今回のトリックは『Q.E.D.-証明終了-』からお借りしました。
7
不動高校ミステリー研究会の新入部員は鷹島友代と尾ノ上貴裕の加入により、ハジメたちを含めて最終的に四人となった。鷹島の入部を一番喜んだのはなにを隠そうハジメである。これで真壁を警戒する必要性がグッと減った。ぜひ、鷹島には今回も真壁のことをしっかり尻に敷いてほしい。
「とりあえず、今回調べる七不思議については創立祭で発行する会報に掲載するっていうのは、もうみんな知ってるわね。これがメインテーマになるんだからしっかりやるわよ!」
やる気が微塵も湧かないハジメの耳を香奈の話が素通りしていく。
美雪から借りたシャーペンを指でくるくると回しながら、ハジメはこっそりとあくびを噛み殺した。前回こちらの居眠りを見咎めた部長からチョークをぶつけられたことは記憶に新しい。香奈はさっぱりとしていて付き合いやすい性格だが、怒ると容赦なく手が出るタイプであることもこの数日で実感済みだ。
鉄拳制裁を受けないよう起きておく努力を続けるため、ハジメはぐるりと部室内を見回した。自分の知るミス研とは違うけれど、それでもどこか懐かしさのようなものを感じてしまう。
それぞれに自分の意見を述べる部員たち。それを誰よりも楽しそうな表情で聞いている――青山ちひろ。
彼女を部活の顧問だと紹介されたときは正直驚いた。まさか青山ちひろが母校で教師をしているとは夢にも思わなかったし、こんな形で自分と彼女の縁が繋がること自体どうにも不思議な気持ちがした。
ハジメが遺影の写真でしか知らなかったちひろは、ちゃんと九年分年をとっていて、親しみやすい若手教師の顔で笑っている。
「あー、その怪談は十年くらい前にあった『製薬会社死体遺棄事件』が元ネタだと思うわ」
「学校に六体も死体が隠されてたんですよね?」
「そうそう。井戸の底にイチョウの木の下、旧校舎の階段と生物室、元印刷室だった空き教室。そして、校庭の隅……だったかな」
「先生、くっわしーっ!」
「いやぁ、じつは私も学生時代に同じようなネタで会報書いたのよね。あのときは六不思議だったけど。懐かしいなー。まだ当時の会報って残ってるのかしら」
議題の内容からは少しだけズレた雑談。こういうとき、作業そっちのけで過去のミス研の会報探しが始まるのは、ある意味お約束の展開だった。
ダンボール箱の奥にしまわれていた会報を発掘し、みんなでああだこうだ言いながらそれをのぞき込む。以前見たことのあるものとまったく同じ表紙のそこには、ちゃんと『不動高校六不思議』についての記事が書かれていた。
よかったな、と思う。
自分に最良の選択ができている自信なんてちっともないし、この二回目の人生にだって後悔や失敗はいくつもある。一回目に対する救えなかった悔しさややるせなさが消えることもない。
いまだって、意味のない“もしも”を考えてしまう。
もしも的場が過ちを犯さなければ、ミス研のこの光景が一回目の人生でも当たり前に続いていたのではないか、と。
高遠はいつだってそんなハジメの感傷を「くだらない」と嘲笑う。そのくせ、あの男はハジメがひとりでその感傷に浸ることを許さない。そばにいたって慰めの言葉一つかけないのに、わざわざ探してでもハジメのところにやって来る。
彼がいつも準備しているマジックとアメだのチョコだのの甘味が、ハジメのために……ハジメのためだけに用意されたものだったと知ったときの、あのむずがゆさはいま思い出しても筆舌に尽くしがたい。
それでも、以前ほどにはこの胸のなかに苦い後悔が湧き上がらない理由が、高遠にあることも否定しがたい事実だった。
思考が意図せぬ方向に逸れてひとり悶々とするハジメに構うことなく、香奈を中心に話は進んでいく。
「香奈先輩。本校舎でときどき聞こえる謎の音と、三年四組の落書きについてはどうします?」
「んー。それ、七不思議とは関係ないのよね。落書きはただのいたずらだろうし。変な音聞いたのって誰だっけ?」
「たしか生徒会顧問の中条先生だったはずだけど」
「用務員室からベニヤ板がなくなったってのもありませんでした?」
「それは柔道場の裏で見つかったらしいわよ」
部の方針なのか、学校内の噂やトラブルなど情報は大小関係なく積極的に集めているらしい。
「落書きとベニヤ板紛失はいたずらってことでいいでしょ。大きなトラブルにもなってないし……うん。これ以上は調べなくていいわ」
「音の方はどうするの?」
「保留、かなぁ。まだその音自体、聞いたって言う人少ないから検証もしにくいのよね」
部長の決定に異を唱えるものはなく、議題のテーマは再び七不思議へと戻る。
いまの七不思議は、昔あった六不思議から派生したと思しきものもあれば、いわゆる『学校の怪談』的なオカルトチックなものもあり、血なまぐささはなんとなく減っている気がする。
ただ実際に遺体が遺棄されていた旧校舎のあとに建つ、このクラブ棟にまつわる話が圧倒的に多い。
部員たちの会話を聞きながら、一回目のときよりもはるかにホラー耐性がなくなったハジメは、決して放課後のクラブ棟にひとりでは訪れまいと心に誓う。
そんなこんなで、本日のミス研の活動は、若干脱線しつつも予定通りスムーズに進行した。
時刻は十二時少し前。
ゴールデンウィーク最後の活動日として、このあとは新入部員歓迎会を兼ねた打ち上げが企画されている。場所は不動高校近くのカラオケボックスで、ハジメはこの打ち上げを楽しみに今日の部活に参加したと言っても過言ではない。
「カラオケ行くのひさしぶりだね」
「な。繭の送別会以来じゃね?」
すでに部員たちの会話の内容は七不思議からカラオケへと移っていた。部長の香奈からして「先に飲み物のオーダーだけでもしとく?」とスマホを取り出し、隣にいる水原と相談している。
終わり間際のそわそわとした空気。
参加こそしないが打ち上げのことを知っているちひろがそんな部員たちの様子に苦笑し、部活の終了を告げようとした――そのとき。
ガシャン!というなにかが割れる音が響いた。
「なに、いまの……?」
お互いに近くにいる相手と顔を見合わせるが、当然その音の正体がわかるものはいない。音の出どころはたぶんクラブ棟ではないだろう。大きく開けられた部室の窓から、焦ったような声とトラブルがあったことを伝える喧騒が聞こえてくる。そのなかに「救急車」という単語が聞こえた気がして、ハジメは部室を飛び出した。
一回目の記憶に今日この日に起こる事件や事故の類はない。
しかし、記憶にないからといって事件が起こらないわけではないことも知っている。嫌な予感がする。そしてハジメのこの手の予感は、過去の経験からしても悲しいことにたいてい外れなかった。
後ろで美雪がハジメの名前を呼んでいる。
複数の足音が自分を追いかけてきていると気づいていたが、ハジメはスピードを緩めることなく廊下を突っ切り、階段を駆け下りた。
クラブ棟から校庭へと出れば、騒ぎのもとはすぐにわかった。
柔道場だ。
部活中だったのだろう柔道着姿の学生たち数人が、落ち着かない様子で校庭を見回している。どうやら先ほどの音は、柔道場の校庭側にある窓ガラスが割れた音だったらしい。
ハジメはそちらへと早足で近づいて、ガラスが割れた窓から柔道場のなかをのぞき込む。
「……っ!」
最初に目に入ったのは、畳の上に飛び散った紅い紅い――血、だった。そして、その血のなかで誰かが倒れ伏している。割れたガラスを背中から浴びてしまったのか、大小いくつものガラス片が刺さっているのが見えた。その近くにはガラスが割れた原因と思われるバスケットボールが転がっている。
「先生、大丈夫ですか!?」
「いま救急車を呼びました!!」
この不幸な事故の被害者は、体育教師の嶋田だった。
出血もしているし、それなりの大怪我だが、見たところ命に関わるような傷ではない。いまも痛みに呻きつつも悪態をつく程度の元気はあるようだ。
ひとまず人が死ぬ事態にはならなさそうなことに、ハジメはほっと息をついた。
状況から推測するに、大方校庭でバスケットボールで遊んでいた生徒が、コントロールを誤って窓ガラスを割ってしまったのだろう。
ほどなくして何人かの教師が駆けつけて来て、嶋田は柔道部員らが呼んだ救急車に乗せられて運ばれていった。
そう、この件は事件ではなく、ただの事故として終わるはずだった。
「なに? 誰もバスケットボールを投げ入れていないとはどういうことだ?」
柔道部員たちに事情を聞いていた教師の言葉に、ハジメはクラブ棟へと戻ろうと動かしていた足を止める。
「なにも事件にしようと言うんじゃないんだ。正直に名乗り出なさい」
「本当なんですよ!」
「俺たち、窓ガラスが割れてすぐに外に飛び出したけど、校庭には誰もいなかったんです!」
「そんなはずないだろう。まずいことになったと、クラブ棟か校舎にでも隠れただけじゃないのか?」
「違いますって! だって、そもそも窓ガラスが割れる前から、校庭には人っ子ひとりいなかったんですから!!」
彼らの必死な声に嘘があるようには感じられなかった。
柔道部員たちは口々にバスケットボールは真正面から飛んできたと言う。その方向にあるのは本校舎だけ。そして、柔道場の窓は本校舎の第二玄関のほぼ直線上にある。
「おいおい。じゃあ、お前たちは誰かが校舎からボールを投げたって言うつもりか? そんなバカなことあるわけないだろう。五十メートルは離れているんだぞ」
野球ボールならまだしも、バスケットボールのような重いボールを五十メートルも先から投げ入れるのはたしかに無理だ。
嶋田は窓ガラスが割れる前、そちらに背を向けて今日の部活の総評をしていたらしい。つまり、生徒たちの多くは嶋田の方を、校庭側を見ていたことになる。その状況で誰ひとりとしてバスケットボールを投げた人物を目撃していないというのは考えにくい。
――ならば、いったいボールはどこから飛んできたのか?
8
カラオケでの新入部員歓迎会は、そのまま部室でのミス研による今回の事件の捜査会議へと変更された。ホワイトボードにはデカデカと『不動高校怪事件!』と書かれている。
被害者は体育教師で柔道部顧問でもある
怪我の詳細はまだ不明だが命に別状はなく、後遺症などが心配されるレベルの傷でもないらしい。現在、不動総合病院へ救急搬送され手当てを受けている。
学校としては事故として処理するつもりなのか、警察に通報した様子はない。柔道場の使用こそ禁止されたが、午後からの部活動なども通常通り行われている。状況からして不審者などの外部犯への疑いは限りなく薄く、犯人は生徒の可能性が高い。被害状況も誤魔化しが利かないほど重大なものではないため、このままうやむやにしようという学校側の考えが透けて見えた。
幸い、被害者が教師ならば保護者に対する説明は必須ではない。
「ぶっちゃけ、動機だけなら不動高生の三分の一は当てはまると思うのよね。嶋田って嫌われてるし」
「嫌ってるからって怪我までさせますか?」
「柔道部のやつに聞いたんですが、どうやら普段はあの窓は開いてるそうですよ。今日は五月にしてはかなり暑かったから、冷房を入れて練習していたって」
「じゃあ……犯人は窓が閉まってるのに気づいて、ボールを投げつけたのかしら? それって結構な悪意よね」
ミス研の聞き込みでわかっていることは以下の四点。
一、窓ガラスが割られる前後に校庭には誰もいなかった。
二、バスケットボールは真正面から飛んできた。
三、柔道部の練習は十二時ちょうどに終わる予定で、部活終了前に嶋田が窓のそばに立ちその日の総評をすることはルーティンとなっていた。
四、犯行時刻に校内におり、なおかつアリバイがない人物は――わずか五人。
「でも、容疑者のうち司書さんと用務員のおじさんは捜査対象から外してもいいと思うの」
「どっちもそこそこ高齢だし、五十メートルもボールを投げられるとは思えないですからね」
「それよりも、柔道部員の証言から考えるとボールは本校舎側、少なくとも第二玄関の辺りから投げられたってことになるけど、五十メートル先からバスケットボールを投げて窓ガラスを割るのは人間の力では無理だ。この問題をどうやってクリアするの?」
水原の意見に全員が難しい顔で黙り込む。
そう、これがこの事件の根幹だった。
隣に座った美雪が小声でなにかわかったか聞いてくるが、残念ながらハジメにもいまのところさっぱりわからない。……犯人が誰なのか以外は。
「こうは考えられないですかね? 柔道部員が全員共犯だった可能性です」
「どういうことよ?」
「つまりですね。校庭に誰もいなかったなんていうのは彼らの真っ赤な嘘。じつは部活が終わる少し前にひとりがなんらかの理由で柔道場を出て、ほどよい距離からボールを投げつけて窓ガラスを割った。どうです? これなら疑問はすべて解消できるはずです。柔道部員なら顧問の嶋田先生に深い恨みを抱いていてもおかしくない」
「たしかに……辻褄は合ってるわね。やるじゃない、真壁」
「なに、初歩的な推理ですよ」
「――でも、それだと嶋田先生にだけは絶対に犯人がわかることになりますよ」
ハジメの指摘に真壁はその得意げな顔をムッと歪める。
「嶋田先生は窓に背を向けていたんだぞ。犯人が誰かなんてわかるわけないだろ」
「部員がひとり柔道場から外に出たのなら、部員たちの“校庭には誰もいなかった”という証言に矛盾が生じる。そもそも、そこまで部員と顧問の関係が悪いなら、嶋田先生なら真っ先に部員たちが嘘をついていると判断するでしょ。なら、下手に誰もいなかったなんて言わずに、適当な犯人をでっち上げた方がいい」
嶋田の陰になって顔は見えなかったが、逃げていく男子生徒を目撃した――たったこれだけの嘘で、この事件は解決しないまでも、それ以上の追及はされなかっただろう。
そういう意味では、犯人は柔道部員たちに罪を着せたかった可能性もある。
「ふん。柔道部なんて脳みそまで筋肉みたいなやつばっかりなんだ。そこまで考えつかなかっただけさ」
「真壁君の偏見は置いておくとしても、人って意外と考えなしなものだわ。集団心理が働けば、衝動的でお些末な結末だったとしても納得はできる」
「……それだったら、嶋田先生に話を聞ける状態になったら解決するからいいんスけど」
「金田一さんは容疑者のなかに犯人がいると思ってるわけ?」
香奈の質問にハジメは少し考えてから、はっきりと肯定の言葉を返した。
犯人の見当はついている。
その人物はハジメたちが話を聞きに行った際、事件の状況に対して明らかに変なことを口走った。
――どうして窓ガラスが……。
ハジメは最初その言葉を状況の不可解さへの疑問だと思った。しかし、柔道部の窓が普段の部活中は開いているのだと知って、犯人がなにに動揺したのか理解できた。
犯人はなぜ窓が閉まっていたのかと驚いていたのだ。
「おいおい。証拠もないのに犯人扱いするもんじゃないよ」
「真壁も柔道部員共犯説唱えてたけどね。あいつら県大会常連だから、月のない夜道には気をつけなさい」
「…………」
容疑者の三人はそれぞれ本校舎にいたと話している。
二年の瀬名光一は一階の男子トイレ。同じく二年の
「瀬名って、あれでしょ? 美術部の変人。いた場所が一階だし、一番犯人の可能性は高いけど、見るからに運動ダメそうだし、バスケットボールなんて五メートルも飛ばせないんじゃない?」
「トイレにいた理由も、静かな場所でひとり次の作品の構想を練ってた、なんてすこぶる怪しいんですけどね」
「糸鋸を使ったバラバラ殺人なら、瀬名君が犯人でもしっくりくるかも」
「というか、三人ともその証言に裏付けはないわけだから、いたって言っている場所から犯人を推測するのは難しいよ」
「でも犯人なら……あえてその場所にいたって言う理由が、なにかあるかもしれない」
「う~ん。推理も行き詰ってるし、金田一さんの言う通り三人がいた場所に行ってみよっか!」
ちらりと時計に目を向ければ、時刻はそろそろ十五時になろうとしている。
香奈も時間がないことは自覚していたのか、現場検証には手分けして行くことになった。
一階の男子トイレは尾ノ上と水原、二年一組は香奈と真壁と鷹島で、三年四組はハジメと美雪とるい子だ。
他学年の教室には入りにくいので、ハジメたちと一緒に行くのは香奈の予定だったのだが、途中に牛尾がバスケットボール部だという情報を得て、彼女のなかで牛尾への容疑がもっとも強くなってしまい、急遽捜査メンバー交代と相成った。
るい子に先導されながら三階の廊下を歩く。
「そう言えば、三年四組って落書き事件のクラスなのよね」
「それってどんな落書きだったんですか? 藤間先輩はいたずらって言ってたけど」
「教室の前側の入り口に墨汁で大きなバツ印が床に書かれていたの。その落書きが発見されたのはゴールデンウィーク直前だったかな? 床に墨汁が染み込んじゃってたから、まだ消えてないと思うわ」
到着した三年四組の教室に職員室で借りてきた鍵を使いなかに入る。
少なくとも事件前に牛尾と大河が自分たちのクラスの鍵を借りたのは、出勤していた教師たちから裏付けがとれているので間違いない。
るい子の言っていた通り、その教室の床には大きな『×』が書かれていた。落書きというよりハジメにはなにかの目印のように見える。
日が経って薄くなったそれの上に立つ。印の下はただの教室の床なので、当然なにか仕掛けがあったりはしない。天井も同じだ。真正面は窓で、右側が黒板。左側にはクラスの人数分の机と椅子がハジメたちの教室と同じ配置で並んでいた。そして、後ろは――。
(あれ……?)
見えるのはなんの変哲もない学校の廊下。ただ視界の端にある壁に貼られたポスターがどうしてか気にかかった。
なにかがおかしい。
ハジメは自分の勘が囁く“なにか”の正体を確かめるため、教室を出てそのポスターの前へ移動する。
この環境美化のポスターはハジメの記憶では右上が少し破れていたはずだ。なのに、いま目の前にあるそれは不思議なことにどこも破れていない。
(誰かが張り替えた? なんのために?)
くるりと教室の方を振り返れば、開けたドアから床に書かれたバツ印が見えた。
(この位置って……)
廊下の壁を背にしてポスターの前に立てば、右手側には階段がある。あの階段を下りた先に繋がっているのは第二玄関だ。
ハジメはある種の確信を持って、ポスターをそっと剥がした。ポスターの下、廊下の壁には三年四組の床と同じ『×』が書かれている。
「なにしてるの、はじめちゃん?」
「ああ、ちょっとな。あれ、桜樹先輩は?」
「なんか藤間部長から連絡が来たみたい。二年の牛尾って人が事件のとき変な音を聞いたんですって」
「変な音……?」
「そう。だから、あたしたちもここの捜査が終わったら、大河って三年生に話を聞きに行ってほしいんだって」
「――その件なら解決したわよ」
「桜樹先輩!」
「水原先輩が大河先輩の友人で、電話で確認してくれたらしいわ」
「それで、どうだったんですか?」
大河は変な音など聞いていないと答えたと言う。
「その変な音についても噂がありましたよね?」
「ええ。でも本格的な噂になるほど聞いた人は多くないから、牛尾君が聞いたものがそれと同じかはわからないの」
「部活で話題に上がってた噂って、全部最近のやつなんですか?」
「そうよ。たしかどれもゴールデンウィーク直前……え、嘘、これ繋がってるの?」
三年四組の床の落書き。
本校舎で聞こえる謎の音。
用務員室からなくなったベニヤ板。
そしてハジメが気になった環境美化のポスター。これは初めてミス研のミーティングに参加した日なので、こちらもゴールデンウィーク前である。
頭に浮かんだ方法がうまくいくのか正直半信半疑だったが、出てきた事実はどれもハジメの推理を肯定してくれていた。
「はじめちゃん、ひょっとして……」
美雪がこちらを見る。
その瞳を強く見返して、ハジメは大きくうなずいた。
「ああ。――謎はすべて解けた」