今頃複コアやジオディケ並みに荒れてたでしょうね。
憲之介と榊原が病院で出会ってからしばらくが経過した。
神崎士郎が放った「ライダーバトル」という名の毒は、今も街の至る所で牙を向いている。
「やめろ! 戦う事に何の意味がある!」
ミラーワールドの赤く歪んだ空に、榊原・仮面ライダー龍騎サバイブの叫びが虚しく響く。
彼の右手には、深紅の輝きを放つドラグバイザーツバイ。
手塚や蓮から託された『サバイブ-烈火-』のカードによって、
龍騎はさらなる高みへと至っていた。
だがその圧倒的な力は、皮肉にも「戦いを鎮圧する」ためだけに消費されていた。
ライダーを殺せば、この地獄は一人分終わる。
だが榊原にはどうしてもそれが出来なかった。
そして榊原が一部を仲裁している間にも、
別の鏡の中で戦いは繰り広げられている。
無論、以前説得を試みた豪場憲之介・ザボテスとも、何度も剣を交えた。
「どけ、榊原! 俺は……俺はまだ、倒れる訳にはいかんとたい!」
重い病に侵されながらも、執念だけでカクトゥクラブを振るうザボテス。
榊原はサバイブの圧倒的なパワーでその重戦車のような突進をいなし、ドラグブレードで彼を押し戻す。
「豪場、もうやめよう、こんな事は!」
「黙れ! お前に俺ん何がわかる……っ!」
衝突するたび、憲之介の動きは鋭さを増すが、同時にその体は確実に蝕まれていく。
サバイブの力で制圧する事は出来ても、彼の心に宿る「火」を消すことは出来なかった。
榊原一人の奮闘には限界があった。
でどれほど神速の如き力で戦場を駆け抜けようとも、
ライダーの数は多くその欲望はあまりに深い。
誰かが戦いを止めても、別の誰かが鏡を割り、再び殺し合いが始まる。
救った命の数よりも、指の間からこぼれ落ちる絶望の方が遥かに多かった。
◆
とある日。
ミラーワールドの冷たい大気が、爆圧によって激しく震えた。
「ぐはあああああ!!」
激しい火花とともに、仮面ライダーインペラーが壁へと叩きつけられる。
装甲が耐えきれず粒子となって霧散し、中から現れたのは「石田」という眼鏡をかけた青年だった。
彼は地面に這いつくばり、口から鮮血を吐きながら、必死に手を伸ばす。
「石田ぁ!!」
「榊原さん……僕……まだ……死にたく……ない……」
龍騎サバイブの姿のまま、榊原は石田のもとへ駆け寄った。
「石田、しっかりしろ!石田!」
「………………」
榊原の叫びも虚しく、石田の瞳から急速に光が失われていく。
伸ばされた手は榊原の装甲に届く直前で、力なく地面に落ちた。
「はっはっは! 無様だなぁ。死ぬのが怖いなら、最初からライダーになんか、なるんじゃねえよ」
冷酷な嘲笑が響く。
そこに立っていたのは、仮面ライダーベルデ。
変身者である「高見沢逸郎」は、そのバイザーを弄びながら倒れた青年をゴミのように見下ろした。
石田はライダーバトルの過酷さに怯え、
榊原の「戦いを止める」という言葉を信じて彼を頼ろうとしていた。
だが高見沢はそれを利用した。
コピーベントで龍騎の姿になりすまし、
安心した石田を背後から容赦なく絶命させたのだ。
「高見沢ッ! 人の心を弄んで、こんな事が許されると思っているのか!」
龍騎サバイブの全身から、怒りとともに紅蓮の炎が噴き上がる。
だが高見沢(ベルデ)は平然と言い放った。
「はあ? バカか貴様? ここは弱肉強食の狩場だぞ。邪魔なゴミを掃除したまでだ。次はお前……」
ベルデが次のカードを引き抜こうとした、その時。
不快な金属音が響き、ベルデの背中に深い斬撃が走った。
「ぐはっ!? 誰だ……!」
「お前も、他所見してる暇があるのか?」
背後に立っていたのは、禍々しい紫の戦士――仮面ライダー王蛇。
ベノサーベルの切っ先を血で濡らし、浅倉威は愉悦に満ちた声を漏らす。
「浅倉ぁ……社会の膿が、この俺に噛みつくとは良い度胸だな」
「知るか。さあ来い。遊んでくれよ?」
毒づくベルデに対し、仮面の奥で歓迎の笑みを浮かべる浅倉。
彼とって相手は誰であるかは問題ではなかった。
王蛇とベルデ。欲望と狂気が激突し、再び凄惨な戦いが幕を開ける。
因みにシザース(石橋)とタイガ(戸塚)は既に王蛇によって始末されている。
龍騎サバイブは、石田の亡骸を抱えたまま、その光景をただ凝視するしかなかった。
命が消え、その命を奪った者さえも、別の誰かの獲物に過ぎない。
「なぜだ……なぜ皆、こんな惨い事が出来るんだぁ!」
叫びは誰に届くこともなく、戦いの火花の中に消えていく。
圧倒的な力を持ちながら、一人の青年も救う事さえ出来なかった無力感。
榊原の心に、これまで以上の暗い影が差し込んでいた。
この戦いに「正義」などない。
あるのは、剥き出しの欲望と、それを煽って楽しむ神崎士郎の冷酷な意志だけだ。
「絶対に、この戦いを止めてやる。その為には何としても見つけてやる……ミラーワールドを閉じる方法を!」
抱えてた石田の亡骸が粒子となって消えていく。
龍騎サバイブはバイザーの奥の瞳に、絶望を焼き切るような、より一層強い決意が宿るのだった。
◆
ミラーワールドを閉じる方法を探す榊原と、生きるために戦う憲之介。
二人の運命は平行線を辿りながら、ライダー同士の争いは泥沼を進んでいく。
凄惨を極めるライダーバトルにおいて憲之介は、ある種の「奇跡」を演じ続けていた。
せめてもの救いと言うべきか。
彼はあれほど荒々しくカクトゥクラブを振るいながらも、
未だにただの一人も、他のライダーを殺しせてはいなかった。
それは彼の良心ゆえか、あるいは力士としての誇りゆえか。
持病による活動限界から、彼は常に短期決戦を強いられていた。
他のライダーの息の根を止める前に、自らの体の限界が訪れ、鏡の世界から「上手く」撤退せざるを得なかったのだ。
そして彼は今もなお、モンスターに襲われる「客」を放っておけなかった。
「……そげなところで震えとらんで、さっさと逃げんか!」
憲之介の叫びが路地裏に響く。
民間人を逃がし、自らは病気で蝕まれた体でモンスターを屠る。
その姿は、本来この「人殺しのゲーム」には相応しくない、気高き戦士そのものだった。
だからこそ、榊原は諦めきれなかった。
「豪場! 聞いてくれ! 君はまだ誰も殺していない。まだ、君の心は死んでいない筈だ!」
鏡の中で出会うたび、榊原は龍騎サバイブの力を、憲之介を「止める」ためだけに使う。
説得を試み、その手を掴もうとする榊原。だが、憲之介はその「善意」を、自分の決意を鈍らせる最大の敵として撥ね退けた。
「しつこかよ! お前ん正論を聞くたびに、俺ん心が削れるとよ! これ以上邪魔すんなら、今度こそぶちのめすばい!」
激突する紅蓮の龍と、常磐の甲殻。
何度も刃を交え、互いの息遣いさえ知るほどに戦い、その都度、憲之介は血を吐きながら退却していく。
そんな不毛とも言えるやり取りが何日も続く。
しかし、現実は残酷だった。
二人が意地を張り合い衝突を繰り返している間にも、他のライダー達は無慈悲に数を減らしていく。
ある者は王蛇の牙に掛かり、ある者はベルデの謀略に沈み、またある者は名もなきモンスターに喰われた。
一人、また一人と、デッキの気配が消えていく。
残された椅子が少なくなるほど、生き残ったライダーたちの「殺意」は濃縮され、逃げ場のない狂気となって鏡の世界を支配し始めていた。