今回は『頭のいい人だけが解ける 論理的思考問題』から参考・引用しました。
3
ハジメは寝不足でしょぼしょぼする目を擦る。ふわぁっと大きなあくびが一つ。本来ならそろそろ目覚ましのアラームが鳴り、「あと五分」と惰眠を貪っている時間だ。寝ぼけまなこでも通い慣れた道を歩くことにはなんの支障もないが、その進みは亀のように遅かった。
「もう、はじめちゃん! ふらふら歩かないのっ!」
繋いだ手を、まるで犬のリードのように引っ張られる。ハジメにふらふらしている自覚はなかったが、美雪が言うならそうなのだろう。しかし幼馴染に叱られたところで眠気は一向に去らない。
昨日は千景のマジックバーで二十二時までバイトをしていた。初回のバイトで緊張したというよりは、授業のあとに四時間近く立ちっぱなしだったことの方が堪えた。これからは体育がある日にバイトは入れないようにしよう。自分の体力的にきつい。
バイトのあと、なぜか客として店に来た高遠に家まで送ってもらって、そこから風呂に入ったり、ソシャゲの期間限定クエストを急いでやったりしていたので、ハジメが床についたのは二時近かった。
男だったときとは違い、いまのハジメは烏の行水レベルでも一応毎日風呂には入っている。やれ、ドライヤーで髪を乾かせだの、ちゃんと櫛を通せだの、子どものときから幼馴染に口煩く言われ続ければ、さすがに習慣として身についた。面倒くさいという思いがないわけでもないが、サボるとすぐにバレてしまうので仕方がない。
たとえ五分であろうと、あの金田一一に『身支度を整える時間』ができるなんて、一回目の自分なら絶対に信じないだろう。
寝ぼけていてもきちんと美雪オススメの洗顔フォームを使って顔を洗った自分は偉いと思う。
「バイト、大変だった?」
「んー。まあ、そこそこ? でも知り合いの店で気楽だし、そこまで忙しいわけでもねぇから」
「あたしもなにかバイト始めようかな」
「そんな時間あるのか、美雪。スイミングスクールはやめたけど、書道はまだ続けるんだろ。委員会もあるし、これからミス研にも入るんじゃねーの?」
「そうだけど……」
歯切れの悪い言葉にちらりと横を見れば、美雪は珍しくどこか拗ねたような顔をしていた。この顔には覚えがある。ハジメがひとりでカブスカウトに参加すると知ったときも、彼女は似たような表情を作り「どうして誘ってくれなかったの?」と言った。
あのときと同じで、ひとりでバイトを決めたハジメの行動が面白くないらしい。
「そんなにバイトしたいなら、夏休みとかに一緒に短期バイトでもしようぜ」
「――うん! 夏のバイトならプールとか海の家がいいかな?」
「えー。屋外は勘弁して。絶対クソ暑いんだから、涼しいとこのがいいだろ。あと、賄いが旨いとことか」
飲食店なら制服の可愛さが大事だと力説する美雪と話を続けながら校門をくぐる。登校時間にはいささか早いはずだが、ハジメが思っていたよりも多くの生徒がすでに登校して来ており驚いた。
グラウンドでは運動部が朝練をしているらしく、威勢のよい掛け声がここまで聞こえてくる。
基本的に遅刻ぎりぎりのハジメからすれば、運動部はまだしも、ほかの生徒たちがこんなに早く学校に来てどうするのか純粋に不思議だった。
下駄箱で上履きに履き替え、目的の三年二組を目指して普段は行くことのない三階へと向かう。
「なんか緊張しちゃうね」
「そーかぁ? てか、ミス研って部室ねぇの?」
「ううん。クラブ棟にあるよ。毎週火曜日と金曜日の放課後に活動してるみたい」
「そこまでわかってんなら、わざわざ問題解いてこんな朝早くに来る必要ねぇじゃん」
「でも、この問題が入部テストかもしれないし」
「んなご大層な部かよ。ただのミス研だろ? それとも、入部制限でもするほど人気だってのか?」
「さすがにそんなことはないと思うけど」
記憶にあるミス研はどちらかというとマイナーな部活だった気がする。桜樹るい子が部長をしていたときの部員数はわずか五人のはずだ。ちなみに自分たちの入部後にその人数がそれなりに増えたのは、美雪の人気が原因ではないかとハジメは睨んでいる。いまも昔も大層モテるのだ、この幼馴染は。
「一年は教室が一階でよかったぜ。毎日階段を駆け上がらなきゃいけないとか、しんどいもんな」
「それは遅刻しがちなはじめちゃんだけよ。あたしたちも三年生になったらこの階になるんだから、いまから規則正しい生活を心がけなさい」
小言を聞き流し、最後の一段に足を掛ける。何気なく視線を向けると、廊下の壁に貼られたポスターが目に入った。よくある環境美化を謳ったポスターはどこぞの委員会が作ったもので、ハジメたちが使う一階にも貼られている。
(なんで、あんなとこに貼ってあるんだ?)
たしかポスターを掲示する場所は決まっていたように思う。一階でハジメが見かけたものは、ちゃんと共有の掲示板に貼られていた。三年は模試だの特別講習だの伝達事項が多いから、単純に掲示板からはみ出しただけなのだろうか。
ポスターの前を通りすぎるときに横目で確認すると、壁にセロハンテープで貼り付けられたそれは右上の角が少し欠けていた。ポスター自体はヨレや汚れもなくきれいだから、たぶん剥がすときに破れたのだ。ということは、やはり掲示板からこの場所に貼り直したのか。しかし掲示板が一階のものと同じタイプなら、テープではなく画鋲などのピンで留めていたはずなのに、どうして角が欠けたりするのか……と浮かんだ疑問にハジメは首をひねった。
「? どうかしたの、はじめちゃん」
「――いいや。なんでもない」
気づかぬうちに足を止めていたらしい。
美雪の不思議そうな声に、ハジメはハッとして数歩前に進んでいた彼女へと駆け寄る。三年二組の教室は階段を上がってすぐ右隣にあった。階が違うだけでクラスの並びはどの学年も同じなので、とくに迷うこともない。
教室のドアをノックする美雪の後ろから、ドアについている窓越しになかを窺う。
(桜樹先輩……)
教卓を囲むように立っている数人の生徒。そのなかに、桜樹るい子はいた。瞬間、ハジメの脳裏に浮かぶのは「あかずの生物室」に吊るされた、変わり果てた彼女の最期の姿。
涼しげなくっきりした二重。ミステリアスな雰囲気の美人なのに気取ったところがなくて、こちらのちょっとしたセクハラなんて軽く受け流すような大人っぽい先輩。ハジメはるい子が面白そうに目を細めて笑う顔を見るのが好きだった。記憶のなかの彼女は圧倒的に笑顔が多い。だから余計にあの死に顔を思い出すと胸が苦しくなる。
心にべったりと張り付いた後悔にハジメは小さく唇を噛んだ。
ノックの音にこちらを見たるい子と目が合う。驚いたように目を見開く彼女にドキッとした。ハジメからすれば再会だが、いまのるい子とは初対面のはずだ。それでも、一回目の記憶を持つのが自分だけでないことは高遠が証明している。
まさか、桜樹先輩も――?
そんなハジメの予想は、美雪がドアを開ける前にこちらへと早足にやって来て、見慣れた笑顔でふたりを教室へと迎えてくれた彼女の言葉で否定された。
「ひょっとして、あの問題が解けた入部希望者?」
「あっ、はい! あたし、一年の七瀬美雪です。こっちが同じクラスの金田一一。あの問題を解いたのは彼女なんです」
「へぇ。あの引っかけ問題がちゃんと解けるなんてすごいわね。
後半はミス研の部員らしき相手に言いながら、るい子はジェスチャーでふたりについて来るように指示して、先ほどまで自分がいた場所へと戻る。
彼女の態度にほっとしていることを自覚しつつ、ハジメは美雪とともにそのあとを追う。記憶なんて、それも自分が殺されたことなんて、覚えていない方がいい。自分だけが取り残されてしまったような一抹の寂しさはいつも通り見ないフリをした。
「金田一? いま、金田一一って言った?」
「へ? 金田一はあたしですけど」
「香奈先輩、この子のこと知ってるんですか?」
香奈と呼ばれたショートボブの女子生徒は意外そうな顔でじろじろとこちらを眺める。悪意は感じられないが、珍獣を観察するかのような無遠慮な視線はさすがに居心地が悪い。
「一年の金田一って、嶋田の“書類紛失事件”を解決した子でしょ」
「ああ、あれね。僕も話を聞きましたが、まあそう難しい事件じゃないですよ。その場にいれば、僕が解決したのになぁ」
「あら、真壁君もこの子のこと知ってるのね」
癖の強いうねった前髪を気取った仕草で掻き上げる真壁があまりにも記憶のままで、ハジメは唇の端を引き攣らせた。ちらりとハジメと美雪を値踏みする視線に、やっぱりついて来てよかったと改めて思う。女好きなところも変わっていないらしい。
ハジメはさり気なく真壁から美雪を庇うように立ち位置を移動した。
「ふ~ん。なんかイメージと違うなぁ。もっとキリッとした頭のよさそうな子かと思ってたんだけど」
「それって、遠回しに頭が悪そうって言ってません?」
「ううん。賢そうには見えないって言ってるだけ」
「
「ええーっ!? “頭が悪そうに見える”と“賢そうに見えない”は全然べつの意味でしょ? じゃあ
香奈に詰め寄られた男子生徒は少し口ごもってから「ノーコメント」と答える。
ハジメを馬鹿にされたことに美雪が地味にムッとした顔をするので、脇腹を肘で軽く突いておいた。幼馴染の気持ちはうれしいが、ハジメとしては一回目でもこの手のことは散々言われてきたので、香奈と水原のやりとり程度ではいまさら怒る気にもならない。
そのまま水原に突っかかる香奈をるい子がまあまあと宥め、そこでようやく全員の自己紹介と相成った。
三年生で部長の藤間香奈と、同じく三年生の水原
そのあとは三年二組の生徒たちがぞろぞろと登校してきたこともあり、くわしいことは放課後ミス研の部室で話そうと解散になった。
4
クラブ棟は四階建ての本校舎と違い、二階建てのこじんまりした造りとなっている。本校舎には収まらなかった音楽室や美術室、視聴覚室などがあり、各部がそれぞれに空いた部屋を部室として利用していた。
ミス研の部室はクラブ棟二階にある資料室と名付けられた倉庫である。広さは普通の教室の半分もないだろう。使われなくなったキャスター付きのホワイトボードに、日付が十年以上前の『生徒会記録』と書かれたダンボール箱。棚には余っていたのか、年代がバラバラな卒業文集が雑然と積み上げられていた。
「朝は名前くらいしか伝えられなかったから、改めてミス研部長として自己紹介するわね。あたしは藤間香奈。オススメの作家はエラリー・クイーンよ。もし未読なら国名シリーズはぜひ読んでほしいわ。部室に布教用を置いてあるから」
年季を感じさせる教卓の前に立った香奈は、そう言って窓際に置かれた大きめの本棚を指さす。その本棚にはどういうわけか目隠しのような布が掛けられていて、香奈のいう小説がそこにあるのかは見ただけではわからなかった。
布は本の日焼け防止に取り付けているので、開けっ放しにはしないようにと続けられる。
「そう言えば、この部屋ってカーテンないんスね」
「……どっかのバカがカーテンを閉め切っていかがわしいことをしてたから、去年からこのクラブ棟の教室は視聴覚室を除いて、すべてのカーテンが撤去されたのよ」
それは根本的な解決になるのだろうか。
視聴覚室のセキュリティが甘ければ、忍び込んで大画面でのAV上映会とかもできちゃうんだけどな、とハジメは一回目の自らの行動を振り返り思う。
悪友たちとの思い出は、いま考えても呆れるくらい馬鹿馬鹿しいのに、どうしようもなく懐かしかった。もう彼らはハジメをAV上映会にも屋上からのバンジーチャレンジにも、きっと誘ってはくれないけれど。
逸れた話を戻して自己紹介を引き継いだ水原のミステリ談義を聞き流しながら、ハジメはぼんやりと自分の隣に座る幼馴染を見つめる。
自分よりはマシだとしても、たぶん美雪も水原の話の半分も理解できていないに違いない。
小声で「やめとく?」と問えば、少し悩んだあと、小さく首を横に振る。美雪の真面目さはこういうとき損だ。べつに「イメージと違いました」と入部を断ったって、誰も責めないのに。
それでも自身の知識のなさに気が引けたのか、美雪はおずおずと手を上げ、まだミステリ初心者であることを告白する。
「へぇ。七瀬さんは、ミステリを読み始めたばっかりなんだ。なに読んだの?」
「えっと……海外ミステリはほとんど読んだことなくて。最近読んだのは有栖川有栖とか、島田荘司とか」
「おっ、ならそっちの国名シリーズは読んでる? うちの部室、海外古典だけじゃなくて、京極夏彦とか綾辻行人も置いてるよ。もちろん作家アリスも」
「有栖川有栖好きなら、エラリー・クイーンも気に入るんじゃない?」
「まだ十角館の殺人未読なら、ミステリの経験値を積む前に読んで感想聞かせてほしいわね」
ミステリマニアに取り囲まれた美雪の前には、あっという間に「オススメ」と称された小説が積み上げられていく。みんなシレッと自分の好みを押しつけているところが面白い。
しかし、だいぶハジメの知っている一回目のミス研とは様相が異なっていて困惑してしまう。ほぼ幽霊部員だったので、ミス研の活動内容をきちんと理解しているとは言えないが、もっとライトな感じの部活だった気がするのだが。
「あの~……」
「あっ、金田一さんの好みはなに? 湊かなえとか、意外とイヤミス好きだったりする?」
「はは。あたしは小説自体あんまり読まないんで」
「う~ん。僕にはどうも彼女が“書類紛失事件”を解決したとは思えないな。あの問題も、ホントに君に解けたのかい?」
「――それって、どういう意味ですか?」
真壁のいささか礼を欠いた発言に最初に反応したのは美雪だった。
真壁としては冗談や揶揄いのつもりだったのかもしれないが、その前の香奈と水原のこともあり、美雪はわりと本気でその言葉に腹を立てていた。自分が侮辱されたような怒りを孕んだ強い視線で、キッと真壁を睨みつける。
美雪の態度にたじろいだ真壁は周りを見回し、ほかのメンバーからの無言の非難に気づき、慌てて「いやでも、人は見かけによらないともいうからね」と自らの失言を誤魔化した。
「まあ、真壁君の言葉は悪かったけど、ふたりの解答を聞いていないのもたしかだね」
「ちょっと水原!」
「あの問題は当て推量でも二分の一で正解できる。お遊びとはいえ、彼女たちが本当に正解しているのかは聞いてもいいんじゃない?」
なんとあの問題はただの『お遊び』だったらしい。
どちらの答えを選んでも、それぞれの日にその教室でミス研のミーティングは開かれ、入部の流れになるのだとついでのように説明される。そもそも新入部員を選別する余裕はミス研にはなく、あの問題の意図はせいぜいが「冷やかしお断り」だそうだ。
とりあえず、ハジメは前に美雪にもした解答を水原へと伝える。この話ぶりからすると、例の問題を作ったのは水原なのだろう。
「――だから、答えは“四月二十七日・八時・三年二組”。でしょ?」
「正解だ」
ハジメの説明に水原は満足そうに笑った。
「へぇ~。君、ホントに賢いのね」
「ちょっと、ホントにってどういう意味っスか」
「いい意味、いい意味」
「どう聞いてもいい意味には聞こえないんですけど」
香奈もたいがい失礼だが、あっけらかんとした彼女のもの言いには不思議と腹が立たない。
カラカラと笑う顔は特別造作が整っているわけではないが、見ているこちらも自然と笑顔になってしまうような明るさと魅力があった。
「じゃ、じゃあ、この問題がわかるかな? ――あなたの前には二つの門がある。どちらかは天国へと繋がっていて、どちらかが地獄行きだ。そこにはふたりの門番が立っていて……」
「それって“嘘つき村と正直村”と同じパターンのやつでしょ。めちゃくちゃ有名な思考問題じゃない」
「なんスか? その思考問題って」
「……ほら、こんなレベルですよ。水原先輩の問題が解けたのは偶然じゃないですかね」
「知恵と知識は違うってことでしょう?」
「真壁はなにをそんなに後輩女子に突っかかってるのよ」
ハジメにからもうとした真壁は、香奈とるい子から畳み掛けるように反論され、面白くなさそうに唇を尖らせる。どう見ても女性陣の方が上手だ。
「美雪は真壁先輩が言ってた問題って知ってる?」
「うん。“この門は天国行きかと聞かれたら、あなたはイエスと答えますか?”ってやつでしょ? さすがに知ってるよ、有名だもん」
「思考問題っていうのは知識や計算じゃなくて、考える力のみが問われる問題のことだよ。思考力を身につけるために、ときどきミス研でも問題を出し合うんだ」
「へー。どんな問題があるんですか?」
ハジメの疑問に、水原は少し考えるように沈黙してから、ホワイトボードにサラサラと問題文を書いてみせた。
あと二回使用すれば壊れる天秤と、九枚の金貨がある。金貨の見た目はどれもまったく同じだが、そのなかには一枚だけほかの金貨よりも軽い偽物が混ざっている。
天秤を使って偽物を特定するにはどうすればいいか?
読みやすいきれいな字は、いささか几帳面すぎると感じるほど、歪みなく真っ直ぐに書かれている。ノートなどに書くのとは違い、ベテラン教師でもここまで板書がうまい人間は少ないだろう。フリーハンドで正円が書けるタイプなのかもしれない。
どうでもいいことに気を取られながら、ハジメは以前に浅野遙子から出された問題を思い出していた。あれも重さの違う金貨を当てる問題だったが、なるほど、たしかに水原の言う通り知識も計算も必要ない。
「ええっと、天秤は二回しか使えないんですよね。……九枚を二回に分けて量る? いや、三つに分けるのかな。でも二回じゃ全部を比べられないし」
一生懸命に悩む美雪はもう正解に指が掛かっていた。
こんなところまで勉強熱心なのは恐れ入る。この分だとヒントはいらないかなと思っていると、ふと視線を感じた。そちらへと顔を向ければ、水原は口の動きだけで「簡単すぎた?」と問いかけてくる。
どうやらハジメがすでに問題が解けていることはバレていたらしい。なんとなく気まずくなって頬を搔く。
「――わかった!」
「おっ、すげぇじゃん。それで答えは?」
「えへへ。……おっほん。まず、金貨を三枚ずつ三つに分けるの。それのうち二つを天秤に載せる。二つが釣り合えば、偽物が入っているのは天秤に載せなかった三つ目ってことになるでしょ? もし釣り合わなかったら」
「天秤が上がった方が偽物だな」
「そう。そして次は、偽物があるってわかった三枚の金貨のうちの二枚を天秤に載せるの。あとの考え方はさっきと一緒」
「おおーっ!」
パチパチと拍手すれば、美雪の解答を聞いていた香奈たちも感心したように手を叩いてくれる。美雪は聴衆のその反応に真っ赤になって俯いた。
「ヤダ、今年の新入部員はどっちも優秀じゃない!」
「これならあの謎も解けるかもしれませんね、香奈先輩」
「そうね。もうすぐちょうどゴールデンウィークだし。休み明けの校内新聞はミス研が一面を取れるかもしれないわ」
「このふたりには、まだちょっと荷が重いんじゃないですかね。藤間先輩と桜樹君の期待に応えられるのは、やっぱり僕だと思うんですが……」
「水原! 連休中の部活の活動申請ってまだ間に合うわよね?」
「間に合うけど……青山先生の都合は確認しないとダメだよ。活動日の顧問の出勤は必須だから」
なんだろう。
謎とか、校内新聞とか、連休中の部活とか、このあまり喜ばしくない言葉のオンパレードは。
――やっぱ、ミス研入るのやめね?
盛り上がる先輩たちを見つめながら、ハジメは自分の隣で呆気に取られる美雪にどのタイミングでそう切り出そうかと頭を悩ませた。