいました。人間は、限られた時間の中でこそ、深さを持つのですね……」
そして、界王神は言った。
「悟飯さん……地球の神は、長らく不在のままです。あなたが、地球の神になってみる気はありませんか?」
悟飯は面食らった。
「えっ……?それって……今の話と矛盾してませんか?僕たちは、人間だからこそ成熟できるって……」
界王神は穏やかに微笑む。
「しかし、悟飯さんならば!」
悟飯は困惑する。
「僕は…神様にはなれませんよ…」
そして、死傷者の措置がひと段落したころ、ナメック星の長老がゆっくりと口を開く。
「先程の地球の神の件……このデンデなど、いかがでしょうか」
悟飯は驚く。
「デンデ…!?」
ナメック人の若者が前に出て行った。
「お久しぶりです!悟飯さん!」
「君なのか!?デンデ!」
「はい!僕の方も驚きました!」
長老は頷く。
「このデンデは、優秀な龍族でしてな。そして何より、ずっと地球に憧れておりました」
デンデは、少し恥ずかしそうに言う。
「……はい。地球は、僕にとって第二の故郷なんです。悟飯さんやクリリンさん、みんなの星。僕も、あの星を守るお手伝いをしたいです!」
悟飯はその言葉に胸が熱くなる。再会の感動だけではない。デンデとも顔見知りだった、クリリンやピッコロは、もういない。
悟飯はデンデを見つめ、静かに頷く。
「デンデなら…ふさわしいと思う」
悟飯は微笑む。
界王神も頷いた。
「確かに…先代の地球の神もナメック人でしたね。では、頼めますか?」
デンデは胸に手を当て、深く息を吸う。
「はい、全力で!より良い地球のために従事いたします!」
悟飯は静かに言った。
「ありがとう、デンデ。よろしくね」
「はい!」
デンデは力強く頷いた。
そして悟飯は、一人空を見上げ、この世界の因果を想った。