「着いたよ。」
そう言ってシロコが立ち止まる。目の前には、アビドス高校(正確には別館)がある。隅の方にいくらか砂が溜まっているが、定期的に清掃された跡があり、まだ生徒が居ることを証明している。
「思ったよりは近かったな……おい、先生。もう大丈夫そうか?」
"はい。もう大丈夫です。"
先生が名残惜しそうにシロコの背中から降りる。その背に軽く蹴りを入れたいところだったが、相手は先生と只管自身に言い聞かせて思い留まった。
「いいか、先生。次からは自治区の事前知識は最低限身につけてから向かうようにしろ。特にゲヘナとかレッドウィンターとか本当に命に直結するからな?いいな?わかったな?」
"は、はい…肝に銘じます……"
エコーの迫真の注告にやや引き気味ながらも、今回の件で情報の大切を文字通り命懸けで学んだ先生は、素直に頷くしかなかった。本当に大丈夫なのだろうかと少し不安に思うも、先生なので何だかんだ大丈夫だろうとエコーは高を括るのだった。
ちなみに後日、ゲヘナではパンちゃんハザードが発生し、レッドウィンターでは
「じゃあ、ここでお別れだ。次がないことを祈る。」
"はい。本当にありがとうございました。"
先生からの礼を受け、アビドス高校に背を向ける。ここから先は、先生と生徒達の領域だ。自分のような傭兵が関わるべき世界ではない。
(さて、この先の展開は……)
「やることはわかったな?」
アビドス高校から離れて少し、この先の展開を思い出そうとした時、ここ数ヶ月良く耳にした声を聞いた。すぐに近くの建物に身を隠し、その声の方を見れば、自分がアビドスの依頼を投げた部下達がいた。
「いい感じに襲って、いい感じに帰る。いつも通りっすね。」
「最後の、って言葉も付けとけ。今日で終わりなんだからな。」
リーダーである赤いヘルメットを被った少女の言葉に、仲間である黒いヘルメットを被った少女達が各々にやっと依頼を終えられることを喜びあっていた。
傍目から見れば野良のヘルメット団にしか見えない彼女達だが、その実力はそこらのヘルメット団とは比べ物にならない。だが、今の彼女たちは疲労感を隠そうともしていない。おそらく、本来の実力を抑えて戦うのはストレスが溜まったのだろうと推察した。
「ホントキツい依頼だった……」
「これでもう蜂の巣にされないで済む。」
「お前はまだマシだろ。あたしなんか爆撃されたんだぞ?」
「それこそまだマシだ。この
「「「「なんなんだよあの学園……」」」」
訂正、圧倒的な暴力を前にほぼ戦意喪失してたようだ。一応、アウターヘイヴン内では、そこそこの実力なのだが……
(……折角だし、顔ぐらいは見せておくか?)
元ヘルメット団であること、それなりに人数が揃ってること。それに加え、何だかんだと指示をしっかり守るところを信頼して今回の依頼を与えたとは言え、実質経歴に傷を付けろと言ったことを気にしてはいる。
(……いや、せめて拠点が襲われた後にしよう。)
何かしら言葉をかけるべきかと考えたが、今後の展開を考えると変に士気が上がるような真似は止めた方が良いと判断した。
「ヨッシ!さっさと終わらせて帰るぞ!」
リーダーが先頭を行き、仲間もそれに続く。戦意を喪失し、口では文句を言いつつも、リーダーを一人で行かせるほど薄情ではないようだ。
(いい感じだ。これなら近い内に、ランクを上げてやっても良さそうだな。)
『……それで、何時までソワソワしてるつもりだ?』
彼女達の査定を済ませると、学校からここまでずっと落ち着きのない様子のユメに声をかける。
『えっ!?ソ、ソワソワなんてしてませんよ!』
『ウソつけ、すんげぇソワソワしてんぞ。』
『こ、これは武者震いです!』
『一体何と戦う気なんだ…?』
理由のわからない言い訳をするも、誰であっても誤魔化せないようなそれでエコーを誤魔化せる理由がない。
エコーは知っている。
ユメは、自分がアビドスを護ってくれていると勘違いしていると知っている。態々カイザーに打診し、アウターヘイヴン以外がアビドスに手を出せない状況を作り、そのうえで依頼を達成しないことを決めれば、そう勘違いしても仕方ないだろう。
エコーは分かっている。
自分のせいで迷惑が掛かった相手を前に、ユメが全部割り切ってアビドスのことを優先出来ないことを知っている。どうにか出来ないか。もっと、良い方向に出来ないか。それを考え続けられる存在だと、出会う前から分かっている。
『……心配なんだろ。行ってこい。』
だから、背中を押した。ユメがアビドスを、ホシノ達のことを心配しているのが分かっているから。例え、何も出来ない幽霊であっても、せめてアビドスに居る間は側に居たいと言う、彼女の想いを汲み取った。
『……ありがとうございます。』
ユメは頭を下げ、母校へと駆け出す。エコーの優しさに甘えている自覚を抱きつつ、必ず彼の身体を見つけ出すと、決意を新たにして
(これで多少は動きやすくなるか。)
エコーは、識っている。
何が起こり、どうなるのか
だが、エコーは知らない
多少の違いが、どう影響するかを
だから、この章で、知らなければならないのだ
(さて、お手並み拝見と行こうか。)
ユメにも、誰にも気づかれないように、エコーもアビドスに向かった。
「追手の様子は?」
「今のところは無さそうです。」
「一応、警戒しておけ。今襲われるのは流石にキツい。」
リーダーの指示を受け、仲間達は警戒の為にその場を去る。廃墟の一角であるそこに残るのは、リーダーである少女一人だった。
(一方的に攻めてる時ほど気を付けろ……やられる側になって始めて気付くなんてな。)
自分のミスだ
何時も通りに襲撃を仕掛け、程々に戦い退いていく。ここ何日も繰り返した行為であり、楽とは言えないが、慣れきった仕事だった。だから、慢心があった。それに加えて、相手の弾薬が尽きかけているのを知っていたのも、慢心を加速させた。
その結果がこのザマ
予想以上の反撃を受けて拠点まで撤退したのは良かった。そこまで何時もと変わらず、後は装備類を纏めて帰還するだけのはずだった。だが、反撃の余地もなくそのまま襲撃されるのは完全に想定外だった。事前に与えられた情報を鑑みても、連日襲っている相手が自分たちの拠点を見つけ出すなど思っても見なかったのだ。
余裕を与えていたと、認めざるを得なかった。
それだけ差があったのだと
「……クソッ」
「手ひどくやられたな。」
背後からの声に即座に反応し発砲する。金属音が響くも手応えを感じず、すぐに対象から距離を取った。
「だが、反撃の余力は残している。退き方としては合格だ。」
それを受けた当の本人は、感心した様子で笑っていた。本来居るはずがない人物に、リーダーは驚嘆する。
「ボス!どうしてここに!?」
「仕事ついでの様子見だ。」
なんてことないように、エコーはその質問を受け流した。
あの後の展開は、エコーが識っているものと相違なかった。学校での戦いは、ほとんど原作通りに終わった。強いて言うなら小鳥遊ホシノの側にユメが居て、安堵の表情を浮かべていたくらいか。その顔も、ホシノが拠点の強襲案を出した時に、昔を懐かしむ感じと少し困った感じが混じったものになっていた。
その後の拠点での戦いも大した変化はなし。違いという違いは、目の前の部下達の姿が答えだった。騒ぎを聞きつけ集まった旧ヘルメット団一同は、今までで間違いなく一番ボロボロでありながら、今まで見た中で一番いい動きをしていた。それも、相手がエコーであることを知って既に警戒は解いている。
「すいません、ボス」
リーダーが深く頭を下げる。それは彼を撃ったことに対するものではなく、試算以上の損害を受けてしまったことに対してのものだ。
元々達成するつもりがない依頼と言うこともあり、難易度の割には支援は控えめになっていた。それが小さなものとは言え拠点を一つ潰されるという損害を被ってしまったのだ。用意された物資の事なども考えれば、大失態と言える。
「謝るのはこっちだ。アビドス高校の実力を甘く見積もっていた。お前たちは、その被害者に過ぎない。」
嘘である。初めからこうなることは分かっていた。これは原作を識っているから、っというだけが理由ではない。
リーダーである彼女でようやくセリカと真っ当な勝負が出来るかもしれない程度で、他の面子ではどうあがいても勝負にならない。総合力で見ても、負けないことは不可能ではないが勝つことは絶対に出来ない。しかも、その結論もリーダーである彼女が健在且つ冷静に指示を送れる状況であることが前提であり、彼女が何らかの理由で指揮不能になった瞬間に全てが終わると言うどうしようもない差があった。
その上での失敗前提の襲撃。そんな温い襲撃を何時までも
「けど、拠点も滅茶苦茶にされて」
「あれは使い捨ての拠点だ。別に大したものじゃない。」
「支給してもらった物資も全部奪われて」
「あんな数にも入らんガラクタなどくれてやれ。」
「あいつらの良いようにされて」
「いい経験になったと思っておけ。」
そう、結局のところ、経験を積ませる目的以上のものはなかった。初めから失敗すると分かっているものなら、せめて今後の期待が持てる人材たちの経験値になってもらうのが、最低限の実入りになると判断したからだ。拠点も、物資も、今の情けない姿すら、何一つとして彼女達が気にするべきものはない。
全ては、エコーの責任だ。
好きなだけ責めて、スッキリしたら反省して、そして次に繋げるためにまた頑張ってくれればそれでいい。彼にとっては、その程度の話だった。
「……くやしいんだよ。」
だから、この一言は予想外だった。
自分の指示に従い、その通りに動き、順当に負けた。
ただそれだけ。
だが、彼女には、そう割り切れなかった。
「あんたの指示だからって言うのは分かってる。アイツらの強さも、何度もやって思い知らされた。でも……」
握られた手がギリギリと音を立てる。割れたマスクのすき間から、ギリギリと食いしばられる歯が見えた。
「負けて、いいようにされて……
俯き、絞り出すように吐露された言葉。後ろに居る仲間たちも同様の想いのようで、昼頃に見掛けた時のような何処か諦めの混じった気配がなくなっていた。
『このままでは終われない』
確固たる意志が、その内に宿っていた。
(……なるほど、こうなるか。)
セリカが拐われ、それを助けるために先生とアビドスは協力してセリカを助ける。この一連の流れを得て、先生はアビドスの生徒たちと絆を深めていく。それが本来の流れだ。
だが、彼女達の様子を見るに、それをやるようには見えない。むしろ、真っ向から勝負する気満々と言った所だ。
(『先生と生徒の絆』……ここで大事なのは、それだけということか。)
世界は元に戻ろうとする。
そのことを確認したエコーは、リーダーに地図を渡した。
「…?これは?」
「明日の朝までに、そこにマトモなやつを送っておく。好きに使え。」
リーダーが顔を上げる。他の面々も驚いた様子を見せた。
既に依頼は完了している。指示通りに失敗の形でだ。
自分たちの出番はない。もう次に送られる人員も決まっている。
だが、それでも、後一度だけ許されるのなら――――
「ボス…!」
「…程々に痛めつけて帰って来い。お前たちは、もう野良犬じゃない。」
「……!はい!!」
エコーは、手綱を手放した。まだまだ猟犬と呼ぶには遅い足取りだが、確かな牙を持った者の歩みだった。
(……酷いやつだな、全く。)
自嘲気味に空を見上げる。
いつか見た星空に似た、哀しいほどに綺麗な空だった。
〜翌日〜
「何よ何よ!!皆あんな大人のことを信じちゃって!!」
セリカは、憤慨していた。
先日、突然現れ勝手に自分たちを助け始めた大人に、その大人を信じている仲間たちに激怒していた。セリカには、先生が分からない。散々自分たちを騙してきた者たちの同類が、何故何の見返りもなく自分たちを助けようとするのか。
「今更、信じられるわけないでしょ……」
本当は、他の大人とは違うかもしれないと思ってはいる。だが、それを認めてしまっては、自分が今までしてきた努力が、全て無駄だったのではないかと思ってしまいそうになる。そんなことを、認められるわけがなかった。
暗い夜道を、一人で歩く。何時も通りの帰り道。
「黒見セリカ」
その道を遮る形で、一人の人物が彼女を呼び止める。
良く見れば、先日叩きのめしたヘルメット団のリーダーらしき少女だ。
「何よ?今、私は虫の居所が悪いの。来るってんなら……?」
言い切る前に、目の間に封筒が投げ出される。罠か何かかと警戒するも何も起きず、相手は此方の様子を窺うだけだ。
「……何よ、これ。」
「果たし状だ。」
困惑しつつ問いかければ、何処までも平坦な答えが返る。
「中に場所と日時が書いてある。約束の時間までにそこに来い。来なければ、お前らの母校を潰す。」
完全な宣戦布告
それを受けた当事者は、小馬鹿にした感じで鼻を鳴らす。
「馬鹿にしてるの?あんたたちが私達に勝てたことなんて、一度もないじゃない。」
一度も負けたことがない相手からの脅迫ほど滑稽なものはない。毎日来ては追い返されるを何度もしてきた相手なだけに、怒りよりも先に呆れが出るほどだ。
そんな彼女の言葉に答えるように、静かに手を挙げた。
瞬間、周囲から飛来音が鳴り、セリカの周囲で爆発が起きる。
「ッ!?」
直近で起きた爆発に姿勢を低くする。だが、どれもセリカの周りで爆発するだけで、彼女に直撃するものは何一つとしてなかった。代わりに自身の周りの地面は大きく抉れ、周囲にあった建物にも幾分か被害が出ており、酷いものではほぼ半壊している。この近辺に人がいなかったのは幸運だった。
「良かったなぁ、とっくに人がいなくなった場所で」
その幸運も、全て計算づくだったのだと知れば話も変わるが
爆煙が薄れたその先には、先ほどはいなかったヘルメット団達がセリカを包囲する形で姿を現していた。その装備は、見ただけで先日のものより良いものであることが分かる代物であった。さらに後ろには複数の迫撃砲が此方を狙っているのが視界に映り、何時でも自分を撃てる姿勢で居た。
「これで脅しじゃないって分かったか?私たちは、お前たちの母校を何時でも潰せる。選択肢なんてないんだよ。」
当てようと思えば当てれた。だが、実際は一発も当たらず、その周りだけが破壊されている。それが何を意味するか?
母校を潰す
「―――!舐めるな!!」
現実的な答えを前に、セリカは首を振って噛みつく。包囲しているヘルメット団の団員達は、その動きに対して何の反応も示さなかった。
(装備が整ってもヘルメット団!リーダーさえ抑えれば―――)
自分の動きに周りは反応できていない。このままリーダーを倒せば、それで終わる。学園を護れる。
セリカは駆けた。
セリカは賭けた。
もうリーダーと自身との距離はないに等しい。ここまで行けば、同士討ちを恐れて周りは撃てなくなる。そのことを、今までの経験から理解していた彼女は、迷わずリーダーの懐に飛び込んだ。
飛び込んでしまった。
「舐めるな、か……」
呟き、反転
地が空を向き、空が足を撫でる
「えっ?」
背中に走る衝撃の直前に出たのは、そんな間の抜けた声。
セリカは駆けた。全力で
懐に飛び込んだ。その勢いのまま
そして、一歩踏み込まれ投げられた。
起きたことを言葉にすれば、ただそれだけのことだ。
「…ア…グゥ…」
「どんなに装備が揃っても、
額に冷たい何かが当たる。朦朧とする意識の中でも、それが何であるかは良く分かった。
「舐めんじゃねぇよ。
少しずつ視界が定まり、暗がりで良く見えなかった相手の姿がハッキリとする。そこらの道端でも見かける、赤いヘルメットに赤いマスク。何処にでも居るヘルメット団員の姿。全く見分けがつかない、有象無象の存在。
そう思いたかった相手が、
「大人しく、お仲間連れて来ることだ。お前一人の実力なんて、この程度のものなんだからな。」
セリカの手の内に果たし状を握らせ、彼女は背を向ける。他の団員達もそれに続く。誰一人として、セリカを視界に収める者はいなかった。
「……」
暗い夜道、セリカは一人夜空を見上げる。背中の痛みは、もう引いていた。
「……行かなきゃ」
すぐにこの事を皆に知らせなければ
頭でそう思っても、体は動いてくれなかった。最後に投げられた以外で、ダメージらしいダメージは負ってはいない。それなのに、体は動くことを拒否した。
視界が滲む
頬を冷たい雫が伝う
「…うぅ……うぅぅ……!」
その日、黒見セリカは、敗北を知った。
少し後、彼女は騒ぎを聞きつけた先生に見つかり、共にアビドス高校へ戻る運びとなる。その間に二人の間に何があったかは、二人だけの秘密である。
Q.あびどすなる地、借金があると風の便りにて伺い候。その真偽は如何に?
A.うっ……痛い質問だね。
……うん、借金はあるよ。それも想像がつかないくらい。多分、私が一生頑張っても返せないかもしれない。
でもね、私は自分が不幸だなんて思ってないよ。アビドスに産まれて、アビドスの人達と笑い合って、大切な後輩達の姿を見守る。少し寂しいと思うこともあるけど、そんな何気ない日々が、私にとっては宝物なの
だから、私は奇跡を信じてる!
いつか借金も全部返せて、アビドスが昔みたいに人でいっぱいになって、皆の努力が無駄じゃなかったって笑いながら言える日が来るって!!
そのために、私も頑張ってアビドスのことを、沢山の人に知ってもらいたいとおもってます!どんな質問でも送ってください!お待ちしています!
「暗い…あまりにも……」
「……確かに暗い話ですけど、嘘は着きたくないですから。」
「だろうな。」
「………」
「まぁ、お前らしいわ。これはこれで良いと思うぞ。」
「……!じゃあ…!」
「それはそれとしてこの教室名はない。
キャラに合わん。やり直し+投稿見送り。」
「ひぃん……」
感想、評価よろしくお願いします。