17
船内での他殺体発見の報を受け、オリエンタル号船長の
なにもこの輝かしい処女航海で、しかも自分が船長のときに事件を起こさなくてもいいだろうに。そう思い「間違いではないか」と三度聞き返したが、残念ながらその事実は揺るがなかった。
事件や事故で人が死んだ部屋を『事故物件』などと呼ぶが、殺人事件が起きたこのオリエンタル号はなんと呼ばれることになるのか。
事故客船? 水上の殺人リゾートホテル?
どちらにしろ不名誉極まりない呼称でマスコミたちを騒がせることになるのは間違いない。そして、その責任は船長たる自分に降り掛かってくるのだ。
「……終わった」
鷹守の頭の中にあったオリエント海運重役という未来が幻のように消えていく。
もうなんの気力も湧かない。鷹守は灰のように真っ白になり、呆然と暗い夜の海を眺めるしかなかった。
◆
ちょうど関門海峡付近を航行していたこともあり、連絡した海上保安庁の指示に従い、オリエンタル号は急遽進路を変更して山口県下関港へと寄港した。
到着した刑事たちが現場検証をするのを見ながら、ハジメはそっと隣に立つ夏帆を窺う。
ハジメが寝室に飛び込んだとき、彼女は夫の死体を前に、ベッドのそばに佇み真っ白な顔で政則を見つめていた。口を覆ったその手はかすかに震え、続く悲鳴を押し留めているようだった。
立ち尽くす彼女からは夫の死による衝撃と動揺が伝わってきたが、それでも、ハジメのなかにある夏帆への違和感はここにきてどうしようもないほど大きくなっていた。
この寝室の照明スイッチはドアの横にある。
部屋に入り電気をつければ、すぐに政則の姿は目に入ってきたはずだ。夏帆が悲鳴を上げるまでの数十秒間。彼女はわざわざベッドの右側へと回り込んでなにをしていたのだろうか。
仮に悪戯かなにかだと疑って政則の死を確認しに近寄ったのだとしても、それならば入り口から近いベッドの左側にいなければおかしい。
だが――泰田夏帆にこの犯行は不可能だ。
ほかでもないハジメ自身が彼女のアリバイを証明できる。
ハジメが寝室へと入り、政則の死体に近づいたときには彼の身体はすでに体温が下がり、顎の硬直が始まろうとしていた。
つまり劇団幻想のときのようなトリックは使えない。それに、夏帆とハジメの死体発見のタイムラグはほんの一分にも満たないのだ。大掛かりな死体偽装などができたとは考え難かった。
「えー、泰田夏帆さん? 被害者の奥さんですよね。少々事情をお聞きしたいんですが……ん? この子は?」
「あ、この子はあたしと一緒に夫を見つけた、その第一発見者で……」
「金田一一です」
「あたしたち、一緒にミステリーナイトに参加してて。それで、そのあとお茶でもしようって――」
ハジメは話しかけてきた刑事に死体発見までの事情やその状況を説明する夏帆を注意深く窺う。
彼女の話しぶりは冷静で、刑事へと告げる内容もハジメの認識と矛盾はない。夏帆はたしかに、政則がミステリーナイトの始めに部屋へと戻ってから死体として発見されるまで、ほとんどずっとハジメとともに行動していた。
「つまり、あなた方が最後に被害者を見たのは、そのミステリーナイトが行われていた六階のダイニングで、時間は二十時十五分頃だったと。……失礼ですが、政則さんは誰かに恨まれているようなことはなかったですかね?」
「……いいえ。どうしてですか?」
「司法解剖の結果を待たないとくわしいことはわかりませんが、どうやら政則さんは背後から包丁のようなもので二か所を刺されたらしい」
「それが……?」
「ほかに目立った外傷はない。その二つの刺し傷が間違いなく致命傷でしょう。――ただ、この傷はどうやら肺にまで達していると思われる。政則さんの死因は、いわゆる窒息死なんですよ」
大きな血管や心臓を避け、あえて肺を狙ったのではないかと考えている、と刑事は続けた。
肺に穴が空いたせいで息を吸おうにも肺が拡がらずに窒息へと至ったという。そこから政則が十分から十五分の間かなり苦しんで死んだであろうことが予想できた。
「衝動的な犯行とは言い難い。深い恨みや、憎しみみたいなものを感じるんですよ」
刑事はそう話を締め括り、じっと夏帆を見つめる。
彼女は第一発見者で被害者の妻。そして、ここが船の上であることを考えると行きずりの犯行という線は薄い。警察は夏帆を重要な容疑者の一人として考えているのだろう。
そんな刑事の視線に気づいていないはずがないのに、夏帆はどこまでも静かな面持ちで「心当たりはありません」と淡々と答えた。
「まあ、奥さんにはもう少しお話を聞かせていただきたい。よろしいですね?」
「はい。……ごめんね、金田一さん。こんなことになっちゃって……ほんとに、ごめんね」
「夏帆さん……」
苦しそうな顔で何度も謝る夏帆は、刑事に促され事情聴取を受けるためリビングルームの一角へと歩いていった。
彼女の謝罪が言葉以上の意味を持っているように感じられて、苦い思いが湧き上がってくる。
夏帆がなにかを知っていて、この事件に深く関わっているのはもはや間違いなかった。
「夜も遅いし、君はもう帰ってもいいよ。泊まっている部屋番号と連絡先だけ教えてもらえるかい? あっ、それともご両親を呼ぼうか?」
「いいえ、一人で大丈夫です」
先ほどとは違う若い刑事は、死体を見てしまった子どもを気遣ってか、優しい声音でハジメを部屋の外へと案内してくれる。
夏帆のことが気にかかったが、ハジメは若い刑事の言葉に大人しく従った。
自分も死体発見者のひとりであり、夏帆のアリバイの証人でもあるので、事件について探りを入れる機会はある。知り合いの警察官もいない状況で、無理をして初動捜査に加わる必要もない。
「あちゃ〜。結構人が集まってきてるな」
若い刑事は困ったように頭を掻きながら、そっとハジメを自分の背に隠してくれる。
彼の後ろから特等客室エリアを窺えば、高級感漂う廊下には不似合いな黄色い規制テープが貼られ、その向こうには騒ぎを聞きつけて集まった人々とそれを宥める警察官の姿が見えた。
「そうケチくさいこと言わないでよ、刑事さん。同じ船の乗客として、ちょっとくらいなにがあったか教えてくれてもバチは当たらないんじゃねぇかな」
「あー、はいはい。フリーライターだかなんだか知らないが、部外者に話せることなんてあるわけないだろう。しつこくすると公務執行妨害でしょっぴくぞ!」
警察官と言い争っているのはいつき陽介だった。警察官の嫌そうな態度にも怯むことなく、なんとか規制テープの内側に入ろうとしている。
「はは。いつきさんってば、相変わらずだなぁ」
呆れるというかなんというか。
図々しくて不躾で、一見嫌な男にしか見えないのだが、あれでなかなか情に厚いところもある。そしてジャーナリストらしいしつこさもしっかりと持っている。
見つかると面倒臭そうだと、ハジメはそのまま若い刑事を盾に規制テープまで近づき、こっそり人混みへとまぎれた。
廊下の端に寄り、集まった顔ぶれを見回す。
もちろんたいていは知らない顔だったが、なかには何人か船内で見かけた人物がいた。
ひとりはあのナンパ男。彼はミステリーナイトのときに一緒にいた女性ふたりを連れたまま、野次馬に混じって規制テープの先を眺めている。特等客室に泊まっていると言っていたから、部屋に戻れず困っているのかもしれない。
「ちょっと! 自分の部屋に入れないってどういうことよ!!」
「わざわざ高い金を払ってこの特等客室に泊まっているんだぞ! こんな問題が起きて、観月旅行社はどう責任を取るつもりなんだ!?」
香山夫婦も特等客室の客だったらしく、乗務員や警察官に詰め寄っていた。
どうやら簡単な現場検証が終わり、特等客室の乗客が確認できるまでは誰も規制テープのなかには入れないことになっているようだ。
「なにがあったんでしょうか?」
「さあ、くわしいことはわからないが……どうも殺人事件のようだ」
「さ、殺人!?」
声を抑えながらも驚きと興奮が隠せていない山下と話しているのは、彼の担当作家だという尾野治だろう。その痩身と顔に刻まれたしわからはどこか枯れ枝のような印象を受けるが、弱々しさは微塵も感じられない。
編集者から偏屈と評された人気作家はひどく不機嫌そうな顔で野次馬と警察官を見つめ、皮肉げにその口の端を歪めた。
尾野がどうやって事件のことを知ったのかが気になり、ふたりの会話をもう少しよく聞こうと近づきかけたハジメの足を止めたのは、酒とタバコでしゃがれた特徴的な声だった。
「まさか、青髭の野郎が殺されるなんて……どうなってやがる」
独り言のようにつぶやかれたそれに聞き覚えはなかったが、その内容が気になって声の主を振り返れば、何度か船内で見かけた男だった。男はいつぞやと同じようなシャツに草臥れたスラックスという出で立ちで、その鋭い眼光で睨みつけるように辺りを見回していた。
まるで――“青髭”を殺した犯人が、すぐそばにいるのではないかというように。
18
男の漏らした「青髭」という言葉に気をとられていたハジメは、突然腕を掴まれ心臓が止まるほど驚いた。
「金田一君」
「! ……っくりした、なんだ高遠かよ」
まだドキドキとする胸を抑え、掴まれていた腕をとり返す。
掴まれた瞬間はひどく強い力が込められていたように感じたのに、その手は拍子抜けするほどあっさりと解かれた。
高遠は自分から声かけてきたくせに黙ったままで、てっきり「やっぱり事件が起こりましたね」とでも言われるだろうと身構えていたハジメは、その不可解な彼の態度に内心首を傾げる。
「なんだよ。なんか……怒ってる?」
高遠の表情はいつもと変わりない。
心のうちなど微塵も読ませないポーカーフェイス。
しかしそれなりに長い付き合いを経て、お互いに相手の微妙な変化や感情の機微などを読みとれるようになったと思う。
そんなハジメから言わせると目の前に立つこの男は間違いなく不機嫌だった。
「……さあ?」
それ以上踏み込むことを許さない笑顔だったので、今度はハジメのほうが黙り込んだ。
とりあえず、高遠の機嫌がすこぶる悪いらしいことはわかった。茶化して話を聞き出せる雰囲気でもないので、このままそこには触れずに話題を変える。
「――で、夏帆さんと一緒に旦那さんの死体を発見した」
「そうですか。それで? 君の推理は?」
「まだ推理なんて言えるほどのもんはねぇよ。くわしい状況もわかんねぇしな」
人混みを離れ、いままでの経緯を簡単に説明すれば、高遠はどこかつまらなさそうにハジメの話を聞いていた。泰田政則が殺されたことに対する驚きや興味がないのは、高遠らしいといえば高遠らしいのだが……やはりどこか違和感がある。
ハジメが事件に巻き込まれるのを楽しんでいるフシがある男にしては反応が淡白すぎるというか。
いつもの高遠なら、こんな形で事件に巻き込まれたハジメに悪意のある言葉の一つや二つ言ってきてもおかしくない。
もしも……もしも、泰田夏帆が地獄の傀儡師のマリオネットで、彼女が高遠の意に沿わぬ形で事件を起こしたのだとしたら?
ふと浮かんだ疑問を、ハジメは即座に否定した。
高遠がこの『オリエンタル号』を惨劇の舞台に選ぶとは思えない。プライドの高いこの男が、沈没事故などというハジメがほかに気をとられる要因のある舞台に納得するはずがないのだ。
高遠遙一が地獄の傀儡師として金田一一の前に立つのなら、それは彼が呼ぶ“平行線”という関係の決着をつけるに相応しい場所でだというある種の確信がハジメにはあった。
もちろん、そんな舞台を整えさせてやるつもりはまったくないが。
「あんたはこの事件についてどう思う?」
「おや、君が私の意見を聞くとは珍しい。お困りですか、名探偵君?」
「べっつに〜。たまにはプロの殺人者の意見を聞いとこっかなって思っただけ」
「そうですね。……凶器が犯行現場になかったのが少々気になります」
「ここは船の上だぜ? 窓からでも海に捨てたんじゃねぇの?」
「なら、死体も同じように遺棄しなかったのはなぜです? 寝具に包んで、それこそ窓からでも落とせば発見されるリスクは低いでしょう。今夜の天気は、犯人にはお誂え向きだったはずですよ」
昼過ぎからぱらぱらと降り出した雨は、日暮れ前には本降りへと変わり、いまもその雨脚は弱まる気配がない。高遠の言う通り、都合の悪いものを隠蔽するには適した天気だろう。
そもそも、肺を刺して窒息死などさせなくとも、酔わせて船から突き落とす方が簡単で犯行が発覚する可能性も低い。
「ここは『オリエンタル号』という巨大な密室です。人を殺すなら、特等客室エリアなどという容疑者が限られた場所にする必然性はありません」
「事故を装うほうが確実、だよな」
「ええ。死体やそれに類する証拠がなければ、殺人を立証することはできませんから」
「……でも、あんたはそういう完全犯罪は狙わないよな」
地獄の傀儡師が整える舞台はいつだって明らかな殺人事件だ。
犯人役のスケープゴートを自殺に見せかけて殺すということはあっても、初めから自殺や事故を装いターゲットを殺すことはしない。
高遠はハジメの言葉に少しだけ時間を置いてから、ぱっと手のなかでトランプを広げて見せた。
「金田一君。マジックには必ずトリックがあります」
「え、ああ、そりゃそうだろ」
なにを当たり前なことをとうなづけば、マジシャンは笑ってトランプを一度束ね、魔法の呪文を唱える。ワン、ツー、スリー。再び手の中で広げられたトランプはすべての絵柄が順番通りに並んでいた。
「マジックにはタネがある。それがマジシャンと観客の共通の認識です。もしも、これをマジシャンがタネなどない、魔法だ超能力だと言ったとしたら……それはマジシャンではなく、ただの詐欺師なんですよ」
だから、と高遠は続ける。
『芸術犯罪』には死体と、犯人と、
「事故や自殺に見せかけて殺す。あるいは犯行そのものを隠す、なんてそれじゃあ、ただのつまらない殺人者だ。合理的ではありますが、美しくはない」
「…………」
「いつか君に言ったでしょう。 “完成された
「いまも……いまも、そう思ってんの?」
「……ええ。君を私の
そう言う高遠の顔は穏やかで、どこまで本気なのかはハジメにもわからなかった。
いまの高遠遙一にはそのマジックで観客たちをあっと言わせることができる。望めばいくらでもステージに上がれるし、尊敬する母親と共演することだって可能だ。
芸術犯罪になどこだわる必要はどこにもない。
それでも、この男は自分をまだ地獄の傀儡師だと言うのだろうか。
「俺は、フツーのマジックショーのが見たいけどな」
ポツリと零れたそれはハジメの本音だった。
たぶん、再会したときから……ひょっとしたら一回目のときから、ずっと思っていたことかもしれない。
「私のマジックが好きですか?」
「……好きだよ」
なんとなく茶化すのも恥ずかしい気がして、素直にそう答えた。
ハジメに最初にマジックを教えてくれたのは祖父だ。大好きな優しい手が生み出すその謎に夢中になったことをいまでも覚えている。けれど、いつの間にかマジックを見て思い出すのは手解きをしてくれた祖父ではなく、目の前の男になってしまった。
ちっとも優しくないその手が生み出すのは、美しく鮮やかな謎で、それはいつだってハジメの目を惹きつけて離さない。
「それは、光栄ですね」
腹立たしいくらい淡々とした返答。
シレッとしたその顔に頭突きでも食らわせてやればスッキリしそうだが、あいにくいまのハジメでは身長が足りないので、代わりによろけたフリをして爪先を踏むことにした。……当然、プロの殺人者は女子中学生にその足を踏ませてなどくれなかったが。
「それで君はこれからどうするんですか?」
「あー、そうだ。高遠、“青髭”ってなんのことかわかる?」
野次馬の中にいた男の言葉を伝えると、高遠は少し思案したのち「なるほど。動機は充分なわけですね」とつぶやいた。
「動機?」
「たぶん、その男が言っていたのはシャルル・ペローの青髭のことでしょう」
高遠が語って聞かせたのは、こんな童話だった。
あるところに、青い髭を生やした金持ちの男がいた。
『青髭』と呼ばれ恐れられていた男は、これまでに六回結婚していたが、その妻たちは皆なぜか行方不明になっていた。
そんな青髭が七回目の結婚をする。
結婚してしばらく経ったある日。青髭は長期間の外出をすることになり、「家の中で自由に過ごしてよいが、小さな鍵の小部屋にだけは絶対に入ってはいけない」と新妻に鍵束を渡して出かけていった。
残された新妻は好奇心に負け、絶対に入ってはいけないと言われていた部屋を開けてしまい、その小部屋の中で先妻たちの死体を見つけてしまう。
当然のごとく帰ってきた青髭にそのことがバレて新妻は殺されかけるのだが、時間稼ぎの末、間一髪で駆けつけた新妻の兄たちよって青髭が倒される。新妻とその兄たちは青髭の遺産を手に入れ、金持ちとなった。めでたし、めでたし。
「――とまあ、一部内容を省きましたが、おおむねこんな話です」
「うへぇ。ずいぶんと血腥い童話だな」
童話というなら、もっとほのぼのとした話にしてほしい。野ネズミが大きな卵でカステラを作るとか、誰も不幸にならない感じの話を希望する。
「珍しくもない、好奇心に対する教訓的な童話ですよ」
「でも、小部屋に入らなくても、結局新妻はいつか殺されちゃうんじゃねぇの?」
「童話では青髭が妻を殺すために娶っていたのかどうかはわからないので、なんとも言えませんね」
初めから殺すために娶っていたのか。それとも、娶ってから殺す理由ができたのか。
『青髭』と称された泰田政則はどちらだったのだろう。
彼は妻を、夏帆を殺そうとしていたのか? その結果彼女に、あるいはその
「泰田政則が本当に青髭と呼ばれていたのかは知りませんが、君はその手のことにくわしそうな人間に心当たりがあるでしょう」
ヒラヒラと高遠が指先で揺らす名刺を見てぎょっとする。
「あっ、なんであんたがそれ持ってんだよ!?」
「もう使わないので返します」
「当たり前だ! てか、勝手に盗んな!!」
いつきの名刺はもらったときにジーンズの尻ポケットへと入れてそのまま放置していたから、それを盗ること自体はなにも難しくはない。問題はハジメが高遠にいつきと会ったことは話したが、名刺のことまでは言っていないということだ。なんで知っている。
というか、「
「若王子幹彦の足止めにちょっと」
「人の心を読むなよ!」
「顔に書いてありましたよ」
「へぇ。じゃあ、いつきさんから名刺もらったってのも、俺の顔に書いてあったのかよ?」
「君の顔、そんなことまで書いてあるんですか。便利ですね」
「うるせぇ! 皮肉だよ、皮肉! つーか、やっぱりあんた、俺に盗聴器かなんか仕掛けてるだろ!?」
「仕掛けて――」
「あー、あー! やっぱいい。答えなくていい」
仕掛けられていても怖いし、仕掛けられていなくても別の意味で怖い。そう、この世には解かなくてもいい謎もあるのだ。