ブルーアーカイブ*エコーズ   作:DGKⅡ

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Start my Workday's

 

物語は、一通のメッセージから始まった。差出人は連邦生徒会長。内容は『ある建物』の防衛と『要人』の護衛と案内。そして、依頼が完了次第、その要人に契約の一切を譲渡するというものだ。しかもその要人に関して、『自身が戻るまで必ず守れ』と言う、原作を識っている身からすれば事実上の終身依頼に近しい文言を添えられてしまっている。

 

(流石は『超人』、っと言ったところだな。)

本来なら断る依頼も、契約がある以上受けざるを得ない。しかも、形式的とは言え、ちゃんと依頼完了の時期も決まっている。そもそも、未来で何が起こるか識っているのは自分だけである上に、契約の譲渡の件まで持ち出されてしまっている。断れるわけがない。

 

連邦生徒会長が何処まで識っているかは分からないが、全て計算づくで自分を嵌めたであろうことは容易に想像が出来た。ここまで綺麗に嵌ってしまうと、自身のことながら軽く感動を覚えてしまう。

 

「状況は?」

『大混乱だった。調子に乗ったバカどもをいくつか潰してやっとだ。』

そんなこんなの現在。エコーは、自分が事実上ケツ持ちをしている現在進行系で荒れている地域を、マザーベースのメンバーに禄に説明もせずに押し付ける形で依頼現場に直行していた。後でポケットマネーからマシマシで請求されるのは確定だ。

 

「そうか」

『そっちはどうなんだ?』

 

輸送機から身を乗り出し、眼下の光景を見やる。

 

何時もならばある程度秩序が保たれて(キヴォトス基準で見て)平和で穏やかであるはずD.U.が、これまた現在進行系で銃声と爆音が絶えない状況になっていた。たった一人が消えるだけでここまで荒れるかと、呆れを通り越して笑いが出てくる。

 

「今から、だな。」

『そうか。じゃあ、また後でな。』

「ああ」

 

通信を切る。降下ランプは、とっくに緑だ。

 

「さて――――仕事の時間だ。」

 

右手に迫撃砲、左手には先を見据えたRPG。後は弾薬と幾つかの小火器を詰め込んだコンテナを背負う。そうして、完全武装になった残響が、荒れた地上へ舞い降りる。

 

 

(よし、これで連邦生徒会から請求されずに済むな。)

新型のブースターのテストを兼ねてシャーレの屋上へとピンポイントで着地する。若干焦げ後は着いているが、日で焼けたとでも言えば良いと気にしないことにした。

 

『エコーさん!現場に着きました!今から位置を送ります!』

「ナイスだ。ユメ。」

 

脳内にユメから連絡が送られる。何がしかの繋がりが強くなったのか、最近は電話のように互いにテレパシーのようなものを行えるようになった。おまけに、距離も妨害も全無視の超強力回線だ。それを利用しない手はないと戦術も考案し、今日はそれの実地訓練も兼ねていた。

 

ある筋から手に入れた、目に映らないポインター。ユメでも使える専用のそれが、狙うべき対象を定める。レーダーに識別が送られ、それに合わせて迫撃砲の射角を変える。そして、弾を半装填した所で、連邦生徒会長から送られた、専用の回線を繋げた。

 

「そこの愉快な寄せ集め。巻き添えが嫌なら5秒止まれ。」

 

言うと同時に発射する。その後、宣言通り5秒後に大きな爆発音が響いた。

 

『命中です!要人さん達には当たってません!』

 

ユメから報告が入る。レーダーでは味方が何処にいるか分からないため心配していたが、うまくいったようだ。

 

「こちら通りすがりの残響音。聞こえるか?」

『通りすがりの……?え、ええ、聞こえるわ。』

 

目前で爆発が起こったせいか、謎の自己紹介を送ったせいか、やや困惑気味に通話相手から返答が来た。最初に連絡が着いたのが早瀬ユウカだったのは、ある意味で何かの因果なのだろう。

 

「ある人物からの依頼を受けて、そこの大人の援護をすることになった。現在地は、お前たちの目的地の屋上だ。黒くて分かりやすいからと撃たないでくれよ。」

すぐに感慨を振り切って状況説明をする。こうして話している間にも次々と識別が送られており、要人たちの周りに人が集まり始めているのが確認できた。

 

『なんでそこに…』

「残念ながら黙秘する。それより次のお客さんだ。」

向こうでも確認したのか、すぐに戦闘態勢を取る音が聞こえた。

 

「こっちの装備はさっき見せた通り、高火力広範囲だ。相手が密集しているところには近づくなよ。」

 

目標を定める。迫撃砲を撃つ。たったそれだけの動作で道は拓ける。的確に最も数が多い場所に振り注ぐ砲弾に、暴徒達も堪らずバラけるもそれを見逃す要人一同ではなく、バラけた先から撃たれていった。エコーが愉快な寄せ集めと称した一行は、明確に速度を上げて目的地へと迫っていく。

 

『エコーさん!不良たちが、そっちに向かってます!』

ユメから連絡が入る。レーダーから目を離し、下に目を向ければ確かにスケバン姿の不良たちが集まってきていた。

 

「分かった。そこはもういい。合流してくれ。」

『はい!』

ユメに合流を指示し、すぐに要人たちへ通信をつなげる。

 

「通りすがりから愉快団に連絡。こっちに団体さんがご到着だ。」

集まった不良たちが自分めがけて射撃してくる様子を眺めながら、なんてことないように話す。彼女らの銃の射程距離外なので、弾は一発も届かずイライラしている様子が目に映っている。

 

「今から門前払いを願いに出る。ここからは援護なしで頑張ってくれ。」

『そちらは大丈夫なのですか?』

「そうだな……」

守月スズミからの質問にチラリと不良達と反対方向に目を向けた。裏口に当たる場所。そこに居るのは狐面に着物姿の少女、狐坂ワカモ。エコーが自分を見ていることに気がついたのか、ひらひらと小さく手を振っている。

 

「出来るだけ速く来てくれ。1人では狐一匹ぐらいは通してしまうかもしれん。」

軽く手を挙げそれに応え、冗談めかしてそう言い通信を切る。

 

「さて、接待と洒落込むか。」

 

迫撃砲を置きコンテナからARを取り出し、屋上から飛び降りる。重力に従って真っ直ぐに地面に向かい、今度はブースターを吹かさずそのまま地面にヒビを入れて着地する。所謂、スーパーヒーロー着地である。

 

「ようこそ、クソカス諸君。アポはちゃんと取ってるか?」

それっぽい台詞を言いながら、ゆっくりと立ち上がる。屋上に居たことから、相手の姿を良く認識できていなかった彼女たちは、ようやく自分たちが撃っていた相手が誰なのか気がついた。

 

「黒い、機械人(オートマタ)…!」

黒い残響(ブラックエコー)か!」

「大正解」

 

『黒い機械人には近づくな』『音が聞こえたら、もうオシマイ』

 

裏社会に昔からある警句。黒い残響に纏わる伝説を、裏で知らない者はいない。事実として、その警句を忘れ挑んだ者は、誰一人として残っていないのだ。

 

「諸君にとても残念なお知らせだ。俺は依頼でここを守ってる。」

 

だからこそ、彼のこの言葉は、その場にいる全員への死刑宣告足り得る。伝説が、依頼でここにいる。それの意味するところを理解できない者はいない。

 

「同時に素晴らしい提案をしよう。その青臭ぇケツ捲って巣穴に戻ることだ。無駄な出費をしないで済むぞ。」

 

故に、この言葉は最後通告であり慈悲になる。何もしなければ、何もされない。単純明快にして、最も賢い選択だ。

 

「ふざけんな!!今更引き返せるか!!」

「裏社会の伝説だからって調子に乗んじゃねぇぞ!!」

「そろそろ後進に道を譲ってもらうぜ老害が!!!」

 

もっとも、常に賢い選択が出来る人間ばかりでないのが現実だ。実際、警句を忘れたもの、もとい彼の名声目当ての挑戦者(バカども)は大体こんな手合いばかりだ。

 

「うん。元気で結構。しにたまえ。」

 

なので、いつも通り、淡々と処理することが決定された。適当に一番声が大きかった不良の頭に、ARの弾丸が吸い込まれるように撃ち込まれる。早速一人やられたことで、一瞬動揺が奔るもすぐに彼に銃口が向けられた。

 

「相手は一人だ!!伝説だからって日和んじゃねぇぞ!!!」

「親の声より聞いた口上だ。つぎおまえな。」

 

まぁ、親の声なんてこっち来てから聞いてないけど

 

そう思いながらまた一人、声が大きかった不良が撃ち抜かれる。

 

「やっちまえ!!!」

 

不良達の銃が一斉に火を吹く。汎ゆる弾丸が彼に命中し、硝煙で視界が悪くなる。だが、全て命中していることの証明に、金属音は鳴り続けていた。

 

撃ち続けること数分

 

硝煙の向こうから、一発の弾丸が放たれる。まるで最初の焼き直しのようなそれは、最初と同じように一人の不良の意識を刈り取る。だが、今度は先程と違い、誰も動揺することはなく、自身の銃のトリガーを引き続けた。

 

それから数秒後、また弾丸が一発放たれ、一人の意識を刈り取る。それから、一定間隔で弾丸は一人に一発放たれ、その場にいた不良の人数は半数に減っていた。

 

「クソ!!バケモンかよ!!」

「下がれテメェ等!!」

一向にダメージを負う様子のないエコーに向けて、一斉に手榴弾が投げられる。数にして20は下らない爆発物が彼の足元で起爆し、その姿を黒煙で覆い隠す。

 

「やったか!?」

絶えず煙の向こうから撃たれていた銃弾が止んだ。それを見た不良の口から自然とそんな言葉が出ていた。

 

「狙って言ってないなら天才だな。

――――噛ませ犬の」

 

煙の中から、黒い影が飛び出す。誰もそれに反応できず、最も近くにいた不良の腹に拳が刺さる。不良の体が宙を浮き、続けて回し蹴りが顔面にたたき込まれる。不良は空中で3回転し、地面に落ちる寸前でさらにもう一発蹴りを叩き込まれる。サッカーボールのように飛ばされた不良は、他の不良を何人も巻き込んでようやく止まる。

 

「サービスだ。取っとけ。」

トドメとばかりに顔面に手榴弾を投擲。綺麗に顔面にめり込んだそれを、ARで撃ち抜く。手榴弾はそのまま不良の顔面で周囲を巻き込みつつ爆発した。あんまりにも容赦のない攻め方に他の不良たちは恐怖を通り越してドン引きしていた。

 

『……あ、あのぅ……やり過ぎだと、思うんですけど……』

当然、たった今一部始終を目撃していたユメもドン引きだ。自身の後輩でもここまで徹底はしない。

 

「ああいう手合いはこんぐらいが良いと相場が決まってる。」

それにエコーは平然と返す。全く気にした素振りすらない。そもそも、一々情けなぞ掛けられるなら傭兵なぞやっていない。

 

「それより、増援の数と武装は?」

『えっと、大体50人くらいです。武器はここにいる不良生徒と変わりません。』

「なら、3分と言った所か…了解。」

再び手榴弾の一斉投擲をしようとした不良達。その手の中にある手榴弾全てを撃ち抜き爆発させる。それによって残っていたほとんどが戦闘不能になったが、すぐにおかわりとばかりに増援がやってくる。

 

「ユメ。敵の位置のマーキング頼む。後、異変があったら即連絡だ。」

『分かりました!』

全身に銃撃を浴びながらユメに指示を出し、ユメはそれを受けてすぐに飛び出していく。銃撃戦の只中を何事もないように駆けていく姿は、彼女の後輩を思い起こさせるものがあるが、実態としては単純に弾がすり抜けて命中していないだけなので特別なことはない。すり抜ける事事態が特別であることはこの際無視だ。

 

不良達の中にユメが入る。続けて遮蔽物の向こうに複数の反応が表示され、そこ目掛けて手持ちの手榴弾を惜しみなく放り投げる。カバーリングしているのに、完全に位置を把握した攻撃に不良達は、そのまま爆破されるか驚いて飛び出した。勿論、それを見逃す彼ではなく、狙い撃ちにする。

 

何度もそれを繰り返し、不良達の数を減らす。宣言通り3分で全滅する勢いに寄せ集めに過ぎない彼女たちの士気は、ほぼ崩壊しかかっていた。

 

(逃げ出すまで秒読み。味方も近づいているみたいだし、そろそろ終わり―――)

『エコーさん!戦車です!』

「―――な、わけないよな。」

報告を聞き、直ぐにその場から離れる。次の瞬間、彼が先ほどまで立っていた地面が大きく抉れていた。

 

(三両か……原作より二両多い。)

現れる3台のクルセイダー。戦力的には誤差の範囲だが、原作を識る者としては、異常を感じる光景だった。

 

(俺が関わったせいか。それとも、『何かがあった』から俺を関わらせたのか。)

 

『エコーさん。後を頼みます。』

 

メッセージの最後にあった一文。たった一文であったが、そこには初めて契約を交わした時以上に、切実な感情が籠っていた。

 

(まぁ、いいさ。)

 

だが、そんなものは今の彼には関係ない。

 

彼女は依頼を出し、自分は依頼を受けた。

 

ただ、それだけ。だから――――

 

「―――俺は俺で、ヤるだけだ。」

 

 

Nárthēx

 

activating combat mode

 

 

 

「一つ」

左手に握り続けていたRPGが火を吹く。弾頭はクルセイダーの装甲を貫き大破させる。残り二両のクルセイダーは、直ぐ様十字砲火を浴びせる。一つはそのまま回避し、もう一つは避ければシャーレに直撃するものだったので、戦闘モードの馬力に任せ殴って軌道を逸らす。

 

「二つ」

そのままブースタを吹かし、弾頭を装填しながら接近。機銃を全身に浴びながらも、全く意に介さず至近距離でRPGを撃つ。最初の車両と同じように、二台目も爆破炎上。搭乗員は這々の体で逃げ出す。僅かな時間で二両もやられたことに怖気づいたのか、残ったクルセイダーが後退を初めた。

 

「三つ目はくれてやる。」

 

カンッ、と軽い音が鳴った。エコーは、次弾を装填するのを止める。

 

「BULLSEYE」

 

そして、一拍間を置いて、最後の一両が爆発を起こした。

 

 

「貴方が先ほどの通信の方ですか?」

やや警戒を滲ませた様子で、羽川ハスミが問いかける。銃口を向けてはいないが、何時でも撃てるような体勢だ。

 

「ああ、そうだ。だから、そう警戒しないでくれ。」

背中のコンテナを下ろし、両手の武器も仕舞い両手を上げて敵対の意思がないことを示す。

 

「これだけの人数をたった一人で……」

「烏合の衆だ。大して苦労はしなかった。」

倒れ伏す百人ほどの不良達。自分が誰かを知って仕掛けてくるだけあってそこそこではあったが、エコーにしてみれば有象無象と変わりない。言葉通り、大した苦労ではなかった。

 

「さて、お前が『先生』だな?」

少女達に守られる形で、そこに立つ大人を視る。

 

黒髪黒目で身長は推定170と少し。見た目はクラスで3番目に選ばれそうな顔。誰も彼もを虜にするようなものではないが、嫌いと答える人間はまずいないと断言できる容姿。そして、最も目を引くのはその目つき。22年間こちらで過ごし、表も裏も多くを見てきた彼の目をもって、底抜けの馬鹿なお人よしと断定できる優しさと強さの同居した目をしている。

 

初めて会った人間。だが、()()()()()()()()()()()()。それに、少しの安心と、大きな落胆の感情を抱く。

 

「お前を案内するように依頼されてる。付いてこい。」

個人的な感情を押し殺し、エコーは依頼を継続する。仕事に私情を持ち込まない。それが、仕事をするうえで最も大事なことだ。

 

 

 

カツカツ、と暗い廊下の中、二人分の足音が鳴る。目的の部屋まであと少しだが、ここまで二人の間に会話はない。もっとも、こうなるのも仕方ない。方や教師、方や傭兵。相容れないどころの関係ではない。完全に世界が違う。

 

”誰からの依頼何ですか?”

だが、聞かなければならないこと、聞きたいことは互いにある。相手が誰であろうと、必要があれば疑問をぶつけなければならない。状況にはよるが、地味に社会のつらいところだ。

 

「それは言えない、と言いたいが契約があるからな。特別に教える。」

本来であれば依頼主のことは、必要がなければ原則黙秘する必要がある。だが、今回は相手が護衛対象であることと、今後自分の雇い主になることが確定していることから素直に質問に答える。

 

「連邦生徒会長だ。俺は彼女の依頼でここに居る。」

エコーの答えに先生は考え込むような顔をする。

 

”彼女は何処に?”

「分からない。まぁ、多分一番近くて遠い場所にいるのではないか?」

 

あんたが今から所有する箱の中で幼児プレイの準備をしてるぞ

 

原作知識(ネタバレ)を披露するわけにもいかないので、曖昧な返事をする。とはいえ、含みのある言い方をしてしまったせいか、少しばかり疑いの目を向けられたが、それ以上追及されることはなかった。

 

「さて、案内はここまで。俺は見張っているから、ここから先は一人で行け。」

目的地のドアが見えたところで、エコーはそれに背を向けて暗い廊下を見張る。先生は、軽く頷くとそのままドアに向かった。

 

(これで先生とワカモは問題なく関りを持つ。さて、次は――――)

『エコーさん、あの人は……いえ、あの『体』は……』

エコーがこれからのことを考えると、今まで黙ってついてきていたユメが声を掛ける。

 

エコーは、体を探している。それは、アウターヘイヴン直属の人間であれば皆知っていることだ。だが、その中で彼の容姿まで知っているのは、フロメ、マユ、ミスラ、そしてユメの四名だけである。先生の容姿は、フロメの装置によって出力された、彼の本来の姿に非常に似通っていた。だからこそ、彼とフロメが数ある可能性の一つとして挙げた、『誰かに乗っ取られている』を考えての質問だった。

 

「安心しろ。違った。」

しかし、エコーはその考えを一蹴する。

 

確かに似ていた。遠目で見れば瓜二つだったろう。だが、彼は機械で出された自分の容姿が、やや美形気味に出力されているのをよく知っていた。本来の彼は、どれだけよく見ても中の中程度の容姿である上に、あれほど真っすぐな輝きを持つ目を持っていない。だから、一目見て自分の体ではないと確信して落胆し、先生と敵対するという最悪を想定しなくて済んで安心したのだ。

 

(振り出しに戻ったが、悪くはない。)

「頼りになるもう一人とは、あなたですか。」

廊下の向こうから人影が現れる。警戒すべきところではあるが、聞いたことのある声と相手の容姿を見てすぐに止めた。

 

「リンちゃんさんではないか。」

「誰がリンちゃん……いえ、まず『ちゃん』か『さん』かどちらかにして下さい。」

呆れたようなため息を吐かれる。彼女、七神リンとは、これが初対面ではあるが、そのなんとも言えない苦労人臭が何となくツボに入ってしまい、ついふざけてしまった。

 

「その感じだと、触り程度には俺のことを聞いてるようだな。」

だが、それを抜きにしても、こちらを一切警戒した様子のない姿と、先ほどの発言からある程度説明は受けているものと判断したのも理由にはあるのだ。そうでなくともそうしただろうと思ってもいるが。

 

 

「はい。黒の残響は、私達の味方だと仰ってました。」

「味方、か……」

 

エコーは、傭兵だ。

 

状況によっては、背中から『敵』を撃つこともある。自分は、そういう職種であると自認している。連邦生徒会長の言葉があるとは言え、何の疑いもなく味方であると認識されるのは抵抗があった。

 

「まぁいい、先生はこの先にいる。行ってやれ。」

しかし、それを態々伝えて話を拗らせるのは求めるところではない。なので、速く先生の元へ向かうように誘導した。

 

「あなたは行かないのですか?」

「廊下の警戒は必要だ。安全が確認できるまでここにいる。」

「…わかりました。」

リンがドアに向かい中に入る。暗い廊下に残るのは、エコーとユメの二人だけだ。

 

『エコーさん、エコーさん。』

「なんだいユメさん。」

『何で先生と元々のあなたがよく似てるんですか?』

「ユメさんや。世の中にソックリさんというのはよくいるものですよ。」

『そうですかぁ。』

ぽやぽやと擬音が出そうな雰囲気で納得したような様子を見せるユメ。これで宙を浮いていたら完ぺきだったところだ。もっとも、彼女にそのような能力がないのは、加入数日で判明しているので想像するだけにとどめる。

 

『それでも似過ぎだと思います。』

「じゃあ、適当に遠縁の従兄弟の再従兄弟のそのまた再従兄弟の兄弟の親戚の親友の間柄ってことにしよう。」

『…………いえ、それよく考えたら他人ですよ!?』

「だから最初からそう言っている。」

 

中身のない会話。特に意味のないボケとツッコミ。

 

実に他愛ない

 

だが、悪くはない

 

『どうなるんでしょうね、これから。』

「さぁてな。だが、悪いことにはならない。」

 

先生がキヴォトスに現れた。文字に起こせばそれだけのこと。だが、この青春の物語(ブルーアーカイブ)に欠けてはならない要素だ。最後のピースが嵌った今、この物語が悪い方向に向くことはない。

 

汎ゆる不条理をお気楽な結末に導く

 

それが、彼が識る先生なのだから

 

「休憩終わりだ。」

廊下の電気が点灯し、二人が入ったドアが開かれた。エコーは、今日最後の仕事をこなすため、二人に歩み寄った。

 





ユメ先輩武器情報1


Bless of Ausir

霊体の彼女が身につけている、生前の愛銃の幻影。本来なら、飾りにもならないそれだが、ある筋で付与された概念により、レーザーポインターに似た役割を得た。

対象を狙い、トリガーを引くことで相手に不可視の銃弾を撃ち込み特殊な音を鳴らす。その音は、専用に作られたレーダーにのみ反応を示し、対象の位置を知らせる。また、完全な静寂の状態であれば誰でも聞くことが出来るが、そよ風の音一つで聞こえなくなる程度なので特に問題は発生していない。

ちなみに、彼女の弾の命中率は3Mで5%未満である。基本的には見えないことを利用して至近距離で撃って、攻撃に巻き込まれる前に退避するのが鉄則になる。爆発の中心に居ても彼女にダメージは入らないが、衝撃と音で気絶するのでそうなると終わりである。


よって、彼女はもっと鍛えるべきである。慈悲はない。
 

ある災難の世間話

「最近ボスがよく訓練場で迫撃砲を撃ってるんだよ。何してるのか聞いたら弾除けのイメトレだと。何当たっても効かねぇのに何でそんな事すんだろうな?つーか、その場で迫撃砲を撃つのが弾除けのイメトレになるもんなのか?ボスの考えてることはよく分かんねぇよ。」


『ほーれ、速く動かんと吹っ飛ぶぞー』(迫撃砲を撃つ音)
『ひぃん!エコーさんのいじわるぅ!』(迫撃砲に撃たれる音)


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