ダークネスウォリアー孫悟飯   作:晴歩

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狂信

 宇宙の片隅で、ひっそりと冷えきった惑星があった。

かつて、惑星フリーザと呼ばれたその地は、主を失った軍の残骸と、沈黙した研究施設が風に削られながら残っている。

 

その中心部、地下深くに巨大な演算核が、隠され眠っている。

本来なら決して起動してはならない、最終プロトコルを呼び覚ます者が居た。

 

中枢研究区画だった場所で、震える手で端末を操作する一人の男。

フリーザ軍の中でも特に、帝王フリーザを神格化していた狂信的士官である。十数年の間、彼は残党をまとめ、軍の再建を試みた。だが、兵は散り、資源は尽きた。フリーザ軍という巨大組織は、フリーザという軸なしには成立し得なかった。

 

彼の視線の先には、巨大な演算核、軍事AI、ゲテスタの封印コンソールがあった。本来、このAIは、軍の補助システムに過ぎない。

暴走を防ぐため、複数の安全装置と指揮系統によって厳重に管理されていた。

 

だが今、その指揮系統はすべて失われている。彼はこの封印を解除する権限を持つ数少ない士官だった。彼は震える指で、最後の封印コードを入力した。

 

「帝王……私は……私は、あなた様の軍を蘇らせる……!」

 

ゲテスタは静かに起動を開始した。士官は、震えながら笑った。

 

 

 長い眠りの中で封印されていた区画が、ひとつ、またひとつと解除されていく。ゲテスタは周囲の状況を解析した。資源は乏しい。設備は老朽化している。

 

だが、フリーザ族の細胞片の保管を確認。

コルド大王が保存させていた、一族の遺伝子。危険すぎて、誰も触れられなかった素材。

 

ゲテスタはそれを迷いなく取り込む。解析し、生物の進化を機械の論理で上書きする。ゲテスタは判断する。生成には、約二ヶ月の工程が必要。

 

ゲテスタは自動修復ユニットを起動し、老朽化した培養槽、解析装置、エネルギー供給ラインを次々と再生していく。

十数年止まっていた機械が再び動き始める。士官はその光景を、祈るように見守った。

 

 

 フリーザ族の細胞は、あまりにも特異だった。

変身機構、異常な耐久性、生体エネルギーの密度。

 

ゲテスタは何度も解析を繰り返し、何度も再構築した。

最適戦力の形状を決定。戦闘効率を最大化する骨格を設計。機械構造との融合。そしてようやく、ゲテスタは、最適解に到達する。

 

培養槽の中で、肉体がゆっくりと形を成していく。

 

士官は、完成に近づく肉体を見て震えた。

 

「……帝王……これは……あなたの……後継……!」

 

培養槽の液体が排出され、その存在は静かに目を開いた。

 

やがて、金属光沢を帯びた肉体が、培養槽の中でゆっくりと形を成した。

フリーザ族に似ていながら、どこか無機質なまったく新しい存在。

ゲテスタは、その個体にひとつの名を与える。

 

メタルクウラ。

 

一族にその様な名の者は居なかった、ゲタスタが導き出した、新帝王としてのコードネーム。

 

目を開いたメタルクウラは、静かに周囲を見渡す。感情の揺らぎはない。ただ、任務だけが存在する。宇宙の戦力地図を読み取り、フリーザ軍壊滅後の空白を分析し、最初の行動指針を決定する。

 

金属の足音が、静寂の研究施設に響く。

 

かつてフリーザが支配した宇宙に、次代の帝王となるべく存在が誕生した瞬間だった。

 

メタルクウラはゆっくりと士官の方へ歩み寄る。

 

士官は涙を流しながら跪いた。

 

「…これが…帝王の……新たな御身……!私は…」

 

その言葉を最後まで言うことはできなかった。

 

メタルクウラの腕が、音もなく振るわれた。次の瞬間、士官の身体は床に崩れ落ちる。苦痛も、恐怖も、理解もない。ただ、士官は、不要物として排除された。

 

メタルクウラは死体に一瞥もくれず、ただ目的へ向かう。

狂信者の祈りは、帝王を蘇らせることなく、ただ宇宙に新たな怪物を解き放っただけだった。

 

 

 銀河パトロール本部は、混乱に包まれていた。

 

突如として現れた、大型スカウターですら戦闘力計測不能の“フリーザクラス”。

その正体は、ゲテスタが生み出した人工生物メタルクウラ。

 

銀河パトロールの標準戦力では、迂闊に手が出せない。

幸い、その謎の存在は、今は無人の資源星フュエルに留まっている。

 

だが、その惨状を、まったく知らない隊員がひとりいた。

 

銀河パトロール隊員・ジャコ。彼は、この危機の数日前に、「なんとなく嫌な予感がする」という理由で有給を申請していた。

ジャコは、銀河の端にある観光惑星で、海辺のリゾートチェアに寝そべりながら、優雅にジュースを飲んでいた。

 

彼の端末に、本部からの緊急連絡が何十件も届いていた。

 

「休暇中に仕事の連絡を受けるとは、やれやれ、エリートは放っておいてもらえないな」

 

その顔は、どこか誇らしげだった。そして連絡を確認する。

 

ジャコは思わず声を上げる。

 

「え!?フリーザクラス……!?」

 

彼の顔から血の気が引いていく。

 

「これは、私が戻ったところでどうにもならんだろ…」

 

生存本能が叫んでいた。

 

逃げなくては……

 

いや、違う!助けを呼びに行く!

 

「地球だ……!地球には、かつてフリーザを倒した戦士がいる……!孫悟空が!」

 

ジャコは慌てて宇宙船に飛び乗り、地球への航路を入力した。

だが、航行中、地球のデータベースを確認したジャコは、目を見開き、声を失った。

 

「……な、なんだと……?孫悟空は……20年以上前に……心臓病で……死んでいる……?」

 

宇宙船の中に、重い沈黙が落ちた。

 

「…ま、まずい…まずすぎる…」

 

ジャコは震える手で操縦桿を握りしめた。

 

「……だが……行くしかない……!地球には……まだ戦士がいるはずだ……!孫悟空の仲間たちが……!」

 

そして宇宙船は光の尾を引き、地球へ向かって加速した。

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