荒れ果てた岩山の奥深く。
光の届かない洞窟の最奥に、不気味な巨大な玉が脈動していた。
その中心で、バビディは杖を突きながら、笑みを浮かべていた。
その巨大な玉、魔人の卵。その表面が、脈打っている。
バビディの下僕、ダーブラが報告する。
「バビディ様……どうやら、地球では新生児が多く誕生しているようです」
バビディの目がぎらりと光る。
「ほぉ……それは良い知らせだ。赤子のエナジーは純粋で強い……この前は断念したが、今回は上手くいきそうだ」
ダーブラがうなずく。
「はい。大人よりも効率が良い。我々にとって追い風となりましょう」
バビディは魔人の卵に手をかざし、脈動を確かめる。
「ふふ……感じるぞ……魔人の鼓動が」
ダーブラは、笑みを浮かべる。
「今回は魔人を復活させられそうですな」
バビディは杖を振り、言った。
「さぁ、エナジーを集めるぞ。この星の生命は、すべて魔人の糧となる!」
ダーブラは、遠くの空から近づいてくる複数の気配を捉える。
「……来ましたな」
バビディが振り向く。
「界王神か?」
「ええ、界王神と……その付き人。それに、大きな力を持った何者か二人…」
バビディが聞く。
「もう二人…? 誰だ?」
ダーブラはしばらく黙り、悟飯の気をじっと探る。
その表情に、珍しく戸惑いが浮かんだ。
「こやつ…」
バビディが苛立ったように杖を鳴らす。
「はっきり言え、ダーブラ!」
ダーブラは低く呟いた。
「まるで、魔界の魔術士のようなオーラをまとっている……」
バビディの目がぎょろりと見開かれる。
「魔界の、魔術士だと?地上にそんな奴がいるのか?」
ダーブラは答える。
「魔界の者ではない…しかし、あの気の質は…近い。深く沈んだ闇のようでありながら、制御され、乱れがない」
バビディは不快そうに顔をしかめる。
「界王神め、おかしな奴を連れてきたな!」
ダーブラは悟飯の気をさらに探る。そこには、憎悪も狂気もない。
ただ、静かな決意と、底の見えない影の力。
「油断できぬ相手です。…ただ者ではない…」
バビディは舌打ちし、魔人の卵を一瞥した。
「ちっ……面倒な駒を連れてきおって。だが、構わん。そのエナジー、魔人復活に利用してやろう」
ダーブラは、理解してうなずく。
「では……このダーブラが、直々に参りましょう」
荒野を抜け、バビディへと近づく界王神一行。
一行は気を抑え岩山を歩く。界王神が突然足を止める。
「……まさか……!」
トランクスが驚いて振り返る。
「界王神様? どうしたんですか?」
界王神は、気配を察知し、額に汗を浮かべ、震える声で言った。
「バビディが……ダーブラを従えている……!」
「ダーブラ……?」
キビトが険しい表情で説明する。
「魔界の王……魔界全軍を統べる絶対者…!」
界王神は唇を噛みしめ、信じられないというように首を振った。
悟飯は純粋に驚いた。
「魔界…そんな物語のような世界が本当にあるんだ…」
界王神は悟飯を見つめ、深くうなずいた。
「魔界の王の強さは圧倒的です…!あのフリーザさえ、遥かにしのぐ程の…!それが…バビディの手先になっている……!」
トランクスが息を呑む。
界王神は震える声で続けた。
「バビディは……魔人復活のためなら、どんな手でも使う。だが……まさか魔界の王まで支配しているとは……!」
悟飯は、静かに言った。
「つまり、魔人ブウの復活を阻止するには、まずダーブラを倒さなければならない、ということですね」
界王神は悟飯を見つめ、その瞳に希望を宿した。
「あなたしかいないのです、孫悟飯さん。ダーブラに対抗できるのは……あなたの、あの気、だけ」
悟飯はうなずき、拳を握る。
「わかりました。世界を、破壊はさせません…」
界王神は深く息を吸い、言った。
「どうか、油断なさらずに…」
トランクスは聞いた。
「それほどの存在を従わせるバビディというのは、更に強いんですか?」
界王神は答えた。
「バビディの魔術は、心の闇に付け込む。どれほど強大な者であろうと……心に隙があれば、支配されてしまう」
悟飯が問う。
「つまり、ダーブラは自分の意思じゃなく、バビディに操られているということですか」
界王神はうなずく。
「はい、だが、操られていようと、その力は本物。魔界の王を倒さねば、魔人ブウの復活は止められない」
会話の途中、悟飯の表情が一変する。
「来る! 気づかれてる!!」
言い終えるより早く、黒い影が目の前に現れた。
ダーブラの奇襲。
ダーブラが口を開き、赤黒い液体を吐き出した。
「まずは一人……」
飛沫がキビトの顔と胸にかかった。
「っ!?」
次の瞬間、キビトの身体が石に変わった。
音もなく、ただその場に固まる。
トランクスは目を見開く。
「うそだろ……石に……!?」
界王神が叫ぶ。
「悟飯さん、トランクスさん!奴のツバに気をつけて!!触れれば石化します!!」
ダーブラは、悟飯を見据えて言う。
「さあ、試させてもらうぞ、影をまとう者よ」
悟飯は深く息を吸い、静かに構えを取る。
キビトが石化した衝撃がまだ残る中、ダーブラは、悟飯を値踏みするように見つめていた。
悟飯が一歩前に出ようとしたその瞬間、トランクスが悟飯を制して言った。
「悟飯さん……オレにやらせてください」
トランクスは刀の柄に手をかけ、まっすぐ悟飯を見た。
「悟飯さんは、最後の切り札ですから。ここで無駄に力を使わせるわけにはいきません」
その言葉には、迷いがなかった。戦士としての決意。
悟飯は一瞬だけ迷ったが、トランクスの瞳を見て静かにうなずいた。
「わかった。でも無理はするなよ」
トランクスは微笑み、剣を抜いた。金属音が荒野に響く。
その姿は、趣味を超えて、既に立派な剣士だった。
ダーブラはその様子を見て言う。
「ふむ……剣士か。面白い」
ダーブラは指を鳴らした。
すると、空間から魔剣が形を成した。
「ならば……こちらも剣で相手をしてやろう」
魔剣を構えたダーブラの姿は、まさに魔界の王。
トランクスは剣を構え、深く息を吸った。
ダーブラは不敵に笑う。
「来い。魔界の王の剣が、貴様の力量を測ってやる」
二人の剣士が向かい合い、荒野の空気が一瞬で張り詰めた。
ダーブラは、トランクスの刀を見て、興味深そうに目を細めた。
「良い剣だ。良い気を宿しているな」
荒野に響く金属音。
トランクスとダーブラの剣がぶつかるたび、火花が散り、地面が震えた。互角だった。
ダーブラは魔界の王らしく、剣筋は重く鋭く、剣を振るたびに、刃から魔力の残滓が飛び散り、空気が歪む。
「ほう……ここまで渡り合うとはな。ただの地上の剣士ではないようだ」
トランクスは息を整え、刀を構え直す。
ダーブラの魔剣が振り下ろされる。トランクスは紙一重で受け止め、火花が散る。
ダーブラは剣を押し込みながら、口元に不敵な笑みを浮かべた。
「だが……剣だけでは勝てんぞ。」
その瞬間、ダーブラの魔術の炎が広がる。
トランクスが叫ぶ。
「くっ……!」
トランクスは即座に魔術をかわす。だが、ダーブラはすでに次の一手を放っていた。
魔剣から放たれる斬撃波。
「終わりだ!」
トランクスは空中で歯を食いしばり、気を爆発させた。
「はあああああっ!!」
黄金の光が弾け、髪が逆立つ。超サイヤ人の力が刀に宿り、刃が黄金に輝いた。
トランクスは刀を振り抜き、魔界の斬撃波を真っ二つに切り裂く。
「なに……!?」
トランクスはそのまま急降下し、ダーブラに斬りかかる。
ダーブラは魔剣で受け止めるが、押される。魔界の王が、後退した。
悟飯はその光景を見て驚く。
「すごい、トランクス、ここまで剣士としての気の扱いを体得していたのか」
界王神も驚愕する。
「魔界の王と互角に…!?なんという戦士…!」
ダーブラは剣を押し返しながら、低く唸った。
「認めよう。貴様は強い。だが」
魔力がダーブラの全身にまとわりつき、剣がさらに禍々しく輝く。
「ここからが本番だ、若き剣士よ。」
トランクスは刀を構え直し、黄金の気をさらに高める。
「俺は負けない!!」
激しい攻防が続く。
荒野に、二人の剣がぶつかる音と衝撃波が響き渡る。
界王神は驚きの声をあげている。
「魔界の王を……追い詰めてる……!?」
トランクスは息を荒げながらも、刀を構え直す。
「いける……!」
ダーブラは後退しながら言う。
「馬鹿な、この私が押されているだと……!?」
だが、すぐに表情を変える。それは、計算の表情。
「……いや、このくらいでいいだろう」
トランクスは怪訝に問う。
「どういう意味だ!?」
ダーブラは一気に後退し、距離を取った。
界王神が青ざめる。
「ま、まさか…!二人の戦闘エネルギーが……吸われている!!」
悟飯も気づき、顔色を変える。
「これが魔術…」
ダーブラは言った。
「そういうことだ。この戦いは、すべて魔人復活の糧となった」
トランクスは歯を食いしばる。
「なんてことだ……利用されていたのか……!」
「魔人の復活は……もうすぐだ。せいぜい足掻くがいい、地上の戦士たちよ」
ダーブラは背を向け、洞窟の奥へと進んだ。