西の都の郊外。
ピラフ一味が暮らす家。
人口が激減したこの時代、土地が逼迫するという事はなかった。
復興作業に大きく貢献した彼らは、庭付きの広い家に暮らしていた。
犬獣人のシュウは、部屋で昔の持ち物の整理をしていた。
年齢を重ねた身体は、若い頃のようには動かない。
「…オレも、そろそろ寿命かなぁ…犬だもんな…オレ…」
そんな弱気をこぼしながら、古いアイテムを一つひとつ手に取る。
その中に、ひときわ懐かしい光を放つものがあった。
ドラゴンレーダー。
若い頃、世界征服を夢見て追いかけた七つの球。
その象徴ともいえる機械を、感慨にふける様に指で撫でる。
「懐かしいなぁ…ピラフ様と、マイとオレ、オレ達、本当に必死だったなぁ…」
何気なくスイッチを押してみる。
一拍して、シュウは絶叫した。
「うわあああっ!!!」
その絶叫に、別室に居たピラフとマイが駆け込みピラフが問う。
「なんだ!何事だ!」
シュウは震える指でレーダーを指さす。
「ピ、ピラフ様…ドラゴンレーダーに、反応があります…」
「な、なんだと!?」
「ドラゴンボールが復活しているようです…」
レーダーの画面が、ドラゴンボールの反応を示し、確かに点滅していた。
ピラフはレーダーを奪い取るように覗き込み、震える声で言った。
「おお…本当だ!ドラゴンボールが、またこの世界に散らばっておる…!」
シュウは、レーダーの光を見つめながらピラフに尋ねた。
「どうします…ピラフ様…」
ピラフは考え込むように言った。
「む、むぅ……正直ちょっと面倒くさいの…」
マイはため息をつきながら同意する。
「…この年になると…世界中を旅するというのは億劫ですね…」
ピラフは一瞬黙り込む。
その沈黙には、老いの重さが確かにあった。
だが、彼は拳を握りしめて叫んだ。
「いや!最後の気力を振り絞れ!ドラゴンボールで願いを叶えること!これこそがわしらの夢だ!」
マイは眉をひそめる。
「え、まさか…今さら世界征服ですか…?」
ピラフは即座に怒鳴った。
「バカモノ!皆で頑張って復興させた世界を今さら征服などするか!」
マイは尋ねる。
「では、一体願いは何を?」
ピラフは胸を張り、堂々と宣言しようとした。
「それはもちろん!………集めてから考える!さあ!支度だ支度!」
マイもシュウも、締まらないピラフに苦笑しつつ、どこか嬉しそうだった。
シュウは、切実に言った。
「ピラフ様、若返ることを願うのはどうですか?」
「ふむ。若返りか…」
「もし若返ったら、世界征服以外にやってみたい夢とかあります?」
「ふむ…」
ピラフは腕を組み、しばらく黙り込む。
そして。
「…わしは、最強のピラフマシンを作りたいぞ!」
シュウとマイは同時に感嘆した。
「おお〜!発想が若い!」
「やる気満々じゃないですか!」
ピラフは鼻を鳴らし、ふふふと得意げに笑った。
しかしすぐに真剣な表情に変わり、ピラフは静かに語り出す。
「…孫悟空と戦って負けた時も悔しかったが……それ以上に、技術者として、ドクター・ゲロに対抗できなかったのが悔しくての…」
その言葉には、長年胸の奥に沈めていた、技術者としてのプライドが滲んでいた。
シュウは素直に頷く。
「確かに…ボロ負けでしたね…」
マイも冷静に付け加える。
「完膚なきまでに大敗でしたね…」
ピラフは机を叩いた。
「バカモノ!いちいち強調せんでいい!!」
怒鳴りながらも、ピラフの顔にはどこか嬉しそうな色があった。
自分の弱点を語れるのは、長年連れ添った仲間だからこそだ。
シュウはレーダーを見つめながら、ぽつりと呟く。
「でも…ピラフ様が若返って、本気でマシンを作るなら…オレ、また手伝いたいですよ…」
マイも微笑む。
「私もです」
ピラフは照れ隠しのように傲慢に言った。
「ふん!仕方ない!またお前たちにも手つだわさせてやる!」
そんな中、シュウは、まるで名案を思いついたように言った。
「あ、神龍に最強のピラフマシンを作ってくださいと頼めばいいのではないですか?」
ピラフは即座に叱責した。
「あほか!それではピラフマシンではなく神龍マシンだろうが!」
シュウは一瞬で納得した。
「た、たしかに…」
そしてピラフは、最強のピラフマシンという物の製作を、現実的に想像して呟いた。
「新ピラフマシンを作る際には、ブルマにも相談してみよう…」
マイは言った。
「それでは、ブルママシンになってしまうのでは?」
ピラフは首を振り、静かに否定した。
「そうはならん。何故なら、今わしが持っている知識も、わしが一人で生み出したわけではない。長い歴史の中で、多くの天才たちが積み重ね、発見し、構築してきたものを、学ばせてもらっているのだ。だから、現代の天才からも学べるところは学ぶ、それだけのことだ」
その言葉は、かつての世界征服を夢見る子どもじみた皇帝ではなく、一人の技術者としての想いだった。
ピラフ達は、久々の遠征計画を、現実的に計画し始めた。
ピラフは地図を広げながら言った。
「うーむ…移動は、スカイバイクかのぉ…」
シュウとマイは、同時に耳を疑った。
「は!?」
「正気ですか!?この年で!?」
「体力が持ちませんって!」
ピラフはむっとしながら反論する。
「それが一番燃費がいいのだ!」
しかしシュウは即座に突っ込んだ。
「燃費が良くたって、途中で死んだらなんにもなりませんよ!」
マイも冷静に補足する。
「スカイバイクは、若い頃でも長距離はきつかったですよ…」
ピラフは渋々頷いた。
「うーむ…たしかに…スカイバイクは諦めるか…」
そして三人は、老いを自覚しつつ、現実的な移動手段を検討し始める。
シュウは地図を見ながら言う。
「やっぱり、ある程度快適じゃないと、旅の途中で倒れますよ…」
マイも頷く。
「ドラゴンボール集めは長丁場ですしね」
結局、移動手段は、安全性の高い小型ワゴンに決まった。
そして出発の日。
マイは車体を軽く叩きながら言った。
「久々に旅が始まる感じがして、年甲斐もなく少しワクワクしてきましたね」
シュウは、どこか不安げに、しかし真剣に言う。
「もしオレが、途中で死んだら…集めたドラゴンボールで生き返らせてくださいね…」
ピラフは即座に言い放った。
「そんな事で、貴重な願いを消費できるか!」
シュウは目をむく。
「うわ!そんな事とは何ですか!例え冗談でもひどいですよ!」
マイも言った。
「それは言い過ぎでは…」
しかしピラフは続けた。
「ジジイを生き返らせても、どうせすぐ寿命で死ぬだけだろ!だから、若返るまでは何としても生き延びろ!」
シュウは、怒りと納得が混じった複雑な表情で頷いた。
「た、たしかに…」
小型ワゴンのエンジンをかけると、かつてのピラフ一味の冒険の空気が蘇った。
マイはシートに座りながら、ふっと笑う。
「この感じ、久々ですね」
シュウは窓の外を見つめながら言う。
「オレ、がんばりますよ。新ピラフマシン、オレも一緒に作りたいし…」
ピラフは頷く。
「当然だ!というか、お前、本当に寿命が短いのか?十年前からそんなこと言ってるが全然死なないじゃないか…」
シュウは憤って言った。
「そんな!とっとと死んでほしい見たいな言い方!」
ピラフは笑った。
「ははは!それだけの元気があれば、この旅の間は大丈夫そうだな!」
ワゴンはゆっくりと出発した。
三人の老いは確かに深まっていた。
しかし、夢を追う心は、昔のままだった。