「……私の子供がまた殺されてしまった」
鬼殺隊を統括する産屋敷家、その九十七代目当主である産屋敷耀哉は部下からの報告を聞いて目を瞑り考え込んでいた。
「あの子は柱にまで上り詰めた強者だったが、上弦の壱には殆ど対抗できずに殺されたのか。何時ものように」
生存者達の証言で柱は最後まで戦うもまったく勝負にならず一方的な展開だったと知った耀哉は深い溜息をつくが堪えた様子は見せなかった。柱の殉職率は非常に高く死因の半数以上が上弦の壱によるものであり、もはや恒例行事といってもいいくらいよく起こる出来事に耀哉は慣れてしまっていたのだ。
「幸運な事に他の子供達は生き延びたが全員が鬼殺隊を辞める、か……それが賢明だね。命を惜しむ事は何も恥ずかしい事ではないのだから」
心が折れて引退を表明した隊士達を耀哉は責めなかった。自分の命を惜しむのは当然であり復讐を諦め平穏に暮らすというのなら耀哉も応援するつもりであった。
「私と違い彼らには未来の希望がある。鬼殺隊を辞めるというなら退職金を用意しなければ。裸一貫で放り出すわけにもいかないし」
鬼殺隊を辞める隊士達の為に色々と手配を進める耀哉であったが、作業の合間にふと手を止め考える。
(私も、父のように諦めるべきなのかな?これ以上私の、産屋敷家の我儘に子供達を巻き込むのは……)
戦いにもならず成す術なく殺されていく柱達、心を折られ鬼殺隊を去る者達を見続けた耀哉は自分達も諦めるべきではないかと思い始めていた。絶望して自殺した父親の顔が思い浮かび、そして耀哉は先代の炎柱の言葉を思い返す。
"お館様、無礼を承知で申し上げます……どうか、どうか息子を巻き込まないでいただきたい。私は父親として、あの子には平穏な人生を送ってもらいたいのです"
"
"天災は人にはどうにもできませぬ。再度無礼を承知で申し上げます……お館様、もう、意地を張り続けるのはおやめになるべきです"
「それは、わかっているさ」
滂沱の涙を流しつつ訴えていた先代炎柱の言葉を思い出し耀哉は苦笑する。上弦の壱がいる限り鬼殺隊に勝利はないという事は痛いほど理解していた。
「今の鬼殺隊が存続できているのは
耀哉は上弦の壱が自分達鬼殺隊の事を脅威とは認識していない事を察していた。剣を捨てれば命は助けるという甘い対応をしているのは上弦の壱なりの慈悲だと理解していた。
「……だがね、今更諦める事はできないよ」
産屋敷家にかけられた短命の呪い……始祖の鬼である鬼舞辻無惨を討伐しない限り子々孫々に渡って呪いが受け継がれるという理不尽な呪いを克服する為に耀哉は最後まで戦い続ける事を決意したのであった。
「なぁ
「ええ、無惨様にも御報告済みです」
「ありゃりゃ、鬼狩りの生殺与奪の権はこちらが完全に握っているわけか。鬼狩り達もかわいそうに……もう無駄な抵抗は止めて諦めたらいいのにね」
「お、いい食いっぷりじゃねえか。俺の作ったうどんはお前の舌に合ったようだな」
「はい、このうどん出汁がきいててとても美味しいです!」
「そいつぁよかったぜ、お代わりもいいぞ。お代はいいからもっと食いな」
「ありがとうございます!」
竈門炭治郎は屋台のうどんに舌鼓を打ちつつ妙に親切な屋台の店主に対して不思議に思っていた。炭治郎は持ち前の驚異的な嗅覚で店主に悪意が一切ない事を見抜いていたが、ここまで親切にしてくれる理由がわからなかったのだ。
「あの、どうしてこんなに親切にしてくれるんですか?」
「あー、いや、気まぐれだよ。俺の勘だけどお前鬼殺隊の人間だろ?元同僚として親切にしようと思っただけだから気にしなくていいぞ」
「えっ、貴方は元鬼狩りなんですか!?」
目の前の店主が元鬼殺隊だと知り炭治郎は驚く。
「そうだぜ、俺は元鬼狩りさ……二年前にビビって辞めたけどな。その時貰った退職金と貯金を使って屋台を始めたんだ」
「へぇ~、鬼殺隊って退職金が出るんですね。初めて知りました」
「お館様には頭が上がんねえよ、俺みたいなビビって逃げ出した腰抜けにも金をくれるんだから足を向けて寝られないね」
思わぬ出会いに話が盛り上がる二人であったが、炭治郎は店主が何故鬼殺隊を辞めたのか気になり聞いてみる事にした。
「どうして鬼殺隊を辞めたんですか?」
「お前聞きにくい事をずけずけ聞いてくるなぁ……まあ、よくある話だよ。とんでもない化物に出会って心が折れちまったのさ」
炭治郎の問い掛けに店主は頭を掻きつつ自分の過去を話す事にした。
「俺が鬼殺隊に入ったのは復讐じゃなく金を稼ぐ為さ。身寄りのないガキが大金を稼ごうと思って危険な鬼狩りになるのは別におかしな話じゃねえだろ?」
「まあ動機は不純ですけどわかります」
「当時の俺は大馬鹿者でなぁ、鬼狩りになったのはいいが危険な鬼と戦うのはできる限り避けて安全に出世したいと考えてたんだ」
「馬鹿なんですか?鬼殺隊の殉職率は知ってたはずですよね?命が惜しいのならそもそも鬼殺隊に入らなければよかったじゃないですか。馬鹿なんですか?」
「お前真顔で酷い事言うなぁ!まあ事実だけどさぁ!」
何考えてんだコイツ、と真顔でツッコミを入れた炭治郎に店主は苦い顔をしつつも過去の自分が愚かだったと自覚があったので怒る事はなかった。
「んで、平隊士として任務に従事してたんだが……出会っちまったんだよ、
「
「お、知ってたか。まあ
炭治郎が上弦の壱について知っていると聞き店主は納得する。鬼殺隊にとって上弦の壱は怨敵であり平隊士でも知っているのは当然だと。
「上弦の壱、死の化身だと聞きましたが実際はどんな人物なんですか?」
「……普通だったよ」
「え、普通?」
店主の返事に炭治郎は困惑するが、同時に彼から深い恐怖の匂いが発せられている事に気づく。
「ああ、普通だったよ。威厳も何もない普通の人間に見えた。鬼の中でも上澄みの上弦の鬼だというのに、奴はただの人間にしか見えなかったんだ」
「ただの、人間?」
「最初は俺も甘く見ていた。こんな弱そうな奴なら俺でも殺せるとな。でも直後に柱があっさり無力化されて自分が誤解していた事に気づいたぜ」
店主は小刻みに震えつつも上弦の壱について話し続ける。
「
「ッ」
「柱が何もできず殺されたのを見て俺は即座に土下座して命乞いしたよ。あの場にいた俺以外の隊士達も心が折れていた。そして俺達はそのまま鬼殺隊を辞めて一般人として再出発したのさ……俺達は幸運だった、あの化物に出会ったのに五体満足で命を助けられ鬼殺隊を辞める事ができたんだからな」
自分の過去を話し終えた店主は炭治郎を見て躊躇するも意を決して忠告する事にした。
「逃げ出した臆病者の忠告だぜ。復讐なんか諦めて平穏に暮らしな。
「そう、ですか」
店主が本気で自分を心配して忠告している事を察した炭治郎は感謝しつつも逃げ出す事はできないと答える。
「ありがとうございます、でも俺は諦める事はできないんです」
「そうか、そうだよな。素直に聞いて諦めるくらいなら鬼狩りにならないよなぁ」
忠告を受け入れない炭治郎を見て店主は残念に思いつつも彼を応援する事にした。
「なら頑張れ、死ぬんじゃねえぞ……またうどんを食いに来いよ」
「ええ、ごちそうさまでした!うどん美味しかったです!」
丁寧に礼を言って去っていく炭治郎を見送った店主は、彼が死なないよういるかどうかわからない神仏に祈る事にしたのであった。
<人物紹介>
●産屋敷耀哉
→鬼殺隊の現トップ。穏やかな態度をしているが原作だと必要なら産屋敷ボンバーも辞さない異常者である。やはり鬼殺隊は異常者の集まりなのでは?(無惨様並感)
この世界ではオリ主のせいで鬼殺隊がズタボロであり精神的に追い詰められているが、それでも諦めない心のつえぇ奴である。でも隊士達が命が惜しいから鬼狩りを辞めたいというなら本人の意思を尊重する聖人でもある。
●煉獄槇寿郎
→お館様へ涙の直談判をしていた。心が完全に折れ意気消沈した姿を見て柱達は思わず同情するが、「お館様は無駄な抵抗はやめろ」という言葉を聞いてブチ切れていた。ちなみに耀哉はその時殺気立つ柱の面々を落ち着かせるのに大変だった模様。
●竈門炭治郎
→原作主人公で心のつえぇ奴。ちょっとノンデリなところがチャームポイント。元鬼殺隊の店主の忠告を聞きつつも諦めずに戦う事を決意した心のつえぇ奴である。
オリ主がすぐ近くまで来ているがまだ見つかってないから大丈夫だ、問題ない。
●うどん屋の店主
→サイコロステーキ(にならなかった)先輩。安全に出世したいというふざけた考えの持ち主だったが、理不尽の化身である上弦の壱と遭遇し自分が愚かだったと自覚、鬼殺隊を辞めて日銭を稼ぎつつ慎ましく暮らす事にした。ちなみに似たような境遇の元鬼狩りはそこそこおり、心の中の幸せを入れる箱に穴が空いてる男も現在は鬼狩りを辞め慎ましく暮らしているようだ。
上弦の壱については厄災だと考えており人では対抗できないと確信している。まあ第二の縁壱であるオリ主に対抗できるとすれば縁壱ぐらいなので間違ってはいない。
今回は短めに終わると思います。今後は少しずつ投稿していく予定なのでよろしくお願いします。