17
かすかに身体が傾き、その刺激で目が覚めた。
どうやら気づかぬうちに椅子に座ったまま眠っていたらしい。視線を上げて部屋の掛け時計を見ると、自分の記憶よりも五分ほど針が進んでいた。
頭の芯ににぶい痛みを感じる。
目を閉じてまぶたの上から軽く揉みほぐせば、生臭い錆鉄のにおいが鼻先をかすめてぎょっとした。息を止めて自分の両手を凝視するが、そこには血の一滴も付着してはいない。当然だ。犯行時はしっかりとゴム手袋をつけていたのだから。それなのに……どうしてか、その手は紅々とした血で染まっているように見えた。
人の肉へと斧を振り下ろした感触が生々しく残る手のひらを、きつく、きつく握りしめる。
(人を、殺した――)
叫び出したいような気分だった。
それが恐怖によるものなのか、はたまた人を殺したことによるある種の興奮なのかはわからない。ただ湧き上がる重くてにがい感情にあえぐように息をした。
苦しい。
浅い呼吸に少し視界が暗くなった気がして、落ち着かねばと胸に手をあて心の中で「一、二、三……」とゆっくり数えていく。その数字が二十を超える頃には心臓から伝わる鼓動はなんの乱れもない穏やかなものに変わっていた。
(大丈夫だ)
まだやれる。
いいや。やらなければ、成し遂げなければならないのだ。ターゲットはまだひとり残っている。彼を殺さずにこの殺人劇の幕を下ろすことはできない。
幸い、懸念材料だった警察はそのほとんどが報告と情報共有のために捜査本部へと引き上げていた。屋敷内での行動もとくに制限されていないので、このまま計画通りに事を進めることができるだろう。
頭の中でこれから実行する計画をシミュレーションする。
……問題ない。
必要なものはすべてそろっている。事前の準備にも抜かりはなく、あとはただ実行のときを待つばかり。
しかし、完璧だ、と口に出したはずの言葉は音にならなかった。
(なにが不安だ……?)
己の心にそう問いかける。
東京から来たあのふたりの刑事か? たしかに明智と剣持の存在はイレギュラーだ。まさか石井の事故を調べに警視庁から刑事が来るとは夢にも思わなかった。とはいえ、彼らが計画の妨げになる可能性を考える必要はないだろう。少なくともああやって見当違いの場所を捜査しているうちは安心できる。
(むしろ、それよりも――)
脳裏にちらつくのは名探偵の孫だという少女の顔。
たぶん彼女は関係者の中でもっとも事件の核心に近いところにいる。最初は巻き込むことを心苦しく感じた少女は、いまでは違う意味でひどく厄介な存在になってしまっていた。
事情聴取の際、彼女の発言に何度肝の冷える思いをしたことか。あの洞察力は侮れない。こちらはなに一つミスを犯していないとはいえ、
事件の終わりはもうすぐそこだ。
するべきことは決まっている。この計画に中止はない。そう、たとえ自分が悲しくむなしい、復讐という地獄に歩を進めているのだとしても……。
◆
画面の見すぎで目がシパシパする。
この映像の粗さが曲者だなと、もう何度目かの再生を終えた画面を前に、ハジメはぐしゃぐしゃとその髪を掻きまぜた。残念ながら新しい発見はない。
(う~~ん。でも、やっぱりどっか変なんだよなぁ)
先ほど抱いた違和感はその正体がわからぬままハジメのなかに居座っている。映像自体におかしなところがあるわけではないので、きっとそれは些細なものであるはずなのだ。そう、普段なら気にもとめないわずかな差異……。
ハジメはそのわかりそうでわからない、もやもやとした気持ち悪さに小さくため息をつき、ソファの背もたれに頭を預けた。貸別荘にするにあたり張り替えたらしい壁紙は汚れ一つなく、真新しいその天井は決してここが一回目と同じではないことを伝えてくる。
照明の明かりが疲れた目に眩しい。
それでも光を厭うてまぶたを下ろせば、今度はその暗闇の中で過去と現在が入り混じりそうな気がして、目を閉じることはできなかった。そのまま眩しさに目を細めて天井を見つめていると、ふと視線の先になにかが差し出され、顔の上に影が落ちた。
ハジメの位置からは白い皿の裏側しか見えなかったが、鼻をくすぐる独特の香ばしさとほろ苦さのある香りにぴんと来る。――コーヒーだ。首をそらせて、手が伸びてきている背もたれ側に視線を移すと、そこにいた意外な相手に思わず問いかけるような声が漏れた。
「明智警視?」
「コーヒーを淹れたので、よかったら一息つきませんか」
そう言ってこちらを見る明智は、ロープウェイの件が尾を引いているのか、どこかぎこちない表情をしている。つい物珍しさに負けて、気まずさを隠せていない彼の口元を注視してしまう。剣持のように明智のこういう姿を面白がれないのは、ハジメ自身が以前とは変わってしまったからだろうか。
「……サンキュ!」
あえて気安い態度で礼を告げ、わざわざソーサーに乗せられたコーヒーカップを受けとる。
自分のカップを持ってハジメの斜め向かいの席に腰を下ろした明智は、コーヒーで唇を湿らせてから「それで」と話を切り出した。
「なにかわかりましたか?」
「この映像からはなにも。剣持のオッサンから久瀬さんとか、青木さんの話は聞いてる?」
「報告は受けました。たしかに彼らの被害者の身内が関係者の中にいたのは気になりますね。ただ、現状では久瀬寛人にほかのふたりはともかく比賀真人の殺害は不可能だ」
「それなんだけどさ。比賀さん部屋になんか気になるところとかなかった?」
「気になるところ……ああ、そういえば腑に落ちないことが一つ。――カメラが、壊されていなかったんです」
現在そのカメラは回収され、なんらかの細工が施されていないか調査中とのことだが、少なくとも外部から破壊されたような痕跡は見当たらなかったという。状況からして電源を切るか、回線の接続をはずした可能性が高いらしい。
「カメラってどこにあったの?」
「設置したときと同じ場所だそうです。比賀真人の部屋のドアの上にありました」
「遺体も凶器も谷川に捨てたのにカメラはそのまま放置した……?」
壊すでも捨てるでもなく殺害現場に置いていった――。
そこにはいったい、犯人のどんな意図が隠されているのか。もちろん、カメラ本体を壊したところで犯行時の映像はノートパソコンに残っているのだから、犯人がそれを無意味だと判断した可能性は否定できない。だが一般的な感覚として、証拠をわざと置いていくには心理的な抵抗が強すぎる。
(犯人にとってカメラを置いておくことになんらかのメリットがあった? それとも、
もっとも、壊すことも捨てることも容易だったはずの状況で、それができなかった理由など思い当たらないのだけれど。
明智が腑に落ちないというのも納得だ。
「――おい、金田一。おまえさんが言っとった背氷村の地図を持ってき……け、警視!? こちらにおられたんですか!?」
談話室に入ってきた剣持が上司を見つけてぎょっとしたような顔でその場から一歩後退る。反応がわかりやすいというか、露骨すぎるというか。
案の定、明智はそんな剣持の態度にピクリと眉根を寄せた。
「私がここにいたらなにか不都合ですか、剣持君」
「い、いや……はははっ、そんなことは……」
「ふーっ。剣持君、そもそもあなたにはプロ意識というものが――」
「まあまあ、明智警視! いまはオッサンにイヤミ言ってる場合じゃないんだしさ」
「イヤミ……?」
おっと、口がすべった。
ハジメは眼鏡の向こうから注がれる険しい視線を笑って受け流す。女子高生でも「イヤミ」発言は許してくれないらしい。幸いなことに、間を置かず剣持が堪えきれないとばかりに噴き出したので明智の意識はそちらに移った。合掌。
剣持に同情しつつ、さすがのハジメもこの空気の中もう一度助け舟を出すことはできなかった。止めたはずのイヤミが倍になって返ってくることになってなんだか申し訳ない。しかし明智はハジメの予想に反して、しどろもどろに失態を誤魔化そうとする剣持にそれ以上イヤミは続けず、自ら話題を事件へと戻した。
剣持は上司の気が変わらぬうちにとソファに座り、持ってきた地図を机の上に広げる。
「この地図でなにをしようと?」
「いや、そんな大したことじゃないんだ。単純に向こうと行き来する方法がないかなと思って」
ハジメの言葉にうなずいた明智は、比賀と沼田の遺体が発見された場所や凶器の見つかった場所などをそこに書き込んでいく。
「あっ! そういえば、水島さんが新幹線を使った理由ってわかったの?」
「いいえ。それが……彼のマネージャーと連絡はついたんですが、明確な理由はわかりませんでした。しかしマネージャーがいうには、水島明が長距離移動に飛行機ではなく新幹線を使うのは今回だけのことではないようです。基本的に彼の移動手段は車と飛行機だそうですよ」
「水島さんって自分でも車の運転できる?」
「たしか事情聴取のときに身元確認で免許証を出しとったぞ。普通にできるんじゃないのか」
「彼の実家は自動車の整備工場です。運転技術のほどは不明ですが、一般人より知識や技術を持っていても不思議ではない」
「石井光雄の事件からするとあいつが一番怪しいんだ」
剣持は鼻息も荒く「うんうん」と自分の発言に何度も首を縦に振った。
仮に水島明が犯人だとするならば状況証拠はすでにそろいつつある。決定的な証拠はないが、彼の犯行を否定するだけの材料もない。
(本当に水島が犯人なのか……?)
18
会話が一段落したところで、ハジメは少し温くなったコーヒーをすする。
昼以降なにも口にしていなかったからか、砂糖とミルクのほのかな甘みが空っぽの胃にじんわりと染み渡るのを感じた。ちびちびとコーヒーを飲み、いまにも騒ぎだしそうな腹の虫を宥める。
(腹減ったなぁ……)
ハジメは半分ほどに減ったコーヒーを手慰みにスプーンでくるくると搔きまぜた。カップの中にできたその薄茶色の渦をぼんやりと見つめる。
くるくる。
くるくる。
カップの中のコーヒーと同じようにハジメの頭の中をいくつもの考えが巡っては、形になることなく消えていった。
「――もう十七時ですか」
ドア越しに低く響く鐘の音。
明智は自分の腕時計に視線を落とし、誰ともなくつぶやいた。その言葉にハジメも左腕のGショックを確認する。夕食にはまだ早いがそろそろ芳野や芝が準備のためにキッチンに出てきているかもしれない。手伝いがてら彼らから話でも聞こうか。
「明智警視たちも今日はここに泊まんの?」
「いえ、一度道警に戻ります。捜査本部に顔を出さないわけにはいきませんから」
いましがた警視庁からかかってきた電話の対応をしている部下を尻目に明智はそう答えた。
捜査責任者のような顔で現場を仕切っていたが、この事件の主導権は北海道警にあるらしい。明智と剣持がここにいる大義名分はあくまでも“不動山市で起きた石井光雄に対する殺人事件の捜査”だという。
剣持の電話が終わればもう屋敷を出ると続けた明智は、そのすぐあとに響いた部下の大声に、コーヒーカップへと伸ばしかけていた手をぴたりと止めた。
「なにっ!? それは本当か!! ……間違いないんだな。……ああ、それなら一気にどっちの事件もカタがつくかもしれん。警視には――」
明智の名前を出した剣持が興奮を滲ませた顔でこちらを見る。
そのまま早口に相手との会話を切り上げると、彼はわずか数歩の距離ももどかしいとばかりに大股でハジメたちが座るソファまで来て、己が聞いた情報を上司へと端的に告げた。
――事故の二日前に石井光雄のマンション周辺に設置された監視カメラの映像に水島明と思しき人物が映っていた、と。
◆
監視カメラの映像は水島の犯行を決定づけるものではなかったが、彼に容疑者として任意同行を求めるに足りる有力な情報だった。いまの状況で水島がそれを拒否するのは難しいことらしい。剣持はもし水島が強固に断るのならばその場で逮捕状を請求すると息巻いている。
「おい! ここを開けろ!!」
鬼警部の名に相応しいドスを利かせた低い声が廊下に響いた。
言葉の間にドン、ドンといささか乱暴にドアを叩くが水島からの応答はない。三度目の呼びかけでしびれを切らした剣持が強引にドアノブをひねったが、鍵に阻まれドアが開くことはなかった。
廊下の騒がしさに隣室から芝が「いったい何事か」と顔を出す。
ハジメはそんな芝に視線を配りながらも、一向に開く気配のないドアを前に薄墨が広がるような不安を感じていた。
「なんだ? 部屋におらんのか?」
「――仕方がない。剣持君、下にいる警官からマスターキーを借りてきてください」
「はっ! 了解しました」
この部屋の中に水島がいない可能性はどれほどあるだろうか。
事件前からひとり部屋で過ごしていた彼の行動を思い返し、ハジメはスッとその目を眇めた。もしかしたら水島はドアを開けないのではなく、開けられないのではないか――。
「なんなん? 水島、どないかしたん?」
「いえ、水島さんに少し聞きたいことがあったのですが……。芝さんは彼が部屋の中にいるかご存じですか?」
廊下に出てきた芝は明智の質問に首を傾げる。
「知らんけど……。でも部屋ん中におるんちゃうの」
「芝さんはいままでご自身の部屋に?」
芝が仮眠をとっていたと自身の行動を説明している間に、久瀬と室井も自分たちの部屋から出て廊下へと集まってきた。三人とも水島の所在について知らず、彼の姿も見かけていないという。
ちなみに二階は八部屋にプラスして共用の風呂とトイレがある造りとなっており、沼田と比賀が亡くなったいま、この階を利用しているのは芳野と青木を抜いた五人である。
「えっと、なにかあったんなら芳野さんたちも呼んできますか?」
「なにかって……久瀬さん、そんな不吉なこと言わないでくださいよ~」
「えっ?! いや、俺はべつにそんなつもりじゃ……」
「室井ちゃん。刑事さんらもおるねんから、そない心配せんでも大丈夫やって」
その警察から一度疑われた身である室井はどこか浮かない顔で視線を床へと落とした。
「久瀬さんと室井さんはこの裏側の部屋でしたね」
「そうです。階段の隣が俺の部屋で、空き部屋を一つ挟んで金田一さんと室井さんの部屋が」
「いまこっち側の部屋に泊ってるんはボクと水島だけや」
「久瀬さんの部屋はこの部屋のちょうど真裏ですか……。なにか物音などは気になりませんでしたか?」
「……とくには」
そうこうしているうちにマスターキーを持った剣持が二階へと戻ってきた。
剣持が慎重な手付きで水島の部屋のドアを開けるのを、その場にいる全員がどこか緊張感を孕んだ表情で見守る。カチャリと小さな音とともに鍵が開く。依然として室内からの反応はない。剣持の視線を受けた明智が小さく首肯する。
そのドアが開いたとき、ハジメが最初に感じたのは暖かさだった。
「……っ!?」
室内の光景に息を呑む。
水島明はベッドの横にある備え付けの小さなライティングデスクに突っ伏すように座っていた。だらんと力なく垂れ下がった左腕が、彼がただ眠っているわけではないことを如実に物語っている。こちらを向いた背中はぴくりとも動かない。
廊下に凍りついたような沈黙が落ちる。
強めにかけられた暖房がブオォーと風を吐き出す音が嫌に耳についた。
「警視」
「ええ。――皆さんはその場から動かないでください」
いち早く異常に気づいた刑事たちはハジメたちを廊下に残し、ふたりで部屋の中へと入っていく。
「これは……」
「口唇の
「まだ顎の硬直がはじまってませんな」
「室温が高いことが少々気になりますが、死後二時間は経っていない。――剣持君、そこの水を踏まないようにしてください」
明智の指摘に剣持が慌てたように身を引いた。
ライティングデスクの上にはグラスが横向きに倒れており、中身がこぼれたのかその下の床に小さな水たまりを作っている。明智は手袋をつけた手で水たまりに浸かるように落ちていた鍵を拾い上げ、光に透かすように掲げてみせた。
「密室、ね」
「自殺でしょうか?」
「この部屋には窓がなく、我々はマスターキーを使ってドアを開けた。この鍵が正しくこの部屋のものであるなら、自殺か……もしくは密室殺人、ということになりますね」
「み、密室殺人!?」
「可能性の話です。とにかく、鑑識を呼び戻しましょう。北海道警に連絡を入れてください」
「はっ!」
「そのあとは関係者を談話室に集めて事情聴取をお願いします」
「了解しました。……警視はどうされるので?」
「私はこのまま現場検証を行いますよ。そこの――名探偵のお孫さんとね」
手を貸せというよりは、ロープウェイの一件に対する礼のつもりだろう。ハジメに断る理由はないので、その申し出はありがたく受けることにした。
心配する室井たちを大丈夫だと宥めて、談話室へと向かう四人の背中を見送る。
「室内のものには素手で触らないように。まあ、君には釈迦に説法だったかな」
「……あたしはただの一般人ですよ」
「安心するといい。君は間違いなく下手な刑事よりも現場経験が豊富だ」
いつものイヤミかとも思ったが口調からするとどうやら褒めているつもりらしい。
ハジメは「なんだかなぁ」と明智にバレぬようにこっそりとため息をついた。一回目のイメージが強いせいか、やっぱり警視のこの態度はどうにもやりにくく感じてしまう。
明智が落ちていた鍵がこの部屋のものか確かめている間に、ハジメは水島の遺体に静かに手を合わせてから、現場を荒らさないように気をつけつつ室内の捜索を開始する。
まず目に留まったのは明智も指摘していたライティングデスクの下にできた水たまりだ。一見するとグラスが倒れたことで中の水が床へとこぼれたように見えるが……。
(机の上の水が少なすぎる)
平面にこぼれた水の、そのほとんどが床にたまっているのは明らかに不自然である。室内はかなり暑いとはいえ、デスクの上の水だけが蒸発したとも考えにくい。むしろ、ハジメには床にできた水たまりを誤魔化すためにグラスを倒したように感じられた。
この部屋からは作為のにおいがする。
(――密室殺人)
己の直感が告げる答えに従い、ハジメは今度は自分の足元に視線を向けた。
床の材質はフローリングで、しっかりとワックスがけされたそれは、靴底を擦りつければキュッと高い音がした。デスク下の水たまり以外は床が濡れている様子はない。
次いで部屋の壁をぐるりと見回すと、廊下側の壁、ライティングデスクのちょうど向かいの位置に空気孔のような穴が開いていた。天井から三十センチほどのところにあるその穴の直径はせいぜい十センチ。換気のために取り付けられているもので、プラスチックのカバーがついているが、取り外すのは難しくなさそうに見えた。
空気孔の真下の床には水島のものらしきボディバッグがあり、それに立てかけるような形でドッキリの台本が置かれていた。扱いが雑なのか、台本の表紙はわずかに波打つようなシワが寄っている。
(なるほどな)
この密室のおおよそのトリックは見当がついた。
そして、犯人がこれを自殺に見せかけるつもりならどこかに遺書があるはずだ。
「なにか見つかりましたか?」
「遺書を探してんだけど……。たぶんスマホかなんかに入ってんじゃないかと思うんだよな。――鍵はどうだった?」
この部屋のものだったと答えた明智は、遺体の下やデスクの引き出し、ベッドの周辺などを順番に探していく。数分の捜索ののち、水島のスマホは彼のカーディガンのポケットから見つかった。
そして、その中にはハジメの予想通り――彼の遺書が残されていた。