ブルーアーカイブ*エコーズ   作:DGKⅡ

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砂塵のユメ

 

「残存兵力0。基地機能40%喪失。所要時間30分か……思ったより掛かった。」

 

死屍累々と言う言葉が当てはまる残骸の山で、今回の成果を口にする。たった2人でこれだけのことを成したと言うのに、エコーは不満そうな態度を隠そうともしない。

 

「随分と調子が悪かったな。やはり早起きは辛かったか?」

「どこをどう考えたらそうなッ!」

 

マユの口から出た綺麗な虹が、砂漠のシミと消える。戦闘中はアドレナリンとストレスが混じり合った、所謂ハイ状態になっていた為に耐えれたそれが一気に来た。

 

安全装置、安定装置、その他諸々の搭乗機能を一切排除した乗り物と呼ぶのも烏滸がましい。正しくミサイルと呼ばれるそれに全身をシェイクされれば、むしろ気持ち悪くなるだけで済んで御の字といった所ではある。ちなみにエコーは特別製の機械人なので一瞬視界が歪んだだけで済んだ。

 

「全く、情けない。18年前のお前なら、あの程度のもので乗り物酔いなどしなかっただろうに……」

「ミサイルは爆弾の一種だって知ってたかこのスカタン……!!」

 

当然知っている。何故なら使う側だから。

 

それはそれとして移動手段として使えるなら使うというだけの話だ。

 

「戦果は充分だ。連中も暫くは大人しくなるだろう。速く撤収するぞ。」

 

 

その後二人は、スクラップヤードと化した基地内で奇跡的に稼働していた旧式のハンビーを駆り、広大なアビドス砂漠を疾走していた。どこまでも続く砂の景色に、延々と照りつける熱波。所々に見える砂に埋もれた廃虚群が、かつての隆盛を物語っている。もっとも、二人ともそんなモノに思いを馳せるほどの情緒はなく、どちらも市街地への到着時間を数えるだけの作業を、何もない景色を見ながら行なっていた。

 

 

「っで?」

 

一言、マユが疑問文を投げかける。

 

「疑問を投げかけるときは中身を言え。」

「もう18年の付き合いだろ?多少は分かれよ。」

 

呆れ気味な言葉に、逆に呆れ気味に返す。

 

18年

 

エコーがマユと出会い、彼女が仲間となってからそれほどの月日が経っていた。当時、学生でテロリストであった彼女も(見た目は兎も角)妙齢の女性と言っていい年であり、それだけ長い間共にいれば、最小限のコミュニケーションでもある程度の意思疎通は出来るようになる。

 

「……ハズレだ。あそこに、アレはなかった。」

「……そうかよ。」

 

この会話も、飽き果てるほど繰り返した。僅かでも可能性があれば即出動、潰した組織の数も100から先は覚えていない。それだけの事を成し、伝説と呼ばれるようになった今でも、無くしたモノの影すら踏めずにいる。

 

「探し続けて18年。分かっちゃいたけど、見つからないもんだ。」

 

 

そのような状態であっても、絶望はしていない。何故なら、見つからない可能性が高いモノであるからだ。

 

 

「何処にあるんだろうな。アンタの『体』。」

「………」

答えのない答えに、元人間の機械人は遠い過去を思い出す。

 

 

 

 

 

 

エコーはキヴォトス(ブルーアーカイブ)住人(存在)ではない。元は何処にでもいるただの人間だった。普通に仕事をし、普通の生活を送る。ただそれを繰り返すだけの人生を送り、そして終わる。それだけの平凡な人間のはずだった。

 

それがいつの間にかキヴォトスで目を覚ました。体と名前を失った状態で

 

当然、初めは混乱した。何処にでもある二次創作のような展開に自分がなってしまうなど微塵も思うわけがない。だが、事実としてそうなっていた。機械人になったせいか、その事を受け入れるのにそう時は掛からなかった。

 

その後の行動は速かった。情報を集め、自分がやっていたゲームの世界に居る事を知り、だが明らかに本編時空ではなく、過去或いは別の世界線に来たことを理解した。(現段階では、連邦生徒会長に会ったことにより過去に飛ばされたことがほぼ確定している。)

 

次にどうやって生き抜くかであったが、経歴も証明も何もない彼には真っ当な手段は選べなかった。幸いと言うべきか、その時代のキヴォトスは諸々の事情により裏の人間がかなり幅を効かせていた時代であり、彼のような者は珍しくなく真っ当ではない者達が生きやすい時代であった。さらに幸運なことに、彼のこの世界で手に入れた体は、現代基準で考えてもオーバースペックと呼べるほど頑丈であり、純粋に破壊が不可能で命の心配をしなくて良かったため、キヴォトス基準で見ても無理が効いた。そのため、傭兵として名を挙げるのに然程時間は掛からず、真っ当でないなりに早期に安定した立場と収入を得られた。

 

普通であれば、それで良かった。安定した生活、恐怖を知らぬ体。本来なら不満を覚える必要はない。だが、彼はそれを良しとしなかった。

 

自分の本当の体

 

何故かは分からないが、彼はそれを探さなければならない焦燥感に駆られていた。本当にこの世界にあるのか、そもそも見つけてどうするのか。何度疑問を覚えても、謎の確信と焦燥感が彼を突き動かしていた。今では協力者も増え、捜査の範囲も広がり効率は良くなったので、初めの二年よりはずっとマシではある。

 

だが、見つからない。20年も同じ事を繰り返せば、焦燥も達観の域に達するものである。それでいてあると言う確信だけはずっと残っているので、本当にどうしようもない。見つかるまで繰り返すしかないというのが、彼等の共通認識だった。

 

 

 

 

 

「まぁ、ハズレって言っても結構良いもんなんだろ?」

見つからなかったモノの話を何時までも引き摺る性分でもないため、話は今回の戦利品に移る。

 

今回の襲撃は、カイザーが『特異なパーツを手に入れた』と言う情報を餌に、エコーを罠に掛けて始末しようとしたのが発端だった。当然、一枚岩ではないカイザーの中で、独断で行動する木っ端幹部の情報を抜き出すのは朝飯前であり、逆に襲撃を仕掛けて分からせたと言うのが顛末だ。

 

「……フロメの良い土産にはなるな。」

荷台に詰め込んだ特異なパーツ、ではなくパッと見普通の機械人のパーツを見る。探しているのは生身の肉体なので、何処をどう見ても違うと分かるそれだが、軽く調べたところ以外としっかり作った物でかなり良い性能をしている。解析できれば、自身の外付けパーツの強化に使えるのは間違いない。

 

「我らが『黒の残響(ブラック・エコー)』がまた一段強くなるのか。カイザーの奴等には同情するねぇ。」

「所詮は悪徳企業。そんなものは不要だ。」

心にも無い言葉に、軽く笑いながら答える。カイザー、もといカイザーPMCとは、同じ業種であることから裏でも表でも競合することが多い。ダメージを与えた分こちらの実入りが多くなるので、むしろこうした自滅行為は大歓迎である。

 

「……ん?」

そうした他愛のない話をすることしばし。遠方から来る砂の壁を二人は目撃することになる。そう、砂漠ではよく起こるイベントである。

 

「おいおい、砂嵐だぜ。勘弁してくれよ。」

「言ってる暇があるなら、マザーベースに位置情報を送れ。最悪に備えるぞ。」

迫る砂嵐にそのまま突撃するのは自殺行為。なので、運良く見つけた車1台入れそうな廃墟に入り、嵐が過ぎるのを待つことにした。

 

「ひでぇなこりゃ。ちょっと先も見えやしねぇ。」

 

嵐と言うより壁、と形容するのが相応しい。そんな言葉が浮かぶ砂嵐の中、二人は時間潰しに銃の手入れをしていた。砂漠の基地を一つ潰すのに今更労力は掛からないが、弾薬は減るし砂も入る。何時でも使えるように常に万全の状態にするのは、この世界で長生きする秘訣だ。

 

エコーは今回雑魚散らしのために持ってきた改良した量産型(M16A1)を、マユは愛銃であるDaēvaと同じく愛銃であるAži Dahā(小型軽量版M197機関砲)を整備していた。

 

「マザーベースから返答は?」

「一時間だとよ。ったく、これがあるから強く言えねぇんだよなぁ。」

 

そう言ってトントンと叩くのは、フロメ特性伸縮自在何処でも通信板東(バンド)(ご丁寧に板東とデカデカと刻まれている)。本体が故障するかジャミングをされない限りは、理論上地下空間から山の天辺まで何時でも何処でも通信が繋がる代物だ。欠点としては、本人が興味を無くしたという理由で数点しかないこととデータを圧迫するからと言う理由で資料を破棄してしまって量産不可になったことである。当時のセミナーは激怒哀哭し、今でも装置の解析を続けていると言う。

 

ちなみに、今から一月後にとある超天才(略)美少女と下水道女の二名によって別々の観点から完全解析され、セミナーは欣喜雀躍することになる。

 

「真っ当にやれば良い仕事するのに、何で偶にはっちゃけるかね。」

「それが狂人が狂人たる所以だろう。」

 

コクピット付きミサイルを作ったと思えば、何処でも通信可能な装備品等の有用なものも作る。それが、アウターヘイヴン技術部門のトップである。振り回される方は溜まったものではない。

 

武器を整備する。取り留めのない会話をする。時々、外の様子に目を向ける。ただそれを繰り返す。

 

(人?)

 

それを見つけたのは偶然だった。一瞬だけ砂嵐が弱まった時、それが止む前兆なのか否か目を凝らして見ていた。その時に映ったのだ。

 

砂嵐の中、誰かが彷徨う姿を

 

「おい、どうしたよ。突然止まって。」

「……人が居た。」

「ハァ?見間違いじゃねぇか?こんな場所に人なんて居るわきゃねぇだろ。」

 

マユの言う通りだ。ここから人の居る市街地まで大分距離がある。こんな所まで歩いて来ることはまずない。そもそも、周囲に廃墟があるのにこんな砂嵐の中を彷徨う命知らずなど普通はいない。

 

「……すぐ戻る。待ってろ。」

「あっ、オイ!」

 

マユが止める間もなく、エコーは外に出る。

 

横から砂の塊が殴りつけてくる。視界の殆どが遮られ、少し歩いただけで先ほどまでいた廃墟は見えなくなった。

 

(居る。)

視界不良の中、存在を主張するように輝く太陽を象ったヘイロー。まだ、人間だった頃に見た記憶のあるそれを頼りに追いかける。

 

どれほど追いかけたか。装備に付けられた時計を見れば、あまり経過してはいなかったが、体感としてはもっと長く感じていた。幸運なのは、先ほどよりは砂嵐が収まってきており、追いかけるペースが上がって来たことだ。おかげで、相手の容姿がハッキリと見えるようになった。

 

(アビドスの制服……緑髪……)

 

この世界で起きる出来事、この世界に存在する人々

 

20年経った今でも、鮮明に思い出せる。

 

だから、目の前に居るその少女が誰であるかも、すぐに理解できた。

 

(間違いない。)「梔子ユメだな?」

 

少女が振り返る。

 

登る朝日を想起させる、金色の瞳

 

緑がかったロングヘアー

 

記憶と寸分違わない、梔子ユメが確かにそこにいた。

 

『あなたは?』

「自己紹介は後だ。ここは危ない。」

色々と思うところはあるが、現在二人は砂嵐の中。悠長にしていられる状況ではない。思ったよりは移動していなかったのか、遠方だが微かに先ほどまでいた廃墟が見えている。

 

「早く一緒に―――」

 

移動を促そうと言葉を続けた時

 

ユメの背後の地面が爆ぜた

 

反射的に盾になるように前に出て武器を構える。

 

(カイザーの残党か?いや、周辺に奴らがいないことは事前に調べはついてる。なら……)

 

エコーの疑問の答えを示すように、砂嵐がまた一段収まった。爆ぜた地面に何かがあるのを視認し、廃墟の残骸かと視線を上げる。

 

そして、目が合った

 

「……このタイミングでくるかフツー?」

『久しぶりだな。終焉を識る不壊の罪人。』

 

 

聳え立つは白亜の塔

 

浮かび上がるは巨大なヘイロー

 

音にならない聖なる十の言葉

 

其の第三の預言者

 

 

 

 

違いを痛感する静観の理解者(BINAH)

 

 

 

 

 

 

(さっきの戦闘での消耗が激しい。交戦はなるべく避けたいが……)

そんな甘い考えは通じない。そう答えるように咆哮を上げると、ビナーは明確な敵意をエコー達に向ける。

 

「―――まぁ、そうなるか。」『今日こそ答えを貰おう。』

 

理解、選択、決行

 

手元にあった最後の手榴弾をビナーの目に当たる部分目掛けて投合する。機能を限界まで引き上げて投げられたそれは、ビナーに向かって高速で直進し、狙い通りの場所で接触、爆発した。恐らく最も脆いであろう部分の攻撃は有効であったようで、ビナーは悲鳴のような咆哮を上げるとその巨体を大きく仰け反らせた。

 

(今のまま逃げてもマユのところまで付いてくるだろう。迎えが来ることを想定しても、最低でも完全に撒く必要がある。)

稼いだ僅かな時間で計画を練る。ビナーは呻きながらも視線はこちらに向いており、背後を見せようものならすぐに追いつかれるのが目に見えている。

 

(一人なら兎も角。コイツも一緒となると………)

そう、一人なら手段は幾つも思い浮かぶ。だが、今回は実質的に護衛対象がいる状態。そして、その対象の様子はと言うと……

 

『ひぃん!なになに!?』

 

これである。知ってたよ。

 

絶望的な状況なのにこの安定感は一周回って安心できる。

 

「梔子ユメ!!」

『は、はい!』

取り敢えず気付けに一喝入れる。反応は直ぐに返ってきた。

 

「おまえは身を守ることだけ考えろ!!コイツは俺がヤる!!」

 

 

 

Nárthēx

 

activating combat mode

 

 

 

 

ビナーに向けて駆ける。それを迎撃するために、ビナーはその巨体で突進を繰り出す。幾ら不壊の肉体とは言え、装備まではそうはいかず、一撃でも貰えば戦闘継続不可能になる。砂嵐を巻き上げながら迫る巨体。それを前にして、エコーは加速を選択する。元から短かった接敵時間が更に短くなり、瞬く間に目前にビナーの頭部が迫る。

 

残り数センチ。そのタイミングで、側面に滑り込むように回避する。同時にブースターを吹かし、大きく跳躍。先ほど手榴弾を命中させた目の周辺に捕まる。ビナーが驚いたように目を見開くと、幸いとばかりにライフルを押し当て引き金を引く。

 

(やはり火力不足か。)

手応えのない感触。ガラスによく似た質感だが、尋常な強度ではないらしく、ひびどころかかすり傷一つ付く様子がない。それでも、正しく目としての機能を果たしているのか、ビナーの咆哮がこの行為が有効打であることを伝える。構わず撃ち続けると、それを嫌がるように体を滑り振り落とそうとしてきた。一旦撃つのを止めてしがみつく。明確な殺意を持ったビナーの目と目が合う。

 

(機械なのに感情があるんだな。)

『君も今は機械だろう。何故否定する?』

ビナーが一際大きい咆哮と共に、大きく頭を振り上げる。流石にこれには耐えられず、空高く打ち上げられた。砂嵐はいつの間にか晴れており、憎らしいほどの綺麗な青空と、燦々と輝く太陽が視界いっぱいに広がる。

 

(ヘリはあそこか)

『君には資格がある。受け入れるのだ。』

丁度一時間経とうとしているのに気付き視界を巡らせれば、遠方に見慣れたヘリが見えた。おそらくこちらの状況は見えているのだろう、全速力で向かっているようだ。

 

(あまりやりたくないが……時間がない、か。)

視線を下に向ける。丁度、ビナーが背中を丸めてVLSの発射体勢に入っていた。

 

ヘリがなければ、砂漠から出られない。ビナーが顕在だとヘリが落とされかねない。ビナーを撃退するには火力が足りない。

 

ならばどうするか?

 

「それはウチの規格に合わない。」

『耳を塞ごうとも、君の今は変わらない。』

ブースター、フル展開。出力、オーバーロード。

 

本来飛行用でないそれを、爆発ギリギリの出力で作動させる。自由落下とブースタの合わせ技による急降下攻撃の先は、大きく開いた発射口。その正中線。

『それがわかるからこそ、この声を聞くのだろう?』

「キャンセルだ。」

 

直撃、そして爆発

 

巻き込まれないために、瞬時にブースタを逆噴射させ爆風の勢いも利用して離脱する。宙を舞いながら、次々と誘爆を起こすビナーの背中を見る。まさか自身の武装をこんな力技で利用されるとは思わなかったであろう。敵意と殺意で染まっていた視線が完全に自分を見失い、何が起きているのか理解できずに混乱しているのが見て取れた。

 

(流石に、駆動系の一部がイカれるか。)

 

相手に与えたダメージは上々。だが、自身の装備が受けたダメージも馬鹿にできない。もうブースタを吹かすことは出来ず、重力に従って落ちていく。丁度その真下には盾をビナーに向けて構えた梔子の姿があり、このままでは直撃コースまっしぐらである。

 

「避けろ梔子!!」『ひぃん!』

上から迫る影に気付き、次いで掛けられた警告に、間一髪の所で回避に成功する。口の中に砂が入ったのか、ペッペと可愛らしく舌を出していた。

 

「今のうちに行くぞ!!」

『は、はい!』

 

倒れた梔子に手を差し伸べる。梔子はその手をしっかりと掴んだ。

 

『あっ。』

 

そして、いざ起き上がろうとした時、その手がするりと滑り落ちた。

 

 

「何やってんだ!ほら、速く!!」

『ご、ごめんなさ―――』

 

 

ユメが手を伸ばし、エコーが握る。

 

 

 

そして、エコーの手の内を梔子の手が通り抜けた。

 

 

 

 

「『えっ?』」

 

理解できない光景に、二人の声が重なる。

 

砂を巻き上げ、風が吹き上がる。エコーがまた手を伸ばした。梔子は、手を伸ばさず呆然としている。

 

エコーの手が、今度は梔子の肩に触れる。その手は、そこに何もないことを証明するように通り抜けた。

 

「梔子……お前はーーーー」

 

信じられない光景。だが、信じるしかない体験。

 

そのような状況に陥った時、人は時間を忘れる。

 

 

風音だけが、痛いほどに耳に届く。

 

 

数秒か数分か、どれだけ時間が経ったかは分からない。

 

 

重い静寂を破るかのように、機械の咆哮が辺りに響いた。

 

『拒絶をせず、ただ力で抑える。それに何の意味がある?』

「ッ!?」

 

エコーが声の方向に目を向けた時、既にビナーの口内からエネルギーの波が放たれていた。

 

(まずい!)

 

咄嗟に梔子の前に出る。装備は間違いなく消し飛ぶが、そんなことを気にする場合ではない。彼女がどうなっているのか、そんなことは今を乗り越えた後でいくらでも出来る。

俺はもう後悔したくない。

体に走る衝撃に耐えるため、砂地の地面を精一杯踏みしめた。

 

『ダメ!!』

「何やってんだボス!!」

 

体に走る浮遊感。それは、横からやって来た。

 

想定外の方向からのそれに抵抗する間もなく、エコーの体は真横に飛ばされる。その勢いは留まることなく自身を押し出していき、近くの瓦礫に身を隠してようやく止まった。急な展開ではあったものの、何が起きて誰がやったのか。考えずとも分かっている。

 

「随分な挨拶を受けたみてぇだな、ボス。」

 

見慣れた小柄な銀髪。自身を除けば組織内最高戦力の姿がそこにある。瓦礫の影からビナーの様子を伺い、逃げるタイミングを計っていた。

 

「梔子は!?」

「あ?」

「俺と一緒に居た女だよ!」

「そんなやついたか?」

 

すぐに梔子の安否を問うも返ってくるのは疑問文。彼女が身内以外への関心が羽虫同然だったのを思い出し、自身の目で状況を確認する。先ほどまで居たと思われる場所は、その一角だけが猛烈な砂嵐が起きたかのように砂が巻き上げられており、その内を知ることは出来なかった。分かるのは、そこにあるものが悉く焼き尽くされたことだけだ。

 

(幾らヘイロー持ちが頑丈って言っても限度がある。あんなのをモロに喰らったら……)

 

最悪を予想しながら、砂煙の向こうを見つめる。

 

『ひぃん……めがまわるよぅ…』

そんな気の抜けきった言葉が聞こえたのは、自身の後ろからだった。振り返って見ると、自身が盾となって守ろうとした人間が目を回して倒れていた。何故ここにいるのかと驚くも、先ほど横から突き飛ばされる前に微かに背後から衝撃があったのを思い出す。あれが自分を止めようとした梔子のもので、そのすぐ後でマユの突き飛ばしに自分ごと巻き込まれたのであれば今の状況にも説明がつく。

 

「……よかった。無事みたいだな。」

 

何はともあれ、助けられた。彼にとっては、それだけが重要だった。

 

「ハァ?当たり前だろ。まだここに来たばっかだぞ。」

「お前じゃない、アビドス生徒会長だ。」

 

呆れ気味に違うお前じゃないと言う。先の戦闘を合わせてもほぼ無傷のマユと、防御に専念してたとは言え先ほどまでビナーとの戦闘に巻き込まれていた梔子。どちらの無事を確認してるかなど明白だ。幾らなんでも三人しかいないこの状況でこの発言は、梔子のことを無視しすぎている。

 

「……どこだよ?」

 

違和感を感じた。いくら関心がないとは言え、名指しで指定した人物を無視するほど人間嫌いではない。だが、彼女は本当に分からないといった様子だ。

 

「いや、ほらそこに――――」

 

指をさす。そこには確かに、梔子がいる。

 

確かに、彼の目に映っているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………誰もいねぇぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

マユの目を見る。冗談を言っている様子ではなかった。

 

梔子を見る。心配そうにエコーを見ていた。

 

 

 

「……なぁ、大丈夫か?」『大丈夫でしたか?』

 

声が重なる。どちらの声もハッキリと聞こえている。

 

「……大丈夫だ。」

 

その事実のみを受け止めて、ただ一言そう答えた。

 

「なら良い。ってかそうじゃねぇと困る。」

 

瓦礫が吹き飛ばされ、辺りに咆哮が轟く。所々スパークを起こし、主要武装の一つを潰されながら、それでも戦闘意欲を無くさない預言者がそこにいた。

 

「ッチ、見つかった。」『ひぃん!』

 

マユが舌打ち、梔子が情けない声を上げる。

 

『……既に後悔を重ねている身で何を言うのか。』

何故梔子が見えていないか。梔子は今どうなっているのか。

 

『この力さえあれば、それを重ねる必要もなくなる。』

色々と、本当に色々と思うところはあるが

 

『何時まで罪に縛られるつもりだ?』

(今は、目の前のことだ。)

 

エコーの思考は切り替わった。

 

「マユ。時間稼ぎを頼む。」

「……アレをやるんだな。」

「どうせ替えどきではあったんだ。大して問題にはならない。」

 

ブースタ使用不可。それ以外の損傷軽微。アレを使った場合全損確定。だが、新型製作の目途は立っているので壊れても構わない。予算前倒しで作業も前倒しになってフロメの負担が増えるだけの話だ。

 

「ハッ。また鳥カスの財布が軽くなるな。」

「それこそ心配無用だな。彼女の感覚では、少し高価な買い物程度さ。」

 

ビナーの口内にエネルギーが溜まり始める。それを見てマユが駆け出す。数秒後には、ビナーの頭部が大きく跳ねられることだろう。

 

「始めるか」

『Echo System Standby』

 

 

 

『今回は退こう。何れまた、答えを聞かせてもらう。』

 

 

数分後、彼らが居た場所には何も残らず、無数のクレーターと焦げ後だけが、何が起きたかを語っていた。

 





Nárthēx

『狂人』照漓フロメの作品

ただ壊れない体を持っているだけで、基礎スペックは一般的な機械人と変わらないエコーを強化させるためのパワードスーツ。これを装備するだけで、キヴォトス上位層と互角の身体能力を得る。

ただし、馬力と機動力のみを追求した結果搭乗者を保護するためのセーフティ等を完全に排除する結果になり、一般的なキヴォトス人が使用した場合、ミンチよりヒデェ状態になるゲテモノ機となっている。泥棒に人権は存在しない。いつの時代でもそうである。

イメージとしてはAC6のナイトフォールを装甲薄めにして体にフィットする感じにした構造です。

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