ブルーアーカイブ*エコーズ   作:DGKⅡ

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First Contact(はじめまして)

 

七神リンが部屋まで先生を案内し、今日一日の粗方が片付いた後、エコーは先生と向き合う形で椅子に座っていた。理由は至ってシンプル。互いに互いを知るためだ。

 

今の段階では、エコーはゲーム知識でしか先生を知らず、先生はエコーが自分を護衛する傭兵であることしか知らない。今後のことも考えて、情報共有は必須なのだ。

 

「さて、改めて自己紹介だ。」

エコーが口火を切る。何故か、先生の背筋が真っ直ぐに伸びる。

 

「俺の名はエコー。傭兵組織アウターヘイヴンのリーダーをしている。仕事内容は襲撃から護衛はもちろん、荷物運びから人探しまで幅広くやっている。ようは、規模の大きい何でも屋だ。」

なるべく簡潔に分かりやすく纏めるも、自分で言っていて碌な職業じゃないなと自嘲する。

 

”■■■■です。連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの先生で、キヴォトスの外から来ました。赴任したばかりで、色々と分からないことも多いのでよろしくお願いします。”

エコーの自己紹介が終わり、先生が自己紹介をした。

 

その時、確かに名前を聞いた。だが、それをエコーは認識できなかった。

 

(……全く、予想はしてたがやっぱりこうなるか。)

 

エコーは覚えている。

 

先生の名前は人の数だけあり、自分もその中の一人であったこと。だから、目の前の自分によく似た人物の名前を聞けば、失った名前を取り戻すきっかけになるかもしれないと考えていた。だが、それは出来ないことをエコーは経験から予想はしていた。

 

エコーは識らないことは、知ることが出来ない。

 

理由も原因も分からない。分かっているのは、人間であった時期に識れなかったことの中に、知ることが出来ないモノがあるということだ。

 

例えで上げるならば連邦生徒会長が良い例だ。彼は何度も彼女の名前を聞いたはずなのに、何故か知ることが出来なかった。思い出そうとすれば、その部分にだけノイズが入り、名前を呼ぶことも思い起こすことも出来ない。名前以外で言うなら、ゲヘナの雷帝が一番に挙がる。自分と全く無関係ではなかった記憶があるのに、なぜかその記憶も記録もほとんど残っていない。

 

これらから推測するに、物語の根幹に関わる事柄。特に『自分が識らない先の未来』に関わる事象には、なにがしかの制限のようなものが設けられていると視ていた。そしてこの場合、エコーはこの世界の先生のことを何も識らず、名前だけが不自然に分からなくなっている。自分の名前が思ったより重要な要素になってしまっている現状に、内心複雑な思いを抱くのだった。

 

「オーケー。じゃあ、先生さん。来たばかりで悪いが、早速仕事の話をさせてもらう。」

もう既に頭が痛い状況だが、何時までも考察にかまける暇はない。さっさと仕事を終わらせるために行動するしかなかった。

 

"……どんな内容ですか?"

「そう身構えなくていい。俺の説明をするだけだ。」

緊張した面持ちの先生に、軽い調子で答える。そう言われても、全く肩の力が抜けない辺り、信頼されるのは随分と遠い話のように感じた。

 

「まずは、俺と連邦生徒会長の間に交わされた契約の話からだが――――」

 

それから、自身と連邦生徒会長の間に結ばれた契約の話を包み隠さず話した。それを聞き終えた先生は難しい顔をしている。

 

”つまり、私専属の傭兵、ということでいいですか?”

「概ねその認識でいい。」

正確には、先生の依頼を最優先に動く傭兵であると言うだけで、特に何もなければ先生以外からも依頼を受け付けるので完全に専属と言うわけではない。だが、概略としては、先生の認識に誤りはなかった。

 

エコーの肯定を受け、先生が考え込むように目を伏せる。

 

「気に入らないか、俺が」

"そういう訳ではありません。ただ……"

言葉を切り、伏せていた目を真っ直ぐにエコーへ向ける。その瞳の内には強い決意が宿っていた。

 

"私は、貴方の力に頼ることはないと考えています。"

「……一応、訳を聞こうか。」

予想はしていた。だが、彼が先生であるのなら、その理由を聞かなければならない。

 

"貴方が連邦生徒会長の依頼で私を守り、連邦生徒会長と結んだ契約によって、私の力になっていただけることは分かりました。"

 

まずは、此方の事情に理解を示す言葉が紡がれる。

 

"ですが、私は先生です。子供たちと向き合い、子供たちのために責任を負うのが、私の仕事です。"

 

続けて紡がれるのは、先生としての自身の矜持。自身が成すべきことを言葉にする。

 

"もし、貴方の力に頼ってしまったら、私は自分が負うべき責任を貴方に転嫁することになってしまう。先生として、それは許容できません。"

 

責任は自分が取る。他人には背負わせない。

 

大人としてのあるべき姿を、大切な生徒達に示す。そのためなら、自身の身の安全など幾らでも捨てる。先生とは、そう言う存在だ。彼の識るモノと、一分の乖離もない。

 

だからこそ、試し甲斐がある。

 

「……随分、綺麗な物言いをする。」

 

圧を強める。並の相手であれば、恐怖で顔が引き攣るそれを、先生はただ黙って見据えていた。

 

「ハッキリと言えばいいぞ。俺が信用できないと」

 

依頼であなたを守ります。契約であなたの力になります。いきなりこんな事を言われて、無条件で信じられる人間はいない。相手が傭兵などという真っ当からかけ離れた存在なら尚更だ。それは、先生とて例外ではない。事実、自身への不信感をエコーは感じ取っていた。

 

(さぁ、どう答える?)

生徒ではなく、善良な大人でもなく、かと言って敵対する意思も、好んで子供を利用する精神も持たない、何もかもが中途半端な存在。そんな人物を、彼はどう見るのか、どう判断するのか。それを知りたかった

 

 

 

 

 

『大丈夫です。先生、この人は信頼できます。』

 

 

 

 

 

(ーーーーーーはっ?)

 

声が聞こえた。確かに聴いた。

 

絶対に聞くことは、ないと思った声を

 

"……私と貴方は、まだ出会ったばかりです。お互いのことを何も知らないのに、信用できるかどうかを答えることはできません。"

「あ、ああ……確かに、そうだな。」

その声に気を取られて、少しだけ返答に動揺が入ってしまったが、先生は気にしていない様子だった。

 

出会って直ぐの相手を信じることはできない。それは人が持つべき防衛本能のようなものだ。だからこそ、先生の言うことは説得力があり、エコーも納得するしかなかった。

 

"ですが―――"

 

ここで、初めて先生の顔が緩んだ。

 

"大切な生徒が信じた方ならば、信じたいと思っています。"

 

生徒の意思を尊重する。そのためなら命すら賭ける。

俺ができないことを、平然とやってのける。

厳しい言い方をすれば狂っている。優しい言い方をするなら変わっている。誰もがなれる者ではない、誰もが尊敬する先生の姿が、そこにはあった。

 

「……ああ、それでいいさ。」

 

 

それが『先生』と言う存在だ。

俺のような出来損ないと違う。

改めて、彼と自身は違う存在であることを認識するのだった。

 

 

「まぁ、信用問題はおいおいどうにかするとして、契約問題も基本先生から連絡なければ気にしなくて良いんだが、護衛依頼をどうしたものか悩みどころになるな。」

一先ず、互いの立ち位置を共有したところで、さらに一歩話を踏み込ませる。諸々、問題がある関係ではあるが、連邦生徒会長繋がりである以上、切るわけにもいかない関係だ。とは言え、傭兵と先生と言う間柄である以上必要以上の関係は持ちたくない。特に、先生としては四六時中物騒な人間に守られる状態はよろしくはないだろう。

 

"それなら、私から取り消しを頼めばどうにかなりませんか?"

先生が提案する。確かに、護衛対象がもう護衛は要らないと言えば依頼達成になるのが普通だ。

 

「残念だが、あんたは依頼主じゃない。俺の依頼を取り消せるのは、俺に依頼した本人だけだ。」

だが、今回の依頼は護衛対象が自ら依頼したものではない。そのため、依頼を終わらせるには出した本人と確認を取る必要がある。そこに、最大の問題がある。

 

依頼主がようじ……ではなくAI……でもなく行方知れずになってしまっているのだ。つまり、確認の取りようがないため、依頼を終わらせることが出来ない。これは非常に困った問題である。

 

「おまけに、自分が戻ってくるまでと言う期間指定もある。現状、完全になくすことは不可能だ。」

さらにさらに依頼文は実質終身雇用確定文章付きである。なので、相談するべきはどうやって程よい関係になるかではなく、どうやって先生の要望を叶える形で自身の依頼を遂行するかというかなりハードな状況である。

 

「ん?」

どうしたものかと頭を捻っていると、マユから緊急と銘打たれたメッセージが届く。

 

《カイザー、連絡、至急》

 

チッ、と心中で舌を打つ。その内来るだろうとは思っていたがタイミングが悪い。

 

「……すまない、野暮用が出来た。この話は、別の機会にしよう。」

先生とカイザー。二つを天秤に掛け、カイザーの方が僅かに上回った。面倒度合いは何方も一緒だが、緊急性はカイザーに軍配が上がる。どの道、そう簡単に着く話ではないので、互いに一人で考える時間も必要だろうと感じたのも理由だ。

 

"あ、待ってください!"

扉に手を掛け出て行こうとするエコーを先生が止める。

 

"話の続きをするために、連絡先を交換しましょう。"

 

確かに、それは失念していた。別の機会と言っても、当然先生にも都合がある。連絡先の交換は理にかなってる。

 

「……いや、それは止めておこう。俺みたいな奴の連絡先なんて持っていても、碌なことにはならない。」

しかし、その提案を断る。それっぽい言い訳をしたが、実際の所は個人的な繋がりを深めたくないと言う、実に幼稚な理由である。

 

全くもって情けない話ながら

何故そう思ってしまうのか?それは本人にしか分からない。

きっと自分が成れた可能性に嫉妬してしまったからだろう。

 

"ですが、それだと日取りを決めれません。"

「それなら、連邦生徒会長が使ってた秘密回線があるからそれで―――」

 

ピロン、と間の抜けた音がした。目を向ければ、自身の端末に新たな連絡先が加わっている。そこには■■■■と、全く読めない名前が入力されていた。

 

『ユゥメェ?』

『ひぃん…私じゃないですよぅ…』

 

知ってるよ。でも、何となくやりたくなったからやった。

 

そんな理不尽な圧がユメを襲った。どこぞのホルスが見たら、アビドスの廃墟のオブジェになること請け負いである。

 

アロナ?

『偶々連絡先のデータが有りましたので登録させて頂きました!』

 

(………やっぱ聞こえる。)

また、聞こえた。絶対に聞こえるはずのない声。流石に2度目となれば幻聴の線は消える。

 

(何故、先生でもない俺に聞こえる?)

"えっと、その……"

「……気にするな。俺も気にしない。」

色々と疑問は浮かぶが、今は別に注力するべきことがある。一先ず、気まずい雰囲気を纏っている先生に気にする必要はない旨を伝えた。

 

「……まぁ、連絡は何時でも受け付けるから、そっちの都合のいい時に連絡をくれ。それまで、あんたの護衛は目立たないようにはさせてもらう。あと、ないとは思うが依頼の時はよろしく頼む。」

そして、取り敢えず、100%ないとは思うが、仕事の連絡を待っていることも伝えて、そそくさと部屋を立ち去った。

 

「……ユメ、あの声。聞こえたか?」

『誰の声ですか?』

「俺と先生以外の声だ。」

「?いえ、聞いてませんけど……」

自分の耳に確かに届いた、本来なら聞こえるはずのない声。それが聞こえたか、直ぐ側に居るユメに聞いてみるも、本人は全く聞こえなかったようだ。

 

『……何かあったんですか?』

「いや、何でもない。気にするな。」

心配そうに聞くユメに、気にすることはないと伝える。それでも、心配している様子だったが、こうなった彼が何かを言うことはないと知っているので、特に深入りすることはしなかった。

 

(分からないこと塗れだな。)

 

自身の名前のこと、体のこと、アロナのこと。物語は進んだが、自身の問題は停滞したまま。それに思うことがないわけではない。

 

(……まぁ、いい。焦る必要はない。)

先生が現れ、物語は進行する。今は、まだ始まったばかり。序章だけ見て脱落するのは、実に、実に勿体ないことだ。

 

(期待に応えてくれよ、()())

エコーは、思考を切り替える。今考えるべきは、直近の面倒を片付けること。詰まった予定を巻くために、彼は少し歩みを速めるのだった。





■■■■

連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの先生。連邦生徒会長と入れ替わる形でキヴォトスに現れた、外の世界からの来訪者。

現時点では、その容姿と善人と言える人柄以上のことは分からず、今後の活動が注目される存在である。

※先生はキヴォトス在住の方々と違い、銃弾一発が致命傷になります。決して撃とうとしないでください。

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