平行線機能不全   作:キユ

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 この作品は“金田一少年の事件簿”の腐向け二次創作です。作品内で原作(漫画・小説・スピンオフ含む)のネタバレがあります。
 当シリーズは二〇二六年二月時点でpixivに五十五話まで投稿しています。こちらには文章の微修正を行いつつ、しばらく毎日投稿予定です。


第一部
序章「平行線の消失」


 高遠遙一が“それ”を知ったのは、腹立たしいことにすべてが終わったあとだった。

 

 

   ◆

 

 

 告別式。

 この手の場所は、地獄の傀儡師として新たなマリオネットを探すために何度となく訪れたことがある。悲しみ、戸惑い、怒り、疑念、欲望……本来なら様々な感情が渦巻いているはずのここには、ただ大きな悲しみだけがあった。

 七瀬美雪は少年が失われた日から枯らすことなく涙を流し続けている。剣持勇は人目も憚らず号泣し、明智健悟は表情にこそ出さないが赤く充血したその目が彼の心情を物語っていた。

 

 誰も彼もが、ただただ悲しみ、少年の喪失に傷ついている。……高遠遙一を除いて。

 

 

 

 金田一一が死んだ。

 高遠の用意した惨劇の上でもなく、素人探偵を恨んだ関係者の復讐でもなく、少年の価値などなに一つ理解していない通り魔による犯行だった。

 人通りの少ない夕方。

 背後から振り下ろされる形でナイフによる一撃をくらい、振り返るとその腹部にもう一太刀。抵抗したのか、逃げようとしたのか、腕や大腿にも複数の刺し傷があった。

 刺傷による失血死。

 少年の死体検案書にはそう記されている。

 

 

 

 死に顔は、うそのように静かで穏やかだった。

 

「……金田一君」

 

 生前のように呼びかけてみるが、少年がその正義感に燃える瞳を開けることはなかった。

 宿敵の最期に偽りの姿で訪れる気にはどうしてもなれず、高遠は変装らしい変装はしていない。警察関係者の知り合いが多い少年の告別式に参加するリスクは承知しているが、そうそう捕まる気はないし、高遠を捕まえられるただ一人はもう永遠に手の届かない場所に行ってしまった。

 高遠の知らない間に、高遠の関知しない事件で、高遠にとってなんの価値もない人間の手によって……その生命を奪われた。

 

 どこかで金田一一は殺しても死なないと思っていた。

 

 底なし沼に沈めても、走行中のバスから飛び降りさせても、吊り橋ごと落としても死ななかったから。頭部を強打されても、猟銃で腹を撃ち抜かれても死なないくせに、ただの通り魔に殺されるなんて質の悪い冗談にもならない。

 それでも、もし彼が死ぬとしたら、それは高遠が用意した美しい惨劇の上で起こるべきだったはずだ。

 

「君は、天国とやらに行くんですかね」

 

 燃えるような正義感と類まれな推理力を持った名探偵の孫。 

 罪を憎んで人を憎まず、犯人にすらその優しさを向ける善良な少年。地獄の傀儡師・高遠遙一のたったひとりの平行線たる彼は、自身の死の瞬間すら人を恨まなかったのだろうか。

 

「まったく腹立たしいほど穏やかな顔だ」

 

 一欠片でもそこに憎しみがあればよかったのに。

 死への恐怖に引きつった顔でもしていてくれれば、金田一一とてただの人だと、素人探偵気取りの少年が愚かにもくだらない結末を迎えただけだと嘲笑って切り捨ててしまえたのに。

 静謐なその顔は疑う余地すら与えてくれない。

 死してなお、なに一つ高遠の思い通りになってくれないとは、どこまでも憎たらしいクソガキだ。

 

 高遠は生まれて初めて、人の死に対して後悔を抱いていた。

 

 以前、幻想魔術団の連中に近宮玲子を殺されたと知ったとき感じたのは、私利私欲で母を殺し、その素晴らしいマジックを汚した卑しい奴らに対する憎悪だ。そこに純粋な死への悲しみなどはなかった。

 金田一一を殺した犯人に対する怒りはもちろんある。

 ただそれは八つ当たりにも似た癇癪に近い感情であることも自覚している。

 彼の死を知ってから、どうしてかうまく息ができない。

 

「君に最後のマジックを」

 

 血のように紅い薔薇を少年の棺へと忍ばせる。

 ここまで持ってきた箱をそっと目立たぬ場所に設置し、もう一度棺の中で眠る彼の顔をのぞき込んだ。

 

「私を捕まえられなかった名探偵君にささやかなプレゼントです。……残念ながらちっとも美しくないんですが」

 

 衝動的な殺人などまったくもって美しくない。

 どれほどの憎悪に身を焦がそうと、復讐とは完成された魔術(マジック)さながらに美しく謎と怪奇に満ちたものであるべきだ。

 名探偵に相応しい謎を。地獄の傀儡師の平行線たる彼に似合いの芸術犯罪を。

 決して交わることなく、それでいていつも隣にある平行線との間には、美しい惨劇だけがあるはずだったのに。

 

 闇と光の双子。コインの裏と表。いままで自身と少年の関係を表裏一体のものにたとえてきたが、彼を失ってまさしくそれが的を射た表現だったと痛感している。

 名探偵なくして、地獄の傀儡師は存在しえない。

 だから、ここにいるのはただの殺人者にすぎない高遠遙一なのだ。

 

「Good Luck! 次は地獄でお会いましょう」

 

 天国には行かせない。

 君の死によって無惨に殺された男の首を抱えて、罪悪感と痛苦のなか、地獄へと落ちていくといい。お優しい君は、己が捕まえそこねた犯罪者の罪まで背負って死の門をくぐるのだ。

 

 ああ! まったく、他人に奪われる前にこの手で殺してしまえばよかった!!

 

 

 ◆

 

 

 ○月✕日。

 男子高校生殺害および連続通り魔事件の被疑者が拘置所内で惨殺されるという前代未聞の事件が発生。拘置所からは首が持ち去られており、その首は同日ある人物の告別式会場にて発見される。

 その告別式は通り魔事件の被害者のものであるとの情報があり、警察ではこの二つの事件の関連性を調べている。警察関係者の話ではある凶悪犯罪者の関与が疑われているとのことだが――。

 

 

 

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