魔法科高校の熱を愛する者   作:パクチーダンス

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第七話 昔の記憶

 

 私の名前は北山雫。父は実業家の北山潮で、母は一流の魔法師の北山紅音、旧姓・鳴瀬紅音。二人の結婚は周りから色々と言われたそうだけど、父は反対を押し切って母の手を取り、すったもんだの末にゴールインし、その間に私が生まれた。

 

 自分でも言うのもなんだけど、私の家はいわゆる大富豪だ。だから生まれてこの方、何一つ不自由なく育ってきた。それについては、父には本当に感謝している。

 

 私の魔法師としての素質は母親譲りで、母からも優秀の太鼓判を押されている。そのせいか、父は私の魔法の才能に対する入れ込みようは常軌を逸しているレベルだ。例えば、私のCADのメンテナンスは、わざわざ日本で五指に入る魔工師にしてもらっている。父の親バカっぷりに、母も若干呆れていた。

 

 私の下には弟が一人いる。名前は北山航。弟は魔法の素質を持っていないけど、そんな事は関係なく、私と同じくらい父と母から愛情を貰っている。

 

 そんな私には小学校入学以来の幼馴染がいる。名前は光井ほのか。ほのかの母親と私の母は若い頃からの知り合いで、ほのかの両親が家を空ける時は、私の家で泊まることが多かった。いつも一緒にいた私とほのかは、友人以上の存在だった。

 

 親に恵まれ、親友にも恵まれた私は、本当に幸せ者だと思う。だけど一年前、その幸せを絶望の底に突き落とす事件が起きた。

 

 その日は、朝から胸騒ぎがしたのを覚えている。言葉では言い表せないけど、とにかく何かが起きる、そんな予感があった。その予感に従っていれば良かったと思ったのは事件が起きた直後のことで、私はほのかと遊ぶのが楽しみで、すぐに頭の隅っこに追いやってしまった。

 

 前から新しい服を買いたいと言っていたほのかと、一緒にショッピングモールへ出掛けていた時、それは起こった。私が化粧室から出る際、前を歩いていた女性のポケットからハンカチが落ちた。私がハンカチを拾おうと膝を曲げて、手を伸ばした瞬間だった。

 

 突如背後から、何者かが私の口に布を押し当ててきた。私は抵抗する暇もなく、意識が闇の中に飲まれていった。後で知ったけど、ハンカチを落とした女性もグルだったらしい。そうして意識を失った私を、人一人が入れるくらいのカバンに詰められて運ばれた。

 

 気がついた時には、私はベッドに寝かされていた。起き上がろうとするも、両手両足を拘束されていて身動きが取れなかった。ここでようやく、自分が誘拐されたと理解した。

 

 私は目を動かして周りを確認する。埃が被ったシーツ、古びたテーブル、ボロボロのソファ、部屋の内装から見るに、使われなくなったホテルの一室だと分かった。

 

 だけど、私が今何処にいるのかが分からなかった。ショッピングモールで攫われて、意識が戻ってからどのくらい時間が経ったのかも不明。どれくらい遠く所まで連れて来られたのかも不明。

 

(ほのか、大丈夫かな……………)

 

 こんな状況でも、自分よりも親友を心配していた私だけど、そんな心配はすぐに消え失せることになった。

 

 部屋に入って来たのは大柄な男と細身の男。

 

 気がついた私を見て、大柄の男の一歩後ろに控えている細身の男が、舌舐めずりをしていたのがとても気持ち悪かった。

 

「自分の置かれている状況が分かるな?」

 

 大柄な男の言葉に、私は頷く他なかった。大柄な男は私から視線を外し、細身の男性と会話し始めた。日本語ではなかった。違う国の言語で話している為、内容が理解出来なかった。

 

 だけど、細身の男は大柄な男に何かを頼み込んでいるような仕草をしていた。大柄な男に何かを懇願しながら、チラチラと私に嫌らしい目つきを向けていた。寒気がしてならなかった。

 

 やれやれと言った感じで大柄な男は首を振り、一度私を見てから部屋から退室していった。そしてその入れ替わりに、二人の男が部屋に入って来た。

 

 その二人は細身の男同様、私に下卑た視線を向けてきた。それが何なのか、理解するのに時間は要らなかった。何故なら、男達は私のいるベッドに膝を載せた。そして、靴を脱ぎ捨て私に手を伸ばして来たのだ。

 

「いや……いやぁ!!」

 

 私は叫んだ。身をよじり逃れようとするが、男達は私の細い腕を掴み、ニヤニヤと笑みを浮かべていた。細身の男は、ポケットから取り出したナイフを用いて、私の足を縛っていた紐を切った。そして、私の足を広げ始めた。

 

「や……やだ………やだ!!」

 

 私の泣き叫ぶ声も激しく首を左右に振る姿も、男達は楽しむようにケラケラと笑い、ゆっくりと体を近づけてきた。見知らぬ男達に体を触られる生理的な嫌悪感と恐怖が私を支配した。

 

 犯される。この男達に私の身体を凌辱される。ズボンを無理矢理に脱がされ、服をナイフで切り裂いて破かれる。下着が露わになって、ますます男達の興奮は昂っていた。そして、

 

(いや……誰か………お父さん、お母さん………)

 

 私の下着に手が伸びたその時、

 

 

      ドゴーーーンッ!!!

 

 

 部屋の外から、凄まじい音が聞こえてきた。爆発があったのかと勘違いしてしまい、男達は慌ててベッドから降りて、ズボンのベルトを締め始めた。

 

 

      ドガーーーンッ!!!

 

 

  「ギャアァァァ!!」 「助けてくれー!!」

 

      ドガガガガガガッッッ!!

 

  「や、やめろーー!!」「がぁぁぁぁ!!」

 

 

 またも聞こえてきた大きな物音。その後に続く、銃撃音と人の阿鼻叫喚が入り混じった声が。

 

「お、おい、どうなってんだ!?」

 

「お、お前見てこいよ!」

 

「い、いや、お前が行け!」

 

 私も、私を襲おうとしていた男達も、部屋の外で何が行われているのか理解出来ず怯えていた。そして、さっきまでの音が嘘のように、

 

     シーーーーーーーーーーーーン

 

 ピタリと音が消えた。いや、私のいる部屋に近づいて来る足音が一つあった。コツコツと足音が次第に大きくなり、

 

       ガーーーンッ!!!

 

 扉を蹴破って入って来た。壁に激突した扉は、もはや原型を留めておらず、グシャグシャに潰れていた。壁の方にも大きな凹みを作っていた。

 

 呆気に取られていた私と男達は、ぺちゃんこの扉から、部屋の出入り口に視線を移した。そこに立っていたのは、若い青年。

 

 歳は私と同じくらいか少し上くらい。彼は私と目が合った。私の姿を見た彼の表情は、怒り。ただその一言に尽きた。

 

「助けて!!」

 

 私は叫んでいた。

 

 

    「死ね!!クソ野郎共が!!」

 

 

 彼はまず、一番距離が近かった男に飛び上がり、側頭部に蹴りを入れた。その蹴りは頭をグニャリと変形させる程の力で、男はその場で力尽きた。

 

 仲間の末路を見て、発狂した男が彼に襲いかかった。男の攻撃を最小限の動きで交わした彼は、男の頭を掴んでグルリと一周させた。その時、骨が砕ける音も聞こえた。人間の首の可動域を大幅に超えた男の首は、支える骨も無く垂れ下がっていた。

 

 最後の一人、細身の男は泣きながら彼に「殺さないで」と懇願していた。目や鼻から体液を垂れ流している様は見るからに滑稽な姿で、それがますます彼をイラつかせた。彼は細身の男に向かってアッパーを繰り出した。細身の男は天井に突き刺さり、そのまま動かなくなった。

 

 全てやっつけた時、彼は私に近づいて、

 

「あ、あの…………「とりあえずコレを着てな」

 …………うん。ありがとう」

 

 彼は、自分が脱いだパーカーを私に渡してきた。今の私の姿は、人に見せられるものではないため、彼の気遣いはありがたいと思うと同時に、恥ずかしかった。パーカーは私が普段着るサイズよりも大きくてブカブカだった。

 

「すまん」

 

「え?」

 

「俺がもっと早く来ていれば、こんな怖い思いをせずに済んだのに」

 

 彼は私に謝罪してきた。

 

「謝らないで。貴方が来てくれなければ、

 私は今頃…………………」

 

 今頃、男達に体を遊ばれていただろう。言葉が続かず、口にするのを憚られた。

 

「だから謝らないで。助けてくれてありがとう」

 

 いつも無表情の私だけど、今できる最大限の笑顔で微笑んだ。

 

「……そうか。間に合ってよかったよ」

 

 彼は頭を上げてホッとした顔をした。その後、ここから出ようとした時、私を助けるために編成された救助隊が遅れてやってきた。既に終わった現場を目にして、救助隊は困惑していた。

 

「君がやったのかね………?」

 

「あぁ……オイ、隊長はどいつだ?」

 

 彼がこの隊のリーダーは何処かと問い詰めて、隊員が呼びに行った。

 

「君が彼女を助けてくれたのか。ありがとう」

 

 事情をいち早く把握した隊のリーダーは、防護ヘルメットを取って彼に右手を差し出した。しかし彼は、

 

  「遅せぇんだよ!バカヤローーーー!!!」

 

 彼は差し出された手を振り払い、隊長の顔を殴り飛ばした。誰もが彼の行動に驚愕を覚え、取り押さえようとした隊員達は悉くふき飛ばされた。その光景に、私はただ目を丸くするしかなかった。

 

「ったくムカつくぜ。こんなにムカついたのは、弟が勝手にいいとこのプリンを食べた時以来だ」

 

(いい人生送ってるな、この人…………)

 

 

 

 なんやかんやありながらも、私は救助隊の車に乗せられた。でも、彼は別の車に乗って別れてしまった。まだ言いたいこともあったし、何よりも恩人の名前を聞いていなかった。

 

 そして、無事家に着いた私を待っていたのは、目を泣き腫らした母と父であった。二人して私を抱きしめてきて苦しかったけど、それがとても心地よかった。

 

 私を誘拐した人達は、日本に侵入した大亜連合の手の者だったことを後から知った。日本にいる若くて優秀な、特に女性の魔法師を攫っては人体実験を行うつもりだったらしい。私含め両親共に、顔を赤く腫らした救助隊の隊長の話を聞いてゾッとした。

 

 けどそんな話よりも、私には知らなければならないことがあった。それは、助けてくれた彼が何者なのかということだ。顔を腫らした隊長は、彼を知っていた。

 

「彼のことですか?彼は色んな意味で有名な子ですよ。名前は十文字金次。魔法師の中では、十文字家の問題児なんて言われてますよ」

 

 十文字金次。私もその名前には聞き覚えがあった。最近で言えば社交パーティーの場で、主催者及びその家族に不躾な事を言った政治家に対して、ジャーマン・スープレックスを掛けたって話があったっけ。

 

 あの後、ほのかがやって来て、私を見た途端走り出して、体を抱きしめられわんわんと泣き出した。「無事でよかった」「もう会えないかと思った」と泣き止むまで私の体を離さなかった。

 

 

 

 

 後日、私は両親と一緒に十文字家を訪ねた。

 

「息子さんのおかげで、私達の娘は無事に戻って来ることができました。本当にありがとうございます」

 

 私達は十文字家当主に、深く深く頭を下げた。

 

「私がその件を金次から聞いたのは、昨日の夜なんですよ。まさか金次が、あなた方の娘さんを助けに行ってたなんて」

 

「ぜひ、金次君には私達から直接感謝を伝えたい」

 

 父がそう言うと、十文字家当主は困った顔をした。

 

「それが、金次は今外出中でして………」

 

 どうやら彼は家に居ないらしい。

 

「客人が来ると言ったのに、ふらっと何処かに行ってしまいまして。ですが先程連絡したところ、もうすぐ帰ってくるはずで「親父ー、俺にお客さんが来てるって?」……金次」

 

 ノックもせず扉を開けて入って来たのは、私を助けてくれた恩人だった。父はすぐに立ち上がって彼に駆け寄った。

 

「君が金次君だね、私は北山潮という。この度は、うちの娘を助けていただき本当に感謝している」

 

 ありがとう、と父は彼の右手を掴んで頭を下げる。

 

「あ、あぁ、大事なくて良かったです」

 

 彼は突然の事で少々困惑している様子だった。昨日の彼とは全然違う雰囲気で、同じ人物とは思えなかった。後から母も、彼に深々と感謝していた。

 

「一応娘さんには、ここ一ヶ月間は護衛を付けた方が良いかと思います」

 

「確かにその通りだ。娘が登下校を行う際は、護衛の魔法師をつけるとするよ」

 

 父と母ばかり話しててズルいと感じていた私の気持ちを汲んだのか、十文字家当主が「二人で話してきたらどうか?」と提案してくれた為、私はそのご好意に甘えることにし、彼は私を自分の部屋に連れて行った。

 

 ちなみに、私が男の人の部屋に入ったのは、これが初めてのことだった。

 

「あんな事は、すぐに忘れた方が良い」

 

「え?」

 

 部屋に入るなり、彼は私にそう言った。

 

「最悪は免れたとはいえ、あのクソ共に何をされたのかは分かる。精神干渉系の魔法師に記憶を消してもらうなりして、綺麗さっぱり忘れた方が良い」

 

 確かに彼の言う通り、まだ私の腕にはあの男達に触られた感触が残っている。いっそ記憶を消してもらった方が私の精神上良いのかもしれない。だけど、

 

「そうしたら、貴方の事も忘れてしまう」

 

「別に良いだろ。誰に助けられたとかよ」

 

「嫌だ!」

 

 私は断固として拒否した。それだけはしたくないと、心の底から叫んだ。彼に助けてくれたこと、彼の優しさを、忘れたくはなかった。

 

「………そうか。強いんだな」

 

 そう言う彼は、何処か遠くを見つめていた。誰かを思い浮かべているのだろうか。そして彼は急にパンッと手を叩いた。

 

「暗い話は終わりだ。雫だっけか。親父達の話が終わるまで何したい?」

 

「私は貴方の、金次さんの話が聞きたい」

 

「俺の?まぁいいぜ。面白いかどうか分からねぇが、あれはー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雫、起きて」

 

「ん?ほのか、おはよう」

 

 私が目を開けると、目の前には親友のほのかの顔があった。寝てる時、なんだが昔のことを思い出していた気がするけど、まぁいいや。

 

「もうすぐ金次さんの決勝が始まるよ。早く行こ」

 

「うん」

 

 私は今、ほのかと一緒に九校戦の観戦に来ている。金次さんが通う一高は、どの競技でも3位以内に入っており、今年も一高の優勝は確実のようだ。そして今日は、待ちに待った新人戦モノリス・コードの決勝戦の日だ。

 

 金次さんは一回戦から、派手に皆んなから注目を集めていた。相手選手を挑発したり、勝利のダンスをしたりとノリノリだった。他校からはブーイングの嵐だったけど、金次さんはどこ吹く風といった様子だった。

 

 私は泊まっているホテルから出て、会場へと向かった。既に観客席は、大勢の人で埋め尽くされていた。

 

「どこが空いてるかなー?」

 

「雫、あっち行ってみよ」

 

 

 

   『決勝戦、第一高校 対 第三高校』

 

 

 

 空いている席を見つけた私達は、今か今かと待っていたところ、開始時刻ちょうど、会場内にアナウンスが流れた。

 

「あっ!出てきたよ雫」

 

「金次さん」

 

 金次さんは選手出入口から堂々と姿を現した。金次さんが出て来ると、観客席に座る他校の生徒から、「負けろ一高!」「やっちまえ三高!」とやじが飛んでいた。

 

「あ?うるせぇよバーカ」

 

 金次さんはやじを飛ばす席に対して、舌を出しながら中指を立てた。その行動がますます彼らの怒りを買った。

 

「あ、あはは、凄いブーイングだね」

 

「金次さん、楽しそう」

 

 一高の観客席はというと、皆が一様に頭を抱えていた。あっ、あの大きい人は確か、金次さんのお兄さんだ。

 

 

  プ……プ………プ………プーーーーー!!

 

 

 試合開始の合図と共に、金次さんは走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 来年、私はようやく第一高校に入学する。

 待っててね、金次さん。

 

 

 

 

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