ヤードラット星から界王神とキビトが戻り、アカッゴの師匠であるハムムとムスターが合流した。その後ろに、見知らぬ銀髪の少年が立っていた。
少年はアカッゴを見つけた瞬間、目を輝かせて駆け寄る。
「アカッゴ様!」
その呼びかけを聞き、アカッゴは困惑した。
自分を様付けで呼ぶ見知らぬ少年。アカッゴは問う。
「あなたは誰ですか?」
少年は胸に手を当て、丁寧すぎるほど丁寧に頭を下げた。
「私は、あなたが生み出された後に生み出された、あなたの補佐役、シツッジでございます!」
ハムムとムスターは苦笑いを浮かべる。
アカッゴは少年の熱量に押されることなく、あっさりと言い放った。
「必要ありません」
シツッジは蒼白となり、慌てて言った。
「そんな!いきなり私の存在意義を全否定しないでください!」
アカッゴは淡々とした声で続ける。
「心配しないで。否定ではありません。私も、サイヤ人を滅ぼすと言う使命を負わされたけど、興味もないし完全に無視しています。だからあなたも使命なんて気にせず、自由に生きて下さい」
だが、少年シツッジは受け止めきれずに震える声で答えた。
「し、しかし…アカッゴ様……」
アカッゴは言った。
「好きに生きて下さい」
その言葉を聞いたシツッジは言った。
「わかりました!では、私は、自分の意思で、あなた様を補佐いたします!」
アカッゴは思わず顔をしかめた。
「え……う…うざい……」
その瞬間、シツッジは声を荒げて言った。
「なりません!!!姫様がその様な言葉づかい!!!」
アカッゴは困惑して師匠の二人に目を向ける。
ハムムとムスターは笑いをこらえている。
アカッゴは、シツッジの暴走気味の忠誠心に、言葉を紡いだ。
「では、姫として命じます」
その一言で、シツッジの瞳が輝いた。
「はい!何なりと!」
アカッゴは淡々と告げた。
「種族愛を持つのを辞めなさい」
シツッジは一瞬、呼吸を忘れた。
その言葉は、彼の価値観の根幹を揺さぶるほど強烈だった。
「は……?……それは、いったい……」
アカッゴは、静かに続けた。
「過度な自尊心を持つことは争いの源です」
シツッジは困惑し、瞳を揺らし、声を震わせて言った。
「そ…それは……いかに姫様のお言葉とは言え……難しく……」
彼にとって、種族愛は、生まれた瞬間から胸に刻まれた絶対の価値だった。
ツフル文明の誇り、復興の使命、姫への忠誠、そのすべてが一本の柱として彼を支えていた。
だがアカッゴは、揺れる彼を見ても表情を変えずに続けた。
「憎めと言っているのではない。完全に誇りを捨てよと言っているのでもない。過度な奢りを捨てよ。宇宙は画一ではない」
シツッジは唇を震わせながら、反論した。
「…しかし…それは…姫様に忠誠を誓う事とは矛盾しないのでは……」
アカッゴは言った。
「何故、初対面の私に忠誠を誓えるのです?まずは、偏見無く、自分の目で世界を見て、学んだ上で判断してください」
シツッジは、アカッゴの言葉をすぐには飲み込めなかった。
「アカッゴ様は、どうすれば私の言葉を受け入れてくださるのでしょうか…」
そんな中、トランクスがぽつりと呟いた。
「アカッゴさんは、強い戦士を尊敬するって言ってましたね」
アカッゴは、余計なことを言うなと嫌そうな顔をトランクスへ向ける。
そして、シツッジの瞳に希望の光が宿った。
「では……私が、模擬戦でアカッゴ様に勝つことができれば……」
アカッゴはため息を吐き答えた。
「あなたの言葉も耳にはいるかもしれませんね」
シツッジは胸に手を当て、頭を下げて言った。
「では……アカッゴ様に拳を向けるなど恐れ多いことではありますが……立ち合いを、お願いしてもよろしいでしょうか……?」
アカッゴは、しかたなく頷き、シツッジは高揚して言った。
「後から生み出された私の方が、当然有利なはずです。勝たせていただきます!」
その宣言は力強かった。
開始の合図と同時に、シツッジは全力で踏み込んだ。
マシンミュータントとしての身体能力。補佐役として組み込まれた戦闘アルゴリズム。
すべてを総動員した。
だが、試合はアカッゴの圧勝だった。
シツッジは立ち上がろうとするが、膝が震えて言うことを聞かない。
シツッジは地面に膝をついたまま、震える声で呟いた。
「な、なぜ……?これほどまでに大きな力の差が……?」
後から生み出された自分の方が強いはずという前提が、完全に崩れ去った。
アカッゴはそんな彼を見下ろし、淡々と告げた。
「私は、修行を続けてきた。実戦も経験してきた。経験値がまるで違う……」
その言葉は、シツッジにも理解できた。だが続いた一言は、シツッジの心に深く刺さった。
「けど……それ以前に、あなた……どんくさい……」
シツッジは目を見開き、声を裏返らせた。
「えっ!?」
アカッゴは、さらに追い打ちをかける。
「私は、本格的に修行を始める前でも、もっと動けた。あなた……多分……センスがない……」
それに対して、ウイスが頷いた。
「確かに……選手候補にはなりそうにないですねぇ…」
シツッジの胸に、致命的な一撃として突き刺さる。
「がーん……」
銀髪の少年はその場に崩れ落ち、地面に手をつく。
ツフル文明の誇りも、補佐役としての自信も、すべて粉々に砕け散った。
シツッジは地面に手をついたまま、肩を震わせていた。
そして絶望して認めた。
「わ……わかりました……失礼しました……無能は去ります……」
その背中は、まるで世界から色が消えたように寂しかった。ツフル文明の誇りも、補佐役としての自信も、すべて砕け散った少年の背中。
アカッゴはその様子を見て、思わず声をかけていた。
「まって……あなた……料理はできるの?」
シツッジは力なく振り返る。
「え?は、はい……補佐役として、家事全般はマスターしてます……」
アカッゴは告げた。
「それなら、ビルス様に気に入っていただけるかもしれない」
ウイスも頷きながら言った。
「そうですねぇ。試しに、後で何か一品作っていただきましょうか」
シツッジの顔に希望が戻り、震える声で答えた。
「……はい……!全力で……作らせていただきます……!」
戦士としての才能はなくても、補佐役としての価値はまだある。
そして、アカッゴが自分を完全に見捨てていないことが、何よりも彼の心を支えていた。
そしてアカッゴは言った。
「確かに、私の強靭な肉体は、ツフル文明がもたらした賜物。私はそれを傍受している。結局、人は、生まれ持って与えられた物に、大きく依存している」
アカッゴは続ける。
「そして、私は今、ここに居られる事が嬉しい。なぜなら、ここでは私の力など特別ではないから。驕らずに、精進し続ける事ができる。そもそも、ツフル文明が何故滅んだのかをよく顧みることです」
アカッゴにとっては、自分を崇拝する者などに付きまとわれたくないという想いから出た言葉だった。
だが、端から見ている者達には、逆効果に見えて苦笑が広がった。