チライ、レモ、ブロリー、パラガスの四人が、請け負った仕事現場の惑星に降り立つ。
チライは呟く。
「……ひどいね、ここ」
眼下に広がるのは、かつて都市だったはずの瓦礫の海。
その隙間を縫うように、すでに多くの作業員たちが動き回っていた。
重機の音、怒号、指示の声。復興現場の喧騒が、崩壊した都市にかすかな生命を戻している。
レモは、銀河王から渡された依頼書を見直した。
「神を名乗る何者かに壊滅させられた惑星の復旧作業」
「なんだその何者かって…はた迷惑な奴だ」
チライが肩をすくめる。
ブロリーは静かに瓦礫の山を見つめていた。その表情には恐れも嫌悪もない。
ただ、膨大な壊れた物を前に困惑した。
その後ろで、パラガスがゆっくりと船を降りてきた。
パラガスは、瓦礫の山を前にしてしばらく動かなかった。
焼け焦げた大地、折れた建物の骨組み、すすけた空。
そのすべてが、かつて自分が、仕事として破壊してきた惑星の姿と重なって見えた。
侵略。
それが、若い頃のパラガスの生業だった。
惑星を落とし、資源を奪い、住民を従わせる。
サイヤ人として、それが当然だと信じていた。
だが、長い監禁生活は、彼の誇りを削り、老齢は、かつての激情を静かに冷ましていった。
「サイヤ人が……復興作業とはな…」
低く呟く声には、苦味と諦めが混じっていた。
抵抗感は確かにある。だが、それ以上に、彼にはもう一つの理由があった。
「施しを受けるわけにはいかん」
ただの慈悲や救済を受け取ることは、パラガスの誇りが決して許さなかった。
「自分の食い扶持は、自分で稼ぐ……」
老いた喉から漏れたその言葉は、かつての戦士の矜持をかろうじて支える最後の柱のようだった。
作業現場には、すでに数百人の作業員が集まっていた。
銀河王国の技術者、他惑星からのボランティア、難民、傭兵上がりの肉体労働者、銀河パトロールの監視担当。多種多様な種族が入り混じり、瓦礫の山を少しずつ崩していく。
その中に、ブロリーが歩み出る。
巨大な鉄骨を持ち上げると、周囲の作業員たちがざわめいた。
「おい…あいつすげえぞ…」
「ばけもんだな…」
「いや、助かるけどさ……」
ブロリーは気にする様子もなく、黙々と作業を続ける。
レモは周囲を見渡しながら今回のギャラの事を思い言った。
「しかし、これだけの人数を集めるなんて、銀河王ってのも案外いい奴なんだな」
ブロリーの怪力は、復興作業においてもまさに圧倒的だった。
巨大な瓦礫を片手で持ち上げ、倒壊した建物の骨組みを支え、重機が何台も必要な作業を、たった一人でこなしてしまう。
そのたびに作業員たちは驚き、そして感謝した。
「おい、あんた本当にすげぇな……」
「助かるよ、あんたがいなきゃ一週間はかかってた」
「無口だけど優しいよな、あのデカいの」
ブロリーは少しだけ照れたように目をそらす。
そして、パラガスも黙々と働いた。
ブロリー程ではないにせよ、老齢とはいえ、サイヤ人のパワーは大いに役に立った。
チライとレモも、重機を操り、黙々と真面目に働いた。
その日も、復興現場は騒がしかった。
重機の音、作業員の掛け声、瓦礫が崩れる乾いた音。パラガスは黙々と作業を続けていた。
そこへ、同じ班の作業員が気さくに声をかけてきた。
「よお、あんた、見た目よりずっと働き者だな。今日もがんばろうぜ」
パラガスは顔をしかめ、即座に跳ねのけた。
「だまれ。気安く話しかけるな。失せろ」
作業員は苦笑し、頭をかいた。
「おっと、はは……悪かったな。おしゃべりは嫌いだったか」
それを見ていたチライとレモは、一瞬ヒヤッとした。
だが、作業員があっさり引き下がったことで、揉め事にはならず胸をなでおろす。
「パラガスさん、もうちょい言い方ってもんが……」
チライが小声で呟く。
「放っとけ。揉めなくてよかったよ、まったく…」
レモが肩をすくめた。
夕方ごろ。
乾いた音とともに、作業員の頭上の瓦礫が大きく崩れ始めた。
誰かが叫ぶ。
「危ないっ!!」
崩れ落ちる巨大なコンクリート塊。作業員は振り返る暇もなく、ただ影に飲まれかけていた。
パラガスの身体が、反射的に動いた。
老いた足とは思えない速度で地面を蹴り、崩れ落ちる瓦礫へ向かって腕を突き出す。
次の瞬間、手の平から鋭い気弾が放たれ、瓦礫を粉々に砕いた。粉塵が舞い、破片が雨のように散る。
作業員は尻もちをつき、呆然とその場に座り込んだ。
「……た、助かった……?」
パラガスは肩で息をしながら、吐き捨てるように言った。
「間抜けめ。そんなところでぼさっとしているからだ」
作業員は震える声で礼を言った。
「あ、ああ…ありがとう…」
「ふん」
パラガスは遮った。
「瓦礫撤去のついでに過ぎん」
パラガスは作業員に背を向け、粉塵の中をゆっくりと歩き去った。
別の日も、老戦士は黙々と瓦礫を片付けていた。
サイヤ人とは言え、重労働は疲れる、ましてや老齢。だが、手を止めることはしない。
そんなパラガスに、若い生き残りの住民が深々と頭を下げた。
「本当に……ありがとうございます。あなた方が来てくれなかったら、私たちは……」
パラガスは顔をしかめて言った。
「感謝などするな」
住民は驚いて顔を上げる。
パラガスは瓦礫を肩に担ぎ、冷たく言い放った。
「オレは、自分の食い扶持のためにやっているだけだ。お前たちのことなど、どうでもいい」
その声音は荒々しく、突き放すようだった。だが、住民は怒りもせず、ただ静かに微笑んだ。
「それでも……助けてくれたのは、あなたです」
パラガスは一瞬だけ言葉に詰まった。胸の奥が、わずかにざわつく。
彼は視線をそらし、吐き捨てるように言った。
「勝手に感謝して勝手に喜んでいろ。オレはオレの仕事をしているだけだ」
そう言って歩き去る背中は、戦士として生きるしかなかった者の不器用なものだった。
その様子を見ていたチライが、レモを肘でつつく。
「ねぇ、パラガスさんも、ちょっとずつ馴染んできてんじゃないの?」
レモが呆れる。
「はあ?どこがだよ…」
「父さん…」
ブロリーは、人と会話する父を見て、静かに微笑んだ。
復興現場には、毎日同じ音が響いた。
重機のエンジン音、瓦礫を砕く金属音、作業員たちの短い掛け声。
ブロリーは巨大な重機の代わりに、自分の腕で鉄骨を持ち上げ、倒壊した壁を支え、重機よりも柔軟に瓦礫を運んだ。
パラガスは、老いた身体に鞭を打ちながら、黙々と作業を続けた。
かつて侵略のために星を壊していた手が、今は星を直すために動いている、その矛盾を胸に秘めながら。
チライは現場の調整役として走り回り、時に重機を操り、レモは機材の整備と安全確認を担当した。
四人は、まるで昔からこの仕事をしていたかのように、自然に役割を分担し、馴染み始めていた。
作業員たちも、最初のお互いの警戒心を忘れ、それぞれを仲間として扱うようになっていった。
そして三ヶ月という時間が過ぎ、荒れ果てた惑星に少しずつ色を取り戻させていった。
その時間が、パラガスという老戦士の心にも、静かな変化をもたらし始めていた。