第十話 司波達也 司波深雪
国立魔法大学付属第一高校。毎年、国立魔法大学へ最も多くの卒業生を送り込んでいる高等魔法教育機関として知られている。そんな第一高校は去年まで、『二科生制度』という優秀な生徒と劣等な生徒を区分けする制度が設けられていた。
しかしその制度が、学校内で
今年の4月から、第一高校および全魔法科高校に導入された制度。名を『秤制度』という。なんでもその制度の名は、去年の第一高校で生徒会長を務めた人物の名前からとったものらしい。
という去年起きたこの学校の情報を、とある男子生徒は三人掛けのベンチに腰を落ち着け、暇つぶしがてら携帯端末を開いて、この学校のホームページに書かれていた記事を眺めていた。
「新入生ですよね?もうすぐ開場の時間ですよ」
男子生徒がちょうど立ちあがろうとした時、声が降ってきた。男子生徒がまず目に付いたのは、女性の左腕に巻かれた幅広のブレスレット。
CAD(術式補助演算機)。
他にもデバイス、アシスタンス、ホウキ(法機)とも呼ばれる魔法工学製品。魔法を発動する為の起動式を提供してくれる、現代魔法技師の必須アイテム。
CADは起動式を提供するだけものであり、魔法を発動するのは魔法技能師自身の能力。故に、魔法を使えない者には無用の物で、CADを所持する者は、ほぼ確実に魔法に携わる者である。
他の学校は知らないが、この第一高校の学校内におけるCADの携行は、生徒会役員と委員会のメンバーのみと男子生徒は記憶していた。ならば目の前の女子生徒は、
「あっ、申し遅れました。私はこの学校の生徒会長を務めています。七草真由美です。よろしくね」
彼女は生徒会長だった。いやそれよりも、
(七草………)
この国において、魔法に優れた血を持つ家系は、慣例的に数字を含む苗字を持つ。そして彼女の名前は七草。その名を知らない魔法師はいない。なにせ七草家は、日本で最強と謳われる、あの十師族に名を連ねる者なのだから。
「司波達也です」
司波達也。この男の登場により、
司波深雪。彼女は、今年の第一高校の新入生総代として、入学式で壇上に立ち皆の前で答辞を読んだ。内容はごくごく普通のものであったが、彼女の並外れた可憐な美貌と慎ましくも初々しい様子に、男共のハートを鷲掴みにした。
読み終えた彼女に、会場の皆が拍手を送る。深雪は一礼したのち、階段を降りて座っていた元の席に腰を下ろす。次に、新入生は第一高校の校長である百山東からのありがたいお言葉を頂く。
「諸君、まずは入学おめでとう。皆も知っているだろうが、我が校では今年から『二科生制度』が撤廃され、新しい制度が取り入れられることになった。皆が区別なく、同じ制服に袖を通してこの学校で学ぶことになる。諸君一人一人が成長し、輝ける人材となることを期待している。以上」
式が終わると、学校で使われるIDカードの交付があるため、新入生は席を立ち案内板の指示に従って窓口へと向かうのだが、深雪は新入生を代表として、既にカードを授与されている。そのため深雪は、来賓の人垣の中にいた。
(早くお兄様と会いたいのに…………)
早く終わってほしい、そんな気持ちを悟らせないよう笑顔で対応する。そんな深雪と来賓の横を通る二人の影が。
「雫、一緒のクラスになれたらいいね」
「うん」
北山雫と光井ほのか。彼女達も、今日からこの第一高校に通うことになった。窓口でIDカードを受け取りに、講堂から外へ出る。
「カードを受け取った後は、学校内を見て回ろっか」
「それも良いけど、金次さんに会いたい」
雫はまず、金次に挨拶がしたかった。自分の恩人である彼に対して、自分の成長した姿を、制服姿を見てほしかった。
「入学式の日は、新入生以外の生徒はいないと思うけど……」
「金次さん、生徒会に入ってた。学校のホームページに名前が載ってた」
意外にも、金次が生徒会役員になってたことに雫は驚いた。金次は堅苦しい役職に就く性分ではないと思っていたから。
「えっ!?そうだったんだ。意外」
それは、ほのかも同じであった。
「金次さん、何処にいるのかな?」
残念ながら、金次は生徒会役員の入学式の手伝いをサボっているため、学校には来ていなかった。それを知らなかった雫は、いつまで経っても見当たらず、しょんぼりして家に帰った。
入学式から2日目。十文字金次は無事に二年生に進級した。教室では、中条あずさと新たに同じクラスメイトになった服部刑部と共に雑談していた。
「今年の首席ってどんな奴だ?」
「そういえばお前、入学式の手伝いに来てなかったから分からないよな」
「男?それとも女か?」
服部は、金次に棘のある言葉をお見舞いしてやるが、金次は気付かぬふりしてスルーする。
「今年の首席は女子です。それももの凄い美人さんで、結構噂になっているんですよ」
服部も頷いてあずさに同意する。
「へぇ〜マジか。まさか真由美以上?」
すると、あずさも服部も困った顔をした。
「それは………どう思うかは人それぞれですし、色々と角が立つので言いにくいんですけど」
次第に声が小さくなっていくあずさに、金次は苦笑いする。
「いや、言わなくていい。今ので分かったから」
あずさの表情と今の言葉で、首席の女子生徒が少なくとも真由美以上の美貌の持ち主だと理解した。
墓穴掘ったな、体を小さくするあずさに服部はそう思った。
(真由美も結構顔がいいが、それよりもとなると………一体どんな奴だ?)
金次はその首席生徒に興味が湧いてきた。毎年の恒例で、新入生総代を務めた一年生は生徒会役員になっている。だからいずれ会えるだろうと、金次は期待して待つことにした。
お昼休み。達也と深雪は朝の登校中、真由美からお昼を誘われたので、二人は生徒会室へと足を運んだ。無論、ただ一緒に昼食を食べるだけではないことは承知している。
四階の廊下、その突き当たりに生徒会室がある。二人が部屋の前に立った時、ノックしたのは深雪である。招かれたのは深雪の方で達也はオマケだからだ。
ノックした後、壁に取り付けられているインターホンのスピーカーから、二人を明るく歓迎する声が返された。扉を開ける。
「いらっしゃい。さぁ、遠慮しないで入って」
二人を笑顔で出迎えたのは真由美。その他にも、三名の役員が同席していた。男子生徒一人と女子生徒二人。真由美を含めて、この場には四名の生徒会役員がいた。達也の記憶が正しければ、あと一人生徒会役員がいたはずだが、今はこの場に居ないようだ。
「どうぞ掛けて。お話は、お食事をしながらにしましょう」
真由美に従い、達也と深雪は生徒会室の中央にある会議用の長机、その椅子に座った。そして昼食を取る前に、真由美から順に生徒会役員の自己紹介が始まった。
生徒会長の七草真由美
副会長の服部刑部 通称 はんぞー
会計の市原鈴音 通称 リンちゃん
書記の中条あずさ 通称 あーちゃん
「後もう一人、金ちゃんが居るんだけど、まだ来ていないみたいなの」
またもあだ名で誰かの名前を呼ぶ真由美。そして、達也と深雪は困った顔をしているので、鈴音がすぐにフォローに入る。
「二年の十文字金次です。彼も書記を務めています」
十文字。「十」を冠する
「はんぞー君、あーちゃん。二人とも同じクラスでしょ?何処にいるか知らないかしら?」
「それなんですが、廊下で新入生といるのを来る前に目撃しました」
答えたのは服部。
「新入生と?」
真由美は首を傾げた。
「女子生徒と話してました。金次の奴、結構楽しそうでしたよ」
余談 服部は金次の事を「十文字」ではなく
「金次」と呼ぶようになったのは、
二人の仲が深まったから。
最後の補足は必要だったのか、と達也と深雪は思ったが、服部の話を聞いた真由美は顎に手を添えて、
「…………ナンパかしら?」
「「えっ?」」
達也と深雪の声がハモった。
「ナンパ……ですか?」
「えぇ。気になった子でもいたのかしら?」
深雪の問いに対して真面目な表情で答える真由美に、達也は少し可笑しく思えたが、どうやら冗談では言っていないようだ。
「ですが会長、その、話していた女子生徒は、前に金次が言っていた女性のタイプとは、少し離れていたので違うと思われます」
「あらそう?なら違うわね」
既に周りから好みのタイプを把握されているとは。学校でナンパとは、そんなチャラい人物が生徒会にいるのか。達也は、深雪を生徒会に加入させるのを反対したくなった。
「あ、誤解しないでね。別に金ちゃんは軽薄な男じゃないわ。口は悪いけど誠実な人よ」
そんな達也の気持ちに真由美は察したのか、慌てて釈明を始めた。
「口が悪いのは置いといて、誠実な男ならば、会長の口から"ナンパ"なんて出ないと思いますが………」
「いや、それはそうなんだけど………」
真由美はバツが悪そうに頬をかく。すると、これで何度目だろうか、鈴音からのフォローが入る。
「金次君は去年、この学校の腐敗した制度を撤廃させ、新しい制度を制定するのに大きく貢献した生徒でもあります」
「今年から始まった『秤制度』というのは、確か去年の生徒会が作ったものですよね」
「はい。あの時の金次君は生徒会に入っていなかったですが、彼と生徒会長がいなければ『二科生制度』は撤廃出来なかったですし、そもそも『秤制度』も実現できませんでした」
「そ、そうなのよ!金ちゃんは凄いのよ!あの時だって、金ちゃんが動いたから支援してくれたって家が沢山あったの」
十文字金次という男が陰の立役者だということは理解したが、まだ達也の中には不安が残ったままだ。まだナンパ男の疑念が払拭されていない。
(十文字金次、一体どんな男なんだ………)
その後、雑談を交えながら昼食をとり始めた達也達。しかし、その場に十文字金次は姿を現さなかった。
それはお昼休みの時間になり、金次がいつもの如く生徒会室に向かおうとしていた時だった。
「金次さん」
廊下を歩く金次の背後から、金次の名を呼ぶ声が聞こえて来た。その声には聞き覚えがあった。くるっと後ろを振り向くとそこにいたのは、
「おっ、雫じゃねぇか」
「久しぶり」
去年の九校戦、応援しに来てくれた時以来、雫とは会っていなかった。実に半年ぶりの再会である。
「入学式の日に会えると思ったのに、金次さんいなかった」
「ん?あぁ、サボった」
生徒会役員の仕事をザボった事に対して悪びれる様子もない金次に、雫はうっすらと微笑む。
「ほのかもこの学校に入学したのか?」
「うん、ほのかも一緒。それよりも金次さん、どう?私の制服姿、似合う?」
金次に自分の姿を見せつける為、雫はその場でクルリと回った。似合っている、褒めてもらいたい雫の気持ちを汲んだ金次は、
「似合ってるじゃねぇか」
「ありがとう」
金次の言葉に、雫は嬉しそうにえくぼを見せる。頬も心なしか赤くなっている。普段は無表情で読みにくい彼女だが、金次の前ではそれが無くなっている。
「一緒に食堂に行こう。ほのかも先に待ってるし、金次さんともっと話したい」
「いいぜ」
可愛い後輩の頼みを聞くのも、先輩としての務めである。金次と雫は二人仲良く食堂へと足を運んだ。
「金次、お昼休みは何で来なかったんだ?」
「あーそれね、知り合いとメシ食ってたんだよ」
放課後、金次はあずさと服部と共に生徒会室へと向かっていた。
「それよりもだ。その首席は生徒会へ入るんだろ?」
服部は首を振る。
「いや、まだ決まった訳じゃない。司波さんの兄が、お前を一目見たいと言っているんだ」
「俺を?何でだよ」
服部は、お昼休みの生徒会室での出来事を金次に伝えた。すると金次は、ハァとため息を吐いた。
「それ、俺悪くねぇだろ。真由美が余計な事言うから、その兄が不信感を持っちまったんだろ」
あの時点では、深雪が生徒会に入ることを達也は了承しなかった。深雪に対して、不埒な言動をする者が生徒会にいたとすれば、達也の心中は穏やかではいられない。
金次にも妹がいるので、妹を心配する兄の気持ちは理解出来る。
「ったく。面倒を掛けさせやがる」
「まぁ、お前の日頃の行いだろ」
「おいおい、俺が一度でも学校でナンパしたことあるか?俺をざわつかせる奴は、この学校にはいねぇよ」
同学年にも上級生にも、金次を熱くさせる女性はいなかった。その点も、金次がこの第一高校に来て残念だと思ったポイントでもあった。
(首席の奴は、一体どんなツラしてんだ………)
先頭を歩く金次は、生徒会室の扉をガラッと少し強めに開けた。
「あっ、金ちゃん」
生徒会室の中央、会議用の椅子に座る真由美と鈴音、遊びに来ていた渡辺摩利。そして、金次が知らない顔が二人。
男子生徒は、ピンと伸びた背筋と鋭い目つき以外、取り立てて言い及ぶ所のない平凡な容姿。
しかし女子生徒は、人の目を惹かずにはおかない、百人中百人が認めるに違いない可憐な美少女。
「初めまして、司波深雪です」
深雪は椅子を引いて立ち上がり、金次に一礼する。その流れるような美しい作法に、金次は目を奪われていた。
「金ちゃん、彼女が今年の総代を務めた司波深雪さん。彼女を生徒会に加入させたいと思ってたんだけど………金ちゃん?」
真由美が金次の様子に不思議がる。金次はある一点を見たまま動かなかった。その視線の先は、深雪の方を凝視していた。
「おいおいおい!何だこの美女はよぉ!真由美、俺へのサプライズか!?」
生徒会室に入ってくる前に言っていた言葉は何処に行ったのか。新入生の男子達のように、金次は深雪の容姿に釘付けになった。変にテンションが上がって、深雪にドシドシと近づいていく。
「おい!金次!」
後ろから声を掛けてくる服部の声と同時、達也が身の危険を感じた深雪を庇うようにして前に立った。
「あ?誰だお前?」
阻まれた金次は眉間に皺を寄せメンチを切るが、達也は萎縮する様子は一切見せない。
金次の身長は180cm。対する達也は178cm。達也の方が見上げる形になる。
「兄の、司波達也です」
「お前が兄貴か。妹と違い平凡な顔してんな」
兄を貶されたと思った深雪は、金次に対して不快感を露わにする。しかしその表情は、達也の背中に隠れて金次には見えなかった。
「………………」
そんな深雪の気も知らず、金次は目の前の青年をジッと観察していた。立ち姿、制服の上から分かる筋肉の発達、そして醸し出す雰囲気。
「……お前、武道か何かやってるな」
「兄は、忍術使い・九重八雲先生の指導を受けているのです」
「深雪……」
金次の質問に、達也ではなく深雪が答えた。真由美の隣にいた摩利は息を呑む。対人戦闘に長じた彼女は、九重八雲の名声を知っていた。そして金次も、
「へぇ〜、お前あの坊さんの弟子なの?」
「いえ、自分は九重八雲の指導を仰いでますが、九重寺の弟子ではありません」
達也は、金次が自分の師を知ってそうな風なのが気になった。
「だろうな。そうだったら坊主だからな」
「ブフッ」
真由美が吹き出し「達也君が坊主…」とプルプルと笑いを堪えていた。
「笑い過ぎです。会長」
「だってリンちゃん。達也君が坊主って……」
鈴音が真由美を諌めようとするが、真由美の笑いのツボに入ったみたいで摩利の肩に手を置いて支えてもらっている。
達也は、自分の背中から冷たい風を感じていた。早く生徒会長を何とかしなくては。
「真由美、それぐらいにしねぇと後輩が可哀想だぜ」
「ことの発端はお前だろ」
「さてと、達也だったか?俺に会いたかったんだろ?改めてどうだ、この生徒会は?」
「どう、とは?」
「ここはポンコツな生徒会長と無表情仮面、臆病なリス、バカ真面目そして問題児な俺。ユニークな場所さ。妹のお気に召すか分からないが、仲良くやれると思うぜ?」
金次は、両手を広げて深雪を歓迎すると言ったような感じだ。
「ポンコツって何よ金ちゃん!」
「無表情仮面………」
「お、臆病なリスって私のこと………」
「おい金次、バカ真面目とは何だ!」
この場にいる生徒会全員に目を向ける達也。まだあって間もない者たちだが、少なくともこの生徒会の中心が目の前の男である事を理解した。
「十文字先輩」
「金次でいい。三年に俺の兄貴がいるから、その名で呼ぶと被るんだよ」
「では金次先輩。妹の深雪に手を出さない事を約束してくだされば、生徒会に入れさせても構いませんよ?」
「大丈夫よ達也君。ちゃんと目を光らせているから」
任せて、と言う真由美だが、達也は残念ながら信頼していない。
「俺だって、嫌な顔する女を口説きはしねぇよ。さっきは、余りにも美人なもんではしゃいじまったんだ。すまん。俺も妹がいるからな、心配するお前の気持ちは分かる。だから約束する」
金次は達也から一歩引いて頭を下げる。周りの者達は、特に真由美はソワソワとしながら、達也の返答を待っている。
「……………分かりました。深雪」
達也は振り返って深雪に小さく頷いた。深雪も、それに応じるようにコクッと頷いた。そして、達也の背中から出てきて真由美達に一礼する。
「精一杯務めさせていただきます」
「えぇ。よろしくね、深雪さん」
真由美は笑顔で頷いた。新しい仲間が増えて、皆の者も歓迎の意を示す。これで一件落着かと思いきや、
「なぁ達也、お前は何かしないのか?」
「いえ、自分は特にやりたい事は………」
金次の何か企んでいた訳でもない素朴な質問、それに深雪が食い付いた。
「会長、もしよろしければ、兄も生徒会に入れてもらうことは出来ますか?」
「えっ?」
「おい、深雪……」
「私を生徒会に加えていただけるのは、とても光栄だと思います。差し出がましい様ですが、兄も一緒にというわけには参りませんか?」
願うならば、達也も生徒会入りさせて一緒にいたいという深雪の願望は、果たして通るのか。
「どうだ真由美?」
「う〜ん。正直言って、これ以上生徒会の人数を増やしてもって感じなのよね」
真由美は顎に手を当てて考える。デスクワークの人数を増やしたら、一人当たりの仕事の数が減って楽だとは思うが、後輩育成の為にならないと感じている。
「なら風紀委員は?」
「あっ、確か風紀委員会の生徒会選任枠のうち、前年度卒業生の一枠がまだ埋まっていないって言ってわよね摩利」
「あぁそうだ。早く決めたかったんだよなぁ」
「ナイスよ金ちゃん。なら生徒会は、司波達也君を風紀委員に指名します」
「は?」
いきなり過ぎる急展開に、達也はついていけなかった。真由美と摩利は「いや〜、決まってよかったよかった」と互いに安心した様子だ。
「すごいじゃないですか、お兄様!」
「いや、深雪……生徒会長もなに「決まりですね」みたいな顔してるんですか?」
「達也君、もしかして嫌なの?」
「嫌もなにも、俺はまだ風紀委員が何をする委員なのかも、具体的な説明もまだなんですが……」
段々と流れが達也の良くない方向に向いている。
「まぁ簡単に言えば、校内で無断で魔法を使うバカをとっちめるのさ」
「あのですね。恥ずかしながら、俺は実技の成績が悪いんですよ」
「お前、あの坊さんに鍛えてもらってんだろ?弱いなんてことはないだろ?」
「いや、それは体術の話であって、魔法の話ではありませんよね?」
「僭越ながら皆さん、確かに兄の魔法実技の成績は芳しくありませんが、それは実技テストの評価方法に兄の力が適していないだけのことなのです。実戦ならば、兄は誰にも負けません」
「深雪……」
ここで、深雪がこの機に乗じてと思い発言する。
もはや、ここに達也の味方は存在しなかった。
「ほう…………誰にも負けないと来たか。それはさぞかし興味深い話だな。なぁ金次?」
名前を呼ばれた男は、ニヤリと笑みを浮かべていた。嫌な予感がする、達也は危機感を感じていた。
「妹がそこまで言うんだ。なら見せてもらおうじゃねぇか。お前の力を。真由美、演習場借りるぜ」
「一体、何をするつもりですか?」
「今から俺と戦うんだよ」