龍騎外伝 仮面ライダーザボテス   作:巽★敬

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ヒルツ以来のオリジナルライダーメインの龍騎小説です。
今回は以前からイラストで公開していたオリジナルライダー・ザボテスをメインとしたストーリー。

https://www.pixiv.net/artworks/102646773
イラストでの設定はプロトタイプなので設定を変更してます。


#1

 

深夜のとある路地裏。

 

2人の男が神妙な面持ちで会話をしている。

一人は人生に疲れ切った表情をした恰幅の良い男。

もう一人は鋭い目つきで異様に近寄り難い雰囲気を醸し出すコートの男。

そのコートの男が、恰幅の良い男に一つのカードケースの様な物を差しだしている。

 

『 お前に相応しい土俵を用意してある。どうする? 』

「それに勝ち残りゃあ........俺は相撲界に戻るれるんか?」

『お前の実力次第だ.......』

「..............................」

 

余りに突拍子の無い話。コートの男の胡散臭さも相まって、

男性は暫し考えた。このまま漠然と生きて何が面白いだろう。

 

もしこの男の話に乗らなかったら、また明日から同じような鬱屈した日々の繰り返しだ。

長年の夢を失い人生に絶望し、こうして当ても無くぶらぶらと夜の街を歩き回るだけの日々。

そんな物を永遠に続けるなんて御免だ。

自分にはもっと輝ける人生が待っている筈だったのに。

 

気晴らしで何時もの深夜の徘徊に突如現れた非日常。

コートの男から明かされた胡散臭い話が妙に魅力的に思えたのは、

それだけ今の自分は何処か壊れてたのだろう。

ただ、生きる目標が欲しかった。縋る何かが欲しかったのかもしれない。

 

少しだけ沈黙する。

 

これまで自分を応援してくれてた者たち、

 

そして、弟の顔が彼の脳裏に浮かぶ。

 

「.........っは...土俵て聞いたら....乗らん訳なかばい」

「ならば行くが良い。お前が命を懸けるべき……新たな土俵へ……」

 

男性は大博打の如く不敵な笑みを浮かべながら、

カードケースを受け取るのだった。

 

           ◇

 

かつて、大相撲の土俵には一筋の希望が輝いていた。

 

博多が生んだ若き怪物、

豪場憲之介(ごうばけんのすけ)。

 

身長190センチ近い巨躯から繰り出される破壊的な突き押し。

何より観客を魅了したのは、相手の力を正面から受け止める横綱相撲の気風であった。

角界の重鎮たちは彼を「未来の横綱」と呼び、ファンは彼が賜杯を抱く日を夢見ていた。

 

しかし、運命はあまりに無慈悲だった。

幕内昇進を目前に控えたある場所。

快進撃を続けていた豪場を、突如正体不明の「痛み」が襲う。

最初は激しい稽古の後の軽い違和感に過ぎなかった。

その鈍痛はやがて数分間の激しい運動を続けるだけで全身を針で刺し、

内側から筋肉を焼き切るような激痛へと変貌していった。

精密検査の結果、医師から告げられたのは絶望的な事実だった。

 

「病名は定かではないが、今後あなたの体は激しい運動に耐えられない。

これ以上相撲を続けるのは難しい」

 

昨日まで当たり前のように踏んでいた四股が、一回ごとに命を削る苦行となる。

相手とぶつかり合うたび、心臓は狂ったように脈打ち、指先一つ動かすことすら困難な痛みが彼を土俵に沈めた。

 

「……もう、よか。これ以上、情けない姿は見せられん」

 

夢半ばでの廃業。

故郷・博多の期待、積み上げてきた努力、そして自分という人間の価値そのもの。

彼はそれらすべてを「原因不明の病」という理不尽によって奪われた。

 

夜の街を徘徊する恰幅の良い男の背中は、どこか小さく、力なく揺れていた。

彼にとっての「土俵」はもうどこにもない。

現代医学に治療法はない。

ただ、腐りゆく時間を待つだけの抜け殻。

 

そんな彼にとって、コートの男 ―― 神崎士郎が差し出した緑色のカードケースは、

邪悪な誘いであると同時に、世界で唯一差し伸べられた「救いの手」に映った。

たとえそれが、

残りの命を懸けた「戦い」への招待状であったとしても。

 

 

こうして仮面ライダーの力を得た豪場の戦いの日々が始まった。

ライダーとしての戦いに慣れが必要と考えた豪場は手始めにミラーワールドに蔓延るモンスター狩りに着手した。他のライダー達の情報が無い以上、こうしてれば何れ他のライダーに出会える筈。

何よりもモンスター相手は自分の稽古に丁度良い相手ばかりである。気配を察知すれば戦うのは用意だ。

 

これから見せるのは、そんなモンスター狩りに明け暮れる豪場の一コマである。

 

               ◆

 

人気の無い昼の駐車場で一人の女性が自家用車へと歩みを進めている。

その時、少し離れた場所に停車していた車のボンネットが水面の様に揺らぎ始め、異形の姿を映し出す。

次の瞬間ボンネットからミラーモンスター・ワイルドボーダーが飛び出し、女性をミラーワールドに引きずり込まんと襲い掛かる。

突然の事に恐怖し腰を抜かす女性。

 

「ブオオオオオ!!」

「きゃああ!?」

 

ワイルドボーダーは咆哮を上げながら一直線に女性へと疾走する。

しかしこの怪物の巨躯が女性までたどり着く事は無かった。

突如行く手を塞いだ豪場が疾走するワイルドボーダーの巨体を受け止めたからだ。

 

「ふんっ!!」

「ブオぉ!?」

 

ワイルドボーダー自身、目の前の行動が信じられないと言う反応を示す。

中型車程度なら簡単に押し飛ばしてしまう程の衝撃を持つ自分の突進攻撃を生身の人間が受け止めているのだから。

全身を掴んだまま、豪場は背後で腰を抜かしていた女性に逃走を促す。

 

「おい、お前何しよん? しゃっしゃと逃げれ!」

 

何とか腰を上げた女性が、走り去った事を確認すると豪場は更に両腕に力を込める。

鍛え抜かれた上腕筋から骨太な血管浮き上がる。

やがてワイルドボーダーの足は少しずつ地面から離れ始めた。

 

「ブ、ブオ!?!」

「んんんんんんんんんん.......どりゃあああああ!!」

 

遂には渾身の力を込め、160.0kgある異形の巨体を投げ飛ばしてしまう。

非常に豪快な上腕投げだ。

ワイルドボーダーは雄叫びを上げながら先ほど飛び出した自動車へと飛ばされてしまうが、衝突しても自動車に損壊は無い。先ほど飛び出した所からそのままミラーワールドへ戻ったからだ。

 

「逃がしゃんぞー、稽古付き合うてもらうけんな!」

 

豪場は自動車の前に立ち窓ガラスに自分の姿を映しカードデッキを翳す。

直後現れたVバックルが元関取らしい太いサイズのウェストに装着される。

そして気合を入れる為にその場で四股を踏んだ後左手で地面を叩き、中腰の状態で右手で持ったカードデッキを手前に突き出した。

 

「変身!」

 

Vバックルにデッキを装填し、何十もの虚像が豪場の体に重なり新たな姿へと変化させる。

 

そこに現れたのは、鋭い棘を全身に纏った緑の重戦士、

 

『仮面ライダーザボテス』だった。

 

         ◆

 

鏡の中の世界、ミラーワールドに侵入し、素手で戦闘を繰り広げるザボテス。

 

静寂に包まれた無機質な外の駐車場で、ザボテスとワイルドボーダーの激突音が響き渡る。

片手持ちの丸鋸型召喚機・カクトゥバイザーを腰に携帯していながら、ザボテスはあえてそれを使用せず

己の肉体――ライダーとしての剛腕を叩きつける戦い方を選んでいる。

 

「オラッ、どげんした! もっと腰ば入れて来んね!」

 

僅かな耳鳴りのような音と静寂に支配された世界。

ザボテスは猛進してくるワイルドボーダーを真正面から受け止めた。装甲越しに伝わる怪物の怪力。だが、地に根を張るようなその足腰は、寸分たりとも退かない。

 

「はぁぁぁっ!」

 

ザボテスが左右の掌(てのひら)を激しく突き出す。

重厚な緑の装甲から放たれる**「ツッパリ」**の一撃一撃が、鈍い衝撃音と共にワイルドボーダーの強固な外殻を叩き割っていく。

 

「グボォォォォ!!」

 

怯む怪物の懐へ、ザボテスはさらに一歩踏み込んだ。

 

「逃がさんばい……こいつでトドメたい!」

 

ザボテスはワイルドボーダーの首筋を強引に抱え込み、自身の巨体を支えにするようにして一気に捻り上げた。「首投げ」だ。

 

凄まじい遠心力と重量が加わり、ワイルドボーダーの巨躯がアスファルトに叩きつけられ、激しい火花が散る。

 

「ブ、ブォ......」

 

地面に這いつくばるワイルドボーダーを見下ろし、ザボテスはゆっくりと左腕を掲げた。

 

「……遊びは、終わりばい」

 

これまで素手で圧倒していた彼は、ついにその身に装備された小型丸ノコ型召喚機、カクトゥバイザーに右手を伸ばした。ホルダーから抜き取った最後の一枚――黄金に輝く紋章が刻まれたカードを、唸りを上げる回転刃の隙間へと滑り込ませる。

 

《 FINAL VENT 》

 

バイザーから電子音が響き渡ると同時に、周囲の空間が震動を始めた。

突如として地を割り、巨大なサボテン型ミラーモンスター、ハードカクターが姿を現す。手にした巨大な棍棒を豪快に振り回し、主君であるザボテスを援護するように咆哮を上げた。

 

「グオオオオオ!!」

「そぉらっ!」

 

ザボテスが力強く地面を蹴り上げると、その巨体からは想像もつかない跳躍力で空高く舞い上がった。同時にハードカクターもまた、棘を逆立てて天へと飛び上がる。

 

空中、二つの影が重なる。

ハードカクターが空中で大の字に体を広げ、その背中にザボテスがどっしりと跨った。

ファイナルベント「デモリッシュスパイク」。

 

「……これが俺の、一番(勝負)たい!!」

 

ザボテスの咆哮と共に、ハードカクターの体中から無数の棘が槍のように伸長し、地上の標的を逃さぬ檻と化す。そのまま一気に加速し、重力と気合を乗せた超重量級のボディプレスが、逃げ場を失ったワイルドボーダーへと直撃した。

 

ミラーワールドの空気が爆ぜ、激しい衝撃波が駐車場を揺らす。

ワイルドボーダーの悲鳴は、全身を貫く棘の刺突音と、上から叩きつけられた圧倒的な質量によって一瞬でかき消された。

 

着地し、静かに立ち上がるザボテス。

背後では、ワイルドボーダーが青白い炎に包まれ、粒子となって消滅していく。

そのエネルギーを吸収し、満足げに咆哮を上げて消えていくハードカクターを見届ける。

 

「……うし……ごっつあんっと……」

 

勝利の余韻に浸るザボテスは、体の痛みが来る前に足早にミラーワールドを出て行った。

 

 

     ◆

 

「た、助けてくれぇ!」

「キキキィ!」

 

別の日の午後。何処かの倉庫。

 

一人の男性がミラーモンスター・デッドリマーによって今にも鏡の中に引き込まれてようとしていた。

そこへ駆けつけた憲之介が、デッドリマーに強烈なタックルをお見舞いする。

怯んだデッドリマーは鏡の中へと逃亡する。

 

「ほら、はよう逃げれ!」

「ひぃぃ!」

 

訳も解らず言われるがまま男が逃走したのを確認すると、憲之介は窓ガラスにデッキを構える。

 

「変身!」

 

ザボテスに変身を終えると、ミラーワールドへ突入していった。

 

その一部始終を物陰から一人の男が見ていたとも知らずに。

 

「彼、間違いなく人を助けたな… む?」

 

歩み出そうとする謎の男。

しかしここで彼はモンスターの気配を察知する。

 

「もう一体居るのか……」

 

男は駆け出した。

右手にカードデッキを握りしめて。

 

     ◆

 

戦いの火花が散るミラーワールド。

モンスターを狩り、そのエネルギーを喰らわせる。

豪場憲之介にとって、それはもはや日常の「稽古」の一部となっていた。

まだライダーと出会ってないが、

それでも戦いは病に侵されてる事を忘れられる、唯一の時間。

己の存在を証明できる唯一の土俵なのだ。

 

「どりゃぁ!」

「ギキィィぃーーー!!」

 

先ほど逃げたデッドリマーを始末したザボテスは、

モンスターの残滓をハードカクターに吸収させる。

 

その瞬間だった。

 

突如、背後から飛び掛かる影。

不気味な蟹の鋏――シザースピンチが、無防備なザボテスの背中に向け、

殺意と共に叩きつけられた。

 

火花が激しく散り、重厚な金属音が虚無の世界に響き渡る。

 

「ハハ! 油断したなぁ!」

 

歪んだ笑い声を上げるのは、

仮面ライダーシザース。

その変身者である「石橋」と言う男は、

仮面の奥で狡猾な笑みを浮かべて追撃の機会を伺っていた。

 

だが直後、彼の笑いは凍りつくことになる。

 

背中を強打されたはずのザボテスは、微塵もよろめくことはなかった。

まるで巨岩を叩いたかのような硬質感。

ザボテスは、ただそこにある山のように、微動だにせず立っていた。

 

「……なんや……お前は?」

「なっ……、ピンピンしてやがる……!?」

 

ザボテスがゆっくりと、その巨躯を翻す。

背後の装甲に刻まれた傷など、気にも留めていない。その眼光は、不意打ちという卑劣な手段を選んだ小男を、土俵の砂でも見るかのように冷たく射抜いた。

 

「お前か、俺以外のライダーってのは。今んな挨拶って事でよかか??」

 

シザースはたじろぎ、シザースピンチを構え直した。

本来、シザースの攻撃力は決して低いものではない。

だが、元力士である豪場の強靭な精神力と、ザボテスが持つ圧倒的な防御性能は、石橋の想像を遥かに超えていた。

 

ザボテスはカクトゥバイザーを低く構え、一歩、また一歩と石橋へ向けて歩を進める。

地響きさえ感じるその重圧感。

 

「ここは『土俵』ばい。不意打ちだの姑息な真似だの、そういうのは通用せんて」

 

ミラーワールドの無機質な空気が、ザボテスの放つ殺気に震え始めた。

 

「く、この野郎ぉ!!」

 

シザースの「シザースピンチ」が火花を散らしながらザボテスの装甲を叩く。しかし、石橋の猛攻は、まるで巨大な岩盤を拳で殴っているかのように、ザボテスに届くことはなかった。

 

「ぬるい。そんなツッパリじゃ、稽古にもならんばい!」

 

ザボテスは剛腕を一閃し、シザースを軽々と突き飛ばす。地を転がった石橋だったが、その仮面の奥で、醜悪な笑みが歪んだ。

 

「ふんッ……今だぁ!」

「そらあっ!!」

 

その合図と共に、頭上から鋭い爪が降り注いだ。

背後の影から躍り出たのは、白銀の装甲に身を包んだ仮面ライダータイガ。

変身者である「戸塚」は、手にした巨大な爪「デストクロー」をザボテスの背中に突き立て、引き裂かんと力を込める。

ガリリッ! と耳を劈く金属音が響き、ザボテスの巨体がわずかに前へのめった。

 

「へっ! 挟み撃ちだ! 二人がかりで終わりにしてやるよ!」

 

石橋が立ち上がり、再びシザースピンチを構える。卑劣な不意打ち、そして二対一という圧倒的不利。しかし、窮地に立たされたはずのザボテスから漏れたのは、苦悶ではなく、腹の底から湧き上がるような笑い声だった。

 

「……ふっ、ふふふ。よか。実に面白か……!」

 

ザボテスはゆっくりと身を起こし、背中のタイガを力任せに振り払った。

そして、左右から自分を囲む二人のライダーを、楽しげに交互に見据える。

 

「一対一じゃ物足りんと思っとったところたい。二人まとめて……かかってこんかい!」

 

ザボテスは左腕のカクトゥバイザーを力強く回した。ギュイイィィィン! と回転音が一段と高く鳴り響き、戦場に緊張が走る。

 

「土俵に上がったら格上も格下もなか……待ったなしばい!!」

 

モンスターではない、現役時代以来の対人戦。

二人の卑劣なライダーを前にして、ザボテスの闘志は衰えるどころか、ますます熾烈に燃え上がっていた。

 

ザボテスはすぐに左腕のカクトゥバイザーにカードを滑り込ませた。

 

《 SWORD VENT 》

 

機械的な音声と共に、上空から鈍い輝きを放つ巨大な鉄塊が降り注ぐ。

それは無数の鋭い刺に覆われた、サボテンを模した重厚な棍棒――カクトゥクラブだった。

 

「本来、相撲は素手で取るもんたい。武器は本意やなか……ばってん……」

 

ザボテスはその巨体に見合う重量の棍棒を、軽々と片手で受け止めた。

カクトゥクラブの重みが腕に伝わり、彼の闘志をさらに加速させる。

 

「先に卑怯な真似してきたんは、そっちばい……恨まんでよ」

 

石橋のシザースと戸塚のタイガが、左右から同時に飛びかかってくる。蟹の鋏と銀色の爪。鋭い殺意がザボテスに迫るが、彼は微動だにせず、ただ低く腰を割った。

 

「どすこぉいッ!!」

 

気合の一喝と共に、カクトゥクラブが横一閃に薙ぎ払われた。

凄まじい風切り音。

シザースとタイガは、その圧倒的な質量を前に防御すら叶わず、まるで紙屑のように吹き飛ばされた。

ミラーワールドのコンクリート壁に激突し、激しい火花が上がる。

 

「なんだよその馬鹿力……! 二人がかりで押されてるのかよ!?」

 

石橋が悲鳴のような声を上げる。

 

「ちょこまかと。俵の外に放り出されたくなければ、もっと踏ん張らんね!」

 

ザボテスは、痛みを感じてないかのように突き進む。

タイガが放つデストクローの連撃をカクトゥクラブの側面で平然と受け流し、

そのまま棍棒の先端でタイガの胴体へ強烈な「突き」を見舞った。

 

「がはっ……!?」

 

戸塚のタイガが、くの字に折れ曲がって後退する。

 

「お次は自分たい!」

 

間髪入れず、シザースに向けてカクトゥクラブを振り下ろす。

石橋は必死にシザースピンチで受け止めようとしたが、

上からのしかかる「重戦車」のような圧力に、膝が悲鳴を上げて折れ曲がった。

 

二対一という不利な状況など、今のザボテスには関係なかった。

卑劣な連携を力でねじ伏せ、正々堂々と……否、それ以上に荒々しく二人を圧倒していく。

その姿は、かつて土俵で恐れられた「怪物」そのものであった。

 

二人のライダーを圧倒しつつあったザボテス。

 

しかし、自分が経験してきた”相撲”と言う戦場は複数人を相手する競技ではない。

細かく立ち回るシザースとタイガの連携を流石に「面倒」と感じ始めてた。

自分の”病気”の事もあるので、下手に長時間動き回る訳にもいかない。

 

「……ちっ。こりゃ埒明かんばい」

 

ザボテスは左手に持つカクトゥバイザーにカードを装填する。

狙うは一気苛勢の攻勢。土俵に自分の「付け人」を呼び出す合図だ。

 

《 ADVENT 》

「グオオオオオ!」

 

重厚な電子音と共に、背後の地面が盛り上がり、巨大なトゲの塊――ハードカクターが咆哮を上げながら姿を現した。その圧倒的な威容に一瞬、石橋のシザースがたじろぐ。

 

「うし、まとめて土俵の外に……」

 

ザボテスが命を下そうとした、その時だった。

背後で距離を取っていたタイガ――戸塚が、不気味なほど冷徹なあざ笑い声を上げた。

 

「っへ、 かかったな、マヌケがぁ!」

 

タイガがバイザーに滑り込ませたのは、白銀に光る一枚のカード。

 

《 FREEZE VENT 》

 

瞬間、ミラーワールドの空気が凍りついた。

出現したばかりのハードカクターの足元から、猛烈な冷気が噴き上がり、その巨体を一瞬にして白銀の氷柱へと変えていく。

咆哮を上げようとした口も、棍棒を振り上げようとした剛腕も、すべてが凍土の彫刻のように沈黙した。

 

「なんやと!?」

 

ザボテスが目を見開く。

ハードカクターとのリンクが遮断され、心強い相棒はただの動かぬ氷塊と化してしまった。

 

「残念だったなぁ! テメェのデカブツは、しばらくお休みだ!」

 

シザースがここぞとばかりにシザースピンチを鳴らし、勝ち誇ったように間を詰めてくる。

タイガもまた、氷に閉ざされたモンスターの陰から、獲物を狙う獣の瞳でザボテスを見据えた。

 

「さあ……今度はこっちの番だ!」

 

頼みの綱であったハードカクターを封じられ、ザボテスは文字通り「孤立無援」の窮地に立たされることとなった。

 

形勢は瞬く間に逆転した。

相棒を凍らされ、退路を断たれたザボテスに、シザースとタイガがここぞとばかりに襲いかかる。

本来、鍛え抜かれた豪場の体躯と精神力をもってすれば、石橋や戸塚のような小物二人がかりなど、造作もないはずだった。

 

だが、運命は非情だった。

 

「……ぐ、ぅっ……!!」

 

最悪のタイミングで、「それ」が来た。

全身の筋肉を内側から熱した針で抉り回されるような、あの忌まわしい激痛。

変身の装甲越しですら、豪場の体が微かに震える。

 

「へへ、オラどうした?」

「さっきまでの勢いはどこ行ったんだよ!」

 

シザースの鋏がザボテスの脇腹を抉り、タイガの爪が背中の装甲を無慈悲に引き裂く。

火花が散り、衝撃が豪場の脳を揺さぶるが、今の彼には反撃の一歩を踏み出す力さえ入らない。

一歩動こうとするたびに、焼けるような痛みが神経を焼き切り、膝が崩れそうになる。

視界が赤く染まり、荒い呼吸がヘルメットの中に充満した。

 

「ハァ、ハァ……なんの……これ、しきの……っ!」

「はぁ?何か言ったかぁ!?」

「ぐあぁ!」

 

タイガのデストクローが、無防備な胸元へ向けて振り上げられる。

激痛に顔を歪めながらも、豪場はただ、奥歯を噛み締めて耐えた。

博多の男が、こんな無様な輩に背中を見せるわけにはいかない。

だが、意識を支配する痛みは容赦なく、彼の自由を奪い去っていく。

防戦一方。

ザボテスの緑の装甲が、二人のライダーの猛攻によって次第に傷つき、曇り始める。

 

 

一方的に攻め立て、防戦一方のザボテスを見て、石橋と戸塚の嘲笑はさらに下劣なものへと変わっていった。

 

「ヒャハハ! 見ろよこの腹、ただのデブじゃねえか!」

「本当だな。動けないなら、ただの肉の塊だ。こんな見苦しい体でライダーなんて、笑わせるぜ!」

 

 

「…………あぁ?」

 

 

その言葉が、豪場の耳に届いた瞬間。

全身を焼き尽くしていた激痛を塗りつぶすほどの、静かな、しかし苛烈な「怒り」が彼の魂に火を灯した。

 

「貴様ら……今……なんと言った」

 

豪場にとって、この体は単なる脂肪の塊ではない。

血の滲むような稽古、吐くほどに食べた飯、そして土俵で共に汗を流した先輩や、命を削り合って競い合ったライバルたちの想いが詰まった「結晶」なのだ。

この体格を侮辱することは、彼が愛した相撲という世界の全てを、

そして彼に関わった全ての男たちの誇りを踏みにじることに他ならない。

 

「……博多の男ば……相撲ば、舐めんなあぁ!」

 

地を這うような低い声。

ザボテスの全身から、物理的な熱量すら感じるほどの威圧感が膨れ上がった。

 

「がはっ……!? なんだ、急に……!」

 

シザースが驚愕する間もなかった。

 

豪場は、全身を裂く痛みを強靭な精神力だけで「封印」し、爆発的な踏み込みを見せた。

 

「どりゃああああ!!」

 

咆哮と共に、ザボテスの剛腕が伸びる。

逃げようとしたタイガとシザースだったが、その獲物を逃さぬ巨いなる掌は、逃走を許さなかった。

ザボテスの左右の五指が、それぞれの後頭部を鉄の万力のごとき力で鷲掴みにする。

 

「お前さんたちの口には、砂ば噛ませる必要のあろうもん……!」

「待っ、やめ……!」

 

叫びを遮り、ザボテスは渾身の力を込めて両腕を引き寄せた。

二人のライダーの顔面同士が、逃げ場のない中央で激しく正面衝突する。

 

ガヂィィィィン!!

 

火花と共に、鈍い衝撃音がミラーワールドの空気を震わせた。

ヘルメット越しに伝わる凄まじい衝撃に、石橋と戸塚の意識は一瞬にして白濁する。

二人のライダーは、糸の切れた人形のようにその場に力なく崩れ落ちた。

 

「ハァ……ハァ………稽古は、まだ終わっとらんぞ」

「ぐ、あぁ……」

 

倒れ伏した二人のライダーを、ザボテスの複眼が冷徹に射抜く。

怒りに任せた猛攻ですら、彼の意識を蝕む「痛み」を消し去ることはできなかった。

だが、今の豪場憲之介の魂を支配しているのは、病魔への恐怖ではなく、一人の男としての、そして一人の表現者としての重い「覚悟」だった。

 

ザボテスは震える指先で、デッキから最後の一枚を引き抜いた。

黄金の紋章が刻まれた、

死への招待状――ファイナルベント

 

だが、召喚機へカードを滑り込ませようとしたその手が止まる。

 

(……これは、モンスターやなか。生きた人間たい…………)

 

鏡の奥に広がるのは、無機質な反転世界。

ここで命を散らせば、死体すら残らない。

かつて土俵の上で競い合ったのは「技」と「力」だった。

だが、今から自分が手にかけようとしているのは、

紛れもない「命」そのもの。

 

「……おい。自分ら」

 

豪場は、静寂の中で問いかけた。

その声は、自分自身の迷いを断ち切るための儀式のようでもあった。

 

意識が朦朧とし泥のように伏している石橋と戸塚に向け、ザボテスは地を這うような低い声を放つ。

 

「ライダーになったからには……その命、土俵に置く覚悟は有る、と考えて良かな?」

「ひ、ひぃ……」

 

まともな返事はない。

聞こえるのは目の前の怪物に怯える声。

荒い呼吸音がミラーワールドの静寂に響くだけだ。

 

豪場の心臓が、早鐘のように鼓動を刻む。病による苦痛か、あるいは初めて「人殺し」になることへの本能的な拒絶か。

それでも、彼はカードを握る手に力を込めた。

中途半端な情けは、相手にとっても、そして「戦わなければ生き残れない」というこの世界の理にとっても侮辱でしかない。

 

「……なら、ごっつあんです」

 

ザボテスは、ゆっくりと、しかし確実にファイナルベントカードをカクトゥバイザーの装填口へと近づけていく。

 

死の一撃を放とうとしたその刹那、

静寂に包まれていたミラーワールドの空気が不気味に震えた。

 

「キシャァァァァ……!」

 

高周波のうなりと共に、劇場の垂れ幕を裂くようにして巨大な影が舞い降りる。

 

ディスパイダー。

禍々しい八本の脚を持つ蜘蛛の怪物が、ザボテスの背後から不意に乱入したのだ。

 

「なんや……!?」

 

振り向こうとするザボテスの全身に、ディスパイダーの口から放たれた粘着性の強い蜘蛛の糸が絡みつく。糸は瞬時に硬化し、重厚な緑の装甲をがんじがらめに縛り上げた。

 

「へッ……助かった、今のうちだ!」

「あばよ、緑のデブ! そのまま食われちまえ!」

 

脳震盪から辛うじて意識を取り戻したシザースとタイガは、

ザボテスの窮地を嘲笑うようにして、這う這うの体で鏡の出口へと逃げ出していく。

 

「待て……逃げんなっ……!」

 

叫ぼうとしたが、ディスパイダーが糸を力任せに引き寄せた。

ザボテスの巨体が、ずるずると怪物の大きく開かれた顎(あぎ)へと引きずられていく。

 

「ぐ、うぅ……ああぁぁぁっ!!」

 

最悪のタイミングだった。

先ほどまで気合でねじ伏せていた全身の激痛が、限界を超えて再燃した。筋肉が裂け、骨が軋む。指先一つ動かそうとするだけで、意識が飛びそうになるほどの火炎が神経を焼き尽くす。

 

「動け、動かんね……俺の体 ! くそ、こげなところで……!」

 

糸を食い破ろうとカクトゥバイザーに手を伸ばすが、

蜘蛛の糸は関節までをも封じ、召喚機に指をかけることすら許さない。

目前に迫る、粘液を滴らせたディスパイダーの巨大な牙。

捕食者の吐息が、ザボテスのヘルメット越しに伝わる。

 

まさに絶体絶命。

 

戦士としての誇りも、元力士としての意地も、病魔という目に見えない敵と、ディスパイダーという理不尽な捕食者の前で、今にも潰えようとしていた。

 

だが、ミラーワールドの静寂を切り裂き、深紅の閃光が戦場を駆け抜けた。

 

絡みつく蜘蛛の糸が、鋭い鋼の刃によって一瞬で断ち切られる。

 

自由を取り戻したザボテスの背後に降り立ったのは、龍を模した赤い装甲を纏うライダーの姿が。

 

「……誰や……お前は」

「……」

 

激痛に喘ぎながらザボテスが問うが、赤いライダーは答えない。

手にしたドラグセイバーを鋭く一閃させ、獲物を奪われたことに激昂するディスパイダーへと向き直った。

その戦いぶりは、まさに「龍」そのものと言って良いかもしれない。

ディスパイダーが吐き出す次の糸を紙一重でかわすと、赤いライダーは迷いなく怪物の懐へと踏み込み、鋭い斬撃を叩き込む。

火花が散り、ディスパイダーが苦悶の声を上げるが、彼は攻撃の手を緩めない。

 

赤いライダーは、追い詰められたディスパイダーに対し、一切の容赦を見せなかった。

左腕の召喚機に新たなカードを滑り込ませる。

 

《 STRIKE VENT 》

 

虚空から呼び出された龍の頭部を模した手甲

――ドラグクローが、彼の右腕に重厚な音を立てて装着された。

赤いライダーは、まるで魂を絞り出すかのような鋭い咆哮を上げる。

 

「はあぁぁぁ……はいいいいいい!!」

 

ドラグクローから放たれたのは、紅蓮の劫火。

ドラグレッダーが吐き出す超高温の火炎を拳に乗せ、正面からディスパイダーを焼き尽くすドラグクローファイヤーが炸裂した。

爆炎が路地裏を真っ赤に染め上げ、蜘蛛の怪物は断末魔を上げる間もなく炭化し、塵となって霧散した。

 

静寂が戻る。 

 

ザボテスは、あまりの気迫に圧倒され、棍棒を杖にしたまま立ち尽くしていた。

戦いが終わると同時に、押し殺していた全身の痛みが再び豪場を襲う。

 

「……ぐ、ぅ……っ」

 

膝から崩れ落ちそうになったその瞬間。

先ほどまで鬼神のような戦いを見せていた赤いライダーが、音もなく歩み寄ってきた。

彼は突き放すような冷たさではなく、どこか気遣うような手つきで、ザボテスの太い腕を自分の肩に回した。

 

「さあ、こっちだ。……ここは長く居る場所じゃない」

「何?」

 

赤いライダーに支えられ、豪場は困惑しながらもその歩みに身を任せる。

 

現実世界の路地裏に、二人の男が吐き出された。

変身が解け、立ち込める熱気と共にその姿が露わになる。

豪場は、壁に背を預けて荒い息を吐いた。全身を苛むあの激痛が、現実に戻った安堵感と共に引いていく。

 

「……はぁ、はぁ。助かった……ばってん……」

 

豪場は、警戒を解かずに目の前の男を睨み据えた。

神崎士郎から聞いた話では、ライダーは最後の一人になるまで戦い合う宿命のはずだ。見ず知らずの自分を助けるなど、この歪な戦いにおいて本来あり得ないことだった。

 

目の前の男が、ゆっくりとこちらを向く。

そこに立っていたのは、衣服の上からでも容易に察しがつくほど、岩のように屈強な体躯を持つ男だった。

その眼差しには、先ほどの戦闘で見せた冷徹なまでの鋭さと、どこか悲痛なまでの誠実さが同居している。

 

「自分……何者なん? 何で俺ば助けた」

 

憲之介の問いに、男は視線を逸らさず、真剣な表情でその名を口にした。

 

「俺は榊原耕一。仮面ライダー龍騎だ」

 

榊原と名乗った男は、一歩だけ歩み寄る。その足取りには迷いがなく、ただ真っ直ぐに豪場の魂を見据えていた。

 

「君と話がしたい……この戦いを、止めるために」

「はぁ?」

 

その言葉の重みに、憲之介は思わず言葉を失った。

突如現れ、自分を救った男。

相撲界への復帰を願う自分とは正反対の目的を持つ、もう一人の仮面ライダー。

夜の路地裏に、二人の戦士の視線が交錯する。

 

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