ダークネスウォリアー孫悟飯   作:晴歩

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エゴ

エイジ787年 

 

カプセルコーポレーションの庭。

修理中の小型ポッドの横で、ブルマはタブレットを操作しながら悟飯をちらりと見る。

「悟飯くん、あなたとビーデルさんも、もう三十歳でしょ?そろそろじゃないの?」

 

悟飯は工具を持ったまま、ぽかんとした顔で振り返る。

 

「え? そろそろって?」

 

ブルマは、ため息をつく。

 

「ああ! もう! そういうところ、ほんっと孫くんにそっくりね!」

 

悟飯は困惑。

 

「ええ?……すみません……なんのことだかさっぱりで……」

 

ブルマは、タブレットを放り出し、悟飯の方へ振り向いて怒鳴る。

「結婚よ! 結婚!もう単刀直入に言うわ! さっさと結婚しなさい!

 すぐしなさい!今日しなさい!」

 

「ええ!?そんな無茶な!」

 

悟飯は、目をぱちぱちさせる。

 

「こうでも言わないと一生しないでしょ、君!ビーデルさんをいつまで待たせるつもりなの!」

 

悟飯は、うつむく。

 

「…そ、そっか……そうですね……ビーデルさんと、相談してみます……」

 

「ちっがーーーーうっ!!!!」

 

ブルマの怒号。

 

「ええ!?」

 

悟飯困惑。

 

「相談じゃない!プロポーズでしょ!プロポーズ!!!」

 

悟飯はハッとする。

 

「な、なるほど…そうですよね…」

 

ブルマは、腕を組んで言う。

「そうよ。まったく……いくら世界を救っても、恋人を泣かしてたら何にもならないんだからね!」

 

「は、はい… 肝に銘じます…」

 

悟飯は苦笑し、どこか決意を固めたように深呼吸した。

 

 

 悟飯とビーデルが結婚してから一年。

ささやかな記念パーティーが開かれていた。

 

ヤジロベーが振舞われた料理にがっついている。

 

それを見たブルマ。

 

「あんた、すっかり元の体形に戻ったわね」

 

「いいじゃねえか、復興が順調な証拠だ」

 

「まあ、それは確かにね」

 

そして、ヤジロベーは、再び勢いよく料理に手を付ける。

 

だが、その手が途中でピタリと止まった。

 

「ちょっと、喉でも詰まらせたの?

まったく、落ち着いて食べなさいよ。ほら、水!」

 

ブルマがコップを差し出すが、ヤジロベーは受け取らない。

目は遠く、何かを、聴いているようだった。

「……そうじゃねえ。」

 

悟飯も気づく。

 

「はい……遠くの街で……人々の気が消えていっている……」

 

食卓のざわめきが止まる。

 

「えっ!? ちょ、ちょっと待って……!」

 

トランクスは慌てて目を閉じ、気を集中させる。

 

「ほ、ほんとだ……!何十人も……一気に……!」

 

ビーデルは不安げに悟飯の腕を掴む。

 

「大地震……? それとも事故……?」

 

悟飯は首を振る。その目は、ただならぬ緊張で細められていた。

 

「いや……そうじゃなさそうだ。これは……」

 

「その中心に……何かがいる。異質な気が……徘徊している……」

 

悟飯はゆっくりと席を離れ、空を見上げる。

遠くの街、そこから感じられる消えていく気の波が、胸の奥を冷たく撫でた。

 

そして悟飯は言った。

 

「…僕、行ってきます…」

 

トランクスが立ち上がる。

 

「悟飯さん! オレも!」

 

悟飯は、首を横に振った。

 

「トランクス。今、何が起きているのか分からない……だから、ここを空けるわけにはいかない。君は、ここを守ってくれ」

 

トランクスは唇を噛む。

 

「は、はい…」

 

その横で、ヤジロベーが珍しく真剣な顔をしていた。

 

「悟飯……気ぃつけろよ」

 

悟飯は小さくうなずく。

 

ビーデルが悟飯の腕を掴む。

その手は震えていた。

 

「悟飯くん……危険よ。あなた一人じゃ……」

 

悟飯はその手を包み込むように握り返した。

「大丈夫。必ず戻ってくる。僕には、帰る場所ができたから」

 

ビーデルの目が潤む。

しかし彼女は、戦士の妻として、悟飯の決意を受け止めた。

 

「……信じてる」

 

悟飯は深く息を吸い込み、気を高める。

「行ってきます。」

 

気が弾け、悟飯の姿は空へと消えた。

 

 

 復興が進んだ街路に、悟飯はゆっくりと降り立った。

足元には奇妙に衣服が散乱している。まるで内部だけ溶かされたような…

 

悟飯は拳を握りしめる。

「…これはいったい……」

 

その瞬間、背後から低い声が響いた。

「お前は、孫悟飯か…」

 

悟飯の背筋が凍る。

振り返ると、それが歩み出てきた。

 

人型ではあるが、皮膚はまるで甲虫の様で、体表には斑点模様が走っている。目は光り、口元は、人間のものとは違う、冷たい笑み。

「……僕の名前を……どうして……?」

 

それは、誇らしげに言った。

 

「私は多くのデータを持っている。お前の戦闘記録、細胞情報、戦歴……すべてだ」

 

悟飯の眉が険しくなる。

 

「何者だ…?なぜ人々を殺した…!」

 

それは、一歩前に出て、まるで挨拶でもするように名乗った。

「隠す意味もないので答えてやろう。私は、セル。

 ドクター・ゲロの残したコンピューターが、長い年月をかけて完成させた人造人間だ。」

 

悟飯の目が大きく見開かれる。

「人造人間……だと……!?」

 

セルは倒れた人々を見下ろし、愉悦に満ちた声で続けた。

 

「人々には、私の食事となってもらった。、私の成長に必要なのでね」

 

悟飯はセルをまっすぐ見据え、深く息を吸った。

 

「そうか…」

「……お前が、そのように設計されて、生み出されてしまったのなら……

 それは、お前の罪じゃない。」

 

セルの赤い瞳が、わずかに揺れた。

予想外の言葉。

 

悟飯は続ける。

声は静かだが、揺らぎがない。

 

「お前は、そう作られた。戦うために、奪うために、成長するために……その目的は、お前が選んだものじゃない。」

 

セルは薄く笑った。

 

「ほう……ならば、どうするつもりだ?」

 

悟飯は答えた。

 

「もしできるなら、殺戮をやめてほしい。おとなしく暮らしてくれるなら、それでいい」

 

セルの瞳が冷たく光る。

 

「無駄だ。」

 

「私は、完全体を目指している。エネルギーを奪い、成長し、完成するために存在する。それが私の生きるということだ。」

 

悟飯は拳を握りしめる。怒りではなく、深い悲しみを湛えた拳。

 

「……そうか…」

 

セルは笑う。

 

「お前も知っているはずだ、孫悟飯。本能には逆らえない。

 サイヤ人が戦いを求めるように…私は、完全体を求める。」

 

悟飯の気が静かに、しかし深く沈んでいく。そして呟く。

「…すまない」

 

それを聞いたセルは言った。

 

「謝ることはない。お前のエネルギーは、私の最高の食事となるだろう」

 

悟飯はセルを見据えたまま、ゆっくりと息を吐く。

その瞳には怒りはない。ただ、深い哀しみと、揺るぎない決意だけが宿っていた。

 

悟飯は、静かに落ち着いた声で言った。

 

「これは……僕のエゴだ、すまないな…」

 

セルは、笑った。

「エゴか。面白いな、孫悟飯。一体何を謝っている?」

 

セルの体表が光り、異質な気が渦を巻く。

 

悟飯の気は深く沈み、影のように濃く、静かに揺らめく。

 

セルが構えを取った瞬間だった。

 

セルの赤い瞳が見開かれる。

 

「な……に……!? 動け……ない……!」

 

悟飯は一歩も動いていない。

 

セルの身体が、悟飯の気に縛られたまま、ぎしぎしと音を立てて宙に浮かぶ。

 

セルは必死に抵抗しようとするが、指一本動かせない。

「ば……馬鹿な……!こんな、これ程の力が……!?」

 

悟飯が気を込めると、セルの身体は弾かれたように上空へと放り投げられた。

 

「はぁっ!」

 

気功波が悟飯の全身から上空へ飛ぶ。

それが空の彼方でセルを貫いた。

 

そして、セルという存在が消えた。

 

あっけなく脅威は去った。

 

しかし、悟飯の胸の奥には、言いようのない重さが残っていた。

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