平行線機能不全   作:キユ

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 今回は原作にはいっさいの関係がない事件です。そのためオリジナルの登場人物が複数人登場します。あとがきに簡単な登場人物紹介をつけていますので、よろしければご参照ください。
 作中の事件のトリックは『探偵学園Q』『名探偵コナン』『金田一少年の推理クイズ 難事件に挑戦せよ!』からネタをお借りしました。未読の方はご注意ください。


第四章「復讐の旋律①」

 

 青年はひとり、目の前に垂れ下がったロープをぼんやりと見つめていた。

 時刻はすでに午前二時を回っている。昼間は多くの人間が行き交うこのサークル棟も、いまは建物そのものが死んだように静まり返り、少し離れたところにある外灯の明かりだけが頼りなく青年の足元を照らしていた。

 静かすぎる夜の気配に身動ぎをすれば、足元の踏み台が青年の重みでギシリと軋んだ音を立てる。

 その音に急かされるように、青年は輪っかになったロープへと自身の首を通す。ロープが擦れた首筋がチクチクと痛んで、青年はその感触に顔を顰めた。だが、すぐにこれから首を(くく)ろうというのにそんな小さなことが気になる自分に苦笑が浮かぶ。

 死への恐怖はある。

 家族や友人は悲しむだろう。なにを馬鹿なことを、と彼を責めるかもしれない。しかし、青年は自分に残された道がこれだけだと信じていた。これこそが、あの許し難い連中へと一矢報いる手段であるのだと。

 遺書は、青年のもっとも信頼する人物に託した。

 あとのことはきっとあいつがうまくやってくれる。

 また、ギシリと踏み台が鳴った。

 冬の気配を感じさせる風が彼の肌を撫で、首につたうロープを揺らす。

 これで終わりだ。これでようやくこの数か月の苦しみと絶望から解放される。青年はなによりもそれに安堵していた。

 さあ、と心を決めたとき、不意に上着のポケットに入れたスマホが着信を告げる。

 闇の中に鳴り響くのはクラシック曲『冥府の使者』だ。

 ピアノの物悲しいメロディーのなかにもどこかおどろおどろしさがあるこの曲を、青年は高校時代から気に入って、いままでずっと着信音に設定してきた。

 病魔に侵された作曲家が自身の死を見つめて作った曲らしい。

 着信音にするにはいささか不吉な曲だと眉を顰めたのは、彼にこの曲を教えてくれた後輩だったなと束の間過去を懐かしむ。

 思えば、あの頃が一番楽しかった。

 気の置けない友人に、趣味の合う後輩。勉強漬けになると思っていた開桜学院での高校生活は、彼が考えていたよりもずっと充実していた。

 

 あの頃語った夢が叶うと思っていたのに。

 叶うはず、だったのに。

 どうしてこんなことになったのだろう。

 

 青年にはどれだけ考えてもわからない。

 ただ、これから自分がするべきことだけはもう決まっている。

 こんなタイミングで『冥府の使者』がかかってくるのはなんだか運命的で、自分が映画か小説の主人公にでもなったような気がした。

 着信は一度切れ、数秒と間を置かずに再びかかってくる。

 家族か、友人か……あるいは本当に冥府の使者が自分を迎えに来たのかもしれない。

 死へと誘うかのようなその旋律を聞きながら、青年は足元の踏み台を力強く蹴飛ばした。

 

 

 

 一年前の秋。

 大学構内のサークル棟にある古木で男子学生が首を吊って亡くなった。

 発見したのは早朝の見回りをしていた警備員で、すぐさま警察と救急隊が呼ばれたが、男子学生がその木から降ろされたときには彼はすでに冷たくなっていた。警察は現場の状況から自殺と判断したが、その理由についてはわからないことも多く、遺書も見つからなかった。

 謎の残る男子学生の自殺は一時大学内を騒がせたが、それもひと月も経てばほかの噂のなかへと消えていった。

 

 

 ◆

 

 

 サークル棟一階の突き当り、校舎や木の陰でほとんど光が入らない薄暗い場所にその部屋はあった。

 ドア以外のすべての壁が天井まで届く本棚で埋め尽くされているため、実際よりも部屋のなかはかなり狭苦しい。当然ながら窓も本棚で塞がれているので、外の光はいっさい入ってこない。

 ほかの部屋よりもなんとなく弱く感じる蛍光灯の光だけがこの部屋の中を照らしている。

 換気のすこぶる悪いこの部屋で暖房をつける気にはなれず、津島修治(つしましゅうじ)はかじかむ手をときおりカイロで温めながら小説のページをめくる。

 

 ミステリー研究会。

 

 それがこの部屋を所有するサークルの名前である。

 部員数は津島を入れて二十数人いるのだが、うち八割は悲しいことに幽霊部員だ。毎日のように部室に顔を出すのは津島くらいのもので、週に一度でもやって来る部員は片手の指で足りてしまう。

 数年前に法学部を卒業した多芸多才なイケメンの先輩が在籍していた頃は、部員数が百を超える大所帯だったらしいが、いまはもう見る影もない。もっとも、思い思いに好きな推理小説を読む程度の活動しかしていないので、それも仕方がないことかもしれなかった。

 こっそりと、ほんの密かに、推理小説家を目指している津島からするといまのミス研の活動は少々物足りないが、だからといって自分から「会誌を復活させよう!」と声を上げるほどの行動力もない彼は、入部当初からこうして部室で本を読み、ほかの部員と感想を言い合うというまったりした活動を続けていた。

 

「――ふぅ」

 

 読んでいた小説のあとがきにまで目を通して、津島は満足げな息を吐いた。

 すっかり冷めきったコーヒーをすする。

 

(いやー、さすがエンタメ小説界の巨匠。面白く読ます力がすごい)

 

 青春小説やお仕事ものエンタメ小説が人気の尾野治の新作はまさかの本格ミステリだった。

 『幽霊船殺人事件』はタイトルの通り、船の中で起こる連続殺人を偶然その船に乗り合わせた私立探偵が事件解明に乗り出すというもので、犯人の動機や用いられたトリックも、ミステリ好きを自任する津島にも非常に楽しめるものになっていた。

 作家・尾野治の引き出しの多さには脱帽する。

 しかも、自身の持ち味である個性的な登場人物の使い方がまた上手い。語り手でもある私立探偵は積極的に事件の捜査をするのだが、物語序盤からそのポンコツぶりは明らかで、なんと探偵の助手である姪の女子高生が探偵役として活躍するのだ。豊富な知識ではなく、ちょっとした閃きから謎を解き明かす少女は読んでいてとても痛快だった。

 

「うん。シリーズ化希望」

 

 感想のメールでも送ろうかな、とスマホをカバンから取り出す。

 推敲しながら文章を入力すること数分。津島がメールの送信ボタンを押したのと、ミス研のドアがノックされたのはほとんど同時だった。

 ノックの主は応えの言葉を聞くことなくドアを開け、明るい声で津島へとあいさつする。

 

「津島さん、おはようございます」

「おはよう。珍しいね、今日はひとりなの?」

「舟木ちゃんはちょっと遅れるみたいです」

 

 そう答えながら藤堂(とうどう)伊依里(いより)は津島から二人分ほど間を空けて椅子に座った。別に津島が嫌われているわけではない。折り畳み式の長机にパイプ椅子という居心地の良さとは無縁の備品のせいで、詰めて座ると窮屈なのだ。

 今日も彼女は日本人形のような癖のない真っ黒な髪を、落ち着いた臙脂のシュシュで緩くまとめている。ブラウスにニットのカーディガンとコーデュロイのロングスカート。文学少女然とした装いが、真面目な藤堂にはよく似合っていた。

 藤堂は津島が机へと置いていた『幽霊船殺人事件』に目を止め、「あっ、もう読んだんですか」と感想を尋ねてくる。男子校出身で女性全般に微妙な苦手意識を持つ津島が比較的気安く話ができるのは、彼女のこの社交性の高さゆえだろう。自他ともに認めるコミュ障で、天気の話すら覚束ない津島だが、ミステリについてならばいくらでも流暢に話をすることができた。そして、藤堂はそんな津島の話を嬉々として聞いてくれる数少ない女性の知り合いである。

 

「いや、面白かったよ。トリックも凝ってたし、登場人物も魅力的でさ。船の中っていう状況をうまく使ってるなって感じ」

「尾野治ってこの夏、殺人事件が起きた豪華客船に乗ってたって噂ですけど、そこからインスピレーションを受けたんですかね?」

「どうかなぁ。あとがきにはとくになにも書いてなかったけど」

「もともと新作はホラーの予定だったのを急遽ミステリに変更したって、ネットで一時期話題になったんですよ」

 

 知らなかった。

 津島はあまりネットは見ないし、SNSの類もやっていない。大学と自宅とバイト先をルーティンのように移動するだけの日常では世間の流行や旬の話題に触れる機会はあまりない。

 そんな津島でも『オリエンタル号』で起きた殺人事件は知っている。

 事件自体は警察によって早期解決を迎え、小説のように連続殺人だったわけでもないのだが、豪華客船での事件ということでそれなりにニュースにはなっていた。

 津島は大のミステリ好きだが、現実の事件も同じように興味を持てるかというとそうでもない。現実には名探偵なんていないし、警察の科学捜査の前にたいていの犯人はあっさり捕まってしまうからだ。

 津島にとってオリエンタル号で起きた殺人事件はほかの殺人事件と同様に、痛ましいけれど自分には関係のない、興味のないものとして本来なら忘れてしまうようなものだった。

 だが、津島は普段見ないネットを隅から隅まで検索し、ゴシップ週刊誌なども買い漁り、かなりくわしくその事件の内容を掴んでいた。

 それは事件そのものに興味があったからではなく――。

 

「そういえば、今度の合宿って高遠さんも来るんですか?」

 

 そう、オリエンタル号には高遠遙一が乗っていたと知ったからだ。

 

 

 

 

 津島は推理小説を書いている。

 とは言っても、何某かの長編や短編が書けたわけではなく、なんとか一本小説を書こうと試行錯誤しているというのが正しい。

 津島のミステリとの出会いは、月並みだが小学生のときに読んだシャーロック・ホームズだった。以来、津島は海外・国内を問わずミステリと名がつくものはなんでも読んできた。そんな彼が自身も推理小説を書きたいと思うようになったのはある意味自然な流れと言えた。

 ミステリの知識はある。

 伊達に十年以上ミステリばかり読んできたわけではない。

 しかし、知識があるからといって小説が書けるわけもなく、津島の創作ノートは自分でもどうかと思うような意味不明のネタ帳と化していた。

 そんな津島に転機が訪れたのはいまからちょうど一年前。

 ミス研の部長である近倉蓮太郎(ちかくられんたろう)がひとりの男子学生を部室へと連れてきたときのことだった。

 高遠遙一と名乗ったその男子学生のなにがそれほど自分を惹きつけたのかはわからない。

 長身で痩躯。男にしては白い肌が、その体格も相まってどこか弱々しい印象を受けそうなものだが、高遠からは不思議とそういったある種の弱者めいた雰囲気は感じられなかった。

 一見、高遠は大人しい青年にしか見えない。

 実際少し話をすれば彼がとても頭がいいことはわかるが、それもこの日本の最高学府、その中でももっとも有名な大学――東京大学では目を見張るほどのことではない。

 高遠は押しに弱そうに見えてそうでもなく、人にとけ込むのが上手いが決して馴染むことはなく、どこか掴みどころのない青年、というのが津島が最終的に下した彼の人物評だ。

 高遠がいると、自然と彼が会話をコントロールしている。

 そう気づいたとき、津島はこの高遠遙一という青年がなにか途轍もない才能を秘めているのではないかと思った。それはミステリ好きの妄想のようなものだったが、出会って一年が経ついまも、津島はその妄想を捨てきれない。

 本人には口が裂けても言えないが、津島が書こうとしている推理小説の主人公――名探偵のモデルは高遠遙一だ。彼にはきっと安楽椅子探偵がよく似合う。

 ミステリアスな笑みを浮かべた理性的な名探偵の姿が津島の中にはある。

 ただ、津島は高遠と個人的な会話をするような仲ではないので、彼のキャラクターが掴みきれず、ここ数か月執筆は停滞したままであった。

 

「部長がダメ元で誘ったら、日程が合うならいいって言ったみたいだよ」

「あっ、それで最初の予定からズレたんですね」

「そうそう。泊まる予定の貸別荘も高遠君が紹介してくれたらしいし。まあ、合宿とかは大勢の方が楽しいよね」

 

 今年は藤堂と舟木という女子部員も増えたので、近倉は少しでもサークルらしいことをしようと色々な企画を立てている。この合宿もその一つだ。

 津島はそれほどサークル合宿などには興味はないのだが、高遠が参加するというので、内心少しソワソワしていた。これを機に彼と友人になれないだろうか。

 そして、できたらオリエンタル号で起きた殺人事件について話を聞いてみたい。

 

「そうだ、津島さん。この間言った山之内恒聖の新刊持ってきましたよ。……でも、正直内容はビミョーでした」

「あー。ここ最近、あんまり評判よくないね」

 

 藤堂が差し出した小説を受けとり、手慰みにぱらぱらとページをめくる。

 長者番付の常連で、売れっ子推理小説家である山之内恒聖はここ数年その才能に陰りが見えていた。元々文章などは平凡で、尾野治のような人を引き込む力があるタイプの作家ではなかったが、そのトリックの意外性と発想の豊かさで推理小説として高い評価を得てきた。それが、どういうわけか最近はいままでの焼き回しのようなトリックばかりで、新刊が出ても本屋の平台に置かれなくなるまでに売れ行きが落ちている。

 

「スランプ、なのかな?」

「でもいままでもトリックの部分だけが突出してよかっただけで、最近の何作かを読むと、トリックとかはほかの人が考えてたのかもって思っちゃいますよ」

「それもネット情報?」

「――いや、意外とそれが真実かもしれんぞ」

 

 ぬっと出てきたその人物に津島は驚いて危うくパイプ椅子ごと後ろにひっくり返るところだった。あわあわと目の前の机にへばりついてことなきを得る。

 

「近倉部長!?」

 

 同じように驚いたであろう藤堂が目を丸くしているだけなのを見て、自分のビビりっぷりが強調されるようで恥ずかしい。いまさらだが、姿勢を正し元凶へと非難の視線を向ける。

 近倉はミス研というよりラグビー部にでも所属したほうがいいと思わせるような大柄で筋肉質な男だが、これでも法学部に在籍しており、将来は裁判官を目指しているバリバリの頭脳派である。津島とは正反対のコミュ強で、その顔の広さと行動力には部内の誰もが一目置いていた。

 

「驚かさないでくださいよ」

「すまん、すまん。いい雰囲気なら邪魔しちゃ悪いと思ってな。中を窺ってたら面白い話をしてたもんだから」

 

 いい雰囲気などと言われ、知らず津島の頬が紅くなる。

 別に藤堂を恋愛対象として意識しているわけではない。可愛いとは思うし、話も合うが彼女はあくまでサークルの後輩であり、これはただ耐性のなさによる反応みたいなもので、と心の中で誰にいうでもなく言い訳してしまう。

 

「それで、“真実かもしれない”ってどういう意味ですか?」

「ネットに公開されたこの“トリックノート”の話さ」

 

 近倉がそう言って自分のタブレットで津島と藤堂に見せたのは個人のブログのようだった。よくある自己紹介文などはいっさいなく、何枚ものノートのページ画像だけが淡々と載せられている。そのノートに書かれているのは推理小説の肝となるトリックの数々だ。山之内恒聖のデビュー作である『露西亜人形殺人事件』やいままでの作品のもととなったであろうトリックが惜しみなく公開されていた。

 いわゆるネタバレ系のブログかと眉を顰めるが、画像を追っていくうちに間違いに気づく。

 山之内恒聖の作品にはないトリックがいくつもある。

 そのどれもが山之内の代名詞ともいうべき奇想天外なトリックだ。

 

「まだそこまで騒がれてないが、どうもこのノートの筆跡は山之内恒聖のものじゃないらしい」

 

 告発というほどの派手さはない。

 ブログに公開されたトリックノート。いままでとは明らかにレベルの落ちた作品しか書けない推理小説家。そして、その作家からのブログについての意志表明がないという事実。

 そこから導き出されるのは――。

 

「盗作?」

 

 ぽつりと落とされた声には苦々しさが滲んでいた。

 藤堂と同じ結論に達した津島もまた、彼女と似たような表情をしている自覚がある。ミステリ好きとしても、作家を目指している身としても、それが事実ならば許せる行いではない。

 

「まあ、ただアイデアをもらっていただけかもしれん。山之内恒聖本人も、出版元の常談社も、なんのコメントも出してないからな」

「抗議しないのが証拠なんじゃないですか」

「まあ、そうかもしれんが……。それだと、このトリックノートの持ち主の意図がいまいちわからんのだよなぁ」

 

 自分のものだと主張するでもなく、ただノートの画像だけが載せられたブログからは、たしかにどんな感情も読みとれなかった。潔いまでに一言のコメントもないブログは、逆に不思議な説得力のようなものを感じさせる。

 どちらにしろ、このトリックノートが公開された以上、山之内恒聖はもうここにあるトリックを使い新しい小説を書くことはできない。そして、彼がこれからも推理小説を書き続けるのであれば、いずれその真偽ははっきりするだろう。

 まるで汚いものにでも触るようかのに、津島へと持ってきた山之内恒聖の新刊をカバンへと突っ込む藤堂のように、真剣な読者こそそれに気づいてしまうのだから。

 

「と、タイムリーだったから話したが、これはミス研で取り扱う話題じゃない。検証のしようもないしな」

 

 近倉が好きなミステリジャンルは『日常の謎』だ。動物と子どもが死ぬ話は可哀想で見れないと語る彼は、ときおり自身が好きな日常に潜む謎を検証しようとミス研に事件を持ち込むことがある。

 

「今度の合宿のテーマは“朝までみんなでミステリ談義”だが、それだけだと二泊三日は長いかと思って、よさそうな話題を探してきた」

 

 近倉が口にした話題は、津島も耳にしたことのあるものだった。

 サークル棟の幽霊。

 それはここ一か月くらい構内で囁かれている噂で、夜にひとりサークル棟にいると窓に首吊り死体が映っているとか、深夜に肝試しで忍び込んだ学生が誰もいないはずの部室から『冥府の使者』が聞こえてきたとかいう、ありふれた怪談みたいなやつだ。

 季節外れの怪談が騒がれているのは、一年前に起きた学生の自殺が関係しているらしいが、津島はその学生のことは知らないし、一年も経ってから幽霊話が出るのも少し腑に落ちない。

 

「ていうか、参加するのはミス研だけじゃないんでしょう。そんな話題持って来られても、ほかの人が困るんじゃないですか?」

「私、みんなでTRPGとかするかと思って、クトゥルフとかシノビガミのルルブ準備してますけど」

「それ三日じゃ終わらんやつだろう。せめて人狼ゲームにしとかないか?」

 

 今回の合宿は津島を含むミス研メンバー六人と、近倉の幼馴染で映像研究会に所属している相澤氏輝(あいざわうじてる)とその友人二人、の計九人の予定だ。

 相澤はなにやら自身のサークルである映研とはそりが合わないようで、よくミス研の部室に顔を出すのだが、正直言って津島は彼が苦手である。こちらを小馬鹿にした態度を隠そうともしないところも不愉快だし、無駄に偉そうで自分の価値観が絶対だと思っていそうなその性格が微塵も合わない。

 ついでに、藤堂がなにかと相澤に話しかけるのも彼をよく思えない理由の一つだ。

 女性は才能に弱いと聞いたことがあるが、相澤は監督・脚本を務めた自主映画が日本アマチュアシネマ祭グランプリを受賞している。そんなところが、藤堂には魅力的に映るのだろうか。

 

「ああ、いや違う。そうじゃなくてな。実は高遠君が合宿に連れてきたい相手がいるみたいで……それが少し面白そうな人だったから、いま話題の“サークル棟の幽霊”について調べたんだよ」

「連れてきたい相手って……彼女さんとかですか?」

「面白そうな人って?」

「まあまあ。それは会ってのお楽しみだ」

 

 近倉はどれだけ尋ねても、高遠が連れてくる十人目については教えてくれなかった。

 

 

 

 雪山の中腹にある貸別荘。

 ミス研メンバーたちと訪れたそこで、津島は恐ろしい連続殺人事件に巻き込まれ、本物の名探偵と出会うことになる。そして、事件の数年後一本の推理小説を書き上げるのだが……それはまた別の話。

 

 

 




【登場人物紹介】

①津島修治(つしましゅうじ) 東京大学医学部二年。ミステリー研究会部員。
②近倉蓮太郎(ちかくられんたろう) 東京大学法学部三年。ミステリー研究会部長。
③星川儀一(ほしかわぎいち) 東京大学教育学部二年。ミステリー研究会部員。
④藤堂伊依里(とうどういより) 東京大学文学部一年。ミステリー研究会部員。
⑤舟木愛里(ふなきえり) 音羽山女子大学文学部一年。ミステリー研究会部員。
⑥相澤氏輝(あいざわうじてる) 東京大学文学部三年。映像研究会の部員。近倉の幼馴染。
⑦荒谷地弦太(あらやちげんた) 三城大学理工学部三年。映像研究会の元部員。相澤の高校時代の同級生。
⑧千葉優芽乃(ちばうめの) 音羽山女子大学経済学部二年。映像研究会の元部員。相澤の彼女。
⑨瀬々尚也(ぜぜなおや) 去年自殺した男子学生。
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