魔法科高校の熱を愛する者   作:パクチーダンス

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第十四話 頼み事

 

 新入生勧誘期間が終了したことで、生徒達は落ち着きを取り戻した。金次も一息付きたいところだが、生徒会には通常業務もある。勧誘期間よりも仕事量は減るが、決して少ないというわけでもない。

 

 金次はデスクに肘をつきながら、目の前の画面に映し出された資料をスクロールして眺めている。彼は、新入生勧誘期間で発生したトラブル・事案をまとめた資料をチェックしているところだった。

 

(マジだりぃ〜、明日勝手に休もうかな)

 

 そんな事は真由美が許すはずも無い。チラッと彼女の方を見れば、黙々と作業を進めている。彼女以外の者達もそう。生徒会は基本的に真面目な奴が多い。その中で金次は「ハァ〜」とため息を吐く。

 

「申し訳ありません。遅くなりました」

 

「失礼します」

 

 深雪は遅れることを事前に聞いているので問題ないが、後から兄である達也が入ってきたことに、金次は画面から視線を外して達也を見る。

 

「達也君、どうしたの?」

 

「生徒会にお伝えしなければならない事があります」

 

 真由美は何かを察知したのか、彼女は作業の手を止める。

 

「昨日、当校の生徒が襲われる被害が発生しました」

 

「何ですって!?」

 

 真由美は驚き、机に手をつけて立ち上がった。想像以上に深刻な問題に、金次含め役員一同が手を止めて達也の説明に耳を傾ける。

 

 

 

 話はこうだ。当校の生徒が、路地裏で覆面の男数人に囲まれた。手には凶器が握られていた。生徒は自衛のために魔法を使用。

 

 だが、相手はアンティナイトを使用し生徒の動きを封じる。偶然駆け付けた深雪によって覆面の男達を撃退。事なきを得たということらしい。

 

 

 

「ありがとう深雪さん。貴方のおかげで最悪の事態は防がれたわ」

 

「その襲われたという生徒は?」

 

「大丈夫です。今日も学校に来ています」

 

 生徒を襲ったという覆面の男達。そしてアンティナイト。あれは、キャスト・ジャミングの条件を満たすサイオンノイズを作り出す特殊な鉱物。産出地が限られ希少価値が高く、また軍事物質に指定されている。簡単に手に入るものでもない。

 

「その覆面男達はどうしたんだ?」

 

「警察に引き渡さず、知り合いにお願いして調べてもらっています」

 

 知り合いと言って言葉を濁した達也だが、金次は直ぐにそれが九重八雲だと察した。

 

「この事を先生方には?」

 

「いえ、まだです」

 

「会長、俺が百山校長にこの事を伝えて来ます」

 

「お願いはんぞー君」

 

 服部はスタスタと生徒会室の扉を開けて出て行った。

 

「わ、私、部活練に行って来ます!部活をしている生徒達に連絡してもらうために、十文字会頭に話して来ます」

 

 続いてあずさが走って出て行く。

 

「私達も、今日は日が暮れる前に帰りましょう。

 決して一人では帰らないこと。

 金ちゃん、私とリンちゃんの護衛よろしくね」

 

「OK」

 

 金次は親指と人差し指をくっつけて輪を作った。鈴音は「お願いします」と金次に軽く頭を下げる。

 

「報告ありがとう達也君。後で摩利に伝えておいて。

 今日は早く帰れって」

 

「分かりました」

 

「後、その被害にあったいう生徒は誰なのかしら?」

 

「はい。一年の北山雫、光井ほのか、英美明智の三名です」

 

 達也の言葉に、金次は眉を顰めた。また彼女は、危ない目に遭っているのかと。そういう星の元に生まれてしまったのか。少しぐらい運を分けてやりたいと思った。

 

「真由美、俺、明日の生徒会休むわ」

 

 今、校内で影を潜める『ブランシュ』の工作員そして覆面の男達。偶然起きた事か?いや、この二つに何か関係性がある気がする。ただの勘だが、金次は常に自分の勘を信じている。ならば直ぐに動く必要がある。次の被害が出る前に。

 

「えっ?どうして?」

 

「達也、お前を介して九重八雲とアポを取りたい」

 

「師匠に?」

 

「あぁ。坊さんに頼んで、この街で悪さするクソ野郎共を探してもらう。あの坊さんなら簡単な筈だろ?引き受けてくれるか?」

 

 達也としても、深雪との生活を脅かす輩は直ぐに消えてもらいたい。達也は素直に承諾した。

 

「分かりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雫とほのかが部活(SSボード・バイアスロン)を終えて、昇降口で外靴を履いて校舎から出ると、校舎の柱の部分にもたれている金次がいた。

 

「金次さん」

 

 こんな所で何してるの?そう言おうとした雫の口は、金次の険しい表情で塞がれた。

 

「昨日、危ない目にあったらしいな?」

 

 待ってた理由はこれだ、と金次は努めて優しい声色で話す。

 

「……うん」

 

「そもそも何で、路地裏なんかに行ったんだ?」

 

 雫は俯きながら、昨日の起こった出来事を話し始めた。

 

 帰り道、上級生と思わしき人物がキョロキョロと周りを注意しながら歩いているのを見かけた。やけに不審な行動に、気になって後を追いかけた。そして路地裏に入っていき、自分達もそこへ行くと………。

 

「…………」

 

 金次は呆れていた。同じ当校の生徒とはいえ、知らない人に着いて行くとは。小学生でももう少し警戒心がある。

 

「雫、お前もう忘れたのか?」

 

 金次の声のトーンが一気に下がった。その声に雫はビクッと身体が動いた。彼女は思い出す。一年前、自分の身に降りかかった不幸を。入学したてで、新しい事だらけの生活で、気が緩んでしまっていた。

 

「お前もだほのか、ノコノコと着いて行きやがって」

 

「ごめんなさい」

 

 ほのかは腰を曲げ、後頭部が見えるくらい頭を下げた。

 

「ったく。今日の帰りは?」

 

「雫の使用人さんに送ってもらいます」

 

「そうか。気を付けて帰れよ」

 

 そう言って金次は、雫とほのかを校門前まで見送った。路肩に止めてある車に乗り込む二人。ほのかは乗り際にチラッと金次の方を見るが、雫は顔を下に向けたまま乗車した。お灸を据えた。柄にもない事をしたと金次は頭をかいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の放課後、金次と達也はそれぞれ生徒会及び風紀委員の仕事を休み、二人で九重寺に向かう。深雪は学校に残っているが、用事が終わってから達也が彼女を迎えに行くつもりである。

 

「少し意外でした」

 

「何が?」

 

「先輩は、手土産を用意する人間には思えなかったものですから」

 

 達也は、金次の待つ紙袋、その中にある包装された菓子折りに目をやる。それは途中、金次が店に寄って買った物だ。

 

「失礼な奴だな。こっちはお願いする立場なんだ。

菓子の一つや二つ、持っていくのはマナーなんだよ」

 

 マナー。達也は「似合わないな」と思った。どちらかと言うと、金次はマナーを守るよりもぶっ壊す方という認識だ。それは他の者に聞いても変わらないだろう。

 

「達也、前から思ってたが、お前はどうやら先輩への敬意が足りてねぇようだな。もっと俺を敬え。それに可愛げがない。市原先輩みたくポーカーフェイスだからよ、もっと笑う練習しろ」

 

「………善処します」

 

 その受け答えは前者についてか後者についてか。

 はたまた両方か。

 

 石畳の階段を登っていくと、目の前に大きな九重寺の門が二人を出迎える。そして門を潜ったその先には、一人の坊主が立っていた。

 

「やぁ、待っていたよ」

 

 約束の時間よりも少し早い到着だが、八雲は庭で二人が来るのを待っていた。

 

「こうしてお会いするのは初めてかと存じます。

 改めまして、十文字金次です」

 

 学校で見る金次とは思えないほど、礼儀正しく畏まった様子に、達也は素直に感心する。お辞儀も見事なものだ。普段もこうしていれば良いのに。

 

「確かにそうだね。九重寺住職、九重八雲だ」

 

「この度は貴重なお時間を取っていただきありがとうございます。つまらない物ですが、お弟子さん達と食べて下さい」

 

 金次は途中で買った菓子折りを八雲に手渡す。

 

「ありがたく受け取ろう。さぁ中へ、茶を出そう」

 

 八雲の案内の元、二人は寺の中へ入って行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここへ来た理由は、達也君から大体聞いているよ。

 僕にお願いがあって来たんだろ?」

 

 達也が何処まで話したか不明だが、取り敢えず金次は一から説明する。

 

「なるほど。金次君は僕に、その大元をたどって欲しいという訳かい」

 

「はい、お受けしてもらえますか?」

 

 八雲の力なら造作もないことだと金次は分析するが、危険な仕事なのは変わりない。黙ったまま頭を撫でる八雲の返答を、金次は座して待つ。

 

「うん、いいよ。君には借りがあるしね。あの時の事を忘れてくれれば助かるよ」

 

 八雲は笑って承諾する。少し条件付きだが。

 

「ありがとうございます。では忘れることにします」

 

 あの時と言うのは、八雲が金次を尾行していた事だろうと達也は推測する。

 

「さてと、じゃあまずは女子生徒を襲ったという覆面の男達なんだが、どうやら『ブランシュ』の下部組織『エガリテ』の手の者だった」

 

 深雪に倒された覆面の男達は、あの後八雲の弟子たちに回収された。その男達に対して八雲は魔法を使って尋問?して彼らの正体を暴いたのだった。まぁ正体というほど、大それたものでもなかったが。

 

「八雲さん、もしや既に『ブランシュ』の事はお調べ済みですか?」

 

 金次の問いに、八雲はニヤリと笑みを浮かべるだけだった。その姿に達也は「相変わらずだな」と内心呆れていた。八雲は、金次達がここへ来る前から、『ブランシュ』の事は把握していたのだ。

 

「『ブランシュ』日本支部のリーダーを務めているのは司一という男だ」

 

「司一………」

 

 金次は引っかかったのはその男の苗字。ごく最近、それも兄の口から聞いた名だ。

 

「君の学校に在籍している司甲という生徒がいるだろ?その彼の義理の兄、表向きだけの代表じゃなく、裏の仕事も仕切ってる本物のリーダーだ」

 

 なるほど。司甲が『エガリテ』のシンボルマークを身につけている理由が分かった。兄である司一の指示か。どうやら兄弟して、学校に対しよからぬ事を企んでいるらしい。

 

「アジトは分かりますか?」

 

 聞いたのは金次ではなく達也。その言葉に応じるように、八雲は懐から地図を取り出した。どうやら愚問だったようだ。八雲は畳の上に地図を広げる。

 

「ここが君たちの通う第一高校。そして………」

 

 第一高校のある地点から指でなぞり、とある場所を指し示した。

 

「ここが『ブランシュ』のアジトさ」

 

「意外と学校から近いですね」

 

 金次も小さく頷く。学校から徒歩一時間も掛からない場所に『ブランシュ』のアジトがあった。敵のアジトは分かった。相手が何かしてくる前に、潰しておいた方がいい。善は急げだ。

 

「教えていただきありがとうございます。それでは直ぐに向かわせてもらいます」

 

 金次は立ち上がる。

 

「金次先輩、まさか一人で行かれるつもりですか?」

 

「なんだ達也、俺を心配してんのか。問題ねぇよ。奴らがアンティナイト(おもちゃ)を持っていたとしても、俺には通用しない」

 

「う〜ん。それはちょっとやめといた方がいいね」

 

 出て行こうとする金次を八雲が静止する。

 

「……何故ですか?」

 

「ただ敵を倒すのなら簡単だろうけど、どうやら司甲以外にも、一高生徒複数人が『エガリテ』に入っているみたいなんだ」

 

 工作員は司甲一人ではなかったらしい。何が良くてそんな組織に加入するのか皆目見当もつかないが。

 

「その生徒達も調べが付いているんですか?」

 

「まぁね。調べて分かったんだけど、彼らにはある共通点があったんだ」

 

「ある共通点?」

 

「司甲含め、全ての生徒が"元"二科生だったのさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 八雲からの情報を受け取り、金次は予定を変更して深雪を迎えに行く達也と共に一高へ戻る。

 

「……………」

 

 制度は変わったが、人はそう簡単には変わらないということなのか。癒えぬ傷を抱えたままの生徒がいた。それが原因で『ブランシュ』のような組織に加担することにもなった。

 

「面倒臭ぇな……」

 

 今回は、ただ拳をぶつけるだけじゃダメらしい。

 

「金次先輩、もう師匠から十分に情報は手に入りました。後の事は警察に任せるべきではありませんか?」

 

 ピタッと、達也の前を歩く金次の足が止まる。そして、体の向きを変えて達也と向かい合う。

 

「達也、俺も同意見だ。学校の外の事は警察に任せた方がいい。俺のやろうとしている事は、学生の分を超えているしな。けどな、それじゃダメなんだよ」

 

「何故です?」

 

「去年までの一高は、そりゃもう辛気臭い所でよ。登校するのも億劫になるぐらいだったさ。でもそれをなんとかしようと、あの人は立ち上がった」

 

「…………」

 

「あの人の"熱"で、俺達は学校の仕組みそのものを丸ごと変えた。差別を助長させる『二科生制度』を廃止し『秤制度』を作った。けど今回、『エガリテ』なんぞに加担する奴らは、"過去に取り残された者達"だ」

 

 彼らの心は、去年から一歩も前に進んでいない。心の弱さを付け込まれ、道を外してしまった。

 

「そうなった責任の一端は俺にもあると考えている。なんせ焚き付けたのは俺なんだからよ。それに、このまま見過ごすのは、あの人が許さないような気がするんだ。理由なんてそんなものさ」

 

「先輩は、彼らを救おうとしているんですか?」

 

「ば〜か、別に救う訳じゃねぇ。説教するんだよ」

 

 それに、と金次は付け加えて、

 

「お前ももう無関係じゃねぇよ。聞いちまったからには協力してもらうぜ、達也」

 

 『エガリテ』『ブランシュ』 "元"二科生

 

 過去から前に進めない者。そして、その弱さにつけ入れる者。入学してからまだ一ヶ月と経っていないうちに、達也は問題だらけの学校に呆れていた。彼自身、深雪以外の人間にさほど興味はない。どうなろうが自分の知るところではない。しかし、

 

「ならば、自分もお願いがあります」

 

「言ってみろ」

 

「あの時、俺の波動攻撃を喰らっても無事だった理由を教えて下さい」

 

「………なるほどな、達也ちゃんは俺の秘密を知りたいわけね」

 

「"ちゃん"は辞めてください」

 

 お願いにはお願いで。等価な条件とは言い難いが、達也はダメ元で金次に言ってみる。

 

「分かった。存分に教えてやるよ」

 

「良いのですか?」

 

「構わねぇよ。バラしたって俺が弱くなることは無いからよ」

 

 喋っても問題ないということは、それだけ魔法に自信があるということ。人によっては単なる慢心と思うだろう。対策される事を恐れていないのか。その正体を達也は突き止めたい。

 

「なんなら、俺の魔法を知って、お前が俺とどう戦うのか興味があるしな」

 

「再戦前提ですか?」

 

「当たり前だ。あんな終わり方で満足するわけねぇだろ。言っておくが、次戦う時はお前から誘って来い。いつでも待ってるからよ」

 

(まさか、俺が挑戦者(チャレンジャー)か………)

 

 万全の準備で臨んで来いと金次は言っている。正直、舐められものだと達也は思った。負けるなんてありえない。この身は妹の為に、『ガーディアン』の使命としてあらゆる障害になるものを排除しなければならない。もし、金次が二人の前に立ち塞がるような時があれば、

 

(容赦はしない)

 

 

 

 

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