ダークネスウォリアー孫悟飯   作:晴歩

6 / 35
夜明け

 西の都に移住して半年。

ビーデルの生活はようやく落ち着いてきた。

 

診療所の仕事にも慣れ、街の人々とも顔見知りが増えた。

夜に眠るとき、ようやく明日を想像できるようになった。

 

だが、胸の奥にあるあの空白だけは、まだ埋まっていない。

 

人造人間を倒した戦士。

その青年に、まだ会えていない。

本当に実在するのか…

 

生活の落ち着いてきた今、ビーデルは決心した。

 

「…カプセルコーポレーションに行ってみよう」

 

街の復興の中心。

技術者、作業員、物資、情報、すべてが集まる場所。

噂の戦士が関わっているという話も、何度か耳にした。

 

広い敷地に近づくにつれ、ビーデルは圧倒された。

 

半壊した建物の周囲には、新しい鉄骨が組まれ、クレーンが動き、作業員たちがせわしなく行き交っている。

 

「すごい…」

 

瓦礫の街の中で、ここだけが異様なほど活気に満ちていた。

 

手足のついたボールの様な青いロボットが、まるで生き物のようにせわしなく動き回っている。

 

それをその内部で操縦するのは、ピラフ。

 

瓦礫をつかみ、運び、積み上げ、時には器用に溶接までこなしている。

 

「おい、そっちはまだだ! 先に鉄骨を運べ!」

 

そしてそのボール型の機体より、大型の人型の二機、ピラフの部下、マイとシュウが操縦している。

 

「ピラフ様、なんだか私たち充実してますね」と、マイ。

 

そして、シュウが続ける。

 

「めっちゃ疲れるけど、夜気持ちよく眠れるんだよなあ」

 

人型重機が動き続ける。

 

だが、さらにビーデルの目を奪うものがあった。

 

一人の男が巨大な鉄板の前に立っていた。

 

作業員たちが距離を取り、見守っている。

 

男は、腰に差した刀を静かに抜いた。

 

ビーデルは思わず息を呑む。

 

「え…刀で? まさか……」

 

次の瞬間。

 

音もなく、分厚い鉄板が、まるで紙のように、スパッと切断された。

 

「…嘘」

 

切断面は驚くほど滑らかで、まるでレーザー加工でもしたかのようだった。

 

作業員が感嘆の声を上げる。

 

「さすがだな、ヤジロベーさん!」

 

「これで補強材が作れる!」

 

その男、ヤジロベーは、刀を鞘に戻して言った。

 

「オレは腹減ったから飯にするぞ」

 

ここには、噂話が現実として目の前にある。

 

ビーデルの胸が高鳴る。

 

この世界のどこかに、本当に、噂の戦士がいる。

 

その期待が膨らんだ。

 

 

 仮設テントに近づくと、若い女性スタッフが笑顔で声をかけてきた。

 

「こんにちは。お仕事の相談ですか?」

 

ビーデルは少し緊張しながら答える。

 

「えっと……この街に、人造人間を倒した戦士がいるって噂、それを知りたくて…」

 

スタッフは小さく笑った。

 

「時々いらっしゃいますよ。みなさんの噂のまとです」

 

「…本当に、いるんですか!?」

 

「ええ。いらっしゃった時は、復興作業を手伝ってくださいますよ」

 

ビーデルの心臓が跳ねた。

 

「どんな人なんですか?」

 

スタッフは少し考え、言葉を選ぶように答えた。

 

「…静かな人、ですね。派手でもないし、偉そうにもしない。

一見普通のような、でも、深みがあるような、そんな雰囲気の青年ですかね」

 

スタッフの言葉に、ビーデルの胸が熱くなる。

 

「……会ってみたい」

 

思わず漏れたその言葉は、半年間ずっと胸に溜めていた願いそのものだった。

 

 

 ふいに、上空から風が降りてきた。

 

ビーデルは反射的に顔を上げる。

 

「え…?」

 

青空の中に、人。

少年が、空を飛んでいる。

 

「……嘘、本当に?」

 

少年は軽やかに着地した。

 

紫の髪。

背中には剣。

 

作業員たちが声を上げる。

 

「おーい、トランクス! 例の部品、持ってきてくれたのか!」

 

「助かるぜ、あんたが飛んでくれると早いんだよ!」

 

トランクスは微笑み、肩に抱えていた金属パーツを軽々と降ろした。

 

ビーデルは、胸がざわつく。

この人が、噂の戦士?

 

ビーデルは思わず一歩踏み出していた。

 

半年間探し続けた答えが、今まさに目の前にいるかもしれない。

 

「す、すみません!」

 

作業員たちの間をすり抜け、ビーデルはトランクスに駆け寄った。

 

トランクスは、驚いたように振り返る。

 

「はい? どうかしましたか?」

 

息を整えながら、ビーデルは言葉を絞り出す。

 

「あなた……今、空を飛んでましたよね?」

 

周囲の作業員がクスクス笑う。

 

「お嬢ちゃん、驚くだろ? でもこいつ、いつもああなんだよ」

 

「舞空術って言うんだとよ。慣れりゃ普通に見えるぜ」

 

トランクスは少し照れたように笑った。

 

「ええ、まあ」

 

ビーデルは、胸の奥の疑問を抑えきれなかった。

 

「あなたが……もしかして……人造人間を倒した戦士、なんですか…?」

 

その瞬間、トランクスの表情がわずかに揺れて、微笑んで言った。

 

「僕じゃありませんよ」

 

静かに、しかしはっきりと答える。

 

「僕は、その人の弟子です」

 

「弟子……じゃあ……その戦士は、本当に……?」

 

トランクスはゆっくり頷いた。

 

「今この街にはいないですけど」

 

ビーデルは思わず聞き返す。

 

「いない? どうしてですか?」

 

トランクスは空に目を向け言った。

 

「悟飯さんは、ここには、僕たちがいるから安心だって言って、今は別の町々を回って復興の手伝いをしてるんです」

 

初めて噂の戦士の名を知り、ビーデルの胸が強く脈打つ。

 

「悟飯さん…」

 

「…また、戻ってくるんですよね?」

 

「もちろんです。悟飯さんは、必ず戻ってきますよ」

 

その言葉は、ビーデルの胸に深く刺さった。

 

半年間想い続けた噂が、ついに、姿を持ち始めた。

 

 

 トランクスと話してから、ビーデルは毎日のようにカプセルコーポレーションへ通った。

 

仕事が終われば向かい、休日には朝から顔を出し、復興作業の手伝いを申し出ることもあった。

 

スタッフたちも、次第にビーデルを見かけると笑顔で挨拶するようになった。

 

「今日も来たのね、ビーデルさん!」

「手伝い、 助かるよ!」

 

ブルマにも、すっかり顔を覚えられた。

 

そんな日々が、1ヶ月半。

 

悟飯は戻らない。

だが、ビーデルは諦めなかった。

 

いつか必ず会える。そう信じて。

 

 

 その日は突然訪れた。

 

その日のカプセルコーポレーション周辺は、いつもと同じように活気があった。

 

ビーデルは医療班のテントで包帯を整理していた。

 

ざわついていた作業員たちが、ふと動きを止める。

 

トランクスが空を見上げ、表情を明るくした。

 

「悟飯さんだ!」

 

その言葉が、ビーデルの胸を貫いた。

 

ビーデルも空を見上げる。

 

高い空の向こうから、一つの影がゆっくりと降りてくる。

 

派手な気配はない。強者の威圧感もない。

 

ただ、穏やかで、静かな気配まとった青年。

 

地面に降り立った瞬間、作業員たちが口々に声を上げる。

 

「悟飯さん、おかえり!」

「久しぶりだな!」

 

青年、悟飯は、少し照れたように笑った。

 

「ただいま。みんな、元気そうでよかった」

 

その声は優しく、ビーデルが想像していた戦士とはまるで違っていた。

 

この人が……人造人間を倒した戦士……?

 

胸が熱くなる。

足が震える。

 

半年間追い続けた存在が、今、目の前に立っている。

 

いざ悟飯がこちらに歩いてくると、

ビーデルは完全に固まってしまった。

 

声が出ない。

 

悟飯は、そんなビーデルを見て、少しだけ首をかしげた。

 

「あの…どうかなさいました?」

 

優しい声。威圧感はまったくない。

 

それが逆に、ビーデルの緊張をさらに高めた。

 

(どうしよう……何も言えない……)

 

そのとき。

 

ブルマが、横からスッと悟飯の前に出た。

 

「悟飯くん、この子ね、ビーデルさん。看護師さんで、ここの医療班をずっと手伝ってくれてるのよ」

 

ビーデルは慌てて頭を下げる。

 

「は、はいっ……!あ、あの……いつも……お世話に……!」

 

何を言っているのか自分でも分からない。

 

ブルマは苦笑しながら悟飯に説明を続ける。

 

「それとね、悟飯くん。ビーデルさん、あなたのことをずっと探してたの。」

 

ビーデルは顔が真っ赤になる。

 

「え?僕を?」

 

悟飯は驚き首をかしげる。

 

半年以上追い続けた噂の本人が、今、自分の目の前にいて、しかも不思議そうにこちらを見ている。

 

言葉が出ない。

喉がつまる。

心臓が痛いほど跳ねる。

 

ビーデルは、ぎゅっと拳を握りしめ、震える声を押し出した。

 

「……はい。あなたに……悟飯さんに……会いたかったんです」

 

悟飯は驚いたように瞬きをする。

 

ビーデルは続けた。

 

「私……父を失って、生き延びて……自分だけ生き延びて……生き延びても……希望が見えなくて……」

 

悟飯は、静かな眼差しで黙って聞いている。

 

「人造人間が倒されたって噂を聞いたとき……信じられなかった。

でも、もし本当にそんな人がいるなら……その人は、どんな気持ちで戦ったんだろうって……どうして立ち上がれたんだろうって……」

 

ビーデルの声は震えていたが、その瞳はまっすぐ悟飯を見た。

 

「知りたかったんです。あなたが、どうやって絶望の中で前に進めたのか。どうして、戦えたのか」

 

悟飯は静かに微笑み答えた。

 

「仲間がいたから……父や、師から学んだことがあったから、だから……戦えました。僕が、一人で倒したわけじゃないですよ」

 

その言葉は、ビーデルの胸に深く染み込んだ。

 

噂の戦士は、まるで、想像しなかったほど優しく、そして、弱さを知っている人だと感じた。

 

そして強い。

 

ついに会えた。

 

ビーデルの世界が、静かに変わり始めた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。