10月1日。国立魔法大学付属第一高校では、新たな生徒会が発足した。生徒会長と副会長は任期満了し、その座を頼もしい後輩達へとバトンタッチ。
この日の放課後には、生徒会室にある会議用の長机を囲む、新生徒会役員達の姿があった。そして彼ら彼女らを率いるのは、もちろんこの女性。
「さ〜て、これから来年の新入生が入って来るまで、このメンツで頑張っていきましょう」
生徒会長 七草真由美
副会長 服部刑部少丞範蔵
書記 中条あずさ 十文字金次
会計 市原鈴音
9月下旬に行われた生徒会長選挙で当選ーというか他に立候補者が居なかったので、自然と新生徒会長として書記から位が上がった真由美。
その他は、真由美と同じく位が上がった者や今までと変わらずの者、新しく入ってきた者もいる。
「ちょっと待て」
新生徒会始まって早々に、新しく入ってきた者が生徒会長に意を唱えた。
「はい、金次書記。何でしょうか?」
少し堅苦しい言い方の、テンションがおかしな真由美が、ビシッと金次に指をさす。
「何で俺が生徒会役員に入ってるんだ?」
自分がここにいる理由が分からないと言う金次。だが、隣に座る服部が「何言ってんだ?」という顔をする。あずさも鈴音も同様である。
「散々あれだけ生徒会に尽力してくれたのに、今更入らないなんてある?」
今までの金次の働きからして、生徒会に入らないなんてあり得ない。というか入れさせたいと真由美が思ったので、彼はここにいるのだ。何より、問題児は目の届く範囲に置いた方がいいとの、克人からのアドバイスでもあった。
「俺入るなんて言ってねぇし」
「私が勝手に申請してきたから」
「おい」
ここに来る前先生から「金次君、君まだ生徒会役員じゃなかったの?」と言われたが、金次は生徒会に入る気など全くもってなかった。放課後すぐに帰れないし、九校戦の準備もあるし、論文コンペもある。単純に言うと面倒くさいからである。
「とりあえず、明日からの昼食は皆んなとここで食べましょう。その方が楽しいし」
「それって強制?」
「嫌なの金ちゃん?じゃあ生徒会長命令発動です」
「職権濫用だろそれ」
こうして、真由美の発案により生徒会室での昼食会は慣例化されていった。
時は数年前に遡る。それは、師族会議が終わって本家に帰る途中に起きた出来事だった。
(今回も面倒くさかったわ………)
一人後部座席に座り心の中でため息を吐くその女性は、ワインレッドのフォーマルなワンピースを纏う美女。誰がどう見ても三十歳半ばにしか見えないが、実年齢は四十を超えている。四葉家現当主・四葉真夜。
真夜が内心愚痴をこぼした理由は、もはや師族会議でお馴染みとなっている、七草家現当主・七草弘一が自分に突っかかってくることにだった。毎度毎度、噛みついてくる弘一に真夜は飽き飽きしていた。
「今回の師族会議もお疲れ様でございます。奥様」
それが表情に出ていたのだろうか。運転席に座る執事の葉山が、バックミラーから真夜を覗いていた。
「帰ったらすぐにハーブティーをご用意致します」
「えぇ、ありがとう葉山さん」
葉山忠教。四葉家の執事長であり、真夜専属のバトラー。彼は、四葉家先代当主・四葉英作から仕えており、四葉家内の重鎮でもある。
「む……?」
そろそろ真夜が乗っている車が四葉の敷地内に入ろうかという時に、葉山は突如ブレーキを掛けた。道の真ん中で止まる車。真夜は不思議に思った。
「葉山さん?」
「………奥様。正面に少年がおります」
「少年?」
真夜は後部座席から少し腰を浮かせ、身を乗り出すとまではいかないものの、助手席のシートに軽く手をつく。フロントガラス越しに見える道のど真ん中、そこに車の進行を遮る少年の姿が。
「本当ね」
ポケットに手を突っ込んで佇むその少年は、歳は中学生くらいに見えた。そしてコチラを見て笑っている。何故こんな所に子供が?そんな思いの中、
「奥様は車の中でお待ち下さい」
葉山はそう言うと、車のシフトレバーをパーキングに入れてサイドブレーキを掛けると、シートベルトを外して車の外へ出る。
「君、何者かね?」
実は迷子の少年、なんてことはあり得ないだろう。ここはまだ四葉の敷地内ではないが、そこに行くための一本道である。そもそも車道しか存在せず、周りは木々で囲まれている。そんな場所に
「なぁ、後ろの席に乗ってるの四葉家当主だよな?」
少年と葉山の距離はおよそ10m。たとえ子供であっても容赦しない。主人を守るため、葉山はコッソリとCADに手を伸ばす。
「答えないかね。君は何者か?」
「俺の名前は十文字金次。そこにいる四葉真夜に話があって来た」
「十文字………」
少年は十文字といった。それは、四葉と同じく十師族に名を連ねるあの十文字家か。それに目の前の少年は下の名を金次と言った。葉山はその名に聞き覚えがあった。
(ならばあの少年が噂の、十文字家の問題児………)
葉山が思考に耽っている時、車の後部座席のドアがゆっくりと開いた。
「奥様」
真夜が車から降りて来たのだ。
「貴方、私に何の用なのかしら?」
他にも聞きたいことが幾つかあるのだが、まず聞くべきことは、自分に何の用があって会いに来たのか、ということだ。
すると、金次は待ってましたと言わんばかりに、
「真夜さんって呼ばせてもらうぜ。なぁ真夜さん、アンタ今暇してるかい?もし時間があるなら、俺とお茶でもしないか?」
「……………え?」
それは、真夜自身予想だにしていなかった言葉であったため、反応が遅れてしまった。側に控える葉山も同じ心境だったろう。誰がどう見ても、金次が真夜に掛けたセリフは、俗に言う"ナンパ"というやつであった。
12月25日。金次はこの日、とある人物と出かける予定が入っていた。気温は12度とこの季節にしては少し暖かい。時刻は12時10分。金次は集合時刻の20分前に集合場所へと辿り着いたが、既に相手は彼を待っていた。
「随分と待たせちまったようだな」
「いいえ、今来たところよ」
金次を待っていたのは、彼の通う第一高校の"元"生徒会長その人である。
「この日に誘うなんて、アンタもしかして俺に気があるのか?」
揶揄う金次に、"元"生徒会長はクスリと笑う。
「何言ってんのよ。それよりも金次君、お腹空いてるかしら?私お昼まだなの」
「あぁ、俺も空いてる」
本当はお昼を済ませてあったのだが、ここは待たせてしまった相手に合わせるのが筋というもの。
「じゃあまずは、腹ごしらえといきましょうか」
金次と生徒会長は、歩いて約15分ほどにあるレストランへと入った。時間も時間なので店内には客が多い。特に、カップル?と思わしき若い男女が何組も見受けられた。
店員に角のテーブルへと案内され、金次と"元"生徒会長はそれに従い席に着いた。
「それで、今日俺を誘った理由は何だ?」
"元"生徒会長は、眺めていたメニュー表から顔を上げる。
「……確かに言ってなかったわ。あのね、私には3歳下の弟がいてね。もうすぐ弟が15歳の誕生日なの」
年頃の男の子は何が欲しいのか分からない為、歳が近い金次にアドバイスをして欲しいとのことだった。
「十文字君に聞いたの。金次君は、毎年欠かさず弟妹達に誕生日プレゼントを送ってるって」
「兄なんだから当たり前だろ。兄貴もやってるぜ」
「そう?してない人もいるわよ。貴方は面倒見がいいって、十文字君も褒めていたわ」
金次は頬をポリポリとかき始める。いつも兄の克人には怒られているため、兄が自分を褒めていると知って少し気恥ずかしくなっている。
「そんなことなら任せな」
「えぇ、期待してるわ」
そして"元"生徒会長は「すみませーん」と店員を呼んで注文し始める。金次は彼女と同じ物を注文し、料理が来る間は楽しく会話していた。
「へぇ〜、ここが四葉なのか。山ばっかだな」
「………………」
隣にいる少年が真夜には理解出来ない。真夜自身、特に考えず車に乗せてしまったが、
「フ〜ン、フフ〜ン」
自分達が"
「金次さん、と言ったかしら?貴方、今から行く場所がどんな所か理解しているのかしら?」
お前は今から、どんな魔法師からも恐れる
「何だよ真夜さん、もしかして俺を怖がらせようとしてるのか?」
「貴方、私が怖くないのかしら?」
真夜は、自分を前にしても堂々としている金次に対して、少し殺気混じりの言葉をぶつけてみた。ちょっとしたイタズラ。だが金次は、真夜のまたも真夜の予想を裏切ることになる。
「アハハハハ!!」 「「!?」」
金次は声を高らかに笑った。車内は笑い声が響きわたり、真夜も葉山も驚き目を見開いた。
「ククッ、何処がだよ。むしろ目の保養になるね」
金次は落ち着きを取り戻すも、その顔には笑みが溢れている。真夜を恐れるのではなく、むしろ美しいと金次は言った。
(目の保養、、私、口説かれているのかしら……?)
真夜は、自分の容姿は他者と比較しても見劣りしない、むしろ他者を圧倒する美貌を持っていると自覚している。だからお褒め言葉を貰うのは慣れてる。だが、この状況で自分に向けられる殺気を笑い飛ばし、冗談を言えるものなのか。
「理解出来ないって顔だな、分かるぜ。俺を前にした奴は大体、そんな顔をするもんさ」
「貴方ー」
車が止まった。
「奥様、ご到着しました」
金次と真夜を乗せた車は、四葉本家に辿り着いた。
「へえ〜、ここが四葉本家か。俺ん家よりもデカいな」
金次は車から降りて上を見上げていた。
「四葉以外の者が来るのは、貴方が初めてだわ」
「ほ〜ん。もしかして、俺って消される?」
ようやく自分の状況を理解したのか、金次の言葉に真夜は小悪魔的な笑みを浮かべた。
「あら怖いの?残念だけど、ここまで来てしまったからには、そう簡単に返すわけには行かないわ」
「フッ、俺もここまで来て簡単には引き下がらねぇよ」
自分は何もされないと勘違いしているのか。なら見当違いも甚だしい。同じ十師族の者なので手荒な真似はしない。なんて言うほど
「とりあえず、二人きりになれる空間に案内してくれよ。話はそれからだ」
堂々とした態度。この少年の余裕は、一体どこから来るのだろうか。
腹を満たした金次と"元"生徒会長は、ショッピングモールへと足を運んだ。そこで、会長の弟にあげるプレゼント選びに尽力した金次は、小休憩がてら喫茶店へ入り羽を休める。
「ありがとう金次君。これで弟も喜ぶといいけど」
"元"生徒会長は、テーブルに置いてあるプレゼントが入ったラッピング袋に目をやる。
「喜ぶさ。誕プレってヤツは、何を貰っても嬉しいもんなのさ」
"元"生徒会長は「身も蓋もないな〜」と苦笑する。そして、それぞれが注文した飲み物を飲み、互いに何も話さない無言の時間が続いた後、
「ねぇ」
"元"生徒会長が口を開く。
「何だ?」
「前から思ってたんだけどさ。何で金次君はそんなに"熱"を愛しているの?」
十文字金次という男は"熱"を愛している。それはもう十分理解した。けど、何故そこまで"熱"を愛しているのだろうか。彼の"熱"は、時に自分の身を滅ぼす危険性だってあるのに。これに対する金次の回答は、
「なぁもしも、
『一日一時間あることをするだけで
月収100万円もらえる』
って言われたら信じるかい?」
「え……?」
質問を質問で返してきた。しかもその内容は、
"元"生徒会長の頭に「?」を浮かべた。だが金次は当たって真面目だ。金次は自分の問いに対する回答を待っている。珍しく真剣な金次の顔に、彼女は焦って答えた。
「え、、、と、それって"あること"次第なんじゃないかしら?」
金次は満足そうに頷いた。
「そうだな。だが、
『その"あること"を知るためには、
20万の情報商材を買わなきゃいけない』
ならどうする?」
また質問が飛んできた。20万の情報商材?一体何の話をしているのか。けど金次は"元"生徒会長が答えるのを待っている。
「そんなの、信じられないわよ」
「そうだ。信じられない。アンタが今感じた通り、これは典型的な詐欺だ。騙す側は金持ちを装って、金持ちの成り方を売り金を手に入れる。普通に考えれば分かることだが、騙されるヤツはアホ程いる。何でか分かるか?」
「え?何でって…………」
今の時代、そんなバカなトラップに引っかかる者なんているのか。言葉に詰まる彼女に、金次は端的に答える。
「何故か、それは全て"熱"のせいさ」
金次は、"元"生徒会長に対して前屈みになってテーブルに肘をつき、頭をトントンと叩く。
「騙す側も騙される側も両方持っている。
"ここで人生変えてやろう"って"熱"さ」
「人生を……変える……………」
「"熱"に浮かされて人は判断を誤る。だが"熱"がなければ人は恋一つできない」
先程まで「何言ってるんだ」という顔をしていた"元"生徒会長は、いつの間にか金次の話に夢中になっていた。
「よりダイレクトな"熱"のやりとり。アンタは何だか分かるかい?」
「………
"元"生徒会長は、頭で考えるよりも先に口に出ていた。それは金次にとって一番の解であった。
「クックッ、段々と分かってきたじゃねぇか。
そうだ
金次の口は止まることを知らない。
「生きることはギャンブルだ。賭け事を嫌悪している連中は沢山いる。だが、奴らは根本を間違えているのさ。この世界は、大きく張れない奴と引き際を知らない奴から振り落とされていく。ギャンブルをしていない人間なんていないのさ。奴らが憎んでいるのは賭け事ではなく"敗北"と"破滅"だ」
「なら、金次君はどうなの?」
愚問だな、と金次は不敵な笑みを浮かべる。
「言っただろ。俺は"熱"を愛しているとな。
"熱"とは"
"熱"は全てに優先される。俺はより熱い"熱"を求めて生きているのさ」
話し終えた金次は、カップに入ったコーヒーを
グビッと飲み干した。
「ホント、貴方みたいな熱い男、今まで会ったことがないわ」
うふふ、とお上品に口元を隠して笑う"元"生徒会長に
金次は、
「惚れたかい?」
「貴方、いつもそう言って女性を口説いてるの?」
「男ってヤツは皆、いい女がいたら口説きたくなるもんなのさ」
「…………褒め言葉として受け取っておくわ。貴方が彼氏だと色々と苦労しそうだから」
「そいつは残念」
金次のアプローチを断る"元"生徒会長だが、その頬はやけに赤く染まっていた。
金次が連れて行かれたのは応接間。来客をもてなす用の部屋だが、ここが使われるのは殆どない。
「何か飲むかしら?」
「じゃあ、真夜さんと同じものを」
「かしこまりました」
金次がそう言うと、葉山が一礼しカップにハーブティーを注いでいく。葉山と最初に会った時の警戒心は無く、来客として対応している。
「ここに来る時、使用人がめっちゃ見てきましたよ」
葉山が用意してくれている間、金次は繋ぎとして真夜と会話する。本家の使用人達が、真夜の後ろを歩く自分をまじまじと見てきたことを話す。
「仕方ないわ。ここに四葉以外の者が来るなんて滅多にないもの。そもそも四葉の敷地内に足を踏み入れるなんて、余程の命知らずかただのお馬鹿さんか」
「アンタには、俺はどっちに見える?」
「そうね………両方かしら」
「両方と来たか、けど当たってるぜ。俺は命を賭けたやりとりが好きだし、頭は兄貴よりも悪いしな」
二人が話している中、葉山は前にハーブティーを置いた。金次は「いただきます」とカップに口をつける。
「美味しいな」
「ありがとうございます」
「いや、マジで。これ店に出せますよ」
普段はハーブティーなんて飲まない金次だが、葉山の入れたハーブティーは何度も飲みたいと思えるほどだった。
「少々、魔法の助けを借りております」
「魔法……なるほどな。やっぱ四葉ともなると執事の腕も一流なのか。後で教えてくれませんか?」
「それは無理な相談でございます」
「いや、ほんの少しだけ」
金次が葉山の腕に感心している時、
「それで、私と何を話したいの?」
少し仲間外れにされていた真夜が不満な顔を作っていた。
「あぁすいません。俺としたことが、随分と遠回しなことをしたもんだ。いつもは率直にものを言うんだがな」
金次は真夜から目線を逸らし頬をかく。
「なら単刀直入に話して貰えないかしら?」
真夜もカップの取ってに手を掛け、口に持ってこようとした時、
「なら言わせてもらうぜ。
四葉真夜、俺と付き合わない?」
ピタッと真夜の動きが止まった。カップを持ち上げた姿勢のまま、体が硬直した。まるで魔法に掛かられたかのように。聞き間違いか?今目の前の少年は何と言ったか。付き合う?誰と?真夜はカップに口をつける。
「………聞き間違いかしら?
もう一度言ってもらえる?」
「何度でもいいぜ。四葉真夜、俺と結婚を前提に付き合わないか?」
「ゴホッ」
むせる真夜に葉山が心配し近づいてくるのが、真夜は手で制す。真夜は目を見開いた。それは聞き間違いではなかった。というかさっきよりも大きく変わっている。結婚を前提にだって?
「貴方、自分が何を言っているのか理解しているのかしら?」
真夜は口元をハンカチで隠し、笑みを浮かべる金次にそう言う。
「俺が正気じゃないと?病院で検査してもらっても異常なんてどこにも出てこないぜ」
自分を揶揄っている?そう思う真夜だが、目の前の少年はそんな風には見えなかった。
「もちろん式は盛大にやるぜ。一生に一度だからな。友達も、友達の友達も呼んで、朝から夜まで騒ぎまくるのさ」
「いや、ちょっと待ちなさい。まだ理解出来ていないのだけど。それよりも貴方、歳はいくつなの?」
勝手に話を進める金次に、真夜は明らかに戸惑いを見せる。こんな姿の主人も珍しいと葉山は内心驚く。
「14歳。今年で15になる」
「あの、貴方、私の年齢をご存知?」
もう真夜の歳は40半ば。一般的にこの年齢の女性は"おばさん"と呼ばれる。金次とは30歳差もある。
「歳を気にしてるのか?そんなの関係ないね。愛の前では、そんな歳の差なんてゼロだゼロ」
「あ、愛……」
「そう愛さ。俺はアンタに惚れている」
金次は堂々と、正面向かってそう言い放った。
真夜は口をあんぐりと開けていた。それはハンカチで隠れてて金次には見えなかったが、見えていたら恥ずかしさのあまり顔を赤くしていただろう。
「俺が親父をコッソリ尾行して、師族会議の場所を突き止めた時よ、車から降りてくるアンタを見たんだ。あの時、俺の体に電流が走ったのさ」
「…………」
「あんなのは初めてだった。本能が叫んでたのさ。
絶対俺のモンにしてやるってな」
「……………………」
「なぁ四葉真夜、俺の女になれよ。周りから何言われようと気にすることはない。俺の"
「………………………………」
本気だ。この少年は本気で言っている。本気で自分のことが好きなんだと、真夜は理解した。金次の真っ直ぐに見つめる、若くて力強いその瞳に、真夜は吸い込まれそうになる。
「貴方、本当に私のことが…………その…………
好き、なの?」
真夜は理解してもなお、金次にそう質問した。
だが、何度質問しても金次からの返答は同じだ。
「あぁ好きだ。一目惚れだ」
「!?」
一目惚れ。まさかこの歳にもなって、自分にそんな言葉で口説いてくる男性がまだいたなんて。それも、たった15にも満たない少年が自分に。
「………私、子供は産めないわよ」
それは真夜が12歳の時だった。少年少女魔法師交流会にて、大漢にあった魔法師開発機関・崑崙方院の手によって誘拐され、真夜は人体実験の被験者として体中をいじくられ、遊ばれ、彼女は生殖能力を失っている。
真夜自身、そう口走ったことが心の底から驚いた。嫌な過去を思い出させる自分のタブーを、何故目の前の少年に話したのか。まさか自分は、次第に少年に惹かれているのか。
「それは知ってる。けどそれがどうした?もし子供が欲しくなったら、養子を持てばいい」
「……貴方は、血が繋がっていない子を愛することができるの?」
「愛せる。愛せるさ。今の俺がそうだ。血が繋がってない赤の他人であるアンタを、俺は愛している。それじゃダメか?」
即答だった。真夜への返答に、金次は一秒も間を置かなかった。
「…………………」
真夜は言葉を失った。人から愛しているなんて言われたのは、一体いつの話だろうか。いやそもそも、本当にあったのかもすら、真夜には
しかしこの瞬間、目の前の少年は言った。
愛していると。ハッキリと言った。
「うふふ」
「真夜さん?」
「あははははははははは!!」
真夜は高らかに笑った。こんなに無防備に、自分の気持ちを晒せ出して笑ったのは、一体いつ振りだろうか。響き渡る笑い声に、金次も葉山も目を丸くする。
「ふふ、貴方、それを言う為にここまで来たの?」
笑いすぎて涙が出た真夜は、指でそれを拭った。
「こんな熱いアプローチを受けたのは、生まれて初めてだわ。本当に面白い子ね」
「…………俺としては、一世一代の勇気を出した告白なんだけど」
面白いと言われたことに、金次は不満気を露わにした。その拗ねた表情に真夜は笑みを浮かべた。
「そうね。貴方が真剣に気持ちを伝えてくれたことは理解してる。だから私も、ちゃんと返事をしないといけないわね」
真夜はふぅと一呼吸置いて、金次の目を合わせ言った。
「ごめんなさい」
金次の初恋は散った。
2095年3月。卒業式。"元"生徒会長、"元"副会長との別れの日だ。式はすでに終わっており、小体育館を使って、卒業生のための卒業パーティーが開かれていた。代表として、"現"生徒会長である真由美と"現"副会長である服部が、二人に花束を渡す。
「ご卒業おめでとうございます」
「おめでとうごさいます」
「ありがとう、真由美さん。服部君。これからも生徒会をよろしくね」
涙を拭う"元"生徒会長に、真由美も心を揺さぶられ目が潤う。
"元"生徒会長と"元"副会長は二人とも国立魔法大学に合格した。二人の実力と実績ならば当然と言える。
「金次君」
少し離れて見ていた金次の元に、"元"生徒会長が近づいて来る。
「感謝してるわ。貴方のお陰で、私はこの学校を変えることができた」
未練なく学校を卒業できると、彼女はまた涙を流した。それを見て金次は照れ臭くフッと笑う。
「アンタ自身だよ。アンタの"熱"がこの学校を変えたのさ。尊敬に値するぜ」
金次は手を差し出した。それに応える様に、彼女も右手を出して握手を交わす。
「大学でも頑張れよ」
「えぇ、ありがとう金次君」
金次はそう言って、卒業パーティーの運営の手伝いしに去って行く。もうすっかり生徒会役員として務める金次の背中を見て、彼女はくすりと笑った。
「会長」
するとそこへ、"元"副会長がひょこっと現れた。
「もう"元"よ。どうかした?」
「良いんですか?金次君に伝えなくて?」
"元"副会長は周りを気にして耳元で話す。
「………伝えるって何よ?」
「誤魔化さなくていいですよ。私には分かってるんですから。好きなんでしょ?金次君のこと」
「なっ!?」
"元"生徒会長は、ガハッとオーバーな動きで距離を置いてから、顔を赤らめる。
「い、一体いつから………?」
「いやいや分かりますって。金次君が真由美さんと話していた時も、少し嫉妬してましたよね?」
「………………」
図星であった。貰った花束で顔を覆い隠す"元"生徒会長に、"元"副会長はニヤニヤと笑う。
「今しかありませんよ。ほら、会長可愛いですし、金次君も案外すんなりOKしてくれますよ」
「…………いや、いいのよ」
"元"生徒会長は首を横に振った。
「え、どうしてですか?」
"元"生徒会長はクルッと後ろを向いて、今も料理提供を手伝う金次の姿を見てこう呟いた。
「彼、私には眩しいもの。彼の隣にいたら、眩し過ぎて失明しちゃうから」
私には勿体無い。彼女は最後にそう付け加えた。確かに、自分は金次のことは好きだ。
けどそれは、"恋"じゃなくてむしろ"憧れ"に近い。自分もああいう人間になりたいと、いつからか強く思う様になった。堂々と胸を張れる自分に。いつまでも"熱"を追い求める彼のように。
(じゃあね金次君。じゃあね第一高校。私も、これから頑張るから………)
2095年4月から導入される国立魔法大学付属高校の新制度は、新制度の制定に大きく貢献した第一高校の生徒会長、その人物の苗字からとって名付けられた。その新制度の名は『秤制度』である。
四葉本家。四葉真夜の書斎。
「そう言えば葉山さん。今日は、達也さんと深雪さんの第一高校の入学式よね?」
「そうでございますな」
「彼、あの二人と仲良くしてくれるかしら?」
原作開始