5
そこは少し寂れた単身者向けのワンルームマンションだった。
権藤刑事の案内で二階にある滝沢厚の部屋へと通される。
入り口から室内がほぼ見渡せる狭い部屋だ。玄関のすぐ左手側には備え付けのミニキッチンがあり、その壁には換気扇が一つ取り付けられている。
滝沢はこの部屋のほぼ中央で首を吊って死んでいたらしい。遺体はすでに片付けられていたが、自殺の際に使用したと思われる折りたたみの椅子は倒れたままその場に残されていた。
「密室トリックなんていうのは、推理小説やドラマのなかだけのことで、実際にはそうそうあるものじゃないんだよ」
「出入り口は、玄関ドアと……あの窓だけ?」
玄関の向かいになる壁に少し大きめの窓がある。
窓の下には比較的しっかりした造りのベッドが置かれていた。起きたときのままなのか、掛け布団が足元側でくしゃくしゃに丸まっている。
ベッドの前にあるローテーブルの上には、パソコンと飲みかけの缶ビールが残されていた。
「ユニットバスにも窓はあるが、そちらは人が出入りできるような大きさじゃない」
権藤刑事の説明を聞きながら、ハジメは部屋の中を調べていく。
浴槽とトイレ、その間に洗面台が置かれたユニットバスは部屋に負けず劣らず狭い。その小さな窓は通路側に面してはいるが、権藤刑事の言う通り小柄なハジメでも肩が通りそうにない大きさだった。
「なんか、この部屋変じゃねぇ?」
「部屋のレイアウトが左側に寄りすぎていますね」
ベッドやローテーブル、テレビに本棚まで、すべてが玄関から見て部屋の左側に集められている。右側に明らかにスペースが空いているのに、そこには束ねた雑誌やハンガーラックなどしか置かれていない。
まるでなにかを移動させたようだ。
「ベッド、ですかね」
高遠の言葉にハジメはうなずくでもなく、屈んで部屋の床を指先で擦った。
「……きれいすぎる」
「なるほど」
キッチンの洗い場に残された汚れたままの皿やコップ、整えられていないベッドに対して、ホコリ一つない床というのはあまりに不自然だ。
「おいおい、何なんだ?」
ハジメと高遠のやりとりに目を白黒させる権藤刑事を無視して、名探偵はなにやらベッドの下をのぞき込んでいる。彼女の視線の先、ベッド側面の板にはなにかで擦ったような傷があった。
なぜベッドを動かしたのかと思ったが、そういうことか。
ハジメの行動で、高遠にもこの密室のトリックが解けた。
わかってしまえば簡単なトリックではあるが、この少女がいったいいつそれに気づいたのかを考えると、思わず拍手を送りたくなる。
金田一一はこの部屋の間取りを見て、ほぼ瞬間的にこのトリックを思いついたのだろう。
先ほどから彼女がしているのはその確認作業にすぎない。
ハジメはちらりと自分の後ろを見てから、ベッドの上へとあがり、窓の鍵を開けて外の様子を確かめている。窓のすぐ近くの外側の壁には排水用の太めのパイプが通っており、足場にして降りるのはさほど難しくない。
そして、窓の鍵はつまみを上から下へおろすことによって施錠する、ごく一般的なものだ。
「刑事さん。やっぱりこれは自殺じゃなくて殺人事件だよ」
「犯人がその窓から外に出たって言うのか? 残念だが、その窓にもちゃんと鍵はかかっていたよ」
呆れたような権藤刑事に、ハジメは人懐っこい笑顔を返した。
「丈夫な紐か、細めのロープない?」
半信半疑の捜査員たちが見守るなか、名探偵はいともたやすくこの密室トリックを解いていく。
「さっき説明した通り、犯人は滝沢厚を自殺に見せかけて殺したあと、玄関に鍵とドアロックをかけてこの窓から外に出たんだ」
「そりゃ二階だから下に降りられないことはないだろうが……どうやって、外から鍵をかけるんだ?」
「まず、窓から外に出る前にロープの一方の端を窓の鍵のつまみに結びつける。そしてもう一方は、ベッドの下をくぐらせてから、換気扇の穴を通して外に出したんだ」
ハジメはトリックを説明しながら実演してみせる。
最初は本当に窓の外に出ようとしたため、それは高遠がやんわりと止めておいた。自分の運動神経を過信してもらっては困る。落ちたらどうするのだ。
「窓から外に出た犯人は、窓をピッタリ閉めて、換気扇の付いてるマンションの通路側に回る。そして、外に出していたロープを引くと、ベッドが支点になってつまみが真下に引っ張られることで鍵がかかる」
「君が言っていたベッドの下の傷は、ロープが擦れた跡だったのか」
「そう。さらにそのまま続けて引っ張ると、ロープがつまみからはずれて、換気扇の穴から外に引き出すことができるんだ」
高遠がハジメの説明に合わせて、部屋の外から換気扇を通していたロープを引っ張って回収すると、捜査員たちの「おおっ!」という歓声が聞こえてきた。
うまく窓の鍵がかかったのだろう。
「たしかに、この方法なら……だが、君はどうしてこのトリックに気づいたんだ?」
権藤刑事は感心したようにそう尋ねた。
「一つは、部屋の床がきれいに掃除されてたこと。自殺するときに身の回りを整理することはあるけど、キッチンの流しやベッドはそのままなのに床だけきれいにしてるのは不自然だろ」
「そう言われれば……」
「じゃあ、なぜ床を掃除する必要があったのか」
“わかる?”というように、ハジメは捜査員たちを見回す。
この場の誰もが名探偵の推理に聞き入っていた。そうして謎を解く姿は十七歳の頃となにも変わらない。
「あのベッド、本当は部屋の右側のスペースに置かれてたんじゃないかな。このトリックを使うには窓の下にロープを通す支点となるものが必要だからね」
「ベッドを動かしたのを誤魔化すために掃除した?」
「ご名答。結構しっかり造りのベッドだし、動かしたあとが残ちゃったんだろうね。雑誌とかハンガーラックだけじゃなくて、せめて本棚を移動してたら違和感も少なかったかもしれないけど」
問題はこのトリックはほぼ誰にでも可能だったということだ。
滝沢厚の死亡推定時刻は午前一時から午前三時の間らしい。容疑者として事情聴取の続きをするために呼び出していた滝沢が時間になっても現れなかったため、捜査員が自宅に訪れその死体を発見した。
自殺だと思われてはいたが、一応警察も現場周辺の聞き込みはしており、その時間帯に有力な目撃情報などがないことはわかっている。
「なんで犯人は滝沢を殺したんだ?」
密室トリックで盛り上がっている捜査員たちを尻目に、ハジメは滝沢の死を聞いたときから感じていた疑問を口にした。
「元々滝沢に罪を着せるつもりだったのでは?」
「……なら、真上寺聖子を殴打した凶器くらい置いていかないか? そのほうが信用性も増すだろ」
「ふむ。この滝沢殺しも突発的な犯行だと?」
「まだわかんねぇけど……計画性があるようでない気がするし。滝沢がこの犯人を自分の家に入れてるのも不思議ちゃあ不思議なんだよなぁ」
聖子が殺されたというのに、滝沢はなんの警戒もなく犯人を招き入れたのだろうか。
その人物を犯人だとは思わなかったのか、あるいは犯人であっても自身で対処できると思えるような相手だったのか。
「緑川由紀夫は見逃すのか?」
犯人が初めから滝沢を殺すつもりだったとして、その理由が高遠やハジメの考える動機に由来するものであるのなら、緑川だけがそのターゲットからはずれるのは不可解だ。
元凶たる真上寺聖子を殺すのはわかる。
計画に乗った時点で三人とも同罪だと殺すのも理解できる。
緑川ではなく、滝沢がスケープゴートに選ばれた意味がなにかあるのか。
「滝沢厚が死んだいま、容疑者は能条光三郎と加奈井理央のふたりに絞られたわけですが」
「ちゃっかり自分を容疑者から抜いてんじゃねぇよ」
「おや。心外ですね。君も私を疑ってるんですか?」
「さあね。なんせ地獄の傀儡師サマだからな〜」
茶化したように笑うその顔にはいつもの明るさが足りない。
それが妙に気に食わなくて、高遠はハジメの両頬をつまんで左右に引っ張った。
「いへぇ! はにふんだ!」
「君がらしくない顔をしているからですよ」
彼女が苦しむさまを美しいと感じるのに、その瞳が悲しみに曇ることを望んでいるはずなのに……ときどき自分でも理解できない感情に襲われる。
不快で、どこか苦しいこの感情がなにに起因するものなのかはわからない。
ただハジメが自分の意図しないところで勝手に傷ついているのは、なぜだかどうしようもなく腹立たしかった。
6
捜査が振り出しに戻ったため、高遠とハジメは権藤刑事とともに再び劇団幻想を訪れていた。密室トリックを解いたことで、警察の協力が得やすくなったのはありがたい。
権藤刑事が劇団員たちに滝沢厚の死が他殺であったことを説明している傍ら、ハジメは全員の様子をじっと観察していた。
「滝沢が自殺じゃなく、殺されたってことは、これは連続殺人なんですか?」
「まだ同一犯であるという確証はありませんが、この二つの事件が無関係ではないでしょう」
「や、やっぱり……俺たちの中に犯人が?」
不安、疑心、困惑、とこの場の誰もがその顔に様々な表情を浮かべている。だが、この中の誰かは滝沢の自殺偽装を暴かれ、内心その動揺を押し隠しているはずだ。
「どうして……」
「美歌」
黒沢美歌は美しい顔を悲しみに染めて、仲間の死を悼んでいる。
能条光三郎はそんな婚約者を守るかのようにそばに立ち、力強い腕で優しく彼女を支えていた。
劇団員の中で、聖子や滝沢に明確な殺意を抱く理由があるのはこのふたりだけだ。あの三人の企みを知ってしまったとしたら、なんらかの行動に出るのは不思議ではない。
「刑事さん、公演はどうなりますか?」
「公演?」
「あと一週間ほどで『オペラ座の怪人』の初公演なんです」
正木の言葉に権藤刑事は眉間のシワを深めながら、公演の中止は求めないと説明している。イライラとしたその様子から権藤刑事の本音は別であることは伝わっているだろうに、正木を始め何人かの劇団員は明らかにほっとした顔をした。
加奈井理央は不安げな仕草とは裏腹に、どこか冷静な目でそのやりとりを見つめている。
「……あんたさ、ひょっとして犯人の目星ついてたりすんの?」
「残念ですがまったく」
「…………」
「おや? 疑ってます?」
からかうようにハジメの顔をのぞき込めば、ムッとした顔で睨まれた。なかなかに可愛らしいが、犯人の見当がついていないのは本当だ。人の殺意や悪意にはそれなりに敏感なほうだが、いまのところ高遠のセンサーに引っかかる人物はいなかった。
そもそも自分の用意した惨劇ではない。この事件における高遠の立ち位置は役者でも演出家でもなく、名探偵の活躍を楽しむ観客である。
「……はぁ。もういいよ」
そんな高遠の心情を読み取ったわけではないだろうが、なぜだかハジメは疲れた様子でため息をついて肩を落とした。
警察了承のもと堂々と捜査をするハジメの後ろをついて歩く。
もちろん、一回目のときの七瀬美雪のように助手よろしくメモをとったり、素人探偵のサポートをするためではない。類まれな推理力とその真っ直ぐな正義感で犯人を追い詰める金田一一を特等席で見ることが目的である。
「――この部屋の中に人が隠れるのは無理だな」
真上寺聖子が休憩に使っていたのは六畳にも満たない小さな部屋で、室内には簡易のソファベッドと折りたたみテーブル、空気清浄機や荷物を入れていたロッカーがあるだけだ。
出入り口は廊下へと出る扉のみで、ハジメの言うように死角となるスペースはない。
「隣はなんの部屋なんだ?」
話しながら現場検証するハジメの背を何気なく見つめる。彼女の動きに合わせてピコピコと跳ねる髪がまるで尻尾のようだ。
「裏口側が芝居に使う道具なんかを置いている倉庫ですよ。凶器になったナイフもここに置かれていました」
「反対側は?」
「劇団員たちが使う休憩室です。ここよりも広いですが、ただ事件当日はエアコンが故障中で誰も使用していません」
聖子の休憩室は元は衣装部屋で、彼女が自らの特権を利用して自分専用に部屋を空けさせたと聞いている。
「あんたも現場を見たんだよな?」
「ええ。すぐ騒ぎに気づいたので、死体発見から五分と経っていないはずです」
高遠がこの部屋に来た時点ですでに数人の劇団員が集まっていたが、とくに怪しい行動をしていた人物はいなかった。明らかに他殺とわかる状態だったせいか、高遠以外は被害者に近づきもしていない。
「殺されてからさほど時間が経っているようには感じませんでしたね」
そう、現場の状況から考えると衝動的な犯行に見える。だがそうだとすると拭い難い違和感がこの部屋にはあった。
高遠の言葉にもう一度部屋の中を見回してから、ハジメは小さくつぶやいた。
「争った跡がない?」
「さすが金田一君。そう、殴って気絶した相手を刺してその場から逃げたにしては、この部屋の中は整いすぎている」
高遠自身が確認したので死亡推定時刻は間違いない。死後に遺体を動かした形跡もない。
なら、考えられる可能性は二つ。
聖子を気絶させたのが別の場所であるか、あるいは気絶させた時間と殺した時間に開きがあるかだ。
「この部屋を殺害現場に選ぶメリットはないよな」
「しかし、気絶させた相手をそのままにして部屋を片付けるのも犯人の心理的におかしくありませんか?」
「殴って死んだと思ったとか?」
「ふむ。殺す前の時点で偽装工作をしていたと?」
少々お粗末だが、衝動的な犯行に動揺していたと考えればありえないことではない。
その場合、犯人は被害者が生きていることに気づき、凶器をナイフに変えて改めて殺したことになる。凶器を変えた理由はなんだ? 殴打に使った物はどこに消えた?
「君が言っていたように、殴った人間と刺した人間が違う可能性も――」
「……違う。……そうか、先に偽装したんだ」
「金田一君?」
はっとした顔で走り出したハジメが向かったのは権藤刑事のところだった。渋る相手から受け取った写真を食い入るように見つめている。
横からのぞき見るが、写真の真上寺聖子は高遠が記憶している姿と相違なかった。
背部からナイフを刺された状態でうつ伏せに倒れており、生々しい血がその背中を染めている。
「なにかわかったんですか?」
「なあ、あんた薔薇十字館のときに――」
続く言葉にうなずいてから気がついた。
床にほとんど血が流れていなかったため違和感を覚えなかったが、ハジメの指摘は正しい。ナイフで即死させられたにしては、この背中の出血は多すぎる。偽装工作はきちんと行われていたのだ。
そして、このトリックで真上寺聖子を殺害できたのはただひとり。
「はぁ? なんだってそんなことを」
「お願い! ちょっと調べてもらってよ、刑事さん」
権藤刑事は怪訝な顔をしながらも、ハジメの言ったことを調べるよう部下に指示を出している。名探偵の推理通りなら、
「あとは、消えたほうの凶器ですか?」
「それは見当がついた」
そう言ってハジメが差し出したのは聖子の所持品リストだった。
化粧道具、香水、ハンカチやポケットティッシュ、タバコ、ライター、財布……とその持ち物におかしなところはない。が、高遠にも部屋の中からなくなった物があるのはわかった。
「灰皿ですね」
「たぶんな。問題はどこに隠したのかだけど……」
「劇団内はあらかた警察が調べたはずですが」
「凝った場所に隠す時間はなかったと思うんだよ。ゴミとして捨ててたらもう見つかってるだろうし、違う場所に置いたらほかの人が気づきそうだしなぁ」
まあ、犯人がわかっているのでその人物の行動を追えばいい。
とりあえず事務所で聞き込みするかとそちらに足を向ければ、ちょうど加奈井理央が前から歩いてきた。これから再度事情聴取でも受けるのか、その足取りはどこか重い。
ハジメと高遠に気づくと、加奈井は愛嬌のある笑顔を浮かべ自分から話しかけてきた。
「高遠さん、と……金田一さんだっけ?」
「金田一一です」
「ねぇ、君って名探偵の孫なんでしょ。こっそり刑事さんたちが話してるのを聞いちゃったんだけど、滝沢さんの密室トリックを見破ったんだってね。すっごーい!」
そのあっけらかんとした言い方からは、滝沢の死に対する悲しみは感じられない。
ぐいぐいとハジメから事件のことを聞こうとする加奈井をなんとか宥め、劇団内の人間関係や犯行動機などについてそれとなく尋ねてみるが有益な情報は出てこなかった。
「う〜ん。真面目な人って感じかな? あっ、でも次の舞台にはすごく思い入れがあると思うのよね」
「舞台って『オペラ座の怪人』ですか?」
「そう。確かめたわけじゃないんだけど、黒沢先生のファンじゃないかと睨んでるのよ、あたしは」
そう最後にある人物について加奈井が語ったとき、ハジメが欠けていた動機というピースを見つけたのがわかった。
演出家・黒沢和馬への敬愛。そして、それに伴う『オペラ座の怪人』という舞台への執着。
犯人は黒沢美歌を守ったのではなかった。自分の舞台を壊す存在として、真上寺聖子を排したのだ。
「高遠は倉庫にアレがないか探してくれ」
加奈井と別れ、再び事務所へと向かうハジメのあとをついて行こうとすれば、別行動を言い渡された。
ハジメの言うアレがなんなのかは見当がつく。十中八九倉庫にあるであろう犯人が大胆にも残している――あるいは戻したと表現するべきか――“証拠”を探しに行くのも構わない。
「お断りします」
ただ、高遠には名探偵の助手をしてやる義理はない。
「え?」
「言ったでしょう。私は君と谷底に落ちるほうがいいんです」
「ひょっとして……“物騒な助手”って言ったの、根に持ってる?」
「まさか! 君にとって、私は“いらない”んだなと思っただけです」
「しっかり根に持ってるじゃん!」
助手ポジションなどこちらからお断りだが、いらないと言われるとそれはそれで腹立たしいものがある。少なくとも、いまの金田一一の協力者は高遠なのだから。
彼女はもう少し自分に感謝してもいいと思う。
「なあ、高遠……お願い」
「!」
この平行線は最近いらぬ知恵をつけてきた。
ハジメが頼る相手が自分しかいないという状況に深い満足を覚えていることが原因だとわかってはいるのだが、高遠は妙に彼女のお願いに弱いのだ。
それをハジメ自身に知られてしまったのは手痛いミスと言わざるをえない。
無自覚に高遠を振り回しているくせに、そのうえ自覚して甘えてくるのはズルいだろう。
「お願い」
強制力を持ったお願いなど本当に質が悪い。
「もっと可愛く言ってください」
「え"」
その嫌そうな顔にはぐっときたので、今回もこちらが折れてあげるとしよう。
ついでに、ハジメが探しに行こうとしているものについて伝えておく。
「劇団の裏口近くにゴミ捨て場があるんですが」
「うん?」
「そこ、定期的に近所のホームレスがゴミを漁りに来ているようですよ」
「…………」
「適当なゴミ袋にでも金目のものと一緒に凶器を入れておけば勝手に回収してくれそうですよね」
「あんたさぁ……やっぱホントはなんか気づいてただろ!?」
「疑り深いですねぇ。凶器が灰皿だと知って、さっき思い出したんですよ」
うそではない。
思い出したのに黙っていたのは故意だが、聞かれないことまで答える義理はそれこそないのだ。それに、警察が調べていけばいずれわかったことでもある。
「あんたってそういうヤツだよな」
「私への理解が深まったようでなによりです」
「なんもよくねぇわ!」
謎解きの準備を整えて、名探偵は舞台へと上がる。
高遠はただの観客としてそれを楽しもう。いつだって