界王神界。
ビルスと界王神が同じ場に揃うこと自体が異常事態だと悟飯はすぐに理解した。キビトに案内され、悟飯とトランクスは二柱の前に立つ。
界王神の表情は、これまで見たことがないほど深刻だった。
そして言い放つ。
「……宇宙の……消滅の危機です…」
その言葉は、あまりにも規模が大きすぎて、トランクスの理解を一瞬で超えた。
「え!?ど、どういうことなんですか!?」
過酷な戦いを経験して来た彼でさえ、宇宙そのものが消えるという規模は想像の外だった。
そして悟飯は、界王神界で学び続けた知識から、この規模の危機が何を意味するのかを察した。
「……全王様が、関わられているのですか…?」
界王神は驚き、そしてゆっくりと頷いた。
「そのとおりです……」
その瞬間、場の空気がさらに重く沈む。
ビルスでさえ腕を組み、目を閉じ、何かを考え込んでいる。
老界王神は珍しく言葉を失い、ただ眉間に深いしわを刻んでいる。
ウイスは静かに目を閉じ、状況を見守る。
界王神は震える手を胸の前で組み、言葉を続けた。
その声音には、神でありながら抗えない理不尽への恐怖が滲んでいた。
「力の大会という武道大会が開かれます。各宇宙から十人の選抜戦士を集め、戦わせる……。そして、優勝した宇宙以外は……消滅させられます」
トランクスが激しく当惑し、声を荒げた。
「な……!?無茶苦茶だ!そんな事が許されるんですか!」
そして、ビルスが沈黙を破る。
腕を組んだまま、ゆっくりと口を開く。
「……全王様は、以前から宇宙を整理したいと考えられていたようだ。問答無用で消し飛ばされなかっただけ、マシと思うしかない……」
その声には、破壊神である彼にすら抗えない絶対的存在への諦念が滲んでいた。悟飯はその言葉の重さを理解し、胸の奥が冷たくなる。
宇宙の存続が、十人の戦士の戦いに委ねられる。
勝てば生き残る。負ければ消滅。
あまりにも残酷で、あまりにも理不尽で、しかし覆せない現実。
トランクスは、ビルスの説明を受け止めきれず、悟飯を見る。
その瞳には、混乱と怒りが入り混じっている。
「宇宙の整理って……!?なんなんですそれ……!?何故そんな必要が……!?」
理解を拒む心がそのまま言葉になっていた。
悟飯は、静かに答えた。
「この世界の仕組み……僕たちが……管理者にとって、許容できない世界を成しているのだとすれば、それは仕方のないことなんだ…」
悟飯の言葉は、あまりにも客観的で冷静だった。
トランクスはさらに混乱し、声を荒げる。
「管理者!?仕組み!?だって、界王神様やビルス様だって神様じゃないですか!」
悟飯は視線を空へ向けて言った。
「この世界は、無数の反射で出来ている。現在、僕たちが交信可能な宇宙は十二あるけど……本当はもっと多い。僕たちは、その無数の泡の一つに過ぎないんだよ」
界王神も老界王神も、ビルスもウイスも、悟飯の言葉を否定しない。
むしろ、その理解に到達していることを、静かに認めているようだった。
トランクスは理解しきれず言葉を失う。
悟飯は続ける。
「僕たちが思っている以上に、この世界は……広くて、脆くて、そして、誰かの意思に左右されるんだ」
その言葉は、冷徹な客観視であった。
その言葉を補足するようにウイスが言った。
いつもの穏やかな微笑みと底知れない深さを宿しながら。
「今回の力の大会自体、全王様が……別次元から着想を得て発案されたらしいですからね」
その言葉は、怒りと困惑を抑えられないまま立ち尽くすトランクスの思考を更に揺さぶる。
ビルスが腕を組んだまま、重く言葉を落とす。
「世界が基準に合わないと判断されたら、容赦はない。今回の大会は、その基準を満たすための……最後の猶予だ」
老界王神は深くため息をつき言った。
「わしら神々でさえ、全王様の視点は理解しきれん。だが……別次元の価値観が混ざったとなれば、なおさら読めんわい……」
トランクスは拳を握りしめたまま、震える声で言った。
「……無茶苦茶だ……。負けた宇宙は消されるなんて……あんまりなルールじゃないか……」
悟飯は静かに目を伏せた。
その表情は、怒りでも悲しみでもなく、冷徹な客観視。
「この世界を、部外者が好き勝手に弄ぶことへの嫌悪かもしれないね」
「部外者……?」
トランクスは悟飯の言葉を反芻し、顔を上げた。
「部外者!?オレ達は、部外者なんですか!?」
悟飯はゆっくりと言葉を選んだ。
「正直言えば、何も分からない。…そして…全王様ですら、層の一つの反射に過ぎないのかもしれない…」
ビルスが低く制する。
「悟飯、それ以上はダメだ…」
悟飯の表情がわずかに強張った。
「…はい、結局は、何もわからない…」
そしてトランクスに言った。
「…わからないからこそ、僕たちはただ日々を、健やかに生きて行けるように頑張るしかないんだ…」
沈黙が落ちた。
トランクスはゆっくりと息を吐いた。
悟飯の言葉は、抽象的過ぎて、実感として何も理解は出来ない。だが…
「……悟飯さん。もしオレたちが、層や泡の一つにすぎないとしても……オレは、この層を守りたい。もう二度と、大切な世界を失いたくない…!」
悟飯は頷いた。
「うん。僕も同じだよ」
悟飯の言葉に勇気づけられ、トランクスは覚悟を決めた。
しかし、やはりまだ、消えない納得できなさが残っていた。
彼は拳を握りしめ、ついに堪えきれずに口を開いた。
「……それにしたって、あまりにも酷い……一番偉い神様だからって……何をしてもいいのかよ……!」
その声には隠し切れない怒り。
悟飯は静かにトランクスを見つめたが、何も言わなかった。
代わりに、ビルスがゆっくりと歩み寄った。
「……いつまでも甘ったれるな」
その声は静かで、怒りではなかった。
トランクスは驚きビルスを見る。
ビルスは腕を組み、淡々と続けた。
「お前たち人間も、自分たちの都合で他者を蹂躙し、便利な生活を築き上げてきたのだろう」
ビルスはトランクスの目をまっすぐに見据えた。
「今度は僕たちが、より強大な存在の都合で蹂躙される側に回っただけに過ぎん。ただそれだけの話だ」
その言葉は、残酷なほどに理屈だった。しかし、そこには怒りも嘲笑もなかった。
ただ、事実を述べる破壊神の声だった。
トランクスは反論出来ず震える。
悟飯は、言葉を挟まなかった。
ビルスは続けた。
「納得できないのは当然だ」
「だから勝つ。いいな」
その瞬間、トランクスは一瞬だけ目を見開いた。
次の瞬間には胸の奥で何かが燃え上がった。
「……はい!もちろんです!」
その返事は、迷いを断ち切るように力強かった。
何度も絶望を味わった少年が、それでも立ち上がる時に見せた、あの強い光が瞳に宿っていた。悟飯も静かに頷いた。
ビルスは腕を組み言った。
「勝てば生き残る。負ければ消える。それだけの話だ」
トランクスは深く頷いた。
「……勝ちます。どんな都合に巻き込まれても……オレは、オレ達の世界を守りたい…!」
悟飯はその言葉を受け止めるように、静かに目を閉じた。
「行こう。僕たちの層を……僕たちの手で守るために」
悟飯とトランクスが決意を固め、場の空気がようやく落ち着きを取り戻した頃、界王神が口を開いた。
「ですが実は……力の大会が開催される前に、大きな試練が一つあります」
界王神は続ける。
「……それは 全覧試合。三人の代表者を集い、二つの宇宙が試合を行う、試用大会です」
トランクスは息を呑んだ。
「試用……大会……?」
「はい。そして、その試合の出場宇宙の一つに、我々の宇宙が選ばれました」
界王神は、言葉を選ぶようにゆっくりと続けた。
「もし、この試用大会で、武道大会そのものが、つまらないと全王様に判断されれば、本大会が開かれる以前に……」
言葉が震えた。
「……宇宙は消滅させられてしまうでしょう」
トランクスは青ざめた。
「そんな勝手な…」
悟飯は静かに息を吸い、その言葉を受け止める。
そしてビルスは腕を組み、迷いのない声で告げた。
「トランクス、今回はお前が大将だ」
「え!?悟飯さんは!?」
悟飯の実力を誰より知るトランクスにとって、それは意外すぎる采配だった。
ビルスは淡々と答えた。
「悟飯の力は本大会まで隠す」
トランクスは、すぐに納得したように頷いた。
「なるほど……確かに……」
悟飯は言った。
「僕の戦い方は地味ですからね……全王様に、面白いと思っていただくには向いてないかもしれません」
そこでウイスが、いつもの柔らかな笑みを浮かべながら口を挟んだ。
「ですがビルス様。あからさまな手抜きが露見すれば、その場で消されかねませんよ」
ビルスは「むむ……」と眉を寄せた。
「確かに……とにかく手抜きと思われない、あと二人を探さねば……」
悟飯は静かに手を挙げた。
「でしたら、もう一人はブウが最適ではないでしょうか」
「確かに…!」
トランクスが頷く。
界王神も頷く。
「確かに!あのブウのトリッキーな戦い方は、全王様に楽しんでいただけるかもしれない!」
ビルスは満足げに頷いた。
「よし、一人はそいつで決まりだ!残り一人……!」
ビルスは界王神に向かって有無を言わせぬ口調で命じた。
「宇宙中を徹底的に精査しろ!どうせ、本大会に向けて選手は探さなくてはならない!全王様に喜んでいただける、強くて面白い奴を見つけ出せ!」
界王神は焦りながら答える。
「そんな都合の良い人物、いますかね……」
ビルスは腕を組み、短く言い放つ。
「文句を言う暇があったら探せ!」
ウイスはくすりと笑った。
「では、ビルス様のご期待に沿えるよう、宇宙中から強くて面白い方を、丁寧に掘り起こしてみましょうか」
界王神は慌てて頷いた。
「は、はい!全力で探します!」
そんな中、トランクスは、ふと根本的な疑問を口にした。
「……あの、界王神様。全覧試合って、いつなんです?」
界王神は一瞬だけ言い淀み、しかし隠しても仕方がないと悟ったように、静かに答えた。
「……明日です……」
「は!?!?」
トランクスの叫びが界王神界に響き渡った。
悟飯も思わず目を見開く。
「明日……!?そんな急に……!」
界王神は両手を合わせ、首を垂れた。
「全王様のご都合で、急遽決まったのです……」
ビルスはため息をつき言った。
「やるしかない、明日までに強くて面白い奴を見つけるぞ」
「明日って……!準備も作戦も……!」
トランクスは頭を抱えた。
界王神界の空気が張り詰める中、界王神は界王たちの協力を得て、短時間で宇宙中の戦士を片っ端から精査していった。そして、一人の名が浮かび上がった。
界王神が告げた。
「該当した戦士が一人居ました!マシンミュータントという種族の者です!」
ビルスが眉を上げた。
「強いのか?」
界王神は力強く頷いた。
「はい、強いのもありますが……大きな決め手は一つ…」
一拍置いて、胸を張って言い放つ。
「女の子なのに強い!これは、全王様に楽しんでもらえるかと!」
トランクスは思わず固まった。
「え!?いや…こんな時にふざけてる場合じゃ…そんな理由で…」
だが神々は大真面目。
ビルスは腕を組み、短く言い放つ。
「よし!三人目はそいつにする!」
老界王神は唸る。
「むむ~…どうせならわしは、もう少し年上のお姉さんの方が…」
トランクスは肩を落とし悟飯に言った。
「オレ…いい加減、神様ってものが信用できなくなってきました…」
「はは…」
悟飯は苦笑するしかなかった。