銀河パトロールの戦術教本には、超長距離狙撃によるフリーザ級の排除という項目が存在する。だが、それはあくまで理論上の話。実際には使えない。
理由は単純だ。
フリーザ級の戦士は、超高速移動、広域破壊、これらを兼ね備えている。
さらに、組織による索敵網。つまり、狙撃準備の段階で気づかれ、反撃されて終わる。
だからこの戦術は、銀河パトロールの中でも机上の空論として扱われていた。
しかし今回は、相手の組織が未完成。資源星フュエルを占拠した怪物。
その存在は、たった一人。フリーザ級の戦闘力を持ちながら、まだ組織力は確認されなかった。
銀河パトロールの分析官は言った。
「今なら、気づかれずに狙撃準備ができる!こんなチャンス、二度とない……!」
そして、超長距離狙撃が選択肢となった。
銀河パトロールは理解していた。
フリーザ級相手に正面戦闘は不可能。艦隊投入も無意味。近づけば全滅。
組織が未完成である今だけは、超長距離からの一撃必殺が成立する。
司令官は決断する。
「今しかない。組織が整えば、もう二度とこの戦術は使えん。今のうちに仕留めるしかない!」
こうして、銀河パトロールは机上の空論だった戦術を、現実の作戦として採用する決断を下した。
この決断が成される前、資源星フュエルに、銀河パトロールの調査チーム5名が派遣された。
彼らは降下艇で星に降り立ち、基地の入口へ向かった。基地は静まり返り、人の気配がまったくなかった。
調査チームが基地内部へ進んだとき、通路の奥に、それ、が立っていた。
白銀の外殻、冷たい瞳。
調査隊長が声を張った。
「こちらは銀河パトロールだ!そちらは何者だ!?」
金属生命体はゆっくりと振り返り、無機質な声で答えた。
「メタルクウラ」
隊長は続けて問いかける。
「目的はなんだ! なぜこの星を占拠した!」
メタルクウラは一歩前へ進み、淡々と宣言した。
「私は、新たな宇宙の帝王となる者だ。この星は、その第一歩にすぎない」
その瞬間、調査隊の通信が乱れ、悲鳴が響いた。
母艦のモニターの生命反応が次々と消えていく。
通信は、5名全員の死を記録して途絶えた。
唯一残ったのは、調査隊が装備していた大型スカウターのログ。
そこには、戦闘力、計測不能。その文字だけが残っていた。
計測不能とはつまり、フリーザクラスを意味する。
銀河パトロール本部は凍りついた。
司令官は震える声で言った。
「たった一体で資源星を制圧……フリーザ級の戦闘力……対話不能……」
分析班が結論を出す。
「対象を、第一級危険対象として認証します」
会議室は重苦しい沈黙に包まれた。
「艦隊を送っても無駄だ……」
「近づけば全滅する……」
そして、最終的に出された作戦が、超長距離からの一撃必殺 ハイパーメガエネルギーライフルによる狙撃だった。
だが、その作戦を成功させるには、銀河最高の狙撃手が必要。
外せば終わり。例え超長距離でも、フリーザ級の反撃は即座に飛んでくる。
母船も艦隊も壊滅する。
その条件を満たす人物は、銀河パトロールにはいなかった。
一人の隊員が震える声で提案した。
「…賞金稼ぎの……グラノラを呼んではどうでしょう…」
会議室がざわつく。
「賞金稼ぎに頼るなど……!」
「銀河パトロールのメンツが……!」
しかし、司令官が机を叩いた。
「メンツを言っている場合ではない!」
司令官は続けた。
「相手はフリーザ級だ。我々の誇りなど、銀河の平和に比べれば安い。最高の狙撃手を呼べ…!」
こうして、銀河パトロールは、外部の狙撃手を雇う決断を下した。
銀河の命運を、賞金稼ぎに託して。
会議にて、狙撃手グラノラは、淡々と告げた。
「まず、ハイパーメガエネルギーライフルを十基用意しろ」
会議室がざわつく。
グラノラは表情を変えずに続けた。
「相手はフリーザクラスだ。確実に仕留めるには、複数の砲身を同時制御して、逃げ道を封じる必要がある。十基あれば確実だ」
司令官が苦い顔で言った。
「……だが、ハイパーメガエネルギーライフルは銀河全域でも三基しか存在しない。十基など、どうやっても揃わん」
グラノラは目を閉じ、しばらく考え込んだ。
そして、ゆっくりと目を開く。
「三基か…。いいだろう…なんとかやってみよう…」
会議室が静まり返る。
「本当に……可能なのか?」
「外せば我々は壊滅だぞ……!」
グラノラは淡々と答えた。
「やるしかないんだろ?オレはオレの全力を尽くすだけだ」
その言葉には、揺るぎない事実だけがあった。
司令官は深く頷いた。
「……わかった。残る三基をすべて回収し、君に託す」
こうして、銀河パトロールは、銀河の命運をたった一人の狙撃手に預けることになった。
軌道上。
静寂。
巨大な三基のハイパーメガエネルギーライフルが、衛星の外殻に固定されている。
砲身はそれぞれ微妙に角度が異なり、同一点を狙いながら、同時に別の未来を撃ち抜く配置。
ターゲットは地上、人間サイズ。
だが、それは尋常ではない。
一度でも発射を感知すれば、回避と同時に逆算し、発射源を割り出し反撃が来る。この距離ですら、例外ではない。
チャンスは一度。
グラノラは、頭の中でシミュレーションを繰り返す。
一発では読まれる。二発でも足りない。
三発。それぞれが外した未来を前提に補正された軌道。
回避という行為そのものを、潰す。
超高速の刹那の偏差をコントロールする。
ターゲット捕捉。
三つのトリガーが、時間差ゼロで解放される。
光が、落ちる。
宇宙から地上へ、巨大な光の柱が爆ぜる。それは、質量を持った意志。
大気は焼け、空が裂ける。
ターゲット、メタルクウラは蒸発。
その中心には何も残らなかった。
「任務、完了…」
三基の砲身が熱を吐き、冷却機構が静かに作動した。
荒野に響いた一撃は、金属の侵略者を確かに沈黙させた。
銀河パトロールの隊長は、通信越しに深く息を吐いた。
「……見事だ…!グラノラ、よくやってくれた…!」
「ああ、後はそっちで処理しろ」
彼はそれ以上何も言わず立ち去った。
銀河パトロールの調査班が、壊滅した資源星に降り立った。
「……おかしい。資源がほとんど残っていない」
「ヒータ軍の備蓄は膨大だったはずだ。どこへ消えた?」
調査班が途方に暮れていると、通信が入る。
現在破壊された銀色の怪物と同種と思われる存在が、旧惑星フリーザで複数体確認との情報。
調査員たちは青ざめる。
それは、絶望的な答えだった。