魔法科高校の熱を愛する者   作:パクチーダンス

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第十二話 新入生部活勧誘期間

 

 金次との決闘が終わり、達也と深雪は家に帰宅した。出迎える者はいない。両親は一緒に住んではおらず、平均よりも大きな一軒家に二人で生活している。

 

 自分の部屋で制服を脱ぎ、部屋着に着替えた二人はソファで寛ぐ。

 

「お兄様、何かお飲み物をご用意しましょうか?」

 

「そうだね。コーヒーを頼む」

 

「かしこまりました」

 

 キッチンに向かう深雪を見送ると、達也はつい数時間前に起きた出来事を振り返り始める。

 

(あの時、確実に俺の攻撃は当たった。しかし、金次先輩は何事もなく起き上がった)

 

やられたフリをしていた。コチラを油断させる為に。けど何故、攻撃を受けて平気だったのか。

 

(俺の魔法を相殺した?いや、背後からの攻撃を、彼は対処すらしなかった。試合開始と共に魔法を発動していたのか?俺の知らない魔法、十文字家の秘伝の魔法かもしれない………)

 

 未知の魔法、自分以上に磨き掛かった体術。達也は、己の中で十文字金次という男の危険度を上げる。次、金次と相対した場合には、どのように対処するか思考に耽る。

 

「どうぞ、お兄様」

 

 サイドテーブルにカップを置き、深雪は達也の隣に腰を下ろす。達也はカップを手に取り、口につける。

 

「美味い」

 

 その一言で、深雪はニコリと微笑む。だがすぐに、彼女は視線を下に落とし暗い顔をする。

 

「深雪、どうしたんだ?」

 

「お兄様、あの試合の事なのですが………」

 

「情けない所を見せてしまったね」

 

 深雪は顔を上げ、慌てて首を左右に振る。

 

「お兄様は、情けなくなんかありません!」

 

 深雪の必死な顔に、達也の硬い表情が和らぐ。

 

「先手を譲ってもらったが、向こうは効いている様子はなかった。加えて、体術では終始押されていた。完敗だよ」

 

 これでは師匠に怒られてしまう。会わせる顔がないと、達也は自嘲気味に笑う。

 

「お兄様は本気を出しておりませんでした!

 あの魔法(・・・・)をお使いになっていれば…………」

 

「確かにそうだが、相手も本気を出している様子は無かった。流石、"最強"と言われるだけある」

 

「ですが…………!」

 

 認めたくない。兄の方が強いのだから。

 深雪の中で、最強は兄ただ一人。

 

 深雪の心を落ち着かせる為に、達也は彼女の頭に手を乗せる。

 

「落ち着け深雪」

 

「………申し訳ありません」

 

 深雪は、達也の大きな手から伝わる温かさを感じて顔が綻ぶ。

 

「明日、師匠に聞いてみよう。

       何か知っているかもしれない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早朝から、達也と深雪は家から10km離れた位置にある寺、九重寺を訪れた。

 

「ほ〜、十文字金次君ねぇ」

 

 二人の目の前にいるのは、細身の身体に墨染めの衣、髪が剃り上げられた、いわゆる坊主。この人物こそ九重寺住職、九重八雲である。対人戦闘を長じた者には高名な「忍術使い」であり、由緒正しい「忍び」である。

 

 そんな八雲に、達也は朝日が昇らぬうちから、稽古をつけてもらっている。しかし今日は、それとは別に要件があった。

 

「ご存知でしたか?」

 

「知ってるも何も、彼は結構有名人だよ」

 

「有名人、ですか………?」

 

 どう有名なのか、達也は八雲に聞いてみる。

 

「彼、魔法師の間では十文字家の問題児とか十師族の面汚し、なんて言われているんだよ。まぁそれは、数々の問題行動が原因なんだけど………」

 

 問題児それに面汚し。酷い言われようだな、と達也は内心苦笑いした。けど確かに、彼からは問題児っぽい雰囲気が伝わってくる。

 

「問題行動……?」

 

 深雪は説明の中で疑問に思ったことを口にする。

 

「例えば、

 高速道路を走って車と並走したり、

 社交の場で政治家相手にプロレス技を掛けたり、

 高層マンションから飛び降りたり、

       他にもあるけど大体こんな感じかな」

 

 八雲は髪一本もない綺麗な頭を撫でながら、淡々と金次の悪事を説明する。どれも突拍子もなく普通では考えられない事ばかりだ。

 

「車と並走……人間ですかそれ?」

 

「あはは、彼曰く

  「全力の俺とどっちが速いか試したかった」

                 て言ってたよ」

 

 車を運転していた人は、さぞかし驚いただろう。高速道路で人が走っているなんて、自分が幻覚を見ていると疑うレベルだ。

 

「師匠は、金次先輩とはお会いになったことはあるんですか?」

 

「あるよ。一回だけだけど。その時は、噂の彼がどんな人物なのか、遠くから見ていたんだけど気付かれちゃって」

 

「師匠に気づいたのですか?」

 

「「そんな熱い視線(アプローチ)を送られたら誰でも気付く」

  だってさ。いやはや、参ったよ」

 

 八雲は「忍び」として隠密のスペシャリスト。

 その師が尾行に気付かれたとは、達也は驚く。

 

「その後は、追いかけてくる彼から逃げる鬼ごっこ状態が続いてね、結構しぶとかったよ。流石の僕も少し本気を出した」

 

「……師匠、彼の魔法を知っていますか?」

 

 ここに来た理由。達也が聞きたいのはそれだ。

 八雲は顎に手を置いて考える仕草をする。

 

「う〜ん。僕が見た限りでは、自己加速術式を掛けていたようだけど、ちょっと説明がつかないんだよね」

 

「……というと?」

 

「僕を追いかけて来る時、結構アクロバティックな動きをしていたんだよね。鉄の棒で旋回したり、壁を蹴って進んだり、色々と腑に落ちない点があってね」

 

 旋回時は、身体には体重の何倍もの重力加速度(G)が掛かる。加速の度合いによっては、身体の負担はかなりの筈だ。

 

「何らかの肉体的な強化を持っていると?」

 

「達也君、もしや彼と戦ったのかい?」

 

 流石に気づかれてしまうか、達也は頷いた。

 

「はい。つい昨日」

 

「如何だったのかな?」

 

「俺の負けでした」

 

 達也がそう言うと昨日と同じく深雪が物申したい、

 不満な表情を見せる。それを見た八雲は、

 

「君の十八番を使ったわけではないんだよね?」

 

「えぇ。ですが、師匠に指導してもらっている身で 

 ありながら、体術では遅れを取りました」

 

 ほぅ、と驚きの反応を見せる。達也の体術に勝っていたとは、流石の八雲も予想外だった。

 

「そうか、あの達也君がね。

 …………………油断したのかい?」

 

「いいえ。油断する暇もありませんでした」

 

 達也は見苦しい言い訳をするつもりはない。

 十文字金次という男は、間違いなく強者だと。

 

「師匠、もう一つよろしいですか?」

 

「何だい?」

 

「十文字家には、あの有名な『ファランクス』の他に相手の魔法を無効化する、なんて魔法があるのでしょうか?」

 

 これまた、八雲には予想外の質問だった。

 

「お兄様、それは……」

 

 深雪が、何かを言いかけたが口を閉ざした。

 

「…………」

 

 達也の質問に、しばらく八雲は黙ったまま自身の頭を撫で続けた。一見、考えているようにみえて、頭の触り心地を堪能しているようでもあった。

 

「何故、そんな質問をしてきたのか分からないけど、

 少なくともこれだけは言える。彼は生まれながら

 『ファランクス』の適正が無かったらしい」

 

「そうなんですか?」

 

「うん。これも有名な話だよ。だから一時期、

 他家からは血縁関係を疑われたけど、

 十文字家当主は、息子だとハッキリ主張していた」

 

「…………」

 

 そんな事を聞いてくる他家もどうかと思うが、金次には『ファランクス』が使えない。やはり、あの時攻撃を受けても無事だったのは別の魔法。『ファランクス』を使えない代わりに、彼には"何か"がある。達也はそう判断した。

 

「まぁでも、悪い子じゃないよ。彼は」

 

「……今、悪いかどうかの話でしたか?」

 

 八雲はニッと笑う。

 

「君の場合、深雪君に危害を与える人間か心配なんだろうけど、彼結構な人望があるんだよ。顔も広いし、困った事があれば先輩として君達を助けてくれるよ」

 

「………分かりました。ありがとうございます」

 

 そうして達也と深雪は、学校に登校した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 色々と特殊な学校である魔法科高校だが、基本的には普通の学校と変わらないところもある。

 

 クラブ活動。正規の部活として認められる為には、ある程度の部員と実績が必要になってくる。また、魔法と密接な関わりがあるこの学校では、魔法ならではの部活も多数存在する。

 

 毎年、夏に行われる第一から第九まである国立魔法大学付属高校の対抗戦、

 

 全国魔法科高校親善魔法競技大会(通称・九校戦)

 

 この九校戦で優秀な成績を収めたクラブには、予算や所属する生徒個人の評価に至るまで、様々な便宜が図られる。

 

 有力な部員の獲得には、各部の勢力図にも大きく影響する。学校側も、それを後押ししている部分もある。かくして、今年も新入生の勧誘は熾烈を極める事が予想される。

 

「という訳で、この時期はトラブルが多発するんだ」

 

 今日から一週間、放課後の学校は無法地帯となる。禁止されているCADの使用は、勧誘の為のデモンストレーションとして携行を許されている。学校側としても、九校戦の成績を上げてもらいたいので、多少のルール破りは黙認されている。

 

 達也は摩利の説明を聞きながら、深雪が作ってくれた弁当を食べていた。深雪も達也の横に座って同じく料理を口に運んでいた。

 

「そういう事情で、風紀委員は今日から大忙しだ。

 いや〜、補充が間に合ってよかった」

 

「分かりました。放課後は巡回ですね」

 

 摩利の嫌味を、達也はサラッと流す。

 

「あの会長、私達生徒会も、取り締まりに加わるのですか?」

 

「巡回の応援は、あーちゃんと金ちゃん。

 はんぞーくんと私は部活連本部へ。

 リンちゃんと深雪さんはここでお留守番ね」

 

「……分かりました」

 

 深雪は真由美の指示に頷いたが、少しガッカリした様子だった。もしかしたら、達也と一緒に回りたかったのかもしれない。

 

 ここで、達也は疑問に思った事を口にした。

 

「金次先輩はともかく、中条先輩もですか?」

 

 その言葉には、彼女では頼りないのではないか、と暗にそう聞いているのだ。すると、ここで真由美からあずさの魔法の説明が入る。

 

 中条あずさの魔法。『梓弓』は、一定のエリア内にいる人間をある種のトランス状態に誘導する効果がある。精神干渉系の魔法では珍しく、同時に多人数を相手として仕掛けることができ、興奮状態にある集団を沈静化させるにはもってこいの魔法。

 

「なるほど…金次先輩も似た魔法を使うのですか?」

 

 達也は不自然のないよう、話の流れに沿って金次の使う魔法を探ろうとした。他人の魔法を詮索するのはタブーだと、重々承知の上でのことだ。

 

「金ちゃんはそんな手間を掛ける事なんてしないわ。相手を拳でぶっ飛ばしてお終いよ」

 

 だろうな、達也はそう苦笑した。その金次は、現在不貞腐れて生徒会には居ない。

 

「金次は魔法が効かないからな、

         色々と都合が良くていい」

 

「魔法が効かない?」

 

 摩利の不用心な発言に、達也はここぞとばかりに疑問を口にする。金次の魔法について、何か知ってるかもしれない。

 

「達也君も知ってる筈だ。昨日の試合、君の攻撃を金次はまともに受けたのに、奴はピンピンしていた」

 

「渡辺先輩は、金次先輩の魔法をご存じなのですか?」

 

 深雪も気になるのか、達也に続いて摩利に質問を投げ掛ける。

 

「いや、私は知らないよ。まぁ真由美なら「ちょっと三人共。他人の魔法を詮索するのは御法度よ」あぁ、すまない」

 

 真由美に叱責され、摩利は慌てて謝罪しバツが悪そうに頬をかく。全くもう、と真由美は腰に手を当てる。しかしながら、真由美も克人からコッソリ聞いているため、人の事は言えないのだが、この三人は知る由もない。

 

「達也君、知りたければ金ちゃんに直接聞きなさい。

 教えてくれるかどうかは分からないけどね」

 

「はい、すみません」

 

 聞いたら教えてくれるのだろうか。しかし、聞いたからには、コチラも相応のものを提示しなければならない。

 

(俺の魔法は誰にも知られるわけにはいかない。

この話はここで終わりだな…………………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ〜あ、つまんねぇな」

 

 金次は、学校の屋上で青空を見上げながら、

 ブツブツと一人文句を言っていた。

 

「ったく達也(あの野郎)、勝手に負けを認めやがって。あんな事されたら"熱"が引いてくぜ」

 

 これからだっていう時に、向こうからハシゴを降ろされてしまった。金次は達也にムカムカしていた。

 

(今日からまた騒がしくなるなぁ。面倒臭せぇけど。

達也の他に、面白い奴がいるか探すか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後になると、校庭は一気に賑やかになる。どこもかしこも人で溢れており、一度立ち止まるとクラブの勧誘に捕まってしまう。

 

 今も目の前で、新入生が上級生に囲まれしつこく勧誘を受けている。だがそこに、金次が近づいてみるとどうだろうか。

 

「やばっ『最強』だ。逃げろ」

 

 上級生は一目散に逃げ出してしまう。今のは生徒会だからではなく、金次だからである。彼はこの学校では、皆から恐れられる存在になっていた。

 

 金次自身、別に近づいただけで注意するつもりもなかった。しつこく勧誘はしていたが、常識の範疇に収まっていたし、何も問題はなかったのだが。

 

(なんか悪いことした気分になる…………)

 

 ただ歩くだけで、自然と金次の周りからは人が捌けていく。そう、彼はそこにいるだけでトラブル防止になるのだ。

 

(次は体育館でも行くか……)

 

 確か、もうすぐで剣道部の演武

 デモンストレーションが見られるはずだ。

 

 金次は、それを見ながら適当に時間を潰そうと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 金次が小二体育館(通称・闘技場)に足を踏み入れると、中は騒然としていた。

 

 それもその筈、多くの見物人がいる中で、体育館の中央には剣術部二年・桐原武明が、達也に畳の上で抑え込まれていた。

 

 桐原が取り押さえられたことで、同じ剣術部の部員が達也に向かって「何故か」と怒鳴りつけた。質問ではなく、恫喝に近かった。

 

「魔法の不適正使用により、

       桐原先輩には同行をお願いします」

 

 上級生の怒鳴り声に対して、達也は冷静に淡々と告げる。まだ日が浅いというのに、もう風紀委員としての板がついているようだった。

 

「なんで桐原だけなんだ?壬生も同罪だろうが!」

 

「魔法の不適正使用と、申し上げましたが」

 

 剣術部は血の気が多い。上級生は今にでも達也に襲い掛かりそうだ。別にそれでもいい(達也に返り討ちに合うのは分かっている)が、ここに立ち会ってしまった以上、見てみぬフリをしたら真由美と克人に怒られてしまう。怪我人が出て報告書を纏めるのも面倒くさそうだから、

 

「止めろ、馬鹿ども」

 

 金次は外履を脱ぎ、ポケットに手を突っ込んだまま、まるで散歩でもするかのように中央の達也の元へと歩いていく。

 

「十文字金次だ」 「『最強』が来た……」

 

 先程まで達也に食って掛かろうとしていた上級生の顔色が、金次の姿を見た途端、一瞬にして青ざめる。

 

(結構、恐れられているんだな……)

 

 彼らの表情を見て、達也はそう思った。

 

 そんな上級生を金次は横目に見て、達也に抑えられている桐原に視線を移す。

 

「桐原、お前何してんの?」

 

「……うるせぇ、十文字

 

 床に押さえつけられて苦しそうなのか、返ってきた声は小さかった。

 

「金次で良いっての。まぁいい………」

 

 金次はパンパンッと手を叩いた。この体育館にいる生徒全員、意識を達也と桐原ではなく、金次に向けさせる為だ。

 

「とりあえず、桐原はしょっぴくから後は好きにしろ。剣道部も剣術部も、次揉め事起こしたら連帯責任として腹パンの刑な」

 

        『ウグッ…』

 

 剣術部も剣道部も、全員がとっさに腹に手を当てて嫌な記憶を思い返している。

 

「お前もそれでいいな?壬生」

 

 少し離れた場所で、竹刀を持って佇んでいる

 剣道部二年・壬生沙耶香に、金次は忠告する。

 

「…………えぇ、分かったわ」

 

 彼女は小さく頷いた。

 

「よーし、それじゃあ達也、

 桐原起こして部活連本部に連れてくぞ」

 

「……分かりました」

 

 

 

 

「…………」

 

 桐原を連れていく達也と金次の後ろ姿を、見物人の中から剣道部主将三年・司甲は、眼鏡のレンズ越しに彼らを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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