エイジ790年の地球は、平和で穏やかだった。
悟飯とトランクスは、修行のため、山へ向かって飛んでいた。
風を切りながら、二人は並んで飛ぶ。
トランクスが話しかける。
「悟飯さん、パンちゃんには武術教えるんですか?」
悟飯が笑う。
「気が早いな。パンはまだ0才だよ」
悟飯の声は軽いが、その奥には、父親になった実感が静かに宿っている。
トランクスも笑いながら。
「あはは。でも、悟飯さんの娘だから、きっとめっちゃ強くなりますよ」
まっすぐな尊敬がそのまま言葉になっている。
悟飯は、視線を前に向け、静かな声で言う。
「親は、子供に自分の理想を押し付けてはいけないけど……
でも、同時に思うんだ。親は、自分の知っていることを子供に伝えなきゃいけないって…」
「…僕も、父さんから、もっと多くを学んでおけば良かったって、ずっと強く想ってきたから…」
悟飯の声は穏やかだが、それは、深い悲しみの経験からくる決意が含まれていた。
悟飯の横顔を見ながら、トランクスは、あの荒廃した景色を思い出す。
トランクスは静かに言う。
「悟飯さんが父親なら……パンちゃん、絶対に幸せになりますよ」
悟飯は、少し照れ、柔らかく微笑む。
「そうだといいな」
二人は、山の奥へと飛んで行った。
二人が山に降り立つと、空気は澄み、鳥の声が遠くに響いていた。
二人は、それぞれの修行のために、自然と別方向へ歩き出す。
トランクスは開けた岩場へ向かい、腰の刀を抜く。
ヤジロベーに習い、東の都で鍛えてもらった、ソード型ではない、反りの入った業物の刀だった。
ヤジロベーに指摘された、力に頼らない剣術を、今もなお磨き続けている。
悟飯の纏う静かな気も、トランクスの剣に影響を与えている。
悟飯は川のそばに座り、深く呼吸を整える。風が頬を撫で、川のせせらぎが耳に届く。澄んだ川の底に、細長い影がゆらりと動いた。
「あれは…」
かつて学者を目指していた頃、趣味で生態調査をしていた悟飯にはすぐに分かった。
絶滅危惧種の淡水ウナギ。
ほとんど見られなくなってたはずの生き物が、今は川のあちこちで姿を見せるようになっている。
悟飯は呟く。
「皮肉だな……」
人造人間による破壊、人類の激減によって、自然は驚くほどの速度で回復している。
森は広がり、川は澄み、絶滅危惧種が戻りつつある。
悟飯は思う。
「これは……トランクスには言えないな……」
人類が滅びかけたことで自然が蘇った、という事実は、トランクスにはあまりにも残酷すぎる。
悟飯は静かに目を閉じる。
悟飯は川の音を聞きながら、心の中で二つの思いを抱えていた。
人造人間の殺戮は決して許容できない。
だが、事実、自然は回復し、人類に滅ぼされかけた生物が復活している。
この事実をどう扱えばいいのか、悟飯自身にもまだ答えはない。
ただ、娘のパンには、この世界の美しさも、過ちも、すべて伝えたい。
悟飯は空を見上げ、深く息を吸った。
悟飯が川辺で静かに自然を観察していたその瞬間、異質な気が突如出現した。
悟飯は即座に周囲を警戒する。背筋が震える。
「なんだ……?急に現れた……。一体どこから……?」
接近の気配がまったくなかった。
木々の間から、ゆっくりと二人の人物が姿を現す。
一人は、紫の肌に白い髪、神官のような衣装。もう一人は、赤い肌に、屈強な体つき。
悟飯は慎重に声をかける。
「あなたがたは……異星の方ですか?邪悪な者ではないと、お見受けしますが……」
二人のうち、赤い肌の男が一歩前に出て、低く言う。
「その通りだ。こちらにおられる方は界王神様。私は付き人のキビトだ」
悟飯は、油断せず静かに問う。
「界王神様……?…僕のような者に、何のご用でしょうか?」
界王神は穏やかな微笑を浮かべ、悟飯をまっすぐ見つめる。
トランクスは、剣を振っていた手を止め、異質な気に気づいた瞬間、悟飯のもとへ飛んだ。
岩場から飛び出し、悟飯のそばに着地したトランクスは、目の前に立つ二人を見て息を呑む。
「こ、この人たちは一体……!?」
紫の肌の小柄な人物と、赤い肌の屈強な男。
悟飯は落ち着いた声で答える。
「界王神様と、その付き人の方だよ」
トランクス、理解が追いつかない。
「カイオウシン様?なんですかそれ?」
そんなトランクスの混乱を見て、キビトは胸を張り、まるで自分の出番だと言わんばかりに前へ出る。
「ふふん……無理もない。お前のような下界の若者が、界王神様を知らぬのは当然だ」
トランクスは困惑する。
「は、はあ……?」
キビトは、誇らしげに語り始める。
「よいか、若者。この宇宙には階層というものがある」
「惑星の神。その上に、銀河を統べる、北・南・東・西の四界王。そしてそれらを統べる大界王」
キビトは胸を張りながら続ける。
「そして、そのさらに上に立つ存在。それが、界王神様なのだ!!!」
トランクスは意味が分からない。
「え…そんな人が、なんで地球に……?」
界王神は静かに微笑む
「驚かせてしまいましたね、トランクスさん」
「オレの名前を?」
キビトは得意げに言う。
「界王神様は、その程度の事お見通しだ」
界王神は、下界の者を見下す様子もなく、丁寧に言った。
「驚かせてしまい、申し訳ありません、あなた方にお会いできて光栄です」
トランクスは混乱する。
「えっ、なんで、そんな偉い神様が…?」
界王神は微笑む。
「あなた達は、未来を担う戦士。敬意を払うのは当然のことです」
界王神は語り始める。
「孫悟飯さん。トランクスさん。あなた達にお伝えしたいことがあります。この地球に封印された脅威について…」
悟飯の表情がわずかに揺れる。
トランクスはまだ混乱しているが、空気がただ事ではないことだけは理解できた。
界王神は、悟飯とトランクスをまっすぐ見つめ、穏やかな声で、しかし隠しきれない緊迫が混じっていた。
「突然の訪問をお許しください。しかし……時間がないのです…」
悟飯の表情が強張る。
「いったい何が…」
界王神は続ける。
「かつて宇宙中を震撼させた怪物、魔人ブウ…!その魔人が、この地球に封印されているのです。そして今、その復活を目論む魔術師バビディが……すでに地球に来ています…!」
界王神は、表情を歪めて言った。
「阻止しなければ、宇宙は未曾有の被害を被るでしょう…!」
「お二人には、魔人ブウ復活阻止の手助けをお願いしたいのです!」
界王神様の表情が厳しくなる。
「すぐにでも、今から動かなければなりません。バビディの手下が、すでに地球での活動を始めています。」
トランクスは驚く。
「急すぎる…」
悟飯は、静かに覚悟を固める。
「界王神様…案内してください」
「感謝します!」
こうして四人は、バビディの元へと向かった。