魔法科高校の熱を愛する者   作:パクチーダンス

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第三話 改革

 

 学生の意識改革。金次がまず最初に行ったことは、国立魔法大学付属第一高校校長・百山東への面会である。彼は魔法教育の国家的権威。魔法科高校のカリキュラムの改良に貢献したことで有名な男だ。

 

 百山校長は、常に校長室に座しているので会うのは容易い。金次の作戦を実行する為には、何としてでも百山校長の首を縦に振らす必要があるのだ。そう、目の前にいるこの男から、OKサインを貰わなければ。

 

「それで、話とは何かね?十文字金次君」

 

 歳は今年で70になる。この威厳たっぷりな老人を、金次はどう攻略するのか。

 

「長話は好きじゃない。結論から言わせてもらうと、俺は今の一科生と二科生の立場を逆転させて、意識改革をやりたいと思ってます」

 

「……………………」

 

 金次の言葉を、百山は黙って聴きながら顎に伸ばした髭を撫でる。

 

「俺はこの学校に入学して間もないですが、ハッキリ言って一科生の二科生への差別は辟易しています」

 

「……………………」

 

「そこで俺は考えました。今の立場を逆転させて、自分達がしていた差別が、如何にアホな事だったのかを、その身に思い知らせてやるんです」

 

「……………………」

 

「その時、人は初めて気持ちを理解出来る。人は当事者にならなければ、無限に知らないフリをし続ける事ができるからです。どうです?いい案だとは思いませんか?」

 

「……………………」

 

 我ながらいい案を思い浮かんだものだ、と自画自賛する金次だが、百山の表情は部屋に入った時から一ミリも変化が無い。というか聞いているのかすら怪しい。もしかして目を開けながら寝ているのか?と金次は訝しむ。

 

「……その一科生と二科生の立場を入れ替えるというのは、どのくらいの期間設けるつもりなのだ?」

 

 百山はしっかりと金次の話を聞いていた様だ。実施期間についてはまだ検討の余地はあるが、

 

「機を見て期間は変更しようと思っていますが、

 3ヶ月と言ったところですかね」

 

「……………」

 

 金次の言葉に百山は目を細める。そしてしばらく黙ったのち口を開いた。といっても、金次には伸ばしすぎた髭のせいでどの辺が口か分からなかったが、

 

「無理だ」

 

 百山の返答は、金次の期待していたものとは真反対なものであった。それに対して金次は、

 

「は?なんで?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 校長室の外にいる生徒会の面々+克人は、金次が部屋から出て来るのをジッと待っていた。ちなみに中条あずさは帰らせた。

 

「金次君だけを行かせてよかったんでしょうか…?」

 

「副会長、金ちゃんは一人で行くと言ったら聞かない子です。それに、何か勝算があるんだと思いますよ」

 

 真由美は心配ないと不安そうな副会長に告げる。彼女は、金次がやると言ったらやる男だと知っているのだ。校長室に入る前も、

 

『俺が出て来るまで帰るの禁止な』

 

 なんて言い残して入って行った。金次に言われなくても生徒会の全員、会長と金次の"熱"を浴びて、ノコノコと帰るわけは無かった。

 

「十文字君、貴方の弟さんは、昔からあの感じなのかしら?」

 

「………恥ずかしながら、私の愚弟は昔からあの感じです」

 

「恥ずかしいなんてとんでもない。今の時代、あんなストレートに物を言う子は珍しいわ。それに、彼とは出会ったばかりだけど、何故か任せられるっていう安心感があるの。良い弟さんを持ったわね、十文字君」

 

「…………ありがとうございます」

 

 金次は昔から、人たらしの才がある。数々の問題行動から、十師族の面汚しなんて他家に陰から言われているが、金次の"熱"に浮かされた者は少なくない。

 

「それにしてもあの子、極東の魔王にナンパって………本当なのかしら?」

 

「「「「………………」」」」

 

 生徒会長の言葉で一同が沈黙する。十文字、七草と同じ十師族の一席を担う一族、四葉。彼らは、「触れてはならない者たち(アンタッチャブル)」と恐怖されている一族であり、そんな四葉家の当主・四葉真夜は、「極東の魔王」「夜の女王」などの異名を持ち、魔法師達から畏怖の念を抱かれている。

 

 そんな人物を金次はナンパしたのか。前提として、そもそもどうやって会えたんだ?というかナンパできるの?皆の頭の中は「?」でいっぱいだった。

 

「ねぇ十文字君、金ちゃんって結構年上の人が好きなのかしら?」

 

「……………分からん」

 

 人の恋愛に口を挟むような無粋な真似はしたくはないが、相手を選べと思った克人なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで無理なのか、聞いてもいいですか……?」

 

 金次は自分の提案が却下された事に納得がいかなかった。

 

「………この第一高校は、毎年多くの卒業生を国立魔法大学へ送り込んでおる」

 

 それは金次も知っている。一高に関わらず、日本の各地にある国立魔法大学付属高校の卒業生の多くは、国立魔法大学へ進学するものが多い。とりわけこの第一高校は、他の高校より最も多くの卒業生を進学させるエリート校であることを。

 

「それがどうしたんです?」

 

「この学校は、国からの予算が与えられている代わりに、ある一定の成果が義務付けられているのだ。それは、魔法科大学、魔法技能専門高等訓練機関に、毎年百名以上の卒業生を供給することだ」

 

(あぁ、それかぁ…………)

 

 金次は、百山が言いたい事を段々と理解し始めた。

 

「この学校の、最も重要な魔法実技の個人指導を受ける権利を、今の二科生に与えることは、才能ある一科生徒の成長を妨げるばかりか、成績の低下、最悪の場合、魔法科高校の卒業資格を得られない可能性がある」

 

 魔法の世界は、弱肉強食。徹底した才能主義、残酷なまでの実力主義。才能ある者が生き残らなければならない。それは金次も分かっている。この世界には、平等なんてものは端から存在しない。しかし、

 

「ですが校長、俺はその一科生(才能ある者)が胡座をかいて、あまつさえ二科生(才能ない者)を貶し蔑むこの学校に吐き気がするんだよ」

 

 金次は腹が立っているのだ。金次からして見れば、一科生も二科生も対した差異は無い。例えば、入試成績100番目の生徒が滑り込みで一科生になったとして、惜しくも101番目の生徒は二科生になる。その二人に、一体どれくらいの差があるというのだろうか。

 

「…………………」

 

「ここに来る前、どんな事案があったのか生徒会長に聞いたが笑っちまったぜ。

 

 購買でパンを買う為に並んでいた二科生の前に一科生が割り込んだり、あらかじめ二科生が予約していた体育館のコートを一科生が無断で使用したり、体育館裏に呼び出して二科生に集団暴行?

 

 ハッ、なぁオイ校長先生よぉ、これが才能ある者のする事かよ!!」

 

「…………………」

 

 百山は顔を険しくしながらも、金次の話を黙って聞いていた。"二科生(ウィード)"そう呼ぶ蔑称を一科生が使用していることくらい、百山の耳にも届いているはずだ。

 

「俺が言うのもなんだが、こんなアホなことしてる奴らが、次の日本魔法界を担う人間になれるとは、到底思えないね」

 

「……だから、君は変えたいと?」

 

 金次は首を振る。

 

「俺はただ、生徒会長の"熱"に当てられただけさ」

 

「"熱"?」

 

「"熱"に嘘はつけねぇからな」

 

 生徒会役員全員、この学校を変えたいと思っている。自分はその"熱"に当てられただけだと。

 

「ならば、私の元に君ではなく、生徒会が来るのが筋ではないかね?」

 

「いいや、厳つい老人の相手は俺だけで十分だと言ったんですよ。生徒会の出番はもう少し先ですから」

 

「厳つい……老人……………」

 

 百山はギロッと睨み付けるが、金次は怯むどころか「怖ェ〜」と言いながらケラケラと笑っている。大抵の人間は、百山の力強い目にビビるが、金次には通用しない。

 

「……まぁ良い。だかな金次君、これは私の一存でも決められない事だ」

 

「協力者がいる、ってことですか?」

 

「左様。これ程大掛かりな改革となると、周りを納得させる為にも有力な家の支持が必要となる」

 

「有力な支持者か………」

 

 金次は頭で考えながら、自分の指を一つずつ折って候補を上げていく。

 

(まず俺ん家だろ。その次に七草、真夜さんに頼んで四葉も動いてもらうか。後は何処だ………確か三矢家の末っ子がまだ中学生だったよな。多分家の距離的にこの学校を選ぶだろうから、一応頼んどくか)

 

 十師族だけに偏るのではなく、他の有力な家に声を掛ける必要がある。来年から第一高校に子供を通わせる家には特に。

 

「何とかなりそうだと思います」

 

「……そうか、なら有力な支持者が集まった時、もう一度私の元に訪ねて来たまえ」

 

 それは、百山自身からはOKを貰ったと同義であると金次は理解した。まずは第一関門突破。金次は内心ガッツポーズした。

 

「分かりました、では失礼します」

 

金次は百山に礼をした後、校長室の扉をガチャと開けて出て行った。部屋に百山だけになった。静寂の空間が続く中、百山はふと顎の髭を撫で始める。

 

(なるほど、あれが十文字金次か…………)

 

 百山は、以前から金次のことは認知していた。十文字家の問題児。しかしそれだけではない。

 

 一年前、日本に潜り込んでいた敵国のスパイが、まだ若い魔法師の少女を連れ去る誘拐事件が起こった。アジトを特定し、救出隊を結成してアジトに乗り込むと、驚いたことにスパイは全滅していた。スパイのリーダーと思われる人物をイス代わりに座っていたのは金次だった。

 

『遅せぇんだよ!バカヤローーーー!!!』

 

 金次はアジトに単身で乗り込み、スパイを制圧して少女を助けたのだった。その後、金次は腹が立って救出隊のリーダーをぶん殴ったらしい。この事件は公になっていない。十師族と当事者である少女の家族、そしていくつかの有力な魔法師の家系のみが知ることである。話題に事欠かないこの男は、次に何を起こすのか。

 

(フッ、ワシも当てられたか。彼の"熱"に………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっ!ちゃんと待ってたな」

 

 金次が校長室から出ると、自分の言いつけ通りに会長達が待っていたことに「関心関心」と思っていた。

 

「当たり前です。それで、どうなりましたか?」

 

 百山校長との話し合いはどうなったのか、不安な顔が隠せない会長。他も同様だ。面白がって、勿体ぶって答えを長引かせるなんてしたら可哀想だと思い、金次は次にやる事を伝える。

 

「とりあえず、百山校長にはOKを貰った」

 

 金次の言葉で先程までガチガチだった皆の表情が和らいだ。安心するのはまだ早いが、一歩前進した事に安堵したようだ。

 

「次、俺たちがやる事は協力者を探すことだ」

 

「協力者?」

 

 ピンと来てない副会長が首を傾げる。会長の方は気が付いているようだ。

 

「まだ学生である俺達じゃ限界がある。だから、俺達の考えに支持してくれる有力な魔法師の家系をバックに付かせるんだ」

 

「なるほど、有力な魔法師の家系…………」

 

 会長がそう呟くと、生徒会の面々はこぞって真由美に目をやった。視線を向けられた真由美は「あっ、私か」と遅れて気が付く。

 

「ウチの父にお願いしてみます」

 

「お願いします、真由美さん」

 

「後は俺ん家(十文字家)、他にも有力な家にコネがあれば頼んで欲しいんだが」

 

「えぇ、私の方も他家にお願いしてみるわ」

 

 支持者は多ければ多い方がいい。今日の所はこれで解散となった。「あ〜疲れた」と金次は身体をグッと伸ばす。明日の放課後は、三矢家に足を運んでお願いしに行くか、なんて思いながら帰路に着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真由美が家に帰ると、早速今日の出来事を父の弘一に話した。帰って来て早々、書斎を訪ねて来たことに弘一は不思議に思うも、娘が持って来た話に興味を示したのだ。

 

「……なるほど、金次君も面白い事を思い付くね」

 

「面白いって………」

 

 笑みを浮かべる弘一に真由美は呆れてしまう。

 

「身をもって知る事で、人は初めて学習するものだ。その点で言えば、彼の言う事は正しい。真由美、お前の学校はそれ程までに腐っているのか?」

 

「………はい」

 

 真由美もこの一年間、散々見て来た。現場を目撃する度に、同じ魔法師として情け無いと感じていた。

 

「その様な者達が、次代を担うと考えるとゾッとしてしまうな。そんなことでは、日本の魔法師界は衰退する一方だろう」

 

 日本の魔法界のトップ、十師族の一員であり当主の弘一は、真由美達の世代の魔法師が、自分達の代が築き上げて来た魔法界を任せるに相応しいか懐疑的である。

 

「十師族の当主として、これからの若者の未来への投資として力を貸そうじゃないか」

 

「………ありがとうございます」

 

 真由美は弘一に頭を下げる。これで一つ、支持する家が確保された事に真由美は内心喜んだ。だが、話はこれで終わりでは無かった。

 

「真由美、金次君に言っておいてくれないか?」

 

 イヤな予感がした。

 

「……何をですか?」

 

「貸し一つ、だとね」

 

 弘一は支持する代わりに見返りを求めて来たのだ。それも金次に。

 

(狸親父め…………)

 

 そう言うのは自分で言って欲しい。娘を通じて伝えるなと。こっちの身にもなれと、内心腹が立った。真由美は「明日なんか来るな」と思いながらベッドに入るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーという訳なんです。もしよければ、名前を貸してはもらえませんか?」

 

『あら、何かと思えばそんな事。別に構わないわよ』

 

「本当ですか、ありがとうございます。助かります」

 

『良いのよ、貴方の頼みだから。それに後々、あの子達の為にもなると思うし………』

 

「あの子達?」

 

『こっちの話よ。それじゃあね』 プツンッ

 

 向こうから通話は切られ、金次は端末をテーブルに置いた。

 

「"熱"は熱いうちに………だ」

 

 真由美がここに居たら「オッサン臭いからやめなさい」と言われそうなセリフを吐く金次。明日も早いので金次は床に就いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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