ブルーアーカイブ*エコーズ   作:DGKⅡ

1 / 7
Pro Rogue

 

 

『…契約成立です。』

 

暗い視界の中で、その声は良く響いた。

 

『私の選択、そしてそれによって招かれる全ての状況。その結果がどこにたどり着くのか、私にも分かりません。』

 

ただ、事実のみを突きつける言葉が、胸の内に食い込むように残る。

 

『それでも、私は同じ状況で、同じ選択をするでしょう。』

 

その言葉に澱みも迷いもない。

 

『ですから、証明してください。』

 

強い意志と責任感、そして

 

『あなたが信じられる大人であると、それを選択した私のために』

 

 

 

 

 

ほんのわずかな――――寂しさを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『どうか、よろしくお願いします

 

 

 

――――ス」

 

別の声が重なる。

 

 

「ボス…」

 

昔からよく聞いた声だ。

 

 

「ボス!」

 

その声は少しずつ大きくなり――――

 

 

「ボスゥ!!!」

「うるさい」

 

――――耳元で聞こえると同時に右拳を上げた。

 

拳は耳元に居た誰かに当たり、轟音とともにその誰かが上空へ吹き飛んだのを感じた。耳に残る痛みに不快感を覚えながら、上半身を起こす。東の空から、朝日が微かに顔を出し、海猫の鳴き声と静かな波の音が部屋に届いた。

 

(……夢か)

 

先ほど見た光景を思い出す。

 

一週間前。現連邦生徒会長と、ある契約の更新をした時の夢だった。内容は歴代生徒会長と結んだものと変わらない、持ちつ持たれつの関係を約束するもの。やや引っ掛かりを覚える条件はあったものの、何の問題もなく終わった話だ。

 

(……『自分、及び自身の権利を譲渡された者の依頼を、無償かつ最優先で受けること』……か。)

 

個人としても、組織としても、それなりに痛い条件ではある。とは言え、現段階でそれなりに好き勝手している状態を引き続き黙認してくれるのであれば、このぐらいの条件は付けられて当然ではあるだろう。予防線として、依頼は代理人不可で直接されたもののみ受け付けることと、権利を譲渡される対象を一名に絞り、権利の譲渡の有効性も一度のみと規定している。

 

不幸が重なって辞任に追い込まれた先代の後釜に代行と言う形で座り、そのままの流れで史上最年少の連邦生徒会長となった彼女。現段階でも『超人』と呼ばれる片鱗を、遺憾無く見せつける人物が何故このような条件を提示したのか。それが分からないと言う点を無視すれば、敢えて思い返す必要もない内容だった。

 

「〜〜〜!!!〜〜〜〜〜!!!!!!」

 

無視と言えば、と視線を上げる。

 

丁度、照明のすぐ横に位置するように、褐色の艶めかしい二本足のオブジェがバタバタと室内に微風を送っている。ただ、残念なことに短パンであるため中は見えない。スカートが合う人物ではないので、特別残念に思うことでもないが。

 

それはそれとして、何時までも暴れられるのは鬱陶しい。そう思うのと両足を掴んで引っ張るのとはほぼ同時だった。

 

「〜〜!?!@!✩✩:*②◇!?」

一体何処から出しているのか、人類には解読不能な音声とともに、オブジェの上半分が姿を現す。

 

右側頭部に小さく、複雑に枝分かれした角。左側頭部には大きな湾曲した角という、アンバランスな容姿。頭上に浮かぶヘイローは、複数の爬虫類が絡み合ったような、鱗付きのものと言う奇異な見た目。かと思えば、翼はゲヘナでは一般的なコウモリのようなものが背中に生えている。何より、彼女の違和感を加速させるのは、それらに不似合いなほどに美しい紫の瞳と、雲を思わせるような長い銀髪、ツリ目ながらも多くの人を惹きつける美貌を持ち合わせていることだ。

 

黯瘰(くらい)マユ

 

裏社会で未だに語り継がれる『16の災難』を起こした張本人であり、当時の連邦生徒会をして『絶対悪』と恐れられ、忌み嫌われた、キヴォトス史上最悪のテロリストだ。

 

「……おはよう。」

「おはようじゃねぇよこのボケ!!!今何時だと思ってんだ!!?」

 

そんな過去も遠い昔。今では目の前の男に(物理的にも精神的にも)振り回される毎日だ。

 

「朝五時。早朝だな。」

「ちげぇだろ!!」

 

実にマイペースな機械人に向けて、愛銃である『Daēva(S&W M500)』を額に押し付ける。

 

「『明日、0300時にヘリポートに来い。』って言ったのはテメェじゃねぇか!!!何ヘリの前で2時間も待たせてんだ!!!」

 

正当な怒りが機械人を襲う。誰だって約束時間を過ぎられたら怒る。仕事の予約時間を完全に無視して大幅に遅れたあげく時間厳守で仕事しろなどと言われた日には殺意すら覚えるだろう。

 

「………自分を知れ。お前が時間を守った数と守らなかった数。どちらが多かったと思う。」

「ぐぅ!?」

 

幸いだったのは、相手も同類であったこと。しかも、これは仕事ではなく個人的な用事に類するものであったこと。おまけに、この約束そのものが昨日急に同行させろと強要した上に認めなければ勝手に先行したうえで、『探し物』を破壊すると宣言されたことによる非常に不本意な形で履行されたものであることから、情状酌量の余地が皆無ではないことだ。

 

「で、でも、それはお前が守らなくていい理由にはならねぇ!!そうだろ!!」

 

とは言え、相手の時間を奪ったのは事実。悪いのがこっち側であるのは明白だ。

 

「そうだな。そこを突かれると弱い。」

 

機械人、意外にも素直に非を認める。マユ、これには少し驚きつつも満足そうに笑む。

 

「だから、遅れを取り戻すとしよう。」

 

あ、これヤベーパターンだ。

 

真顔から繰り出されるその一言から発せられた危険信号は、次の無線越しに行われるやり取りで確信に至る。

 

『フロメ。例の新型を頼む。』

『……寝起きで挨拶もなしで頼むのがそれかい?相変わらず狂気(クール)だねぇ。』

 

照漓(しょうり)フロメ

 

研究狂いが集うミレニアムに於いてでさえ『狂人』の渾名で呼ばれた研究狂い。全知に近い才能を持ち、ミレニアムに多大な功績を残した。同時に週間研究室崩壊、月間校舎半壊というミレニアムの予算を大きく上回る損害を出した結果飛び級で卒業したと言う形で退学、校舎出禁にされた経歴を持つ。

 

また、倫理観が大きく欠如しており、死ななければ大概どうにか出来るのを理由に人種、年齢、所属問わずに数多くの人物にトラウマを植え付けた点も記述する。

 

「行くぞ、マユ。」

「オイ、コラ、引っ張んじゃねぇ!!」

反転逃走を決行しようとするマユの機先を制し、彼女の襟首を掴んで機械人は部屋を出る。金属質な通路を通る途中、何人かとすれ違うが、皆彼の手元を見ると何もなかったかのように早足で通り過ぎていった。

 

それを繰り返すことしばし、二人は基地の一角にあるヘリポートにたどり着く。生半可な抵抗は無意味と悟ったマユは、大人しく機械人の横に立っていた。

 

「意外と速かったねぇ。」

そんな二人を見て、その狂人は今から行われる試運転に興奮した様子で声を掛ける。

 

土気色のショートボブ、水色の瞳、研究職とは思えない2m超えの恵体、それを誤魔化すような申し訳程度の丸眼鏡と白衣。ヘイローは火を象ったような複数の直角が絡まったような紋様を描き、時折揺らめくように線が蠢いている。それは、狂気的と言える彼女の精神性を表しているようだ。

 

「行き先は?」

「アビドス。」

「着地希望地点は?」

「アビドス砂漠北のカイザー基地。」

 

ニヤリと口元に笑みが浮かぶ。玩具を買いに出かける親に、子供が期待の眼差しを向けるそれに近い。

 

「先方への連絡は?」

「5分で着くから玄関を開けろと言った。」

最高(クレイジー)だ。」

 

満足のいく返事に、右手に持っていた端末を操作することで答える。

 

彼女の横の床が開き、円筒状の物体が姿を現す。それは、キヴォトスでも普段生活する分ではあまり縁がなく、それこそ各自治都市の治安部隊ぐらいしか保有していないあるものに非常に酷似していた。如何にも最後には汚ねぇ花火を咲かせる形状をしているそれには、申し訳程度に付けられたギリギリコックピットと判別出来るガラス玉が埋め込まれおり、『あなた達にはこれに乗って貰います』と声なき声で主張している。

 

「……なぁ、ボス。これで行くのか?」

「ああ。」

「これどう見てもコックピットポン付けのミサイルだけど?」

「ミサイルだ。」

「ああ、そう………」

 

 

 

 

 

会話終了からこの文字が浮かぶまでの所要時間、0.1秒。

 

「すまん、俺ちょっと用事思い出した。」

「キャンセルだ。」

 

悪いなマユ。このコックピットは一人用なんだ。でもお前小さいから大丈夫だよな。と二人一緒に積み込まれる。

 

拒否権?ここに法は存在しない。よって彼女は逃げられない。

 

シートベルト?安全装置?最低限命の保証ができる作りにはしたよ。

 

怪我の心配?大丈夫でしょ、キヴォトス人だもの。

 

「いや、確かに俺も行きたいって言ったよ!!?アイツらもう一遍締めておきたいって言ったよ!!?!?だからってコレは幾らなんでも「フロメ。」「発射ぁ✩」

 

ポチッとボタンの音がする

 

音を置いてミサイルがゆく

 

「ちょ、まっあああああああぁぁぁぁ……………」

 

一人の女性の悲鳴と共に、早朝の空に流星が煌めく。

 

 

 

 

一方、『連絡(宣戦布告)』を受けたカイザー基地は、臨戦態勢に入っていた。ご丁寧なそれに蜂の巣を突いた騒ぎになったが、そこは一流の民間軍事企業。五分もあれば充分。何時何が来ても迎撃する用意を整えていた。戦車、装甲車、ゴリアテ、ヘリと過剰とも言える戦力が展開され、並大抵の相手では一瞬で片がつく状況だ。

 

刻一刻と時間が過ぎる。

 

4分経過。異常なし。

 

4分10秒。異常なし。

 

4分20秒。レーダーに高速飛翔体探知。距離50km。

 

4分28秒。距離40km。対空ミサイル用意。

 

4分36秒。距離30km。レーダーロック。

 

4分38秒。ミサイル発射。

 

4分39秒。飛翔体急加速。

 

4分40秒。飛翔体ミサイル回避。

 

4分41秒。対空砲火。

 

42、接近

 

43、接近

 

44、弾着、正面ゲート破損

 

45、α損害

 

46、β損害

 

47、第一倉庫爆破

 

48、第二倉庫誘爆

 

49、第三倉庫火災

 

4分50秒。距離100M。

 

 

ターゲット2名ーーーー確認。

 

 

「ジャスト、5分。」

 

コンコンと原型をなくしたゲートがノックされる。それだけで、阿鼻叫喚となっていた現場は静寂に包まれた。

 

「警告したはずだ。玄関を開けろと。」

 

指揮官と思わしき機械人が悲鳴にも似た声で指示を出す。被害が比較的軽微だった部隊から隊列を整え、彼等に銃口を向ける。

 

「随分と頑丈な玄関だ。これの修理費用は、お前らの給料全部合わせても足りなさそうだな。」

 

一斉に向けられた殺意を無視するかのように、黒い機械人は一人語り続ける。

 

「だが、安心しろ。」

 

『撃て』と指揮官が命令を下す。その場にある全ての火器がたった2人に集中する。

 

「すぐに気にならなくなる。」

 

鼓膜が破れるかと思えるほどの銃撃音。時折混じるロケット弾や迫撃砲の爆発。時間にしてみれば30秒程。巻き上げられた砂と煙で2人の姿が隠される。それでも、居るであろう場所に絶え間なく弾幕が浴びせられる。

 

この程度で終わる相手ではないと、全員が分かっている。

 

 

「さぁ、終わりの残響(エコー)を響かせようか。」

 

その言葉と共に、紫の弾幕が前衛を薙ぎ払った。

 

 

 

これは、とある傭兵の話

 

無くしたモノを探すため、傭兵になった男の話

 

エコー(残響)』だけを頼りに生きる

 

愚かで優しい大人の話

 

 





エコー

キヴォトス暗黒時代に現れた傭兵
本名不詳、その経歴の多くも謎に包まれている
『黒い残響』の渾名の通り、全身が黒に染まった機械人である。

彼の伝説には枚挙に暇がなく、代表的なものを挙げれば
当時全盛とも言われたカイザーPMCの軍団を
僅か数十名で壊滅させ、企業そのものを一時機能不全にした等がある

現在は傭兵組織、アウターヘイヴンのリーダーを務めており
カイザーPMCと市場を争っている


見た目のイメージとしてはカイザー特殊部隊員を多少スマートにして顔の所が表情出せるようになってるイメージです。

感想、評価お待ちしてます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。