ブルーアーカイブ*エコーズ   作:DGKⅡ

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Worthless Job

 

マザーベースの中枢にあたる区画。通称『ビッグボックス』。その中で最も重要な区画である司令室にて、エコーはある人物と連絡を取っていた。

 

「お久しぶり、と言うべきですか?カイザーPMC理事。」

『そうですな。お久しぶり、で良いでしょう。アウターヘイヴン、リーダー。』

 

モニターの向こうに映るのは、恰幅のいい機械人の姿。二年前、アビドス砂漠の基地で起こった()()()()()の責任を取らされた前任者に変わって、カイザーPMC理事となった人物。自分が良く識る、カイザーPMC理事その人だ。

 

「旧交を温めたいところですが、お互い忙しい身の上です。早速本題に入りましょうか。」

 

カイザーPMCとアウターヘイヴンの仲は決して良好ではない。だが、ただ争うだけでは互いに消耗するだけで何の利益も産まないのは、両者共通の認識だ。故に、表では争いつつも裏では諸事情により自分たちでは引き受けられない依頼を斡旋し合っている。

 

『先日、そちらで雇った傭兵なのですが……』

「今のところまるで役に立っていないと、仰りたいのですね。」

理事が肯定しづらいことを肯定するようにゆっくりと頷く。それが単なるポーズであり、内心でほくそ笑んでいることなど容易く見て取れた。だが、今のところは『依頼主』からの『正当なクレーム』である。誠実な対応をしなければならない。

 

「その件に関しては、まず謝罪をさせていただきます。どうやら、此方の見積もりが甘かったようでして、貴方には大変ご迷惑をおかけしております。」

『それで、どう責任を取るのでしょうか?』

「まず、先日頂いた前金を全額お返し致します。成功報酬も結構です。その代わり、依頼はこのまま継続させていただきます。」

『そこまで言われるからには、次こそは結果を出して頂けますね?』

「勿論です。準備もありますので、直ちにとはいきませんが、一月以内には、よい報告を送らせて頂きます。」

 

理事が思案するように顎に手を当てる。今回の依頼は、カイザーとの関係性を悟らせず、失敗したとしてもカイザーに影響なく、あわよくばアウターヘイヴンの評判を落とす切っ掛けとして出したものだ。結果として、後者の目的は達しているので、依頼を破棄しても良い状況ではある。

 

『……分かりました。それならば、引き続き依頼の件。よろしくお願いします。』

だが、達成してもらいたい依頼であることも確かであり、エコー達が最も適任であることも確かだ。それに、折角無償で依頼を受けると向こうが申し出たのだ。利用したほうが得である。

 

「ええ、誠にありがとうございます。詳細に関しましては、また改めてご連絡させて頂きます。では、失礼いたします。」

 

最後にそう言って通話を切った。

 

「……これでよかったのかよ。」

画面の裏側。エコーの対面に立つマユが問いかける。

 

『アビドスは潰すな。責任は俺が取る。』

カイザーから依頼を受け、信頼できる部下に出した指示がこれだった。最近頭角を現しだした彼女たちは、不承不承ながらも彼の指示に従い、程々に襲って働いているフリをし続けた。

 

その結果がこれだ。報酬のない、無駄骨同然の依頼になってしまった。そのことを彼女は聞いたのだ。

 

「構わん。元から達成させる気のない依頼だった。このぐらいは想定内だ。」

 

だが、エコーは気にしなかった。先を識る者としては当然の答えだ。何もかもが無駄になると分かっている依頼など力をいれるだけ無駄だ。多少の誤差は出るだろうが、先生が介入することは確定している。ならば、依頼は当然達成不可になるのが見えている。そのような依頼など、報酬が出ないことが確定しているのと同義。彼から見て、これは依頼として成立していないのだ。

 

「前から思ってたんだが、何であんな辺鄙な場所に肩入れするんだ?正直、らしくないぜ。」

そんな未来知識を持たないマユは、エコーのすることに得心がいかなかった。カイザーは気に入らない相手だ。だが、それはそれとして依頼であれば確実にこなす。それが彼女がよく知るエコーだ。たかがなくなりかけの自治区一つに肩入れする程、甘い人物ではない。

 

そんな甘い人物な訳がない。何の理由もなく、誰にでも救いの手を伸ばすような、救世主じみた人物がエコーであるはずがない。

 

必ず『依頼』があり、『報酬』がある

 

それは犯されることを赦されない領域だ

 

(面倒くさいな。)

自身をよく知るからこそ必ず抱く疑問。自身をよく知りたいからこそ掛けられる問い。下手に誤魔化してヘソを曲げられたら厄介なことになるのは明白。かと言って、シラフでウソをついてもすぐ見抜く。当然、真正直に話すのは論外だ。

 

悩む

 

悩む

 

隣のユメはオロオロしている

 

閃く

 

「……死に行くものからの、最期の依頼だからだ。」

 

嘘ではない。

 

事実として、依頼は存在している。自身から出された依頼を達成するという条件付きで、それを達成するために死んだ本人が最期の依頼を出すために依頼を遂行中で、自身が遂行する予定の依頼がまだ受注されていない状況という控え目に言っても訳が分からないことになっている点に目を瞑れば、カイザーの依頼を達成させる気にならない理由の一つになっている。

 

「……そうかよ。じゃあ、仕方ねぇな。」

ほんの僅かに違和感を抱くも、嘘は全く言ってないと察する。何か別のものを煙に巻かれたと感じつつも、彼の精一杯の事実にマユは苦笑いしながら納得する。

 

「まっ、どうしようもなくなったら呼びな。気が向いたら手を貸してやるよ。」

 

ヒラヒラと軽く手を振りながら、マユは部屋から出ていった。後に残るのは、申し訳なさそうな雰囲気をしたユメと、少し疲れたように机に肘を着くエコーだった。

 

『……あの』

「謝罪はもういい。聞き飽きた。」

『ひぃん…』

 

エコーが依頼を受け、それを達成するつもりがないことを伝えてから、この依頼の話題が出る度にユメはエコーに謝っていた。エコーから見れば依頼ですらないそれを無視しているだけなのだが、彼女から見れば自分との約束の為に自身の矜持を曲げてアビドスを庇っているように見えているのだ。ただ、意味がないからやっていないだけだと言うのに

 

だが、それを言う訳にもいかない。例え自分以外の誰とも話せなくとも、大事な何かが変わってしまう可能性がある。良い方向に働けばそれでいい。だが、自分が変えた結果が良い方向に向かうとは、どうしても思えなかった。

 

「これは、お前の働きに期待しての行為だ。気に病む必要はない。」

なので、彼女への答えも、嘘ではない事実を話すことしか出来ない。

 

依頼に対する報酬

 

体を見つけるかわりに、アビドスを救うという契約

 

アビドスがなくなれば履行不可能になるために、報酬のために報酬を前払いしなければならないという、大きな矛盾を孕んだ契約。それでも依頼は依頼であり、報酬は報酬だ。結ばれた時点で、こうなるのは必然だった。

 

『……でも、あなたの身体は、まだ見つかっていません。』

「当たり前だ。お前が探してすぐ見つかるようなら、こんなに長いこと苦労はしていない。」

 

探し続けて22年。内、ユメの協力期間は現時点で2年。エコーはユメの11倍も探しているし、他のメンバーもユメより長く探している。それで見つからないのだから今更一人増えた所で何かが大きく変わるわけがないのは分かっていた。

 

「だが、それ以外でのお前の貢献度は大きい。俺以外の誰にも見えないのを利用して、敵の位置を教えてくれたり、最近は誰にも聞こえないテレパシーみたいなものを使ってオペレーターの真似事も出来るようになった。ああ、交通機関をただ乗り出来るところもいいな。情報収集の移動費を節約できる。」

『交通機関のことは、素直に喜べないんですけど………後、ちゃんと私の分もいつも払ってくれてますよね?』

 

ユメはエコー以外の誰にも見えていない。なので、交通機関もテーマパークもオール100%オフのやりたい放題である。だが、本人が善性の塊なので、何だかんだと払う羽目になっている。移動費の節約とは何だったのか………

 

「ともかく、俺はお前に助けられている。体が見つからなくとも、お前は十分に働いてくれている。」

 

色々とあるが、この言葉に嘘はない。依頼が遅々として進まなくとも、ユメの働きがエコーの助けになった数は既に数え切れなくなっている。

 

「『正当な働きには、正当な対価を』……報酬を多少前払いするぐらいには、お前のことを信頼しているんだ。」

 

だから、気にするな

 

触れられないと分かっていても、自然と手が伸びた。すり抜けてしまわないように、その輪郭をなぞる形で、彼女の頭をゆっくりと撫でる。ユメに触れられてる感覚はない。それでも、確かな温もりをそこに感じた。

 

『……エコーさんは、優しいですね。』

「……そんなことだから、そうなってしまったのではないか?」

 

想定しなかった言葉に、心ない言葉が出てしまった。

 

エコーの問いに、ユメは答えない。責めることも、嘆くこともない。ただ、真っすぐにエコーを見つめ、優しく微笑むだけだ。

 

「……すまない。言葉が過ぎた。」

『ふふ、やっぱり優しいです。』

 

 

 

 

それから何日か経ち、準備も整いアビドスへ向かおうとしたある日。フロメから緊急で連絡が入った。数日ぶりの緊急連絡、それもほぼ入れることがない人物からの連絡に、内心イヤな予感を感じつつすぐに出た。

 

『あー、ボス?聞こえるかい?』

「どうした、フロメ。」

『この間お願いしてきた件だけど、さっき出来たよ。』

「流石だな。」

緊急とは思えないのんびりとした報告。内容は、先生の安全状態を遠隔から監視する装置の件。先生であるため、全く心配はしていないが、一応見掛けだけでも気にしている様子を見せなければ疑問を持たれてしまうので、『先生にプライベートなんざ存在しないだろ』、と言う暴論で自身を納得させつつ彼女に作らせたのだ。

 

『それで、完成した仮称『ドコデモセンセイミマモール』なんだけど、今面白い(カオスな)反応を示していてねぇ。』

「面白い反応?」

続く言葉に非常にイヤな予感を感じる。フロメは、そんな彼の反応を楽しむようにクツクツと笑う。

 

『まぁ、情報が正しければ、っという枕詞は着くが………』

 

そしてやや勿体ぶって一拍置き

 

『――――ボスの護衛対象。今瀕死だよ。』

 

通話の向こうの騒音を聞き、声を上げて笑った。

 

 

 

 

 

〜10分後〜

 

 

「先生。俺はお前にどうこう言う資格も権利も持たない。何処で何をしようと俺は基本干渉しない。それがお前の要望だからな、聞き入れるつもりだ。道端で褐色肌でツンケンしていてからかい甲斐があるゲヘナの風紀委員の足をヴァルキューレ連行レベルで舐め回そうとも俺はそれを止めることはしないだろうむしろもっとやれと煽る立場だ。……話が逸れたが兎に角俺はお前の行動を制限するつもりも止めるつもりもない、だが文句を言う権利はいついかなる時であろうとも存在していると言うのが俺の持論なのでハッキリといわせてもらう。」

 

青い空、照りつける太陽、何処までも広がる砂と廃墟

 

そして、目の前に正座するシャーレの先生(クソ馬鹿野郎)

 

原作より酷い状況に、エコーは万感の思いを込めて言う。

 

「身一つでアビドスに来る馬鹿があるか。猛省しろ。」

"……すいませんでした。"

つい先程、渇死(ユメ2号)になりかけた先生は、返す言葉もなく縮こまっている。

 

場所は、アビドス郊外の廃墟地帯。道が見えることからある程度の人通りは察せるが、周囲に人の気配は一切ない。フロメの報告を受けて、アビドス高校の近くでない(ガチの緊急事態)と知り、すぐに一番速い乗り物(コックピットポン付けミサイル)で駆け付けたエコーの動きは間違いなく傭兵になってから一番のキレを持っていた。

 

(1週間足らずで第一章か……。)

散々切れ散らかしたおかげでようやく落ち着いたエコーは、改めて現状を考察する。アビドスが第一章の物語であることを考えれば、特別進行が速いわけではない。だが、現実問題としてアビドスからの救援要請もそれを受けて行動した先生の動きも速いと言う感想が出てくる。

 

(やれやれ、コイツは連勤記録更新確定だな。)

これから全く気が休まらない日常が続くのか、と思ったがよくよく考えれば何時ものことだったと思い直し、心の中で苦笑した。

 

"ところで、どうして私が生き倒れていると分かったんですか?"

「黙秘だ。助かったんだからいいだろう?」

 

衛星使って四六時中監視する装置を作りました。

 

等と白状する訳がなく黙秘を選択する。罪状など今更数え切れないが、被る罪状ぐらいは選びたい。一応伝説呼ばわりされてる存在が、ストーカー行為で訴えられましたは情けなさすぎる。

 

「兎に角だ。今は市街地を目指すのが先決だ。行くぞ。」

"行き先が分かるんですか?"

「知らん。適当だ。」"ダメじゃないですか!"

『私が案内しますよ!』『却下だ。』『な、何でですか!』

「大丈夫だよ、ウソだからな。」

"ウソ何ですか!?"『ウソ何ですか!?』

「いや、すまん。本当に分からん。」"どっちなんですか……"

『なら、やっぱり私が……』『だが断る』『ひぃん…』

 

全く危機感を感じない会話。おまけにミサイルに飛ばされて意識が飛んで、さっき目を覚ましたばかりのユメとの会話も同時にこなすという、無駄に器用な事をやっている。

 

正直な所、客観的に見れば非常に良くない状況だ。今いる場所が何処なのか、全く分かっていない。一応、元現地民のユメがいるにはいるが、彼女には前科(ここにいたんですね。)がある。可愛そうだが、全面的に信頼するには不安がある。ハッキリ言って詰みだ。

 

しかし、エコーは識っている。ここはアビドス。それも先生が来てすぐのアビドスだ。

 

(まぁ、心配しなくてもそろそろ――――)

『あっ!シロコちゃんだ!』

 

道の果てから大きくなってくる影。それは、ロードバイクに乗ったアビドス生の姿だった。此方を視認してるのか、遠目で見ても困惑しているのが分かる。

 

()()()()()()()()()()()

 

多少の差があろうとも、大筋が変わることは決してない。だから、これも分かっていたことだ。

 

「……ここで何してるの?」

 

砂狼シロコが、先生と出会う。

 

アビドス(第一章)の始まりは、そこからなのだ。

 

"えっと、アビドス高校に行こうとしたんだけど、道に迷ってしまったんだ。"

 

困ったように、と言うより本当に困った様子で先生が話す。

 

「そっか……なら、案内するよ。」

"いいのかい?"

「ん。学校まで距離はあるけど、歩いていけない距離じゃないから。」

"ありがとう"

 

一言二言言葉を交わし、共にアビドスに向かう話に落ち着く。状況や人物に変化があっても、決して変わることがない展開だ。

 

(そうだ。これでいい。)

"あっ……"

 

シロコが先頭を歩き、エコーもそれに続いて歩き始めると、自身のすぐ横からそんな気の抜けた感じの声が聞こえた。エコーがそちらに目を向ければ、先生が尻もちをついた体勢で苦笑いしていた。

 

「どうしたの?」

"あはは……ちょっと、足に力がはいらなくて。"

 

脱水症状、長時間の正座、助かった安心感

 

要因は諸々思い浮かぶが、自力で立つのは難しそうだ。

 

(ああ、そう言えばそうだった。)

 

本来なら、先生は学校の近くで生き倒れ、シロコに背負われてたどり着く流れだった。地図で軽く見ただけでもそれなりに距離があったので考慮していなかったが、どうやらこれも大事な流れだったらしい。

 

「……悪いがこいつを背負ってくれないか?見ての通り、俺がやったら即席バーベキューになってしまうからな。」

「……分かった。」

少し考えてから、シロコはロードバイクをエコーに預けた。そして先生の側に来ると、そのまま背中に彼を背負う。

 

「貸一だな。」

"ありがとう。えぇっと……"

「……シロコ。砂狼シロコ。」

 

そうして、なんやかんやとアビドス第一章が幕を開ける。その主役の当人である先生は、心無しか匂いを堪能しているようであった。

 

この匂いフェチが

 

っとエコーは内心で悪態をつくのだった。

 





おしえてゆめせんぱい

Q.アビドスって、どんなところ?

A.アビドスは良いところだよ!いつも明るくてキレイな青空に、いくらでも砂遊びが出来る広い大地!何より一番良いのは良い人がたくさんいること!アットホーム?って言うのかな。前向きで優しい人が多いの!みんなも一度はおいでよ!

「………なんだこれ?」
「少しでもアビドスのことを知ってもらおうと思ってやってみたいんです!どうですか?」
「………せめて教室名は変えろ。一緒に考えてやるから。」


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