魔法科高校の熱を愛する者   作:パクチーダンス

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第十一話 司波達也 vs 十文字金次

 

 第三演習場。金次はその中央で準備運動をしていた。軽く飛び跳ねたり、肩を回したり、アキレス腱を伸ばしたりして体をほぐしていた。

 

 その様子を壁際で見ている生徒会一同。

 

「金ちゃん。言っておくけど、怪我させちゃダメよ」

 

「それは相手次第だろ。そんな事より真由美、達也の魔法実技の成績はそんなに悪いのか?」

 

 真由美は、手にタブレットを持って操作していた。

 

「…………確かに、達也君の魔法実技の成績はお世辞にも良いとは言えないわ。だけどね、彼の入試成績は七教科平均、百点満点中九十六点だったわ」

 

「それは凄いですね」

 

 服部の言葉に、あずさも感心して頷く。

 

「けど、驚くべきは彼の魔法理論と魔法工学よ、合格者平均点が七十点に満たないのに、両教科とも小論文を含めて文句なしの満点。先生達も驚いてたわ。前代未聞だって」

 

「ほ〜〜ん」

 

 確かに凄い。理屈をこねくり回すのは苦手な金次は、素直に達也の頭の良さには脱帽である。しかしだ。まだ知り合って一時間も満たない後輩。金次には成績とは別に、あの後輩には"何か"がある、そんな気がしてならないのだ。

 

「お待たせしました」

 

 達也と深雪が魔法()演習場の扉を開けて入ってきた。達也は、中央にいる金次を一瞥したのち、早速準備に取り掛かった。

 

「一応聞くが、自信はあるか?」

 

 摩利が達也に訊ねる。しかし、達也はそれに返答する事はなく、逆に摩利含め生徒会に質問を投げる。

 

「金次先輩は、強いのですか?」

 

「強い」

 

 達也の質問に、摩利は間髪入れずに答えた。生徒会も摩利の発言を肯定するような表情だ。

 

「去年、まだ『二科生制度』があった時の話なんだが、生徒会が打ち立てたとある政策が原因で生徒達の暴動が起きたんだ。それを一人で鎮めたのが金次だ。アイツは、三百人近い生徒の激昂を魔法()で黙らせた」

 

「さ、三百人ですか………」

 

「それは凄いですね………」

 

 その数字の大きさに、流石の深雪も達也も驚く。だが達也は、金次が倒した数よりも、そもそも何でそんな暴動が起きたのか気にはなるが、今は関係ない事だと頭の隅に追いやる。

 

「だから、金次はこの第一高校では"最強"の称号を持っている。君はそんな男と今から戦うんだぞ?」

 

 君は勝てるのか?暗にそう聞いてくる摩利に対して、達也ではなく深雪が一歩前に出て摩利と向かい合う。

 

「失礼ですが渡辺先輩、それはこの学校の中での話ですよね?」

 

「……何が言いたいんだ?」

 

「それは、今まで学校内に金次先輩に勝てる人間がいなかっただけ(・・)ではありませんか?」

 

 挑発的な摩利に、深雪は負けじと対抗する。金次が最強と呼ばれていようが関係ない。深雪の中では、兄の達也こそが"最強"なのだから。

 

「……君の兄なら、金次に勝てると?」

 

 信じられないな、と言った顔をする摩利。

 

「深雪、その辺にしなさい」

 

「お兄様……」

 

「摩利、その辺にしときなさいよ。自分が金ちゃんに負けたからって、後輩に当たるのは良くないわよ」

 

「ウグッ」

 

 摩利は真由美に痛い所を突かれたみたいで、腹を押さえて変な声を漏らす。

 

「あの時の一撃が、未だに響くんだ……」

 

 深雪はその様子をよく分からず首を傾げている。

 

「余談だけどね、金ちゃんは向かってくる生徒全員を腹に一撃入れてノックアウトさせたのよ。摩利も面白がって戦いに行ったけど、呆気なく返り討ちにされたって訳」

 

 深雪と摩利の間に入って、真由美が理由を説明してくれた。

 

「い、いや、自分で言うが、他の奴らとは違って結構健闘した方だとは思うぞ。うん」

 

「まぁね。でも最後は、他の生徒と一緒にグラウンドで横たわってたわよ」

 

「だって、アイツ手加減ないんだぞ!痛いんだぞ!」

 

 摩利は金次に指差して文句を言う。今まで味わったことない激痛で穴が空いたんじゃないかと思ったぐらいだった。

 

「バーカ、ちゃんと手加減してやったわ」

 

 そんな話を耳で聞きながら、達也は持ってきた黒いアタッシュケースを開ける。その中からは、拳銃形態のCADが二丁現れた。

 

「二丁使うのか?」

 

「いえ、一丁だけです」

 

 達也はケースに入った拳銃形態のCAD、二丁ある内の一方を取り出して、中央の金次と向かい合うようにして立つ。

 

「金次先輩はCADを装着しないのですか?」

 

「あぁ。俺は無しでいい」

 

 CADは、現代の魔法師にとっては必須ツール。魔法師は、CADが無いと魔法が使えないというわけではないが、発動速度があるとないとでは全く違う。だが、金次はそれを必要としない。それが達也には不思議であった。

 

「ではルールを説明する。

   まずは「いらねぇよそんなもん」……は?」

 

 試合の説明を金次は切り捨てた。

 

「どちらかが「参った」と言えばそこで試合終了だ。渡辺先輩、アンタは開始の合図だけ掛けてもらえればいい。あ、そうだ。なぁ深雪ちゃんよ」

 

 金次は、真由美達と同じく壁際に立つ深雪に声を掛ける。対する深雪は、金次の馴れ馴れしさに不快感を感じている様子だ。

 

「……ちゃんは辞めてください。なんでしょうか?」

 

「お前は言ったな、兄は誰にも負けないと。それは今も変わらねぇか?」

 

 それは深雪にとって愚問である。

 

「はい。兄は貴方になんか負けません」

 

 怒った雰囲気の深雪に、金次はニヤリと笑う。

 

「………良いぜ。もし目の前でお兄ちゃんが俺に負けても泣くんじゃねぇぞ」

 

「!?、お兄様は負けません!お兄様の本当のお力を以てすればー」

 

「深雪」

 

 深雪は、完全に冷静さを欠いていた。達也の声でハッとした顔になり、羞恥と後悔に口を閉ざしてしまい俯いた。その様子に、金次はケラケラと笑う。

 

「金次先輩」

 

「おん?」

 

「……あまり、深雪を虐めないでもらえますか?」

 

「………へぇ」

 

 その静かで僅かに怒りを孕んだ達也の声は、金次をざわつかせるのには十分だった。

 

「先手は譲ってやる」

 

「……………………」

 

「死に至らしめる魔法は無しだからな。後、捻挫以上の怪我も無しだ。それに「早くしろ」…あぁもう!」

 

 摩利が右手を挙げる。場が静まり返る。摩利の合図を今か今かと待ち侘びる。そしてその時は訪れる。

 

「始め!」

 

 試合開始の合図と共に、達也は金次の目前まで移動していた。瞬間移動と見間違える程の速さ。その動きに深雪の以外が驚く中、達也は金次の背後に回り込んだ。

 

 だが、金次は何もしない。摩利の合図から一歩も動いていなかった。達也が自分の背後に回り込むのを、しっかりと目で追っていた。

 

 達也が横を通り過ぎる最中、視界の端、金次が自分を見て笑っているのに気がつく。先手は譲ってやる、という金次の言葉に甘えさせてもらおうと、達也は迷いなくトリガーを引く。

 

「波」が揺さぶった。連続して三波。別々の波動が金次の体内で重なり合い、大きなうねりとなり、金次はうつ伏せに倒れ込んだ。

 

 ここまで僅か数秒の出来事。達也が向けるCADの銃口の先で、金次の身体は崩れていた。戦いは終わった。そう思っていた達也だが、摩利から一向に勝ちの名乗りが聞こえてこない。

 

「渡辺先輩。勝負は決しました」

 

 やはり兄の勝ちだった。深雪は満足そうな顔をして摩利に試合を終了させるように迫るが、

 

「何を言ってるんだ司波。この戦いは、どちらかが「参った」というまで終わらないと金次が言っただろ?」

 

 往生際が悪い、深雪は不満を露わにする。

 

「……その金次先輩は、見ての通りお兄様に倒されました。今は意識が無いため話すことも「今のがお前の全力か?」……え?」

 

 金次は何事もなく立ち上がった。深雪も達也も、金次がピンピンしていることに驚愕する。何故、立ち上がることができたのか分からなかった。

 

(波動は確実に金次先輩を捉えた。しばらくの間は、平然に動ける筈が無い。なのに………)

 

 振動数の異なるサイオン波を三連続で作り出し、三つの波動がちょうど金次の身体と重なる位置で波が合成され、強い波動を作り出した。これは、達也の技術だから出来る芸当。他の者に真似出来ないし、金次は初めての体験のはずだ。対処出来ない、そう考えていたのに、

 

「異なるサイオン波同士を合成させ、相手にぶつけるか。面白れぇじゃねぇか。確かにこれなら、普通の学生は一発KOだ。だが俺はそうじゃ無い」

 

 金次は体の向きを変えて達也と正面に向かい合う。

 

(見抜かれている……!?)

 

 動揺する達也。

 

「次は俺の番だ」

 

 金次は一歩踏み出した。たったそれだけで、金次と達也の距離はゼロになった。驚くのも束の間、金次の右ストレートが達也目掛けて襲いかかる。

 

 達也は即座に対応し後方へ飛ぶ。金次の拳の威力を弱め、防御に成功するが、当たった箇所がヒリヒリと痛む。

 

 金次の追撃が行われる。距離を取ろうとする達也に対し、金次は距離を詰める。達也は壁際に追い詰められていた。向かってくる金次を、達也は『目』で分析していた。

 

(やはり波動攻撃は効いていない。先程から、金次先輩の身体を僅かに覆っている膜?のようなもの。コレの所為か。領域魔法の類だろうが……それに、彼には加速術式が付与されている。二つの魔法を同時に使用している?使うか、アレ(・・)を。しかし……)

 

 トリガーを引こうにも、この距離では殴った方が早い。そう判断した達也は、CADをホルスターにしまって近接戦闘に入る。

 

 繰り出される金次の拳を、達也は受け止めるのではなく受け流していく。守りの体勢に入れば負ける。

 

(隙を見て攻撃したいが………彼には隙がない)

 

 体術は自分よりも上かもしれない。達也はそう判断した。しかし、自分は九重八雲に指導してもらっている身だ。師以外の人間に負けるつもりはない。

 

「熱くなってきたなぁ、達也ちゃん!」

 

「ちゃん付けは辞めてください」

 

 無理にでも反撃に出るべきか。達也は迷っていた。しかし、その迷いは頭の中だけではなく動作にも出てきた。それを見逃す金次ではない。

 

「バカが」

 

 金次は、達也の腕の隙間を縫って胸ぐらを掴んだ。そして思い切り後ろに投げ飛ばした。達也は、思ったよりも自身の体が床から高く上がったのに、少なからず驚くも空中で体勢を整えて着地する。

 

 金次は待ってくれない。段々とギアを上げていこうとする。彼が走ってくるのを、達也は迎えようと立ち上がる動作に入った時、

 

「そこまでだ!!」

 

 摩利が二人の間に割って入った。金次は急ブレーキを掛けて足を止めた。

 

「何のつもりだよ!」

 

「やり過ぎだ。これ以上は誰も責任を持てない。達也君の実力はもう理解した。十分に風紀委員を全うできる。これで試合は終了だ」

 

「あぁ!?誰も「参った」とは言ってねぇよ!熱くなっているところに割り込んでくるんじゃねぇよ!」

 

 納得がいかない。眉間に皺をこれでもかと寄せながら、摩利を睨みつける金次。その鬼の形相に、摩利は怯みそうになる。

 

「達也君、申し訳ないけど……」

 

 真由美が「お願い」と言ったような顔をし、達也はそれに従いフゥと一息つくと、

 

「参りました」

 

 自らが負けを認めた。

 

「はぁ?おい達也、何言ってんだお前」

 

「参りました、金次先輩。俺の負けです」

 

 達也自身、これ以上手札を晒け出すことを良しとしなった。何より、これより先は、本当の殺し合い(戦い)になる可能性があった。

 

「金ちゃん」

 

「金次、これ以上は問題とするぞ」

 

 真由美と服部も、達也を守る形で金次の前に立ち塞がる。金次は「はぁーー」と深く、深くため息を吐く。

 

「…………………………………………………………

 …………………………………チッ、冷めちまった」

 

 金次はそう言い、一足先に演習場から出て行った。

 

「ごめんなさい達也君。彼、熱くなると手がつけられないから」

 

「いえ、自分もあのままでは危なかったので」

 

 これにて、達也と金次の勝負は、達也が負けを申告して決着となった。

 

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