エイジ781年。
一年の修行を終えた悟飯は、山の頂に静かに立っていた。
トランクスが隣に立ち、悟飯の横顔を見つめる。
「悟飯さん…ついに、行くんですね…」
悟飯はゆっくりと頷いた。
「ああ。行かなくちゃならない。」
悟飯は空を見上げた。
「勝てるかどうかは分からない…」
悟飯は続けた。
「人造人間たちが、もし、僕たちの予測を上回る力を隠していたら、その時点で終わりだ。」
ただ、現実を冷静に見つめた言葉。
悟飯は拳を握りしめた。
「でも、現段階でやれることは、全部やった。」
怒りを抑え、
憎しみを沈め、
悲しみを力に変え、
魔族の気を練り続けた。
「恐れているだけでは、もう、これ以上の成長は見込めない。」
悟飯の声は静かだが、揺らぎがない。
「だから、行く。今日で終わらせる…!」
トランクスは悟飯の背中を見つめた。
その背中は、光ではなく影を纏っている。
だが、禍々しい影ではない。
トランクスはその影が怖くはなかった。
悟飯は振り返り、微笑んだ。
その笑顔は、確かに優しかった。
悟飯とトランクスが空を移動するなか、遠く、街の方角から爆発音が響いた。
人造人間たちが、また、遊び、を始めたのだ。
悟飯は自身を鼓舞するようにつぶやく。
「今日、未来を取り戻す…!」
街の中心で、17号と18号は今日も破壊を楽しんでいた。
復興し始めた建物を壊し、逃げ惑う人々を追い散らす。
そのとき、破壊の衝撃音が、突然止まった。
17号が振り返る。
「何?」
18号も。
「今の何?」
彼らは気を感じ取れない。
だから悟飯の接近にも気づけない。
ただ、破壊が止まったという事実だけが異常だった。
17号が瓦礫の向こうを見る。
そこに、悟飯が立っていた。
壊れかけたビルの前に立ち、17号の蹴り飛ばした瓦礫を受け止めていた。
17号の目が見開かれる。
「孫悟飯!?お前、生きていたのか…!」
18号も驚きをみせる。
悟飯は瓦礫をそっと地面に置き、静かに二人を見据えた。
「ここまでだ…もう、誰も傷つけさせない…」
その声は低く、揺らぎがない。
怒りも憎しみもない。
ただ、静かで、決意だけがある。
17号は一瞬だけ沈黙したが、すぐに口元を歪めて笑った。
「ははっ。随分久しぶりじゃないか、孫悟飯。」
17号は続ける。
「随分コソコソ隠れていたもんだな。」
18号も冷たく笑う。
「まさか、今さら出てくるなんてね。」
気を読めない人造人間たちには、悟飯の異質な静けさが分からない。
17号は瓦礫の上に立ち、ニヤリと笑った。
「どうした、孫悟飯。やけに落ち着いてるじゃないか。」
17号は、挑発するように言った。
「あのスーパーサイヤ人とかいう派手な奴には変身しないのか?久しぶりに見せてくれよ、あの大道芸をさ。」
18号も笑う。
「そうよ。あの金ピカのやつ、結構好きだったのに。」
悟飯はゆっくりと答えた。
「スーパーサイヤ人にはならない。」
悟飯は静かに続けた。
「オレは、新しい力を手に入れた。気を読めないお前たちには、分からないだろうがな。」
17号と18号は笑った。
「はははっ!面白いハッタリだな悟飯!」
18号も口元を押さえながら言う。
「隠れていた間、ギャグの修行でもしていたの?新しい力って何?何も変わってないじゃない。」
悟飯はただ一言だけ告げた。
「始めようか。」
その声は静かで、冷たく、揺らぎがなかった。
17号はニヤリと笑い、軽く肩を回した。
「久しぶりに遊んでやるよ、孫悟飯。」
悟飯は構えず、ただ静かに立つ。
17号はその無防備に見える姿に苛立ち、一気に距離を詰めて拳を振り抜いた。
悟飯は最小限の動きで受け止める。
17号の目がわずかに見開かれる。
「ほう。前よりはやるじゃないか。」
18号は腕を組み、余裕の笑みを浮かべていた。
「まあまあね。」
悟飯と17号は再びぶつかる。
拳と拳がぶつかり、瓦礫が砕ける。
少し離れたビルの影。トランクスは息を潜めて戦いを見つめていた。
今は隠れていろと悟飯に言われたのだ。
トランクスは悔しさを噛みしめながらも、悟飯の言葉に従うしかなかった。
「悟飯さんの邪魔になることだけは、絶対にしたくない…!」
拳を握りしめ、震える。
悟飯の気は静かすぎて、トランクスでさえ、どれほど強くなったのかは、完全には分からない。
「勝てますよね…」
ただ、悟飯の背中が、以前とはまるで違う、それだけは確かだった。
17号は悟飯の防御する腕を撃ち、余裕の笑みを浮かべた。
「どうした、孫悟飯。その程度か?」
18号は相変わらず余裕の表情で眺めている。
瓦礫が舞い、拳と拳がぶつかるたびに衝撃が走る。
最初は互角に見えた。
17号のスピード、パワー、精密な攻撃、どれも、かつて悟飯を圧倒したものだ。
だが、悟飯の動きが、徐々に変わっていく。
17号の拳が悟飯の頬をかすめる。悟飯は一歩も下がらず、静かに受け流した。
悟飯は息を整え、17号の次の攻撃を見据える。
「見える…」
17号が高速で踏み込み、連撃を繰り出す。かつては視認すら難しかった攻撃。
悟飯は最小限の動きで受け流し、17号の懐に滑り込む。
「あの早くて重い人造人間の攻撃を受け流せる…」
17号の目が驚愕に見開かれる。
静かに、しかし確実に悟飯が優勢になっていく。
18号の余裕が揺らぎ始める。
「17号、遊んでないで早く終わらせなさいよ。」
気を読めない彼女でも、悟飯の質の変化が見て取れた。
悟飯の動きが変わった。静かで、無駄がなく、影のように滑らか。
その一撃一撃が、17号の身体を確実に削っていく。
17号の頬が弾け、腹にめり込む拳が衝撃波を生む。
17号は後退しながら叫んだ。
「ば、馬鹿な!こんな…こんな事が……!」
悟飯は追撃を止めない。
17号は必死に防御するが、悟飯の攻撃はその上を行く。
18号の余裕が完全に消えた。
「まさか…押されてるの……?」
悟飯は息を乱さない。ただ静かに、深く、攻撃を続ける。
17号の身体が左右に揺れ、瓦礫に叩きつけられる。
悟飯の瞳は揺らがない。
その瞳が、17号の背筋を凍らせた。
地面を転がりながら、17号は叫ぶ。
「ふざけやがって……!!」
立ち上がると同時に、17号の周囲に透明な球状のエネルギーが展開される。
17号の奥の手、絶対防御のエネルギーバリア。
17号は怒りに顔を歪め、悟飯を睨みつける。
「調子に乗るなよ……!!ここから先は……誰も突破できない!!」
悟飯は静かに、気を練り始める。
悟飯は、確かめるように、全力の強力な気弾を放った。そして、バリアに直撃する。
だが、バリアは微動だにしない。
17号が鼻で笑う。
「無駄だよ孫悟飯。このバリアはな……どんな攻撃も通さない!」
悟飯は、静かに呟いた。
「なるほど…確かに……そんな奥の手があったのか…」
その声は焦りも怒りもない、ただ、観察し、理解した者の声。
そして悟飯は、素立ちのまま、極一点、に気を集中させる。
17号は少し安心したように笑う。
そして、反撃の手段を窺っている。
だが。
悟飯は静かに、しかし強く呟いた。
「魔貫光殺砲…!」
悟飯の指先から放たれた螺旋の光線は、異常なほど密度が高い。
一瞬にして螺旋の矢はバリアを破り、そのまま17号の胸を貫いた。
17号は何が起きたのか理解できないまま、絶命した。
18号はその光景を見て、完全に固まった。
「な、何…?」
静けさが、18号の背筋を凍らせた。
「じょ、冗談じゃない……!」
18号は反射的に背を向け、全力で逃げ出した。
そして悟飯は、その背中に向けて気弾を撃ち込む。
18号が振り返る暇もなかった。
気弾が背中に命中し、18号の身体が大きく弾けるように吹き飛んだ。
18号の身体は制御を失い、地面に叩きつけられた。
18号の瞳は虚空を見つめたまま、もう動かなかった。
呆気なく、絶命した。
瓦礫の影から見ていたトランクスは、その光景を理解するのに数秒かかった。
「か……勝った?……人造人間を……倒した……!」
声が震え、膝が笑う。叫び出したい衝動が胸を突き上げる。
身体が震え上がる。
涙が滲む。信じられない。でも、確かに、終わった。
トランクスは悟飯のもとへ飛び寄った。
「悟飯さん!!ついに……ついに……勝ったんですね……!」
涙がこみ上げ、声が震える。
悟飯は、ゆっくりとトランクスに振り返った。
「ああ…」
その声には興奮も歓喜もない。
ただ、静かに現実を受け止める響きだけがあった。
終わってしまえば、あっけない。
「実戦というのは……こういうものなんだな…」
これは試合ではない。戦いの感動なんて有るわけはなかった。
トランクスは涙を拭いながら、悟飯の腕を掴んだ。
「悟飯さん……!本当に……本当に倒したんですね……!」
悟飯は微笑んだが、その笑みはどこか影を帯びていた。
「……ああ。終わったよ。」
だが、悟飯の静かな決意は続く。
悟飯はトランクスの肩に手を置いた。
「でも、これで終わりじゃない。慢心しちゃいけない。修行は続けないとね。」
トランクスは泣き笑いのまま言った。
「今の悟飯さんに勝てるやつなんて……この世界のどこにもいませんよ!」
悟飯は言った。
「初めて、父さんがスーパーサイヤ人になった時、僕も同じことを思ったよ。」
そして、静かに続ける。
「でも、現実には、人造人間という化け物が現れた。僕たちは、いつだって、想像力を失ってはいけないんだ。」
悟飯はふっと表情を緩めた。
「でも、今日くらいは、ゆっくり休もうか。」
トランクスは涙をこぼしながら笑った。
「はい、悟飯さん……!」