フリーザ軍が崩壊してから十数年以上。
宇宙のあちこちで、かつての兵士たちは散り散りになり、生きるためにそれぞれの道を歩んでいた。
その中に、末端の作業員として働いていたレモと、若い冒険者のチライが居た。
二人は、民間の小さな警備会社を立ち上げ、これから一旗上げようと意気込んでいた。チライとレモは、食い扶持を求めて小型艇で宇宙を移動中、辺境の惑星からの救難信号を受信する。
二人はその惑星に降り立つ。
レモは文句を言いながら、古いセンサーをいじっていた。
「なんだよこの星……何もねぇじゃねぇか」
「でも救難信号は確かに出てるよ」
その時だった。センサーが、強い反応を拾った。
「……おいチライ……デカい戦闘力だ…」
「マジ?救難信号出してる奴か?」
「いや……強すぎる……こんな反応、フリーザ軍でも見たことねぇ……」
二人は恐る恐る反応源へ向かった。
そこで見たのは、巨大なダニの様な怪物と戦う一人の男。
チライとレモは驚愕する。
「やばいって…!あんなのに襲われたらひとたまりもないよ…!」
「ああ…だが、あの男、難なくいなしてるぞ…!」
青年は、その巨大ダニを地面に沈め、なにやら解体し始めた。
チライが言った。
「…まさか、あれ、食う気かな…?」
レモは震えながら呟いた。
「いや……そんなことより強すぎるだろ……こんなの、軍にいたら大将クラスだぞ……」
そしてチライは笑って言った。
「なぁ、あいつスカウトしようぜ?」
レモは驚く。
「は!?冗談だろ…!?」
チライはさっさと覚悟を決めて動き出した。
「…話してみよう。もし交渉できるなら、うちに来てもらう」
チライは、慎重に男へと歩み寄った。
その男はやはり、今狩った巨大生物を食べ始めた。
無言で、淡々と食事をしている。
そして、近寄ってくるチライに気づき仰天し、警戒の構えを取る。
チライとレモも慌てる。
「ま!まてまて!あたしは敵じゃない!!ちょっと、話をしたいだけなんだ!!」
チライは深呼吸し、ゆっくりと言った。
「……あ、あのさ。こんにちは」
男は返事をしない。ただ、目だけがチライを追う。
レモが小声で囁く。
「おい……返事しねぇぞ……やっぱ危険だって……!」
「しっ……!刺激しないように……」
チライは一歩だけ近づき、できるだけ柔らかい声で続けた。
「私たち、怪しい者じゃないよ。救難信号を受け取ってさ…」
男は、ほんの少し身体を引いた。怯えた動きだった。
チライは思った。
こいつは、攻撃的じゃない。ただ、人が怖いだけだ。
チライとレモがブロリーと距離を縮め始めたその時、スカウターが突然、鋭い警告音を鳴らした。レモが慌てて確認する。
「4200!?おいチライ、4200が近づいてくるぞ!!」
チライは驚く。
「えっ……!?このデカい怪物とかか……!?」
何かが高速でこちらへ飛んでくる。
「来るぞ!!」
レモが叫んだ。
次の瞬間、老人が空から降り立った。
「ブロリー!!ブロリー!!外界の者が来たのか!!?」
白髪混じりの髪、髭。鋭い目。痩せてはいるが、その身体には戦士の気配が宿っている。
レモは気づいて青ざめる。
「え…もしかしてこいつらってサイヤ人か…!?」
老人のその声は怒りではなく、期待と興奮に満ちていた。
数十年。この星に閉じ込められ、宇宙船も通信も失い、ただ生き延びるだけの日々。外界からの接触者は、彼にとって救いだった。
「お前たち!どこから来た!?宇宙船はあるのか!?脱出できるのか!?」
チライとレモは圧倒される。
「ちょ、ちょっと落ち着いてよ!」
老人は二人に詰め寄る。
「お前たちはどこの所属だ!?フリーザ軍か!?銀河パトロールか!?それとも別の勢力か!?宇宙は今どうなっている!?」
チライは両手を上げて慌てて否定する。
「あ、あたしたちはただの民間人!」
レモも必死に続く。
「そうだ!敵意なんてないからな!」
老人は息を荒げながら、期待に満ちた目で二人を見つめた。
「……頼む……教えてくれ……銀河は……今どうなっている……?」
レモは慎重に言葉を選んだ。
「あんたがた、ここにどれくらい……?」
「数十年だ。外界の情報は何も入らん」
レモが深く息を吸い、ゆっくりと告げた。
「フリーザ軍は……壊滅した。フリーザも死んだ。サイヤ人も絶滅した。宇宙は……もう昔とは随分違う」
パラガスの顔から血の気が引いた。
「……フリーザ軍が……壊滅……?あのフリーザが……死んだ……?サイヤ人も……絶滅……?」
チライは静かに頷く。
「時代は、変わったよ…」
パラガスは震える声で呟いた。
「…な……もはや……復讐する相手すらいないというのか……」
この地に追放され数十年の執念が、音もなく崩れ落ちていく。
ブロリーは、父の背中をじっと見つめていた。
その目は、穏やかだった。
チライはそっとブロリーに微笑む。
「…あんた、優しい目をしているね」
ブロリーは驚く。
「…え?…やさ…しい…?」
チライはブロリーの方へ一歩近づき、ゆっくりと声をかけた。
「ねぇ、あんた……うちで働かない?」
ブロリーは瞬きをした。
「……はたらく……?」
「そう。私とレモの、小さな警備会社」
レモは慌てる。
「うわ、なんて奴だ…さらっとスカウトしてやがる…」
チライは笑った。
「あんた、ブロリーって呼ばれてたね?あたしはチライ。あんた、強いし、優しそうだし、うちに来てくれたら嬉しいな」
ブロリーは少し考え、ぽつりと呟いた。
「……よく…わからない…」
チライが明るく言う。
「じゃあ、少なくとも嫌ではないんだね!それじゃ。試用採用ってことで!」
「しよう…さい…???」
パラガスは、その会話を黙って聞いていた。
ほんの何分か前までなら、ブロリーを止めていただろう。
だが今は違う。復讐も、野望も、すべてが無意味になった。
「……ブロリー」
ブロリーが振り返る。
「……父さん?」
パラガスは、老いた声で言った。
「……好きに生きろ。もう……お前を縛る理由は……何もない」
ブロリーの目が揺れた。
「……自由に……?」
「…ああ……オレはもう、自らが天下を取る気力もない…」
ブロリーは、困惑する。状況がまるで分らない。
チライは笑顔で手を差し出す。
「よろしくね、ブロリー」
ブロリーは、戸惑いながらも、その手を握った。
ブロリーがチライの手を取ったあと。チライは、恐ろし気なものを食べていたブロリーに、自分の携帯食を分け与えたりしていた。そしてチライはふと、少し離れた場所で座り込んでいる老人、パラガスを見た。外界の現実を知り、復讐も野望も消え、ただ静かに肩を落としている。
だが、スカウターの数値は、はっきりと示している。
チライは小声で囁く。
「なぁレモ……あのオッサン、戦闘力4200だぞ。普通の状況じゃ無敵クラスだ。あいつも味方なら……」
チライは呆れる。
「ばか!やめとけ!ここしか知らないブロリーとは違う!あんな世代のサイヤ人、オレたちが捌けるわけないだろ!惑星をいくつも落としてた連中だぞ!」
しかしチライは、パラガスの方へ歩いていった。レモは頭を抱える。
「ねぇ、パラガスさん」
パラガスは顔を上げる。その目は、どこか虚ろだった。
「……なんだ」
チライは少し笑って言った。
「よかったらさ……あんたも一緒に来ない?私たちの警備会社で働かない?」
パラガスは目を見開いた。
「…働くだと?」
チライは慌てて引きつり笑いを浮かべながら言った。
「い、いや!こき使おうってんじゃないよ!?ちょ、ちょっと気が向いたときに……手伝ってくれたら嬉しいなーなんて……」
声も裏返っている。
レモは半分諦める。
「ば、ばかだアイツ…」
パラガスはゆっくりと息を吐き、静かに言った。
「…とりあえず、ここに残ってもどうにもならん、脱出させてくれ…」
チライは胸を撫で下ろす。
「あ、ああ!それはもちろん!」
レモは肩を落とす。
そして、パラガスは静かに結論を出す。
「…よかろう……とりあえず、お前たちと同行しよう…」
レモが思わず声を上げる。
「えっ、マジ!?」
チライはホッとしつつ、苦笑した。
「あ、ありがとうございます!」
そしてブロリーは小さく呟いた。
「…この星を…だっしゅつ……」
宇宙の片隅で、一つの奇妙なチームが誕生した。