全覧試合。力の大会の前哨戦にて、とりあえずの宇宙の消滅は免れた。
トランクスは、界王神界へ戻るなり、抗議する様にビルスに言った。
「なんで……何万年ってスケールで生きてる神様が、たったの四十八時間後に大会を設定しちゃうんですか……!」
それは素直な愚痴。
しかし破壊神であるビルス自身その事実に困惑している。
「知らん!!僕に言うな!!とにかく、与えられた時間で最善を尽くすしかない!!」
老界王神も、深く頷きながら口を開いた。
「それ自体が試練なのかもしれんの…」
ビルスは腕を組み、全員を見渡した。
「とにかく!四十八時間で行える最善を尽くす…!」
ビルスは界王神へ視線を向けた。
「あの精神と時の部屋のような、外界と時間の流れが違う空域があったな。そこへ選手候補を集める!そしてそこでの修行後に選抜を行う!目ぼしい候補を宇宙中から集めろ!」
界王神は目を輝かせた。
「なるほど!さすがビルス様!それなら、四十八時間でもたっぷり修行ができます!これなら勝てますよ!」
だがビルスは即座に叱責した。
「ばかめ!だからお前は甘いんだ!僕たちが思いつくということは、他の宇宙も当然同等の事をやってくるに決まっている!むしろ自分たちの想像以上のことを行ってきて当然だと想定しろ!!」
それは、言を俟たない道理であった。
ビルスは腕を組みながら、悟飯、トランクス、アカッゴへ視線を向けた。
「界王神には徹底的に精査させるが……お前たち、誰か目ぼしい戦士を知らないか?」
悟飯は少し考え、苦笑を浮かべた。
「僕たちは……ほとんど地球から出たことがないので。戦士の情報は、全然持ってないですね……」
しかし、トランクスは何かを思い出したように顔を上げた。
「そうだ……ダーブラさん!あの人なら!」
ビルスは眉をひそめる。
「ふむ……なんか聞いたことある気がするな。誰だったか……」
「魔界の王様ですよ!ビルス様に知られているとは、さすがダーブラさん!」
ビルスは短く頷いた。
「ふむ……よし、そいつも呼んでこい!」
その一言に、界王神は目を丸くした。
「ええ……!?ダーブラと交渉……!?」
そして次いで、アカッゴが静かに口を開いた。
「私も、何人か心当たりがいます。まず、私の師匠であるヤードラット人の二人……」
「それと……種族は不明ですが、クリーザという人。そして……凄まじい力を持つサイヤ人……ブロリー」
それを聞いた悟飯とトランクスは息を呑んだ。
「サイヤ人……!」
「オレたち以外にも、生き残りが……!?」
アカッゴは続ける。
「ブロリーは、私が見た中でも、最も純粋な力を持つ戦士です」
その言葉は、ビルスの興味を強く引いた。
「ほう……サイヤ人の生き残りか。しかも凄まじい力……面白いじゃないか…!」
強者を求める破壊神の本能が、ビルスの声にわずかに愉悦を含ませる。
続いてビルスは、老界王神へ視線を向けた。
「お前の潜在能力を引き出す術、あれを候補者全員に行ってもらう。いいな?」
老界王神は、一瞬狼狽しつつも、同時に状況の重さから、当然の事だと理解した。
「むむ……しかたありますまい……。あれは、本来ならば特別な者にのみ施す術なのですが……いや、宇宙の存続を賭けて戦う戦士たち…皆、特別と言って差し支えありませんな…」
悟飯はその言葉を聞き、複雑な表情を浮かべた。
「ええ……あれを受けないといけないのか……」
しかし、すぐに表情を引き締める。
「でも……確かに、それはやるべきだ。正直すごい嫌だけど…それくらいは我慢しないとね……」
トランクスは恐る恐る尋ねる。
「あの……俺はもう、術を受けなくてもいいんですよね……?」
老界王神は頷いた。
「うむ。こんな短期間で、何度も施しても意味無いからの」
トランクスは深いため息をつき心の底から安堵し、そして小さくガッツポーズを取った。
その様子を見てアカッゴは、それ程までにつらい試練なのかと恐怖し覚悟を決める。
修行空域へ入る準備を進める中、悟飯はビルスに許可を求めた。
「少しだけ……家に戻らせて貰えないでしょうか。家族の顔を見ておきたいんです」
ビルスは腕を組み、短く頷いた。
「行ってこい。主力の精神状態は重要だからな」
悟飯は深く頭を下げ、キビトの協力で、瞬間移動で地球へ戻った。
夜の山は静かだった。
虫の声が響き、木々が風に揺れる音が微かに聞こえる。
悟飯の家、小さな山小屋は、宇宙の危機など関係なく穏やかだった。
悟飯が玄関を開けると、温かな灯りが漏れ、ほのかに漂う料理の香りが彼を迎えた。
「おかえりなさい。悟飯くん」
ビーデルがキッチンから顔を出し微笑む。
悟飯も靴を脱ぎながら微笑んだ。
「ただいま」
パンは既に眠っている。ベッドで穏やかな寝顔を見せていた。
悟飯はそっと近づき、娘の髪を撫でた。
ビーデルは悟飯のために、温かい料理を用意していた。
山小屋らしい素朴な食卓。野菜のスープ、焼きたてのパン、そして悟飯の好物の煮込み料理。
悟飯はそれらを口にし、深く息を吐いた。
「……美味しい。やっぱり、ビーデルさんの料理は最高だよ」
ビーデルは微笑みながら、悟飯の向かいに座った。
「ありがと!おかわりあるからね!」
部屋の片隅では、テレビが光を放っていた。
復興後、地球の文明はゆっくりと立ち直り、テレビ放送も少しずつ再開されていた。とはいえ、壊滅前ほど精密部品を量産できるわけではない。
テレビなどはまだ高級品の部類だった。
悟飯の家にあるテレビは、そんな貴重品のひとつだった。
新婚の頃、ブルマが祝いの一環として手作りした特製テレビ。世界に一台しかないハンドメイド品。
ブルマは「壊れたらいつでも持ってきて。私が直してあげるから」と笑って渡してくれた日のことを思い出す。
画面では、復興後の生活を支えるための「片付け特集」が流れていた。
断捨離をテーマにした番組で、軽快なナレーションが響く。
悟飯はその言葉を聞いた瞬間、背筋がひやりと冷えた。
今まさに、自分たちの宇宙が、不要物として処分されようとしている。
悟飯は思わず呟いた。
「僕は……なんでも使い捨てにせず、大切に手入れして、長く使っていきたいな……」
ビーデルはその言葉に微笑み、静かに頷いた。
「そうね。うちではそうしていきましょ」
そしてビーデルは悟飯の気配を感じ、妻としてすぐに察した。
「……何かまた、私の常識じゃ計り知れないことが起こってるのね……?」
悟飯は一瞬沈黙し、そして頷いた。
隠すつもりはない。悟飯はビーデルを信頼していた。
悟飯は深く息を吸い、静かに語り始めた。
「宇宙が……消滅の危機にあるんだ。四十八時間後に、運命を決める大会が開かれる。負けた宇宙は……消される」
ビーデルは息を呑んだ。
常識外の事が起こっているのだろうと察していたとはいえ、その内容は、流石に想定外が過ぎる。
「宇宙が……消される……!???」
悟飯は頷き続ける。
「だから、僕たちは大会までの間、時間の流れが違う空域で修行をすることになった。短い時間で、限界まで力を引き上げるために」
ビーデルはしばらく言葉を失っていた。
しかし、悟飯の目を見て、ゆっくりと呼吸を整える。
悟飯も、ゆっくりと食事を続けた。
悟飯はおかわりを食べ終わり、ふっと肩の力を抜いて言った。
「急を要しているのに……無理を言って一時帰宅させてもらったんだ」
悟飯は照れくさそうに笑った。
「もうすぐしたらキビトさんが迎えに来る。ご飯、美味しかった……かなり元気出たよ。帰ってきて良かった」
ビーデルは悟飯の言葉を聞き、安心したように微笑んだ。
そのあと、悟飯は食卓を離れ、そっとパンの寝室へ向かった。
小さな布団に包まれた娘は、静かな寝息を立てている。
悟飯は膝をつき、パンの頬をそっと撫でた。
その体温を感じながら、心を整理するようにそっと目を閉じる。
そして、覚悟を決めた悟飯が立ち上がると、ビーデルは言った。
「行くのね…」
悟飯は頷いた。
ビーデルは悟飯の手を取る。
「気負わないでね……悟飯くんは、一人で抱え込みすぎる癖があるから……」
ビーデルは悟飯の手をぎゅっと握りしめ、その瞳に揺るぎない覚悟を宿したまま続けた。
「例え宇宙が消えてしまったとしても、一緒に消えられるなら、何も怖くないわ。私が怖いのは、悟飯くんが無理をして無茶をすることよ…」
悟飯は息を呑んだ。
確かに、気負いすぎるのは図星かもしれない。
「……ありがとう、ビーデルさん」
二人は再会を誓うように抱擁を交わした。
そして、外の空気が揺らぎ、キビトが姿を現す。
悟飯はもう一度ビーデルを見つめ頷く。
悟飯はキビトと共に、瞬間移動で修行空域へと発って行った。