平行線機能不全   作:キユ

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第三章「背氷村・新たなる殺人⑥」

13

 

「それで、明智警視たちが調べてた事件ってのは?」

 

 教えてもらえないかもしれないと思いつつハジメがその疑問を口に出せば、明智はしばしの間どこか思案げな顔で黙り込んだ。ピシャリと突っぱねられなかったあたり期待が持てそうだと判断して大人しく相手の出方を待つ。

 

「あまり年頃の少女の耳に入れたい話ではないんですがね」

「警視! こんな子どもに聞かせるのは……」

「しかし、君が番組スタッフとして事件前から彼らと関わっていた事実は無視できない。そばでそのやりとりを見ていた分、彼らの人間関係については我々よりも一日の長があると言えるでしょう」

 

 そう前置きをしてから明智が語った事件の詳細は、それまでの断片的な情報からハジメが予想していたものと大きく変わりはなかった。状況から明智が連続殺人を危惧したのもわかる。実際に沼田と比賀が殺されている以上、石井光雄の死と今回の事件が無関係ということはないだろう。

 ただ、同一犯だとしたら石井の殺害方法とその時期だけが腑に落ちない。

 

(なんで石井って人だけ事故を装って殺したんだ? しかも一週間も前に?)

 

 ターゲットが複数いて、さらに相手に殺される心当たりがあるのなら、殺害の間隔を中途半端に空けるのは無駄に警戒心を抱かせることになる。犯人が用いたトリックならば殺害のタイミングはもっと選べたはず。事故の偽装が見破られるとは考えなかったのか。

 

(沼田と比賀の遺体の発見が早すぎるのも気になるんだよなぁ。むしろ隠す気がないっていうか)

 

 事故に見せかけてふたりを殺すのはこの背氷村でもさほど難しいことではない。

 この辺りはすでに最低気温が五度を下回っているので少し工夫すれば凍死させることも可能だし、それこそ単純に誤って谷川に落ちたことにもできる。続けざまに人が事故死するのは少々不自然だとしても、明らかな他殺体が出るよりはまだ言い訳が立つ。

 どこか犯人の行動に一貫性がないと感じるのは自分の考えすぎだろうか。どちらにせよ、推理を組み立てるには情報が足りない。そして、二つの事件の繋がりにしろ、犯人の動機しろ、すべての鍵を握っているのは間違いなく水島明だ。

 

「あっ、そうだ! 事件に関係あるかはわかんないんだけど、水島さんって今回の撮影にひとりだけ遅れて来てるんだ。で、どうもそれが移動に新幹線を使ったからっぽいんだよね」

「それは……たしかに少し気になりますね。青函トンネルを通る北海道新幹線は私も利用することがありますし、飛行機にはない快適さと車窓からの景色は見物だと思いますが、わざわざ仕事に遅れてまでというのはいささか考えにくい」

「あと三人とも、とくに水島さんと比賀さんは、あたしが見てるかぎりじゃほとんど会話らしい会話はしてない」

「不仲だったと?」

「そこまではっきりしたものは感じなかった。……でもさ、三人は石井光雄から脅されてたんだろ? なら脅迫者がいなくなったことにお互いなんらかの反応とかやりとりがあってもいいと思うんだ」

「警察はまだ石井の事故を殺人に切り替えて捜査しとることは公表しとらんぞ。事故の報道自体はそれほど目立つものじゃなかったはずだし、意外と石井が死んだことを知らんかっただけなんじゃないのか?」

「しかし水島明のあの反応からすると、彼が石井光雄の死を知っていたのは間違いないでしょう。――我々は恐喝の“ネタ”を早合点していたのかもしれませんね」

 

 明智の言う通り、あのときの水島の態度にはハジメも違和感を覚えた。

 刑事たちに石井からの恐喝を指摘されたときの彼は明らかに動揺していた。つまりその恐喝の内容は石井を殺すに足りる、あるいは誰かに殺されるに足りる理由だったということ。ところが剣持の一喝を受けたあとは、なぜか余裕さえ感じさせる口ぶりで石井に金を渡していた事実を肯定したのだ。

 

「あの人、動画なんてあるわけないって言いかけたよな」

「ええ。ニュアンス的に処分したという感じでもなかったですが」

「証拠みたいなもんがなくても脅迫って成功するもんなの?」

「そうだな。調べて簡単にことの真偽がわかるようなもんなら“バラすぞ”と言うだけでも十分脅しにはなるだろうな」

「石井が三人をそれぞれ別の内容で脅していたと考えるのは非現実的です。そして水島や比賀とは違い一般人の沼田が大人しく金を払っていたことからも、恐喝の内容は犯罪がらみである可能性が高い」

「水島を任意で引っ張って恐喝の内容を聞き出すのはどうです?」

「それは難しいでしょう。水島は恐喝においてはあくまでも被害者で、殺人で任意同行を求めるにしても現状彼には比賀殺害時のアリバイがある。我々が今回の事件を連続殺人として捜査している以上はそこをクリアしないことには拒否されるだけです。――水島たちの過去の行いについては所轄の捜査に期待しましょう」

 

 

 ◆

 

 

 これから別館の方を調べてみるという明智たちと別れたハジメは、ひとり来た道を引き返しながら今回の事件について思考を巡らせる。

 とはいえ、現段階で容疑者を絞り込むことは難しい。

 もちろん一番疑わしいのはアリバイのない時間が長く、かつふたりを殺す理由を持つ水島である。石井の恐喝を引き金に己の過去を知るもの全員を口封じに殺す決断をしたというのはそれほどおかしな話でもないだろう。

 

(でも水島が犯人だとすると、わざわざここでふたりを殺す理由ってなんだ?)

 

 同じ事務所に所属している比賀は言わずもがな。沼田とて学生時代からの友人なのだから、こんな容疑者が限定されてしまう状況でふたりを殺害する必要はないように思う。

 

(まあ、事件の動機自体はっきりしてねぇんだけど)

 

 未だ判然としない水島たちの過去。

 それがわかれば、自ずとこの事件の全体像が見えてくる気がした。そのためにもなんとか水島から話を聞き出したい。彼の警察への対応を見るに素直に教えてくれるとは思えないがやってみる価値はある。それに番組関係者たちの間にほかの繋がりがないのかも探っておきたかった。

 玄関前に立つ制服警官にあいさつして本館に入る。

 たぶん芳野や芝は談話室にいるだろうとそちらに足を向けかけ、ハジメはふと自分がスマホを部屋に置きっぱなしにしていたことを思い出した。別にいますぐ必要というわけではないが、一度持っていないことに気づくとどうにも不便な感じがしてしまう。

 大した手間でもないし、と進行方向を変更して階段へと足を踏み出したハジメを止めたのは久瀬の怒鳴り声だった。

 

「ふざけんなよ……っ!!」

 

 声量こそ抑えられていたが、隠し切れない怒りと憎しみを滲ませた声。

 

「だから、何度も言わせないでくれないか。あんたの姉貴なんて知らないっての」

「そんなわけ……っ」

「あーあー。そうね、沼田のオンナだったなら顔くらいは知ってるかもね。じゃ、訂正するわ。覚えてない」

 

 悪意のこもった言葉には相手を煽るような響きがあった。

 ハジメは足音を忍ばせて階段を上がると、そっと二階の廊下を窺う。久瀬と水島のふたりはちょうど廊下の真ん中あたりで対峙していたらしい。こちらに顔を向けている水島に見つからぬようハジメは慌てて階段の陰に身を潜めた。

 

「でも俺を恨むのは見当違いでしょ。ちょっと大学のときにつるんでたからって、あいつが遊んだオンナのことで文句言われんのは心外なんですけど?」

「姉さんはあんたに告白して、呼び出された先で……っ」

「ならその姉貴が俺と釣り合わねぇブスだったってことだろ。むしろそんなブスでも男に相手してもらえたんだからよかったんじゃないの。……あっ、勘違いするなよ? たしかに“頭の悪いオンナが待ってる”ってあいつらに教えてやることはあったけど、間違っても“襲え”なんて指示はしてないから。てかフツーに考えて嫌だったなら警察に言うだろ。オネーチャンも楽しんだんだって」

 

 話の詳細はわからなくても、聞いているハジメまで気分が悪くなってくる言葉の数々。

 饒舌な水島とは反対に久瀬はなにも言い返さない。――いや、あまりの怒りに声を失っているのだ。

 先ほど一瞬だけ目にした久瀬の背中が脳裏をよぎる。抑えきれない激情に震えるそれはいまにも爆発しそうに見えた。

 久瀬と水島の話は興味深いがこのまま会話を続けさせても良い結果になるとは思えない。

 ここは何気なさを装って出ていくべきかとハジメが迷いながら小さく身動ぎすると、そのせいで靴と床が擦れてキュッと高い音が辺りに響いた。

 

「誰だ!?」

 

 ハジメはその誰何の声につい息を殺して身を硬くする。

 数秒の探るような沈黙のあと、再び口を開いたのは水島だった。彼の声音や口調は普段のものに戻っており、それは心なしか誰かに聞かせることを意識した語り口に感じられた。

 

「とにかく、君のお姉さんと僕にはなんの関係もないんだ。これ以上おかしな言いがかりはやめてほしい。わかるだろう? 大事な時期だし余計な騒ぎは困るんだよ」

「……そんな勝手な言い分が通るわけないだろう」

「たしかにお姉さんのことは気の毒だと思う。でもそれで僕まで恨むのはお門違いだ。幸い元凶の沼田は死んだんだから……まさか、沼田と比賀を殺したのって……っ」

「…………」

「……警察だっているんだ。妙な気は起こすなよ。俺はあいつらとは関係ないんだよ!!」

 

 怒鳴る声に続いて焦りを含んだ慌ただしい足音が聞こえる。

 少し間が空いたあと、バタンッと強くドアが閉まる音と鍵を掛ける音が廊下に響いた。完全に出ていくタイミングを逃したハジメがもう一度そっと廊下を窺うと、久瀬が自分の部屋のドアノブに手をかけたところだった。その横顔は恐ろしいまでの無表情で、到底声をかけられるような雰囲気ではない。

 久瀬の姿が部屋の中へと消えるのを待って、ハジメは「はあぁぁ」と抑えていた息を吐き出した。

 

 

 

14

 

 いつまでもその場にとどまっているわけにもいかない。

 ハジメが階段の陰から出て二歩三歩と廊下を進むと、一番奥の部屋のドアがわずかに開き、外を窺うように室井がそろりと顔をのぞかせた。その行動からは彼女も先ほどの久瀬と水島のやりとりが聞こえていたことを如実に伝えてくる。相手の様子に気をとられていたハジメは慎重に視線を動かしていた室井と音がしそうな勢いで目が合ってしまい思わず肩を跳ねさせた。彼女は大きな瞳を驚きに丸くすると、ハジメに口を開く間も与えずに駆け寄ってくる。

 

「あ、室井さ……」

「シッ!」

 

 室井は鋭い制止の声とともにそのままハジメの腕をつかみ階段の陰へと引っ張り込んだ。抑えたというよりはほとんど囁くような声量で「廊下でしゃべると結構筒抜けになっちゃう」と事情を説明してくれる。

 怒りとも嫌悪とも判断がつかない色が浮かぶ顔。

 やはり彼女はふたりの会話の一部始終を聞いてしまったらしい。

 

「……金田一さんも聞いちゃったの?」

「あー、はい。全部じゃないスけど」

「そっかぁ。私も盗み聞きになっちゃうしってあんまり聞かないようにしようとしたんだけどさ、内容が内容だったから……。なんか……最低だよね、あの人たち。なんで人のこと傷つけて平気な顔ができるんだろ」

 

 眉根を強く寄せた室井はどこか苦しそうで、吐き捨てられたそれには言葉以上の感情が込められているような気がした。

 

「――そんなとこでなにしとんの、おふたりさん」

「芝さん!」

 

 階下から声をかけてきた芝はハジメたちの様子に思うところがあったのか、表情を真剣なものに変えて「なんかあったんか?」と言葉を続け、階段の中ほどまで上がってくる。

 

「いや……ちゃうな。人が殺されてんのやから、そら不安にもなるわ。ひとりで部屋におんのがアレやったら談話室来たらええ。いまなら青ヤンが作ったメチャ旨な昼飯もあんで」

「えっ、青木さんが?」

「意外! 料理とかするタイプなんですね」

「青ヤンは中華料理屋のバイト歴五年の猛者やねん。チャーハンとかエビチリとか春巻きはあいつに作らせとったら間違いない」

 

 ちなみに今日のお昼はチャーハンだという。

 本来なら撮影予定がつまっていることもあり、滞在中の食事はすべて買い出しか出前ですますはずだったのだが、殺人事件の発生で屋敷への出入りが厳しく制限されているため出前は当然禁止。しかし自炊を想定していない屋敷の中には酒とちょっとした肴しかない。短時間の買い出しはかろうじて許可されたので、多少滞在期間が長引いてもいいように色々と食材を買い込んできたらしい。

 

「カップ麵やおやつもあるから、食べたかったらあとで芳野君とこ取りにおいで」

「すみません。なにからなにまで芝さんたちにしてもらって……」

「ええねん、ええねん。こういうのは気づいた人がするもんやろ。青ヤンほどちゃうけど、ボクも芳野君も料理できるし。それに町まで買い物に行ったらええ気分転換になったわ。あっ、室井ちゃんもドライブ行きたかったら、なんぞ買い忘れたことにして行ってきてええよ。車のキー渡しとこか?」

「私、免許持ってないんですよ」

「あらら。そやったんか。まあ、いまどきの子はあんまり車乗らんよな。ほな、室井ちゃんと金田一ちゃんがドライブ行きたいときはボクが乗せてったろ」

 

 言葉とともに茶目っ気たっぷりのウィンクが飛んできて、ハジメは室井とふたり顔を見合わせてクスクスと笑う。

 

「もう昼飯は全員分できとるから、ふたりは先に下りて食べとき。久瀬っちと水島にはボクが声かけとくわ」

「あ、それなんですけど。あのふたり、なんか揉めてるみたいだったから……もうちょっとあとの方がいいかもです」

 

 久瀬と水島の件を伝えるつもりがないのか、室井はそう言葉を濁した。ちらりと視線だけで相手を窺うが、彼女は芝に笑顔を向けていてハジメにはその真意はわからなかった。

 

 

 ◆

 

 

 午後になって頭上に広がる空には少しずつ雲が増えてきた。

 

「刑事さん、犯人がわかったってどういうことなん?」

「なんで私たち、こんなところに呼び出されたんですか?」

「それについてはいまからきちんと説明しますよ。もちろん犯人が誰なのかも」

 

 談話室での食事を終えたハジメたちのもとに明智がやって来たのは約十分ほど前のこと。

 容疑者の中でひとりだけ比賀を殺すことが可能だった人間がいる――。そう言った明智の指示に従い、関係者全員がこの本館の裏手にある荷物用ロープウェイのそばに集められていた。

 それぞれ自分の部屋にこもっていた久瀬と水島の姿もある。ふたりは廊下での一幕などまるでなかったかのようにお互い知らぬ顔で少し離れた位置に立っていた。

 

「さて。今回この屋敷で起きた二件の殺人事件、その鍵を握るのは比賀真人が殺された第二の事件です。みなさんもご存知の通り、現場となった別館と本館は車を使っても片道二十分。事件当時に番組が所有する二台の車に使われた形跡はなく、ここにいる誰にも比賀を殺して時間内にこの本館に戻ってくることはできない状況だった」

「ここにボクらを連れてきたちゅうことは、刑事さんは犯人が移動にそのロープウェイを使ったって言いたいんやな」

「でも、それは荷物を運ぶ用で……」

 

 芳野が指摘したようにそのロープウェイは谷川に架かる形で本館と別館を繋いでこそいるが、荷物専用に作られており座席はおろか乗り込み口もない。ゴンドラと呼ぶには難がある頑丈さだけが取り柄の四角い蓋付きコンテナ。その側面に記された『制限重量:四十キロ以下』の文字になんだかとても嫌な予感がする。

 

「このロープウェイはここを貸別荘に改装したときに新調したものらしいですね」

「そうです。もともと二つの屋敷を繋ぐ吊り橋があったんですが、そちらは荷物の行き来をするには向いていなかったようで……。貸別荘のオーナーが団体客が来たときに便利だろうと、新しいものを取り付けたと聞いています」

「今回の撮影でこれを使ったことは?」

「いいえ。私たちは少人数ですし、車でことが足りましたから」

「私は先ほど実験のつもりで少々動かしてみました。操作方法は至極簡単。本体の電源を入れ、コンテナに荷物をつめて“行く”のボタンを押すだけです」

 

 操作ボタンはコンテナに乗り込んだまま手を伸ばしても問題なく届く位置だ。

 

「ちょお待ってや。でも重量制限は四十キロ以下なんやろ。こういうの安全性がどうちゃらってそれ以上重なったらブザーとか鳴るもんちゃうん? そもそも四十キロ以下なんて、そこの女の子らでも厳しいで」

「たしかに警告のブザーは四十キロを超えた時点で鳴るようです。――ただ、製造元に問い合わせたらブザー音の解除は可能でした。そして四十五キロまでなら重量をオーバーしていてもロープウェイは動かせるそうです」

 

 四十五キロという数字に男性陣の視線がハジメと室井のふたりに向けられる。

 嫌な予感が的中した。しかも都合が良いのか悪いのか、貸別荘への改装にあたり本館・別館ともに自家発電装置なんてものがついているので、一回目とは違い明智の推理は一見筋が通ってしまっている。

 そう、でもそれはあくまで()()なのだ。

 

「このロープウェイを使えば、徒歩を含めても移動時間は片道わずか七分」

「明智さ……」

「もちろん、犯行をビデオカメラ越しに見ていた金田一さんには不可能だ。彼女にはそのあともひとりになる時間はほぼなく、芳野さんたちと別館の現場に向かっていることからもそれは明白です」

「そ、それじゃあ……もしかして」

「室井さん。あなたの事務所のホームページを拝見しました。そこに記載されていたあなたの公表体重は四十キロ。まあ、一キロか二キロ程度はサバを読んでいるかもしれませんが、それでも十分に私の言った条件に当てはまる。――違いますか?」

 

 違うよ!と言ってやりたい。

 たぶん隣にいる室井もハジメと同じ気持ちだろう。ただ、彼女の場合はそれを否定するのに一抹の後ろめたさとか、気まずさとか、バツの悪さ的なものが邪魔をしているのだと思う。

 無言できつく唇を閉ざす室井は自分から真相を言い出しそうではない。

 

「あー。あのさ、明智警視」

「なんですか? なにか気になることでも?」

「――あたし、体重四十五キロ以上あるよ」

「…………は?」

 

 明智は一瞬“なに言ってんだ、この小娘”みたいな顔をしてから、ハッとしたようにハジメと室井を見比べた。そうそう、比較対象があるとわかりやすいよな。

 

「てか、ここ最近食欲ヤバいから服着てたら五十キロくらい行ってると思う」

 

 室井はハジメより八センチは背が高い。

 ふたりとも着ているものは冬服に近いので身体の線が出ているわけではないが、首や頬の肉付きから互いの身長差を考えればおおよその体重は想像がつくはずだ。ましてや、室井にはハジメと決定的に違う部分がある。

 誰もがそこに思い至ったらしく自然と本人をのぞく全員の視線が室井の胸に集中した。

 グラビアアイドルを名乗るに相応しいそのFカップの重さは確実に一キロを超えている。

 

「あたしたち、体重計乗った方がいい?」

「……いえ、必要ありません。女性に、その……言いにくいことを言わせてしまって、すみませんでした」

 

 きまりが悪そうな顔で頭を下げる明智。

 一回目の人生では終ぞ見なかった珍しい姿に笑えばいいのか、慰めればいいのかわからない。まあ、明智が室井を公衆の面前で追い詰めて彼女の恨みを買うことがなくてよかったと思おう。

 室井の反応を見ようとそちらに顔を向けると、彼女はそれを待っていたようなタイミングで力強く叫んだ。  

 

「おっぱいは自前なんで!!」

 

 グラビアアイドルとしてそこだけは譲れなかったらしい。

 

 

 

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