外界とは異なる時間の流れを持つ異空間。
力の大会まで残された僅かな時間で、可能な限り戦力を引き上げるために修行場として選ばれた空域。
その空域へ、界王神とキビトと共に、ヤジロベー、そして悟飯の提案で、デンデも選手候補の一人として招集され同行していた。
ヤジロベーが辺りを見回し言葉を発する。
「なんだここ……」
目の前には広大な空間が広がっている。
空気はある。
重力も地球とほとんど変わらない。
だが、ひどく殺風景だった。
ただ、地平線まで黒い地面と黒い空が広がっている。光源はあるらしく、暗闇ではない。
ヤジロベーは露骨に嫌そうな顔をした。
「想像以上につまんなそうな場所だな…」
デンデも感想を述べる。
「まるで、黒い精神と時の部屋の様ですね…」
その時、遠くの方から激しい爆発音が響く。
地面が揺れ、空気が震える。
衝撃波が届く。普通の人間なら、それだけで致命傷になりかねない。
ヤジロベーは気を感じとり言う。
「修行が始まってる見てえだな…化け物がゴロゴロ居やがる…オレなんて、完全にお呼びじゃねえだろ…コレ…」
デンデも震え続ける。
「私も…到底お役に立てるとは…」
だが、界王神は言った。
「気の大きさだけが全てではないですからね。そこは、ウイスさんに判断してもらいましょう」
界王神の働きは決して鈍重ではなかった、むしろ迅速であった。
だが、悟飯たちが最初にこの地に訪れてから、既に地球時間にして、二十日ほどが過ぎていた。
ビルスはまだ昼寝をしており、各々がトレーニングを続けている。
それと並行して、ネバたち魔術師によって環境作りが行われていく。ただの黒い空間が色づいていく。
ドクター・アリンスが愚痴をこぼす。
「なんで私がこんな事を…」
この、ただ黒い地面と空がどこまでも続く空域に、人が長期間生活できる環境が整備されつつあった。
その建設作業の中心にいたのが、魔界から召集されたネバ、マーバ、そしてドクター・アリンスである。
ネバが大量の建材を魔法で生成している。アリンスと違い、どこか楽し気に。
さらにマーバも淡々と居住区の結界やインフラなどを構築する。
忙しく労働させられるアリンスがぶつぶつと文句を言っている。
その時、背後から豪快な笑い声が響いた。
「はっはっはっ!」
アリンスの肩が跳ね上がる。
振り返ると、そこにはダーブラが立っていた。
「まぁそう言うな!我らが滅ぶことなく魔界に帰還出来た暁には、私から直々に褒美を与えよう!」
アリンスは、愚痴を大魔王に聞かれていた事に慌てて姿勢を正す。
「だ、大魔王様!は、あ、ありがたき幸せにございます!」
声が裏返る。
ダーブラは笑って言った。
「うむ!頼んだぞ!」
そんな光景の少し離れた場所で忙しなく働き続ける者達が居た。
トニュー無調戦隊の五人、そしてシツッジ。
彼らは極めて真面目に働いた。
黙々と資材を運び、組み立てる。
シツッジも手際良く働いていた。
必要な資材を確認し、不足分を連絡し、結界発生装置を設置して行く。
静寂が支配するだけだった空間に。魔法によって作られた各々の宿舎。
神龍の力で供給される膨大な食料を保管する巨大貯蔵庫。必要と思われる施設が建設されて行く。
色づいて行く空間を見て、ネコマジンがぽつりと呟いた。
「これってある意味環境破壊だよな」
近くにいた16号が振り返り考える。
「……なるほど」
そして真面目に答える。
「確かに、その捉え方は妥当だ」
クリーザが続ける。
「しかし今は、残念ながらこの空間の自然保護をしている余裕はありませんよ」
クリーザは建設の進む居住区を見渡しながら言った。
「私たちが勝たなければ、どの道、この空間ごと消し去られてしまうのですから」
ネコマジンが答える。
「でも、この自然破壊を、全王とかいう奴が許容しなかったら終わりなんだろ?」
それを聞いて老界王神が顔を青くする。
「怖いことを言いよるな…だが、確信を突いとる…」
クリーザは冷静に言った。
「念のため、環境改変は必要最小限に留めておいた方が良さそうですね」
老界王神は頷く。
「うむ…そうだな…。過ぎたるは猶及ばざるが如しだわい…」
この空間での営みが動き始めていた。
まだ目覚めぬビルスは、その騒がしい変化を知らず、静かな寝息を立てていた。