ダークネスウォリアー孫悟飯   作:晴歩

39 / 44
憂い

 子供とは、大人の真似をしたがるものだ。

 

5歳になったパンにとってのおままごとは、ブウと組手を取ることだった。ある意味、常識外れの英才教育。その環境で、パンの才能はみるみる開花していく。相手の強さも推し量れるほどに。

 

そしてある日、パンはふと思った。

 

「ラーネ先生って強いの?」

 

訊ねられたラーネは驚愕した。

 

普段は、普通の人間として振る舞い、自分の身体能力は決して見せないようにしている。

 

「え!? な、な、なんで!?」

 

5歳のパンの語彙力では上手く説明できない。

 

「んー、なんかそんな感じがする」

 

「へー、そうなんだ、ふーん……」

 

ラーネはそのまま話題を流そうとする。

 

しかしパンは純真そのもの。

 

「強いの?」

 

ラーネは困惑した。

 

「え、えーと……」

 

ラーネには、誰にも言えない不安があった。

 

ラーネは復興後に生み出された人造人間。破壊には関わっていない。だが…

自分の素性が知られれば、今のように人々と普通に暮らすことは許されないだろう。

 

パンの問いは、その不安を鋭く突いてしまった。

ラーネの表情が曇る。パンはそれを見逃さない。

 

「どうしたの? ラーネ先生……なんだか悲しそう……」

 

そして、勘のいいパンは、自分のせいだと思ってしまう。

 

「パンのせい……?」

 

ラーネは慌てて首を振った。

 

「ううん! そんなことないよ!ごめんね! ちょっと考え事しちゃって!パンちゃんは何も悪くないよ!」

 

パンはほっとしたように微笑んだ。

 

 

 パンに「強いの?」と問われた日の夜。

ラーネは、重い胸のまま16号のもとを訪れた。

 

「パンちゃんに……私の力……見抜かれた……もう、普通に暮らせないかもしれない……」

 

16号はしばらく黙って考え、静かに問い返す。

 

「ふむ……お前は、孫悟飯には会ったことはあるのか?」

 

ラーネは驚き、答える。

 

「え……? うん……何度か……パンちゃんの送り迎えの時とか、参観日の時とか……」

 

16号は淡々と告げた。

 

「では、孫悟飯には既にバレているのではないか?」

 

ラーネは跳ねるように声を上げる。

 

「え!? そ、そんなまさか!?」

 

16号は冷静に言う。

 

「5歳の子供に見抜かれたんだ。孫悟飯に悟られていても不思議はない」

 

ラーネは言葉を失う。

 

「そ、そうだけど…パンちゃんとは長い時間一緒にいるけど……孫悟飯さんとは一瞬、何度か会っただけだから……」

 

しかし、不安は高まる。悟飯の洞察力は、パンの比ではないだろう。

 

 

 それから数日、ラーネはひどく沈み込んだ。

その数日間の沈み込みを見て、16号は静かに決断した。

 

16号が向かった先は、孫悟飯の家。

 

「孫悟飯」

 

名を呼ばれた悟飯は、玄関先で16号を見据えた。

 

その目は、異質な存在に対しても、剣呑さは見せず落ち着いている。

 

「はい。あなたは…?」

 

16号は一歩前に出て名乗る。

 

「オレは16号。ドクター・ゲロの作った人造人間だ」

 

悟飯は息を呑む。しかし構えは取らない。ただ、冷静に状況を見極めている。

 

16号は続けた。

 

「敵意はない。破壊活動を行うつもりもない」

 

悟飯は静かに問い返す。

 

「僕に、何の用ですか」

 

16号は淡々と、しかしどこか切実に言った。

 

「復興後に生み出された人造人間が居る。彼女は自分の素性に悩み、かつてなく苦しんでいる」

 

悟飯の表情がわずかに揺れる。

 

16号は核心を突いた。

 

「お前は、かつて人類を破滅させた人造人間の眷属である彼女を憎むか」

 

悟飯は一瞬黙り、そしてゆっくりと首を振った。

 

「いいや。僕は、枠で物をみない」

 

16号はわずかに目を細めた。

 

「そうか……」

 

そして深く頭を下げる。

 

「彼女を救いたい。力を貸してほしい。彼女はただの、優しい一人の人間だ」

 

悟飯はすべてを察した。

 

「ええ、そうでしょうね」

 

ここ数日、パンが言っていた。

 

『ラーネ先生、なんか元気ないの……』

 

悟飯は優しく微笑む。

 

「そうでなければ、うちの娘があれほど懐くわけがない」

 

16号は悟飯の言葉を聞き、驚く。

 

「やはり、既に気づいていたのか」

 

悟飯は首を横に振る。

 

「いいえ、詳細までは」

 

悟飯は落ち着いたまま、続ける。

 

「でも……今あなたに会って、線がつながりました」

 

悟飯は優しく微笑む。

 

「ラーネ先生は、きっと優しい人なんでしょうね」

 

16号は短く答える。

 

「ああ」

 

 

 翌朝。パンは悟飯に手を引かれ、元気いっぱいに幼稚園へやってきた。

 

「おはよう!ラーネ先生!」

 

パンはいつも通りの明るさで挨拶する。

ラーネは、ここ数日の沈んだ様子のまま、無理に笑顔を作って返した。

 

「…おはよう」

 

その笑顔は、パンにも無理をしていると分かるほど弱々しい。

 

悟飯も軽く会釈する。

 

「おはようございます」

 

そして、悟飯は静かに続けた。

 

「昨日、16号さんに会いました」

 

「!?!?」

 

ラーネの頭が真っ白になる。

膝が震え、その場で倒れそうになる。

何も考えられない。呼吸すら忘れそうになる。

 

悟飯は優しい声で続けた。

 

「僕は、あなたに恨みなんてありません」

 

悟飯はまっすぐに言葉を重ねた。

 

「いつもパンに良くしてくださって、感謝しています。だから……どうか元気を出してください」

 

ラーネの目が揺れる。

 

悟飯はさらに言う。

 

「パンも、ここ数日……あなたのことを、とても心配していました」

 

パンは横で大きく頷く。

 

ラーネの胸が締めつけられる。

 

悟飯は微笑んだ。

 

「あなたが優しい人だってことは、パンを見ればよくわかります」

 

ラーネは、その場で泣き崩れそうになるのを必死にこらえた。

パンは、そんなラーネを心配そうに見つめる。悟飯はそっとパンの頭を撫でた。

 

「先生はちょっとお疲れなんだよ。きっと明日からは元気な先生に戻ってるよ」

 

悟飯の声は優しく、ラーネを責める気配は一切ない。

ラーネは涙がこぼれそうになるのを必死にこらえ返事をした。

 

「は、はい!」

 

その声は震えていたが、パンの前ではどうにか笑顔を保とうとしていた。

 

パンがラーネの手を引きながら園内へ入っていく。

ラーネはまだ完全ではないが、昨日より少しだけ元気を取り戻していた。

 

悟飯は二人の背中を見送り、ほっと息をついたその瞬間。

 

キビトが瞬間移動で現れる。

 

悟飯は振り返る。

 

「キビトさん……?」

 

キビトは深刻な表情のまま告げた。

 

「孫悟飯。界王神界で、界王神様とビルス様がお呼びだ」

 

悟飯の表情が一変する。

 

「お二人がご一緒に……?……ただ事では無さそうですね……」

 

キビトは重く頷いた。

 

「かつて無い脅威だ……」

 

悟飯の背筋に冷たいものが走る。

 

パンの送り迎えの直後とは思えないほど、空気が張り詰めていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。