人造人間が倒れ、世界はようやく静寂を取り戻しつつあった。
だが、世界はまだ荒れ果て、都市には、瓦礫と焦げ跡が残る。
それでも、人々は立ち上がり始めていた。
いつしか、カプセルコーポレーション跡地には、生き残った技術者たちが続々と集まっていた。
「ここなら、もう一度やり直せるかもしれない。」
そんな思いが、彼らを自然と引き寄せていた。
その中に、妙に見覚えのある三人組がいた。
青い肌の小柄な男、長身の女性、そして犬男。
ブルマは目を疑った。
「…あ、あんたたち!? ピラフ一味じゃない!」
三人はビクッと跳ね、反射的に瓦礫の陰へ飛び込んだ。
「あ、逃げるな! まさか、今さら悪事を企んでるの!?」
ブルマが追い詰めると、ピラフは両手を上げて震えながら言った。
「い、いや!つい条件反射で!…今回は純粋に、復興を手伝いに来ただけなんだ!」
ブルマは疑いの目で睨みつける。
「ほんとにぃ?」
「あ、ああ、わしらは、確かに悪党だった、だが、この世界の荒廃には流石に堪えた…もう年だしな…
なんとか、昔の事は水に流して、手伝わせてくれないか?」
ブルマはしぶしぶ了承する。
「まあ、今は、技術者の人手はありがたいからね。でも、悪さしたら承知しないから!」
「おお!ありがたい!」
こうして、意外な再会が果たされた。
それからして、ピラフ一味は、驚くほど役に立った。
彼らの保持していたピラフマシン。
かつて、悟空を倒すために設計された、搭乗操縦型の人型マシン。
その最新型であった。
瓦礫撤去、地盤整備、簡易建築。
その汎用性とパワーは、様々な用途で役に立った。
技術者たちは感嘆し、ブルマも思わず腕を組んでうなる。
「まったく、世の中何が役に立つか分からないわね。」
ピラフは鼻を高くした。
「ふふん、当然じゃ!」
荒廃した世界に、久しぶりに戻った日常の空気。
悟飯が影の戦士として守り抜いた未来は、確かに動き始めていた。
瓦礫の山を器用に持ち上げるピラフマシンを見て、
トランクスは目を輝かせた。
「おー!かっこいいじゃん!このピラフマシンっての!」
ブルマは思わず二度見した。
「げ、まじ? あんた、私のメカ好きの血を引いてるとはいえ…よりによってピラフマシン?」
トランクスは、楽しそうに機体を観察する。
「えー、かっこいいじゃん!」
それを聞いたピラフは
「ふふん、見る目があるのう、トランクス君!わしのマシンは世界征……じゃなかった、復興のために作られた最高傑作じゃ!」
ブルマは呆れつつも、笑った。
そして夜。
瓦礫の上に腰を下ろし、ブルマはふっと息をついた。
その横で、ピラフはピラフマシンの整備をしている。
ブルマが言った。
「それにしても……あんたたちが生き延びていたなんてね。お互い、悪運が強いみたいじゃない。」
ピラフは工具を止め、遠くを見るような目をした。
「ああ、まあな、だが…そうか…
まだ信じられん……あの、孫悟空が、そんな前に死んでおったのか……
わしらは別にあいつと、お友達ってわけではなかったがの……
あんな陽気な奴が病気で死ぬとは……なんとも、もの悲しいのう……」
ブルマは少しだけ目を伏せ、静かに頷いた。
「ええ、そうね……。でもね、今回この世界を救ったのは、その孫くんの息子なのよ」
ピラフは目を見開き、思わず声を上げた。
「な、なに!? あのチビに息子ができたのか!?…そうか、それだけ、時がたったんだのう…
何もかもが懐かしわい…」
ピラフ一味の意外な活躍もあり、復興は順調に進んでいた。
カプセルコーポレーション跡地は、瓦礫の山の中に鉄骨が組まれ、煙が立ち上り、人々の声が戻りつつあった。
その喧騒の外れ、一人の男がふらふらと歩いてくる。
腰には刀。
頬はこけ、以前の丸々とした姿はどこにもない。
しかし、その目だけは妙に冴えていた。
ヤジロベーだった。
「……おいおい、マジで復興してんじゃねぇか。こりゃ、なんかうまいもんの一つや二つ、転がっててもいい頃だろ」
腹を押さえながら、彼は鼻をひくつかせる。
だが、漂ってくるのは鉄と油の匂いばかり。
食糧難の世界では、彼の食い意地もさすがに影を潜めていた。
それでも彼は生き延びてきた。
勇気や大義ではなく、現実を見極める嗅覚で。
「勝てねぇもんは勝てねぇ。だから逃げる。生きるためにな」
彼はそう割り切っていた。
だが逃げるだけではなかった。
旅の途中で出会った弱者には、刀を抜いて助けることもあった。
誰にも言わない。恩を売る気もない。
彼は、ただ自然体だった。
瓦礫の山を越えた先、復興作業の中心で指示を飛ばす女性がいた。
青い髪、白衣、そして妙に場を仕切る声量。
ヤジロベーは気づく。
「あれって、もしかして……」
腹を鳴らしながら、彼は記憶をたどる。
「確か……孫の仲間の……ブルマとかいう女か?」
直接話したことはほとんどない。
「へぇ……生きてたんだな。あの女も」
ブルマは図面を片手にスタッフへ指示を飛ばしていた。
その背後、瓦礫の影からひょっこりと現れた男がいる。
痩せこけ、髪はぼさぼさ。
刀を腰に差している男。
「おい……ブルマとか言ったよな、あんた」
ブルマが振り返る。
「え? 誰? ……あなた、作業員の人?」
「ヤジロベーだ。覚えてっか?」
ブルマは記憶をたどる。
「ヤジロベー……? あ、孫くんの友達の?あの太っちょの……わあ、ずいぶん瘦せたわね…」
「うるせぇ。食いもんがねぇんだよ。だから来たんだよ」
ブルマはようやく納得したように息をつく。
ヤジロベーは、復興の現場を見渡す。
「で、なんか食いもん余ってねぇか?」
ブルマは呆れながらも、少しだけ笑った。
「……手伝ってくれるなら、考えてあげるわ」
ヤジロベーは鼻を鳴らす。
「しゃーねぇな。働きゃいいんだろ、働きゃ」
人造人間が現れてから、世界は一気に痩せ細った。街は焼け、畑は荒れ、流通は途絶えた。
ヤジロベーも当然その煽りを受けた。腹が減る。
そう思ったとき、ふと頭に浮かんだのが、かつての神殿での修行だった。
白い床、静かな空気、やたらと説教くさい神様とミスターポポ。
そして、意味があるのかないのか分からないままやらされた座禅。
「気を静めろ」「心を鎮めろ」「無駄な動きをするな」
当時のヤジロベーにとっては、退屈で仕方のない時間だった。
だが今になって、その言葉が妙に現実的な意味を持って迫ってくる。
「無駄な動きをするな、か…無駄に動くと腹が減る……」
彼の中で、神殿の修行と、今の生存戦略が一本の線でつながった。
ヤジロベーは廃墟の一角、風と雨をしのげる場所を見つけると、どっかと座り込んだ。
足を組み、背筋を伸ばし、目を閉じる。
「こうだったか……? いや、もっとこう……腹のあたりに、気を集める感じで……」
最初は完全に「腹を減らさないための工夫」だった。
悟りでも修行でもない。
ただ、エネルギーの消費を抑えるための、現実的な手段。
だが、続けているうちに、彼は気づく。
呼吸を整え、余計なことを考えず、じっとしていると、体の中の気の流れが、はっきりと分かるようになってきた。
「……あれ? なんか、前より楽じゃねぇか、これ」
腹の減り方が、ほんの少しだけ緩やかになる。
体のキレも、妙にいい。
刀を振れば、以前よりも重さを感じない。
「……マジかよ。あのクソ退屈な修行、ちょっとは役に立ってたのかよ」
それからだ。
移動の合間、食べ物が見つからない時間、夜、雨宿りの時、ヤジロベーは暇さえあれば座禅を組むようになった。
理由は、最初から最後まで一貫している。
「腹を減らさないため」
だが、そのささやかな工夫が、図らずも、ヤジロベーの気の感覚を研ぎ澄ましていた。
復興現場の中央で、作業員たちが困り果てていた。
巨大な鉄骨が積まれたまま、誰も手をつけられずにいる。
「くそっ、切断機がまた止まったぞ!」
「予備のバッテリーももうない……」
ブルマがため息をつく。
「なんでもとんとん拍子とは行かないわね…」
そのとき、ヤジロベーがぼそっと言った。
「なぁ。ちょっと試してみてもいいか?」
ブルマが聞く。
「試すってなにを?」
ヤジロベーは、鉄骨に近づく。
「こいつを切りたいんだろ?」
ヤジロベーが刀を抜く。
作業員たちは一瞬ぽかんとし、すぐにざわつき始める。
「え? まさか……刀で切る気か?」
「やめとけって! 刀がもったいない!折るだけだ!」
「そんなもんで鉄骨が切れるわけねぇよ!」
ヤジロベーは気にせず言う。
「切る箇所、ここでいいんだよな?」
ブルマも半信半疑で声をかける。
「ほんとに大丈夫なの?」
「わかんねえ、こんな作業した事ねえからな。」
ヤジロベーは、あっけらかんと言う。
ヤジロベーは深く息を吸い、目を閉じた。
座禅で磨いた無駄のない呼吸が、体の芯を静かに満たしていく。
「じゃ、いくぞ」
一閃。
ここにいる人たちには見えない高速。
そして、鉄骨は抵抗もなく、まるで柔らかい素材のように切断されていく。
作業員たちが凍りついた。
「……は?」
ブルマも目を見開く。
「す、すごい…」
ヤジロベーは刀を鞘に戻した。
作業員たちが驚嘆し鉄骨を確認する。
「な、なんだ今の……!」
「お、おい見ろよこの切断面!……きれいすぎる……」
ヤジロベーはそっぽを向きながら言う。
「ほら、次の鉄骨持ってこいよ。腹減る前に終わらせっぞ」
異質な気を感知したトランクスも、その作業風景を見物に来た。
そしてヤジロベーが作業をこなす。
ヤジロベーが鉄骨を静かに切断する。
そして。
「うわぁ……カッコいい!!」
トランクスが目を輝かせる。
少年らしい純粋な興奮が、そのまま声になっている。
「俺も剣術やってみたいな!あんなふうに、気を刀に流して……ズバッて!」
ヤジロベーは答える。
「腹減るだけだぞ。」
それでもトランクスはキラキラした目のまま。
「すごいよ! あんな技、初めて見た!」
その横でブルマが腕を組み、ため息をつく。
「アンタも大概ミーハーね。一体誰に似たのかしら。」
トランクスは目を輝かせてヤジロベーに聞いた。
「今の技、なんて名前なんですか!!?」
ヤジロベーは刀を鞘に戻しながら
「え? ……名前なんてねぇよ。ただ、気を込めて切っただけだ。」
その素っ気ない返事が、トランクスには逆にクールだった。
「カッコいい……!じゃ、じゃあ……気功斬なんてどうです!?」
ヤジロベーは完全に困惑した顔で振り返る。
「は?呼びたきゃ勝手に呼べよ……」
トランクスは満面の笑みでうなずく。
「はい! 気功斬……すっげぇ……!」
トランクスはまだ切断面を見つめて興奮が冷めない。
荒れ果てた世界で、少しずつ明るい空気が戻りつつあった。