銀河パトロールの宇宙ステーション。
作戦の成功が告げられ、戦士たちが帰還した。
喜び。安堵。喪失。沈黙。
それらが入り混じり、複雑な空気が流れる。
そんな中、ラーネは、どこか落ち着かずソワソワしていた。
16号が横目でラーネを見る。
「あのアカッゴという少女が気になっているのだな」
ラーネはびくっと肩を震わせ、答える。
「う、うん……」
16号は迷いなく言う。
「ならば話しかけるがいい」
ラーネは迷う。
「で、でも……迷惑かも……」
16号は即答した。
「ここで別れたら、おそらくもう二度と会うことはない。後悔のない行動を推奨する」
その言葉は、ラーネの胸に深く刺さった。
(……二度と……会えない……)
ラーネは小さく息を吸い、決意を固める。
「……行ってみる。アカッゴさんと……話してみたい」
16号は微笑み頷く。
ラーネは緊張した足取りで、アカッゴのいる区画へ向かって歩き出した。
戦場とはまた違った鼓動の高鳴り。そしてラーネは完全に動揺する。
「えっ……えっ……!?な、なんで……こっちに……!?」
アカッゴが、ラーネに向かって歩いてくる。
銀髪が揺れ、無表情のまま、アカッゴは静かに、しかし迷いなくラーネに近づいてくる。
二人の距離は、手を伸ばせば触れられるほど近くなった。
ラーネは覚悟を決め、声を出した。
「「あのっ!」」
二人の声が、ぴたりと重なる。
一瞬の沈黙。
ラーネは背筋を伸ばし、慌てて大きな声を出してしまう。
「は、はい! なんでしょうか!」
大きな声を出してしまって顔が真っ赤になる。
アカッゴは一瞬だけ目を瞬かせ、胸の前でそっと手を握りしめながら、小さく言った。
「……あ……あの……私……あなたと、お話がしてみたくって……」
ラーネの心臓が跳ねる。驚きで一瞬固まるが、次の瞬間、ラーネは勢いよく答えた。
「わ、私もです!」
アカッゴはその反応に少しだけ目を丸くし、そして、ほんのわずかに、唇が緩んだ。その笑みは、彼女にとっては貴重な表情だった。
銀髪の少女は、胸の前でそっと手を揃え、少しぎこちないが丁寧な口調で言った。
「……私は、アカッゴです。今は、ヤードラット星で師匠について……スピリットの修行をしています」
その声は静かで、どこか透明感があった。戦場で見せた圧倒的な力からは想像できないほど、柔らかく、控えめな少女の声。
アカッゴの紹介を受けて、ラーネは背筋を伸ばし名乗った。
「わ、私はラーネです!地球で、幼稚園の先生をしています!」
アカッゴはぱちりと瞬きをし、ほんの少しだけ首を傾げた。
「……幼稚園……先生……?」
ラーネは慌てて補足する。
「は、はいっ!ち、ちっちゃい子たちと歌ったり……遊んだり……お昼寝させたり……そんなお仕事です!」
これまで、戦いの事しか考えて来なかったアカッゴは、その説明を聞き驚いた。
「……すごい……命を育てる……大切な仕事…」
ラーネは首を振る。
「…いえ!難しくて、私なんか全然!なかなか上手くこなせないので…!」
アカッゴとラーネが向かい合って、まだぎこちない空気の中で言葉を交わしていたその時。背後から、柔らかい気配が近づいてきた。ヤードラット人の二人、アカッゴの師匠、ハムムとムスター。
ハムムは穏やかな笑みを浮かべ、ムスターは落ち着いた表情で軽く会釈する。
「こんにちは。僕はハムム」
「私はムスターです」
二人の声は柔らかく、戦場を生き抜いた者とは思えないほど静かで優しい。
アカッゴが紹介する。
「今話した……私の師匠たちです」
突然の師匠登場に、ラーネは緊張し答える。
「えっ……あっ……こ、こんにちは!ラ、ラーネです!」
ハムムは優しく笑い、ムスターは頷いた。
アカッゴがラーネと向かい合って話している姿を見て、ハムムは心の中でそっと思う。
(アカッゴに友達ができるのは良いことだ。最近、修行でも精神面でも行き詰まっていたからね)
アカッゴは強い。技も、戦闘センスも、だが…
(どうも頭で考えすぎる。理屈だけでスピリットを理解しようとする)
スピリットは理論ではなく、心の動きや他者とのつながりから育つもの。
(一緒に遊べる友達がいれば……アカッゴのスピリットは、もっと自然に育まれるだろう)
ムスターもまた、アカッゴとラーネを見ながら静かに頷いていた。
(……あの子、アカッゴと似ている。スピリットの質も、心の揺れ方も……)
アカッゴはラーネの前で少し緊張しながらも、どこか嬉しそうにしている。
その様子を見て、ハムムとムスターはそっと微笑んだ。
ハムムは優しい笑みを浮かべながら、しかしその瞳には、鋭い求道者の光を宿してラーネに言った。
「君も、ヤードラット星でアカッゴと一緒にスピリットを学んでみないか?」
ラーネは目を丸くし、胸の前で両手をぎゅっと握りしめる。
「えっ……ス、スピリット……って……地球で言うところの気ですよね……?で、でも……私には気なんて……ないかもしれません……」
ハムムは首を横に振る。
「君は特殊な存在のようだが、生命体だ。スピリットが無いなんてことはあり得ないよ。恐るべきは……その、隠ぺい技術だね」
ラーネは息を呑む。
ムスターが静かに言葉を継ぐ。
「それに……これはまだ仮説だがね」
彼はチラリと16号の方を見る。
「私は機械にもスピリットはあると思っている。そして、機械だけじゃない。その辺の石ころや砂粒……無機物にもスピリットは宿るはずだ。これは、八百万のスピリットという概念だよ」
ラーネは思わずアカッゴを見る。アカッゴは静かに頷いていた。
ムスターはふと視線を横へ向けた。そこには、黙って見守る16号。
ムスターは彼に向かって、まるで当然のことを告げるように言った。
「だから……高度なメカニズムのあなたにも、スピリットが存在していても不思議ではない」
16号はわずかに目を細める。
ムスターは続けた。
「何故なら、我々生物も、突き詰めれば有機的な機械に過ぎないのだから」
16号は静かに答える。
「……興味深い見解だ」
ラーネは両手を胸の前でぎゅっと握りしめ、学びの誘いに対し正直な気持ちを告げた。
「とても魅力的なお誘いです!ぜひ学んでみたいです!……だけど……」
「私を頼ってくれる幼稚園の子どもたちを……捨て置いてはいけません。少なくとも……今の生徒たちが卒業するまでは……」
ハムムは微笑み言った。
「ふむ。そういった気持ちも、スピリットには大事なことだよ。無理に急ぐ必要はないさ」
ハムムは続ける。
「君が子どもたちを大切に思う気持ち……それも正に、君という人物のスピリットの形なのだから」
ラーネは胸に手を当て言った。
「でも、学びたいです!その時は、お邪魔してもいいですか…?」
ハムムとムスターは頷く。
「もちろんさ。いつでも歓迎するよ」
アカッゴもラーネを見て頷いた。
そんな中。
「君! ラーネさんと言ったな!」
ラーネはびくっと肩を震わせる。
「えっ……は、はいっ!」
包帯を巻いた戦士、腕を吊った戦士、顔に傷を負った戦士。
ラーネと同じ小隊だった彼らが、まだ痛みを抱えながらも、まっすぐラーネの前に立った。
戦士たちは一斉に言った。
「君のおかげで、我々は命拾いした!本当にありがとう!」
ラーネは完全に固まる。
「え!? い、いえ!私はただ……怯えてバリアーを張ってただけですから……!」
「何を言うんだ。あんな強力なバリアを、あの広範囲で張れるだけで凄いよ!」
別の戦士も続ける。
「俺たち、正直……終わったと思ってたんだ。でも君のバリアがあったから、踏みとどまれた!」
戦士たちがラーネへの感謝を伝え、彼らは、視線を横へ向けた。
そこには、黙って立つ巨体。人造人間16号。
包帯を巻いた戦士が、痛む身体を押して一歩前に出る。
「16号さん!」
呼ばれた名に、16号はわずかに顔を向ける。
「あんたもだ!あんたが居たから、オレたちは絶望せず踏みとどまれた!ありがとう!」
16号は淡々と答えた。
「……礼は不要だ、オレは、オレの目的を果たしただけだ」
戦士たちは笑う。
「まあそう言うなって、感謝くらいさせてくれよ!」
その言葉に、16号はわずかに微笑んだ。
その様子をムスターは観察する。
(ふむ、やはり……この男にも流れがあるのではないか…?)
そんな中、ブロリー、チライ、レモが姿を見せる。その場の空気が、静かに、しかし確実に変わった。
ブロリー、一人でコアを吹き飛ばした男。
戦士たちのざわめきが止まり、アカッゴもラーネも、そして16号もそちらへ視線を向ける。チライが先頭に立ち、レモがその後ろ。そして、ゆっくりと歩くブロリー。暴走の余韻はもうなく、穏やかな表情をしていた。
チライはハムムとムスター、アカッゴの前に立ち、深く頭を下げた。
「あんたたちのおかげで、ブロリーを止められた。本当に、ありがとう…!」
ブロリーも続けた。
「ありがとう…!」
ハムムは優しく言う。
「ブロリーさん。君の心が戻ったのは……チライさんのおかげだよ。我々は、ただ道を繋いだだけだ」
ムスターも続ける。
「そして、君が戻ってこられたのは、君自身の意志だ」
ハムムはブロリーを見つめ言った。
「それに、助かったのはお互い様さ。ブロリーさんの活躍がなければ、戦況はかなり厳しかっただろう」
ムスターも横で頷く。
ラーネはブロリーの姿を見つめながら、学習者としての思考が静かに動き始めた。
(これが……純粋種のサイヤ人……)
ゲロのコンピューターは、サイヤ人のデータは既に十分だと言っていた。
(……でも……十分なんかじゃなかった……)
(根本から考え直す必要がある……サイヤ人という種族を……)
アカッゴもブロリーを前に緊張する。
(サイヤ人…想定をはるかに超える力…)
そこへバイザー付きヘルメットとプロテクターに身を包んだクリーザが姿を現す。
「こんにちは、皆さん。せっかくなので、今回ご活躍された皆さんに、ご挨拶させていただこうと思いまして」
今回の戦場で3つの軸を担った者たち、16号、ブロリー、そしてクリーザ、その三人が同じ場所に揃った
ラーネはクリーザを見て、胸の奥がざわつく。
(この人も、只者じゃない……宇宙って凄いな……)
アカッゴもまた、クリーザをじっと観察していた。
(何者なんだろう…)
ハムムはクリーザの気配を感じ取る。
(……メタルクウラに近い気配……?)
ムスターは腕を組み、興味深そうに呟く。
(…だが、邪悪ではない…)
16号。ブロリー。クリーザ。
この三人が揃ったことで、周囲の戦士たちは自然とざわめいた。
「おお……今回のMVPたちだ……!」
「かっこいい……!サイン欲しいな……!」
彼らの言葉には、ただのヒーロー視ではなく、戦場を共にした者だけが持つ深い敬意があった。彼らは皆、銀河から集まった精鋭。だからこそ、今回の戦いで16号・ブロリー・クリーザ の三人がどれほど異次元だったか、正確に理解していた。
そして、軽く交流を深めた後、戦士たちは、それぞれの母星へと帰って行く。互いに別れを告げ、ステーションは少しずつ静けさを取り戻していった。
アカッゴはラーネを見て言った。
「……ラーネ。また…ね…」
ラーネは照れて微笑み頷く。
「うん!またね!」
その様子を見ていた銀河パトロールの隊員が、二人に小さなデバイスを手渡した。
「これは 宇宙間通信デバイス。遠く離れた星同士でも交信できるよ。友達同士なら、持っておくといい」
ラーネとアカッゴは顔を見合わせ、同時に笑った。
「ありがとう!」
「……大切にする」
ラーネと16号の帰還には、来た時よりも大きなクルーザー船が用意された。内部は広く、静かで快適だった。
そしてパイロット席には、ジャコ。
ジャコは操縦桿を握りながら、言った。
「約束だからな。帰りは、観光ルートで行くがいいか?」
ラーネの目が輝く。
「は、はい!もちろん!ありがとうございます!惑星の輪郭……また見られるんですか?」
ジャコは得意げに胸を張る。
「当然だ。まだ飽きてなかったか」
16号は微笑む。
「…オレも、宇宙の自然を観察してみるか…」
そしてクルーザーはゆっくりとステーションを離れ、星々の海へと滑り出した。窓の外には、惑星の縁が光り、遠くの星雲が淡く揺れていた。
ラーネは胸に手を当て、小さく呟く。
「……また来たいな……アカッゴさんにも……会えるといいな」