前線第二小隊の中に、スモークバイザーのヘルメットを被った小柄な戦士が居た。
「……やはり。この者たちは、我が一族の遺伝子を利用した人工生命体のようだね…」
クリーザは、銀河パトロールの緊急招集に応じ、この作戦に参加していた。
素性を隠すために、バイザー付きのヘルメットを被り、体にはそのデザインに合わせたそれらしいプロテクターを装備している。
尻尾も念のため、外付けのスタビライザーアームに見せかけ偽装している。
「こんな生物が勝手にに作られ、しかも量産までされているとは、気分のいいものではないね…」
ネコマジンはこの招集を知った時、ギャラは魅力的だったが、長距離移動が面倒なので来なかった。行くだけならまだしも、往復を考えるとあまりにもめんどくさい。
オニオは最新ニュースに疎く、この作戦の事自体知らない。
クリーザも、命がけの危険な作戦に、気軽に彼を誘うことはしなかった。
圧倒的な強さを誇るメタルクウラに対しても、クリーザは善戦していた。
メタルクウラの一体が突進してくる。その拳は重く、速い。普通の兵士なら反応すらできない。クリーザは、その強烈な連続攻撃を防御し、受け流し、躱す。その動きは、ネコマジンとの日常的な組手で鍛えられたものだった。
「……あのスーパーネコマジン2とかいう、わけのわからない形態にはイラッとしたけど…」
クリーザは、ヘルメットの内側で小さく息を吐いた。
「…彼との組手は無駄ではなかったようだね」
クリーザは構え直し、集中する。
「さて……遊びの組手とは違う。死なないようにしないとね……」
二体のメタルクウラが、空中で挟み撃ちの軌道を描いて迫る。
クリーザは、四肢と尾、五点同時制御で対応する。
前方の拳を右手で受け流し、回し蹴りで弾き飛ばすと同時に、その反動で、尾による打撃を背後のメタルクウラに叩きこむ。
クリーザの動きを見て、第二小隊の戦士たちが驚く。
「すげぇぞ! あのチビ!」
「スタビの使い方上手い!」
そして、手練れの戦士たちは瞬時に的確に判断して動いた。
クリーザを軸に、陣形が形成されていく。
防御力の高い者はクリーザの左右に展開し、クリーザへの集中攻撃を防ぐ。中衛と後衛はエネルギー弾の援護射撃。
誰も指示していないのに、まるで長年のチームのように陣形が整う。
その様子を見て、クリーザはヘルメットの内側で微笑んだ。
「…流石、銀河中から集まった精鋭たちだね」
軌道上のオペレーションルームには、非戦闘員であるチライとレモが参加していた。メタルクウラの総数も、現在の組織力も、増援の規模も不明。オペレーターが余るという事はなかった。
軌道上とはいえ、安全圏ではない。
メタルクウラの攻撃は、大気圏内から軌道上まで簡単に届く。
何度も光線が船体をかすめ、高出力バリアーが爆発を起こす。
「はは…… 今の、直撃してたら終わってたね…」
チライが冷や汗をかく。
「ああ、だが下の連中はもっと地獄だ!やるしかねえ!」
レモが必死にパネルを叩く。
メタルクウラの群体が押し寄せる戦場は、本来ならば数十秒で壊滅していてもおかしくなかった。その一体一体が、銀河の戦士を単独で葬れるほどの性能を持つ。通常の戦力では、87名など数にならない。
だが、この戦場には、三つの軸が存在した。
偽装装備に身を包み、一般兵士として戦列に立つクリーザ。
彼の動きは、周囲の戦士たちの常識を超えていた。
別のエリアでは、16号が三体のアップデート型メタルクウラと交戦していた。冷静さと、パワーとスピード、耐久力、彼は、それらが高次元で兼ね備えられていた。彼の働きがあり、周囲の戦士たちも、散り散りにならずに16号を援護する事ができる。
そして、最前線、第一小隊では、ブロリー、ハムム、ムスター、アカッゴが戦っていた。
ヤードラットの戦士ハムムとムスター。
気の流れを操り、瞬間移動と柔らかな技で金属の群れを翻弄する。
そしてマシンミュータントの少女アカッゴ。
小柄な体から放たれる演算と反応速度は、金属生命体と渡り合っていた。
だが、ブロリーは苦戦していた。
ブロリーの日常は、毎日が巨大生物との命がけの戦いだった。
だから、実戦自体には慣れている。
だが、戦術を持つ人型との戦いは、まるで経験不足だった。
メタルクウラは、戦術を持ち、連携し、フェイントを使い、弱点を狙ってくる。
ブロリーが拳を振るう。だが、メタルクウラは最小限の動きで回避し、背後から光線を撃ち込む。ブロリーの背中が爆ぜ、彼は空中で大きく揺らぐ。
ブロリーは翻弄され焦りが滲む。
ハムム、ムスター、アカッゴも、最前線の複数のメタルクウラを相手に、ブロリーを援護する余裕はない。
そんな中、後方支援にいるはずのパラガスの声が響く。
「ブロリーーーー!!!!」
パラガスの両腕と背中には、銀河パトロールから支給された最新型装備、ハイパーエネルギーシールドが装着されている。
腕部から光盾を展開させ、空中を飛び交う光線の中、まるで特攻するように突っ込んでくる。シールドのエネルギーは長くは持たない。だがパラガスは怯まなかった。
「ブロリー!!!巨大生物相手と同じように突っ込むな!!子供の頃のオレとの組手を思い出せ!!!」
その声を聞き、ブロリーは幼いころに父から学んだ戦いの基礎を思い出す。
幼い日の組手。父の厳しい指導。
「……足……動き……」
メタルクウラがフェイントをかけてくる。
ブロリーは攻撃を食らうも、少しずつ冷静さを取り戻す。
「…間合い……読め……」
基礎を思い出し、恐るべき速度で実戦の中で順応して行く。
「……見えた」
ブロリーの拳がメタルクウラを捉え、吹き飛ばす。
パラガスは息を荒げながら叫ぶ。
「そうだブロリー!!それでいい!!」
ブロリーは父を一瞬見て、小さくうなずいた。
メタルクウラが三方向から同時に襲いかかる。
だが、ブロリーは冷静に動きを読む。
一体目が拳を振り下ろす。ブロリーは最小限の動きで避け、逆に肘を叩き込む。
二体目が背後から光線を撃つ。ブロリーは振り返らず、手を後ろに伸ばして気功波を放つ。
三体目の拳をブロリーは真正面から拳で合わせ、力で押し勝つ。
一瞬で三体を退ける。
ブロリーが人型との戦い方を思い出し、優勢に立ち始めた時、地上から、新たな異質なメタルクウラが跳躍してきた。ブロリーは、一撃を食らい吹き飛ばされる。ハムム、ムスター、アカッゴの三人も同時に息を呑む。
「なんてことだ……!あんな奴も居るのか!」
「とんでもなく強いぞ、アレは……!」
その個体は、従来のメタルクウラより一回り以上巨大。
そして異様なのは、頭部はこれまでの滑らかな球体ではなく、放射状に広がる複数の突起が生えている。背中にも薄いフィン状の突起が展開、それらから光が噴き出し、スパークが巻き起こっている。
アカッゴが瞬時に分析する。
「……放熱板!?あれは……有り余るエネルギーで自壊しないようにするための構造……!」
ハムムとムスターの背筋に冷たい汗が流れる。
「つまり……内部出力は、これまでのメタルクウラの限界値を超えている……!」
アカッゴは震えた。
「けど、あれはまだ発展途上……!」
放熱型メタルクウラは、ブロリーを押し返すほどのパワーと速度を持つ。
だがその強さはまだ未完成のもの。
「あれは過渡期の設計……あの余剰エネルギーを、捨てずに内包できるようになれば……」
ハムムとムスターは頷く。
「…早く決着をつけないと……戦場は……絶望に包まれる……」
各戦場に爆音が響き渡る。
ブロリーも、ハムムも、ムスターも、アカッゴも、全員が目の前の脅威に手一杯で、周囲を確認する余裕など一切なかった。
そんな中、パラガスのシールドが限界を迎えた。
周囲には、メタルクウラの光線が飛び交っている。
パラガスは最新型のエネルギーブラスターを構えていた。
気を収斂し、圧縮し、数十倍の威力で射出する装置。
サイヤ人は本来、武器を好まない。だが、同時にプロの戦士でもある。
パラガスは、この戦場で、自分が成せる最大限の合理を選択した。
「フリーザ級を……この手で討ち取る……!」
それは、ベジータ王に対する復讐とも、怒りとも違う。
だが、彼を縛ってきた何か、呪縛からの解放。
もしフリーザ級を自分の手で倒せたなら、自分は、ようやく過去から自由になれる。
その想いが、彼の気を限界まで高めていた。
ブロリーが数体のメタルクウラを撃破し、戦場に希望が灯り始めたその瞬間。
光線がパラガスの胸を貫いた。
血が散り、老いた身体が空中で大きくのけぞる。
ブロリーが絶叫する。
「お父さん!!!」
だが、パラガスは笑った。胸を貫かれ、血を流しながらも。
「くく……!戦場で敵を蹂躙してきたオレが……ベッドの上で安らかに死ねるとは思っておらぬわ……!!」
「父さん……!船へ戻って……!」
パラガスは血を吐きながらも、息子の顔を見て微笑む。
「ブロリー!!よく見ておけ!!」
パラガスは残った力を振り絞り、破壊光線を放ったメタルクウラへ向かって突撃する。
「これが!!!戦闘民族サイヤ人の生き様だ!!!」
その声は、戦場の轟音のなかでも力強かった。
「うおおおおおおっ!!!」
老いた身体が、光線の嵐を切り裂くように突き進む。
パラガスが最大出力のブラスターを放つ。
しかし、メタルクウラは、あまりにも強かった。
パラガスの攻撃は届かない。
メタルクウラの光線が、今度は完全にパラガスの急所を貫いた。
老戦士の身体が力なく崩れ落ち、パラガスは絶命した。
その瞬間、ブロリーの世界から音が消えた。
光も、風も、戦場の叫びも、すべてが遠のく。
ただ一つ、父の崩れる姿だけが鮮明に見える。
胸の奥で、何かがゆっくりと崩壊して行く。
意識が弾ける。
爆発。
ブロリーの身体から、抑えきれないエネルギーが噴き出す。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
空気が震え、雲が裂け、大気が悲鳴を上げた。
ハムム、ムスター、アカッゴ、それにメタルクウラ達も、その衝撃に弾き飛ばされ動きが止まる。
アカッゴが叫ぶ。
「!?!?……このエネルギー!!!?????」
ハムムとムスターも息を呑む。
「あいつ!!!……何が起こった…!!!?」
衝撃波が戦場全体を揺らし、遠くの16号とクリーザ達も驚愕する。
ブロリーの瞳が理性を失う。
髪が逆立ち、黄金の光が全身を包み、巨大なエネルギーが吹き荒れる。
ブロリーは、スーパーサイヤ人に覚醒した。